任意売却の瑕疵担保責任と免責特約について
一般的な住宅の売買契約では、売主には瑕疵担保責任があります。これは、購入後に物件に隠れた瑕疵(欠陥)が見つかったときに、売主に補修や損害賠償を求めたり、欠陥が重大な場合には契約を解除することができる、という買主保護のための責任です。しかし任意売却の場合は、売主の瑕疵担保責任を免除する特約をつけるケースが多いです。
もし中古住宅の購入後に、シロアリ被害とか、雨漏り、給排水設備の故障みたいな住宅の欠陥に後から気付いたときって、売主に補修を求めたり、損害賠償請求をすることができるんだよねー?
- 中古住宅の購入後に隠れた欠陥が見つかった場合、売主は瑕疵担保責任を負う
- 買主は瑕疵担保責任に基づき、住宅の補修や損害賠償請求、契約解除ができる
- 売主が宅建業者でなく一般人の場合、通常、期間は引渡し後1~3カ月まで
- 任意売却の場合は、この瑕疵担保責任を免除する特約を売買契約書に盛り込む
- 民法の瑕疵担保責任は任意法規なので、「責任を負わない」旨の特約は有効
- ただし売主が欠陥を知っていて敢えて説明しなかった場合、上記の特約は無効
1.そもそも中古住宅の売主の「瑕疵担保責任」って何?
2.瑕疵担保責任の対象となる「欠陥」の代表的なケース
3.売主が瑕疵担保責任を負う期間は購入から何年間?
4.任意売却では売主の瑕疵担保責任が免除になる?
5.瑕疵担保責任の免責の特約は、法律上、有効なの?
そもそも中古住宅の売主の「瑕疵担保責任」って何?
中古住宅を購入する場合、買主にはさまざまな心配点や不安があります。金額の大きな買い物ですし、何度か内覧したくらいでは気付かない(実際に生活してみて初めて気付く)思わぬ住宅の欠陥が見つかる場合もあります。
そのため一般的な中古住宅の売買では、売主は住宅の引渡後の一定期間、買主に対して瑕疵担保責任を負います。この瑕疵担保責任により、買主は住宅の購入後に隠れた瑕疵が見つかった場合でも、売主に住宅の補修を求めたり、損害賠償請求をすることができます。
さて、具体的にはどのようなケースが瑕疵担保責任の対象になるのでしょうか? 代表的なものでよく挙げられるのは、「シロアリ被害」や「雨漏り」、「土台の腐食」などですね。
これらはいずれも、住宅を2度や3度、内覧した程度では気付くことができないような、実際に生活してはじめて気付く住宅の欠陥です。他にも、広義で瑕疵担保責任に該当するような欠陥には、以下のようなものがあります。
瑕疵の種類 | 具体的なケース | 説明 |
---|---|---|
物理的な瑕疵 | シロアリ被害、柱や土台(構造部)の腐食、雨漏り、給排水設備の故障、床の傾き、耐震強度の不足 | 最も多いケースで、建物そのものに隠れた欠陥がある場合です。 |
土地の瑕疵 | 土壌汚染、浸水被害、地盤沈下、地中のコンクリートの塊や地中梁などの埋没物 | 土地に欠陥があり、建物が建築できなかったり、その他、売買契約の目的を達成できない場合です。 |
環境的な瑕疵 | 近隣の騒音、悪臭、振動や、日照侵害や眺望(近隣の高層ビル計画など) | ※必ずしも売主の瑕疵担保責任が認められるわけではなく、裁判で争われるケースも多い |
法律的な瑕疵 | 都市計画法や建築基準法、山林法などの建築制限、接道義務など | 法律上の制限について仲介の不動産業者等から事前説明がなく、知らずに買って「建物が建てられない」など目的が達成できない場合 |
心理的な瑕疵 | 前所有者の自殺、殺人事件があった、暴力団事務所がある、カルト宗教の集会場所である、など | ※必ずしも売主の瑕疵担保責任が認められるわけではなく、裁判で争われるケースも多い |
物理的な瑕疵 |
---|
シロアリ被害、柱や土台(構造部)の腐食、雨漏り、給排水設備の故障、床の傾き、耐震強度の不足 |
説明 |
最も多いケースで、建物そのものに隠れた欠陥がある場合です。 |
土地の瑕疵 |
土壌汚染、浸水被害、地盤沈下、地中のコンクリートの塊や地中梁などの埋没物 |
説明 |
土地に欠陥があり、建物が建築できなかったり、その他、売買契約の目的を達成できない場合です。 |
環境的な瑕疵 |
近隣の騒音、悪臭、振動や、日照侵害や眺望(近隣の高層ビル計画など) |
説明 |
※必ずしも瑕疵担保責任が認められるわけではなく、裁判で争われるケースも多い |
法律的な瑕疵 |
都市計画法や建築基準法、山林法などの建築制限、接道義務など |
