競売手続きの流れと落札までのスケジュール

競売手続きでは、裁判所による競売開始決定がされてから、買主に落札されるまでに半年以上かかります。長い場合だと1年近くかかるケースもあります。住宅ローンなどを滞納している方で、裁判所から競売開始決定の通知書が届くと、「もうダメだ」と慌ててしまう方、パニックになる方は多いですが、この時点ではまだ任意売却を選択肢として検討することも可能です。

競売手続きの流れとスケジュール

債権者により競売手続きの申立てがされて、裁判所が競売の開始決定をすると、裁判所から特別送達で「担保不動産競売開始決定通知」が届きます。その後の流れについては以下の図をご覧ください。

競売の流れ、期間やスケジュール図

競売の期間やスケジュールは、管轄の裁判所や物件の状況によっても異なりますので一概には言えませんが、少なくとも買受人に所有権が移転するまでに早くて半年かかることが上記の図でもわかると思います。

どの時点までなら任意売却は間に合うの?

期間入札の開札日の前日までであれば、債権者は競売を取り下げることができます。つまり、期間入札の開札日までに銀行などの債権者を説得して任意売却の話をまとめれば、まだ任意売却にできる可能性はある、ということです。

競売手続きが開始してから、どの時点までなら任意売却は間に会うの?―説明図

金融機関にも社内稟議などがありますので、入札が開始してしまってから引っ繰り返すのは相当難しいでしょう。任意売却をするにしても、買受人を探して話をまとめるまでに早くても2~3カ月はかかります。つまり、もしまだ不動産業者に相談すらしていない段階であれば、現実的には「期間入札通知」が届くまであたりが、任意売却を検討できる最後のチャンスになります。





もちろん既に任意売却の話を相談して進めている途中であれば、もっと入札期日のギリギリまでチャンスはあります。

競売開始から1~3カ月でまず現況調査がある

競売の開始決定がなされると、そこから1~3カ月以内にまず「現況調査」がおこなわれます。
これは競売の対象となる不動産を事前に鑑定して、値段(売却基準価額)を付けるための手続きです。裁判所から派遣されて、執行人と評価人が自宅にやってきて、家の中を調べて写真を撮ったり、いろいろと質問を受けることになります。

裁判所から自宅に占有者の確認や、現況の調査のために調査員がやってくる―現況調査の説明図

ちなみにこの現況調査は、民事執行法で定められているものなので、拒否することはできません。現況調査に関する法律の条文は、以下のように定められています。

自宅に立ち入る権利
執行官は、前項の調査をするに際し、不動産に立ち入り、又は債務者若しくはその不動産を占有する第三者に対し、質問をし、若しくは文書の提示を求めることができる。(民事執行法57条2項

鍵を開ける権利
執行官は、前項の規定により不動産に立ち入る場合において、必要があるときは、閉鎖した戸を開くため必要な処分をすることができる。(民事執行法57条3項

ドアを開けないようにして無視しても、勝手に鍵をあけて(鍵屋に依頼して)入室することが認められています。下手に執行を妨害すると、最悪の場合、警察沙汰になる可能性もあります。現況調査について、拒否権がないことは知っておきましょう。

現況調査などをもとに売却基準価額が決定される

現況調査で自宅にやってきた鑑定人と執行官は、それぞれ、「評価書」と「現況調査報告書」を作成します。(鑑定人は不動産鑑定士の資格を持った人、執行官とは単に裁判所職員のことです)。

これらの書類が出来上がってこないと、裁判所も競売の値段(入札価格の基準)を決めることができません。そのため、上記の現況調査から、実際に入札期日が決まるまでに2~4カ月の余裕(空き)ができます。

現況調査から2~4カ月で裁判所が売却基準価額を決定し、入札期日を決める―説明図

評価書と現況調査報告書が出来上がってきたら、それをもとに裁判所は売却基準価額を決定します。実際には、この売却基準価額を2割引きした【買受可能価額】というのが、競売での最低入札価格になります。例えば、売却基準価額が1000万円であれば、入札者は800万円から入札できます。

競売開始から3~6カ月で期間入札通知が届く

競売の開始決定通知が届いてから3~6カ月くらいで、裁判所から期間入札通知が自宅に届きます。この通知によって入札日時が決まります。期間入札通知は、以下のような書面です。

【通知書】
○○殿

別紙物件目録記載の不動産に対する上記当事者間の担保不動産競売事件について、下記のとおり売却を実施するので通知します。

(1)期間入札
入札期間  平成○年 ○月○日から
      平成○年 ○月○日まで
開札期日  平成○年 ○月○日 午前○時○分
同期日を開く場所  ○○地方裁判所 ○○場
売却決定期日    平成○年○月○日 午前○時○分 

売却基準価額(かっこ内は買受可能価額)
物件1 金  ○○○○○円 (  ○○○○○円)

この書面が届いてから、大体、2カ月くらいで実際に競売の入札が開始します。

入札期日の2週間前までに物件資料が一般公開される

入札期日の2週間前までには物件がネット上でも公開され、物件の詳細資料(物件明細書、現況調査報告書、評価書の3点セット)がインターネットの競売専門サイトBIT(http://bit.sikkou.jp/)などでも公開されます。

BITの画像

最低売却価額や、入札に当たっての保証金額、開札日など公表されます。個人情報としては、住所などは開示されますが、インターネット上で閲覧できる資料に関しては、氏名などの情報は黒塗りにして公開されます。(裁判所までいけば占有者の名前等も確認できます)。

