競売落札後の強制立ち退き(明渡し)までの流れ
競売で物件が落札された後、買受人が代金を裁判所に納付すると、その時点で所有権が買受人に移転することになりますが、その後、最短でどのくらいの期間で確実に自宅を明け渡さなければいけないのでしょうか? 競売での落札後、建物の明け渡しまでの流れを所有者、買受人、両方の立場から解説します。(前記事:「競売手続き開始から落札までのスケジュール」)
競売で物件が落札されて、買受人が代金を納付したら、その時点でもう住宅は買受人のものになるんだよねー? じゃあ元の所有者さんは、落札後すぐ家を出ていかないといけないのー?
買受人さんから、引越し代や立退き料を貰えればいいけど、法的な義務はないから貰えない場合も多いもんね(参考記事)。それで、無理やり追い出されるまでの手続きの流れってどうな感じなの?
強制執行の申立てがされたら、どうなるの? いきなり裁判所から職員がぞろぞろ家にやってきて、家財道具を持っていったり、家から引きずりだされたりするのかなー?
- 競売では、買受人が代金を裁判所に納付した時点で所有権が移転する
- 買受人は代金納付後すぐに、不動産引渡命令を申立てることができる
- 引渡命令が裁判所により確定されると、買受人は強制執行の申立てができる
- 強制執行が申立てられると執行官が住宅を訪問して、明け渡し催告をする
- 明け渡し催告の1カ月後の断行日に、強制的に家具や什器が運び出される
1.競売の落札後の不動産の引渡命令について
2.引渡命令が確定したら、買受人は強制執行の申立てが可能
3.建物明渡の強制執行にかかる費用は30~50万円?!
4.建物明渡しの強制執行での具体的な流れって?!
競売の落札後の不動産の引き渡し命令について
競売で物件を落札して代金納付をすると、その物件は買受人の所有物になるわけですが、だからといって直ちに裁判所に依頼して居住者を追い出すようなことはできません。例え不法占拠であっても、強制的に居住者を追い出すには、やはり、それなりの法的な手続きと手順が必要です。
具体的な流れは、以下の表のようになります。
通常、不動産の明け渡しを要求するためには、まず建物明渡請求訴訟をおこない、裁判をして勝訴しなければいけません。裁判で勝訴したら、その勝訴判決の判決文正本をもって、執行裁判所に強制執行を委託します。
しかし競売物件でいちいち退去を求めるために、全て訴訟するのは面倒です。裁判だと非常に時間もかかります。そのため、競売の場合は、不動産引渡命令という特別な措置により、短期間で簡単に、裁判所の引渡命令を得ることができます。
通常、法的に建物の明け渡しを要求する場合には、裁判所に訴訟を提起する必要があります。例えば、アパートの大家さんが、家賃の未払いや滞納などを理由に賃借人(居住者)を追い出したいと思った場合、話し合いで解決できなければ、明渡請求訴訟を提起します。裁判のため、期間は3~6カ月かかります。
不動産引渡命令
不動産の引渡命令は、競売後に買受人がいちいち裁判をしなくていいよう簡略化された手続きです。競売の買受人は、代金納付をしたその日からすぐに引渡命令を申立てることができ、最短だとたった3~4日で簡単に裁判所が引渡命令を発令してくれます。
買受人は、代金納付の日から6カ月間まで引渡命令を申立てることができます。6カ月を過ぎてしまうと、引渡命令の申立てができなくなるため、注意が必要です。また、競売ではなく公売(税金の滞納処分により住宅が売却されること)で物件を落札した場合には、引渡命令の制度はありませんので、こちらも知っておきましょう。
前述のように、引渡命令は早ければ3~4日程度で簡単に決定し、裁判所から発令されます。
ただし、住んでいるのが旧所有者(債務者)以外である場合には、引渡命令までに少し時間がかかるケースがあります。なぜなら民事執行法では、「住宅の居住者が、債務者以外の人である場合には、裁判所はその者を審尋しなければいけない」と定められているからです。
※【審尋】・・・裁判所が書面や口頭などで、質問したり説明する機会を与えること
執行裁判所は、債務者以外の占有者に対し引渡命令の決定をする場合には、その者を審尋しなければならない。(民事執行法83条3項)
実務上は、裁判所によっても恐らく手続きは異なりますが、たとえば大阪地裁では居住者宛に審尋書を送達して、7日以内に回答するように通達します。このように審尋の必要がある場合には、その分、1~2週間くらい引渡命令の決定が遅れる場合があります。
引渡命令が確定したら、買受人は強制執行の申立てが可能
さて、裁判所から引渡命令が発令されると、引渡命令の正本が買受人と居住者の両方に送達されます。この送達日から1週間以内に、居住者が不服申立てをしなかった場合、引渡命令は確定します。
そのため、買受人が代金を納付したその日に引渡命令を申立て、3~4日で引渡命令が決定し、そのまま何も不服申立て(執行抗告)がされなかった場合には、最短で10日程度で強制執行が可能な状態になる、ということです。
一方、居住者は裁判所の引渡命令に対して、不服申立て(執行抗告)をすることもできます。
執行裁判所の命令に対しては、特別な理由がない限りは執行抗告をする権利が認められています。居住者側が、1週間以内にこの執行抗告をして、それが認められた場合には、引渡命令は確定せずに裁判手続きに移行することになります。