説明 |
法律上の制限について仲介の不動産業者等から事前説明がなく、知らずに買って「建物が建てられない」など目的が達成できない場合 |
心理的な瑕疵 |
前所有者の自殺、殺人事件があった、暴力団事務所がある、カルト宗教の集会場所である、など |
説明 |
※必ずしも売主の瑕疵担保責任が認められるわけではなく、裁判で争われるケースも多い |
最近では物件そのものの欠陥だけでなく、周囲の環境や心理的なものも含めて、広義で「瑕疵」として売主の瑕疵担保責任として争そわれるケースも増えてきています。
そのため中古住宅を売却する場合には、売主はできる限り事前に知っている情報を、きちんと買主に説明しておくことが必要になります。
また、売主に瑕疵担保責任が認められた場合には、買主は売主に以下の要求をすることができます。
- 損害賠償請求をすることができる
- 建物の欠陥の場合には、補修工事などを求めることができる
- 瑕疵が重大な場合には、契約の解除を求めることができる
例えば、建物を建てるためにその土地を買って、そのことを売主や仲介業者にも伝えていたにも関わらず、法律上の用途制限について説明がなかったような場合には、瑕疵担保責任により契約を解除できる可能性が高いです。
売主の瑕疵担保責任については、民法570条で定められています。この条文によると、瑕疵担保責任が成立するためには、物件の欠陥が「隠れた瑕疵」であることが必要とされています。
実はこの「隠れた瑕疵」というのが1つのポイントになります。つまり以下のような場合には、例え住宅に欠陥が見つかったとしても、売主に瑕疵担保責任を追及することはできません。
- 欠陥(瑕疵)について、事前にちゃんと説明を受けていた場合
- 一般的な注意力があれば、購入前に欠陥(瑕疵)を発見できるであろう場合
つまり、買主がそもそもその欠陥を知っていた、または知っていて当然、という場合には、瑕疵担保責任を追及することはできません。
不動産仲介業者などが、売買契約書とは別に重要事項説明書を作成して、事前に買主にしっかり説明をするのはこの瑕疵担保責任を回避するためなんですね。
では売主は中古住宅を売却してから何年間、この瑕疵担保責任を負わなければならないのでしょうか?
実は民法では、この瑕疵担保責任についての明確な期間の定めがありません。単に「買主が瑕疵に気付いてから1年以内」と記載されているだけです。(民法566条)
しかしそれだと、売主は住宅の引渡し後、半永久的に物件の欠陥について責任を負うことになってしまいます。それでは困るので、期間については売主と買主の合意の上で、売買契約書で自由に定めることが多いです。
売主が個人の場合は、通常、住宅の引渡し後1~3カ月程度とすることが多いです。つまり、3カ月以内に瑕疵に気付いた場合は、売主に瑕疵担保責任に基づく損害賠償等が可能です。
(1)買主は、本物件に隠れた瑕疵があり、この契約を締結した目的が達せられない場合は契約の解除を、その他の場合は損害賠償請求を、売主に対してすることができる
(2)本条による解除、または請求は、本物件の引渡後、3カ月の期間を経過したときは、できないものとする。
また、もし売買契約書で期間をきちんと定めなかった場合でも、過去の最高裁の判決によると、瑕疵担保責任による損害賠償請求権の消滅時効は、住宅の引渡しから10年とされています。
常識的に考えて、期間の定めがなかった場合でも、住宅の引渡しから10年以上もたって物件の欠陥を主張するのはおかしいですからね。
ちなみに、住宅の売主が一般の個人ではなく、不動産業者(宅地建物取引業者)である場合には、最低でも2年以上の瑕疵担保責任を負うことが義務付けられています。これは民法ではなく宅地建物取引業法という別の法律があるからです。(宅地建物取引業法40条)
この瑕疵担保責任は、いわゆる無過失責任と呼ばれるものです。売主に故意や過失がなくても、住宅に欠陥が見つかった場合には、売主は瑕疵担保責任を負わなければなりません。
つまり、売主が「いや、私も住宅にそんな欠陥があるなんて知りませんでした・・・」「でも、その欠陥は、私のせいではないですよね・・・」と言ったとしてもダメだ、ということですね。
売主は別に悪くない場合でも、前述の条件を満たす瑕疵が見つかった場合には、残念ながら売主は損害賠償請求に応じる義務があります。
任意売却では売主の瑕疵担保責任が免除になる?