入札期間は裁判所により異なるが1週間くらい

入札方法には、期間入札と期日入札の2つがあります。期日入札の場合は、入札は1日で終わります。期間入札の場合は、1週間ほど入札を受け付けます。ほとんどの競売のケースでは、期間入札になります。

期間入札(入札期間:1週間)

一定期間のあいだ、郵送などで入札書を提出できます。東京地裁では1週間、その他、裁判所ごとの差異はありますが概ね7~8日前後の期間が設定されます。入札は一度きりで、他の入札者の状況や金額などは開示されません。入札期間が終わると、翌日の開札日に、最高価買受申出人(一番高い金額で入札した人)が選ばれます。

期日入札(入札期間:1日)

期日入札の場合は、裁判所から日時と会場が指定されますので、そこに出向いていって直接、入札書を提出します。入札は一度きりで、他の入札者の金額等が開示されないのは同様です。入札が終わったら、その日にその場で開札までおこなって、最高価買受申出人が決定します。

 
理論上はこの開札日の前日までであれば競売の取下げが可能です。
しかし入札期日の直前になって、債権者や不動産業者に「任意売却がしたい!」と泣きついても、基本的には手遅れです。繰り返しになりますが、任意売却でも早くて2カ月はかかります。任意売却を検討するなら、前述の期間入札通知が届くまであたりがギリギリ間に合う可能性のあるラインでしょう。

既に任意売却を進めている最中で、「なかなか買受人が見つからない」「後順位抵当権者が抵当権抹消に応じない」「連帯保証人の同意が得られない」等で引っかかっている場合は、その問題が解消すれば、期日入札ギリギリでも任意売却が成立する可能性はあります。

開札後、実際に物件の所有権が買受人に移るまで

開札がおこなわれると、そこで最高価額で入札した人が最高価額買受申出人となりますが、直ちにその人への所有権移転が確定するわけではありません。開札後、裁判所の許可決定と、買受人の代金納付、という2つのプロセスを経てから所有権が移転します。

一般的に買受人は、入札にあたって裁判所に物件価格(売却基準価額)の20%程度を先に保証金として納付しています(民事執行規則39条)。そのため、残りの代金(差額)を裁判所に納付期限までに支払った段階で、所有権移転が確定します。

開札から1週間程度で売却許可決定が確定する

まず裁判所は、開札日から数日以内に売却許可を出すかどうかを決定します。といっても、欠格事由などに該当しない限り、余程のことがなければ基本的には許可がでます。もし売却許可がでないケースがあるとすれば、以下のような場合くらいです。

  • 農業委員会の許可を得ることなく農地を落札する
  • 当該不動産の所有者(債務者)が自ら落札する
  • その他、民事執行法71条の売却不許可事由に該当する

 
農地については、以前に「農地の競売や任意売却と農地転用許可について」で解説しましたが、売買にいろいろ厳しい制限があります。それ以外のケースでは、まず売却許可決定が出ないということは、あまりありません。

裁判所の売却許可決定がでると、そこから1週間以内に関係者は執行抗告をすることができます。執行抗告とは、要は執行裁判所に対する不服申立て(異議)のことです。もちろん、正当な理由なく執行抗告をしても棄却されます。

特に不服申立て等がなければ、売却許可決定から1週間で決定が確定します。裁判所の命令や判決は、このように必ず「決定 ⇒ 確定」のプロセスを経ることになります。これにより、相手方にも反論するチャンスを与えるわけですね。





買受人に代金納付期限通知書が送付される

さて、売却許可決定が確定すると、裁判所から買受人に代金納付期限通知書が送られます。「○月○日までに、残りの代金を納付してくださいね」という裁判所からのお知らせです。これは最高価額買受人にだけ送られるもので、債権者や所有者などには送達されません。

【代金納付期限通知書】

別紙物件目録の不動産について、あなたを買受人とする売却許可決定が確定し、代金納付期限を平成○年○月○日午後○時○分と定めたので通知します。
(中略)
なお、あなたが納付すべき代金の額は、次のとおりです。

金 ○○○○○○○円

代金の納付期限は大体、通知日から1カ月後迄です。もしこの期限までに買受人が代金を納付できなかった場合は、売却決定は取消しになり、買受人の保証金は没収されれます。次順位買受申出人がいれば、その人が落札者に繰り上がりますが、もしいなければ、競売をやり直すことになります。

買受人への所有権移転と債権者への配当

買受人が残りの代金を納付すると、正式にその物件は買受人のものになります。登記移転については、買受人が自ら手続きをする必要がなく、裁判所がやってくれます(裁判所の書記官が法務局に嘱託します)。
※【嘱託】・・・しょくたく、業務を頼んで任せること。

その後、債権者と住宅の所有者(債務者)に宛てて、配当期日呼出状が送達されます。これは、「配当する日が決まったので裁判所に来てくださいねー」という裁判所からのお知らせです。

【配当期日呼出状】

別紙目録記載の不動産に対する上記当事者間の担保不動産競売事件について、配当期日が下記のとおり指定されたので、期日に当裁判所に出頭してください。


平成○年 ○月○日 午前○時○分

 
当然ながら、競売の売却代金はまず抵当権を設定している債権者から順番に配当されます。また、無担保債権者(抵当権を設定していない債権者)でも、競売手続きの指定期間内に配当要求をしていれば、配当が受けられる可能性があります。

債権者への支払いを済ませて、もし余剰金があれば、残りは債務者にも配分されます。また、もし戻ってくる余剰金がない場合は、裁判所にわざわざ出頭する必要はありません。

ページの先頭に戻る