ただし、正当な理由なく単なる時間稼ぎのために執行抗告をしても、まず間違いなく却下されますのであまり意味がありません。ほとんど時間稼ぎにもならないでしょう。
次の各号に該当するときは、原裁判所は、執行抗告を却下しなければならない。
4.執行抗告が民事執行の手続を不当に遅延させることを目的としてされたものであるとき。(民事執行法10条5項)
裁判所の引渡命令が確定すると、買受人は執行裁判所に建物明渡の強制執行を申立てることができます。強制執行とは、裁判所が買受人の代わりに強制的に居住者を追い出すための手続きのことです。
建物明渡しの強制執行の申立てにあたっては、以下のものが必要になります。
強制執行の申立てに必要なもの
- 送達証明書・・・引渡命令の正本が相手に届いたことを証明する書面(150円)
- 執行文付与・・・引渡命令が執行可能なことを証明する文の付与(300円)
- 申立書 ・・・強制執行の申立書。収入印紙と郵便切手。合計2500円程度
- 予納金 ・・・申立時の予納金 6万5000円~(執行官1名、物件1つの場合)
強制執行手続きで、申立時に納付する予納金は6万5000円程で、かつ2万円程は後から戻ってくる可能性も高いです。これは、執行官の手数料や交通費などに充てられるもので、執行官が増えればその分、予納金は高くなります。
「あれ? 強制執行の費用ってたしか30~50万円ほどかかるって聞いたけど・・・?!」と思われる方もいるかもしれません。これは半分、本当です。
詳しくは後述しますが、強制執行にあたって、家財道具を運び出したり、トラックで搬送したり、鍵を開けたり交換したり、といった作業が必要になります。これらは裁判所の職員がやるわけにはいきませんので、民間の専門業者に委託することになります。引越し代をイメージすると、わかりやすいかもしれませんね。
これらの費用は、基本的に強制執行の申立人が負担する必要があります。あとで債務者に請求することは可能です(民事執行法42条)が、ローンの返済ができず住宅を競売にかけられるような状態ですから、現実的にはなかなか債務者からの執行費用の回収は難しいでしょう。
執行費用は物件の広さ、家財道具の多さなどによっても当然、異なります。例えば、ワンルームマンションなら20~25万円くらいでしょう。また、実際の断行日までに居住者が自分で片付けて出ていってくれた場合は、これらの作業費用は必要なくなります。つまり、実際に強制執行の断行日が近づくまで、費用はわからないということになります。
建物明渡しの強制執行での具体的な流れって?!
強制執行の申立てがなされると、居住者の立場からすれば、いよいよ観念せざるをえなくなります。
とはいえ、強制執行の申立てから、実際の断行日(執行官が家にやってきて追い出される日)までは1カ月半くらいはありますので、その間に何とか転居先を見つけて早めに引越しする必要があります。
強制執行の申立て後、まず買受人は翌日から1週間以内に執行官と面談をします(電話の場合もあります)。そこで簡単な打ち合わせをして、強制執行の明け渡しの催告を行う日や、実際に強制執行を断行する日、その他、どの業者に執行補助者を依頼するかなどを決定します。
強制執行にあたっての作業(家財道具の運び出し、搬送、倉庫での保管、鍵の交換など)を少しでも安く挙げたい場合には、自分で見つけてきた業者を選ぶこともできます。特にアテがなければ、執行官が紹介してくれます。
その後、2週間くらいで実際に「明渡しの催告」がおこなわれます。
執行官、立会人、賃貸人、執行補助者、鍵屋、などが揃って競売の物件を訪問します。もし居留守を使ったり拒否しても、鍵を勝手に開けて入室します。執行補助者とは、家財道具の運び出しや搬送などを行う民間業者のことで、この日は、「どのくらいの家具や荷物があるか?」「どのくらい作業員が必要なのか?」といった見積もりをおこないます。(民事執行法168条2項)
引渡し期限の公示
また居住者に対しては、「○月○日までに自宅を明渡してください」ということを告知します。この引渡期日は、明渡しの催告の日から1カ月後に設定されます。居住者が不在の場合でも、強制執行をする断行日を、紙などに書いて貼って公示します。
明渡しの催告の日に、業者さんが作業員や作業費用などを見積もりますので、この日、ようやく強制執行の費用がどのくらいかを把握することができます。(ただし前述のように、
実際の断行日までに居住者が退去してくれた場合は、この費用は発生しません)
さて、明渡し催告で公示した引渡期限日が過ぎると、その数日後に断行日が設定されます。
当日は、執行官の他、立会人や鍵屋、強制執行業者が来て、鍵を開け、家財道具など一式を運び出して部屋を空にします。運び出した家具や荷物などは、その後、トラックで運ばれて管轄の倉庫に1カ月保管されます。1カ月以内に引き取りがなければ、破棄または売却されることになります。
住宅に居座ったとしても、強制的に連れ出されますし、鍵も交換されてしまいます。それでも尚、勝手に立ち入ろうとすると、最悪、不法侵入として警察沙汰になってしまう可能性もあります。
ここまで来ると、もうどうしようもありませんので大人しく退去するしかありません。もちろん、断行日前になんとか穏便に引越しできれば、それがベストです。
また競売の初期段階であれば、任意売却をすることでより有利な条件での立ち退きが可能な場合も多いです。できるだけ早い段階で、任意売却等を検討するのがお勧めです。(参考:「任意売却って何?競売と任意売却の違い」)