さて、ここまで中古住宅の瑕疵担保責任について詳しく解説してきましたが、任意売却の場合は、通常、この瑕疵担保責任がつきません(瑕疵不担保)。
というのも任意売却では、住宅ローン債務者などが返済に行き詰まり、ローンが払えなくなって、仕方なく住宅を売却して手放すようなケースが多いです。
当然、任意売却での売買代金は、すべて住宅ローンの残債の解消のために債権者が回収します。それどころか、売却代金を差し引いてもまだ住宅ローンが残ってしまう場合も多く、同時に自己破産などを申立てることも珍しくありません。
そうなると任意売却の売主(住宅ローン債務者)にはそもそもお金がありませんので、瑕疵担保責任で損害賠償を請求されても、支払うことができないんですね。
そのため任意売却では、「売主は瑕疵担保責任を負わない」とする免除特約の条項を、売買契約に入れることが一般的です。
前述のように、瑕疵担保責任は、民法で定められている売主の責任です。このような民法上の責任を放棄するような契約を結ぶことは可能なのでしょうか?
結論からいうと、この民法の瑕疵担保責任は任意法規ですので、買主と売主の合意があれば、「売主は瑕疵担保責任を負わない」という旨の契約を締結することは可能です。もちろん、買主がこれに同意して契約書にサインすることが前提です。
任意法規とは、一応法律でルールを定めているものの、お互いの合意があれば、それとは異なるルールを自由に結んでも構わない、という法律です。例えば、法律では3年と決まっているものを、お互いの合意で契約書上は1年とする、というような場合です。売主が瑕疵担保責任を負うかどうか、も任意法規になります。
強行法規
強行法規とは任意法規とは違い、契約の内容に関わらず強制的に適用する法律のことです。売主と買主との間で合意があったとしても、強行法規に反する契約は無効になります。例えば、民法90条では「公の秩序または善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする」という条文がありますが、これは強行法規の典型例です。
任意売却の場合は時間的な制約があることも多く、「一刻も早く買主を見つけて売買契約を締結させなければならない」という都合上、一般的な不動産売買よりも若干、安く売られることが多いです。
そのため、買主としても瑕疵不担保(瑕疵担保責任がつかないこと)をあらかじめ承知した上で、売買契約に合意することになります。
ただし、上記のような「売主は瑕疵担保責任を負わない」という特約を結んでいたとしても、売主が物件の瑕疵について知っていて敢えて隠していた場合や、うっかり説明するのを忘れていた場合には、免責の特約は無効になります。
売主は、担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実および自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。(民法572条)
例えば、「物件が傾いている(傾斜)ことを知っていたのに重要事項として説明しなかった場合」や、「その土地が市街化調整区域で建物を建てられないことを知っていて告知しなかった場合」などのケースです。
このように任意売却の場合でも、欠陥について知っていて告知しなかった場合には、売主の瑕疵担保責任が問われる可能性があります。
なお、もし任意売却の業者(不動産業者)などが媒介していたケースで、業者が重要事項の説明義務を怠っていた場合には、売主は被害額分を仲介業者に損害賠償請求することができます。