管理費や修繕積立金を滞納し続けると強制競売になる?
分譲マンションなどを購入した方であれば、毎月、管理費や修繕積立金を支払う必要があります。しかし住宅ローンが返済できずに苦しんでいる方の中には、マンションの管理費や修繕積立金も支払えずに滞納してしまっている方も多いはずです。そもそもマンションの管理費等を滞納し続けると、どうなるのでしょうか? 競売にかけられる可能性はあるのでしょうか?
分譲マンションだと、エレベーターの保守点検とか共有設備のメンテナンスのために、管理費や修繕積立金を、毎月2~3万とか払わないとダメだよねー? これって絶対に払わなきゃダメなの?
もし、どうしても支払えずに滞納を続けてしまったら、どうなるのかなー? 滞納額が50万円とか、100万円とか積み重なってくると、簡単には払えないよね・・・
でも、住宅ローンの債務がたくさん残っている場合って、金融機関の抵当権が付いてるから、滞納管理費にまで配当は回らないんじゃないのー? 競売にしても意味ないのでは・・・。
- 滞納管理費や修繕積立金の取立ての方針は管理組合によって異なる
- 最悪の場合、訴訟などの法的措置により自宅が強制競売になる
- 無剰余取消しの場合でも、区分所有法59条の競売が認められる可能性がある
- 競売で落札した買受人は、前所有者が滞納した管理費の支払義務がある
- 滞納した管理費や修繕積立金の債権の消滅時効は5年
管理費等の滞納の発生率はなんと37.0%もある?!
分譲マンションでは、所有者の専有部分(部屋)の面積に応じて、マンションの共有設備の維持管理費を負担するのが一般的です(区分所有法14条)。維持管理費とは、例えばエレベーターの保守点検や、エントランスや廊下、階段の清掃、共有設備の水道光熱費、管理人さんの人件費などですね。
ほとんどのマンションでは、管理会社に日常のメンテナンス業務を委託することになりますが、居住者はそのための費用として毎月、管理費の負担を求められます。
国土交通省の平成25年度の調査によると、分譲マンションの戸当たり管理費の平均は15,257円、戸当たり修繕積立金は11,800円なので、大体、合計2~3万円を毎月支払っていることになります。
ところが一方で、管理費等を3カ月以上に渡って滞納している世帯の割合は、なんと37.0%にも上ります。それだけ住宅ローンの返済などで苦しんでいる方の多くが、マンション管理費なども滞納している傾向にあることがわかります。(参考:「平成25年度マンション総合調査結果について」)
たかが管理費といえども、長期間に渡って積み重なるとかなりの金額になります。仮に月3万円の管理費や修繕積立金を2年間滞納すると72万円、3年間滞納すると108万円になります。
さすがにこの金額になってくると、簡単には支払うことができなくなります。特に、ただでさえ住宅ローンの返済に苦しんでいたり、多重債務に陥っているような方だと、どうしてもマンションの管理費の支払いは、優先順位が下がってしまいがちです。
このように居住者の滞納管理費が長期的に続いてしまった場合、どうなるのでしょうか?
一般的にマンションの管理組合は、管理費や修繕積立金の徴収も管理会社に委託していますが、多くの管理会社は、訴訟をしてまで取り立てることはしないため、最終的にはマンションの理事会などの判断で法的措置をとるかどうかが検討されます。
「たかが管理費の滞納で、住宅が競売になることなんて本当にあるの?」と思われる方もいるかもしれませんが、実際に管理費の滞納額が50万円を超えるような場合、強制執行などの法的措置がとられることは十分あり得ます。
裁判所に強制執行を申立てるためには、通常、「支払督促」または「簡易訴訟」という手続きをとります。支払督促や簡易訴訟などの流れについては、以下の記事を参考にしてください。こちらの記事は給与の差押えの話ですが、強制執行までの流れは全く同じです。
マンションの管理組合により競売が申し立てられると、裁判所から「競売開始決定通知」が届きます。この競売通知が届いてパニックになる方は多いのですが、この時点ではまだ物件が落札されて立ち退きを要求されるまでに半年以上の猶予があります。
早期であれば、まだ任意売却など有利な条件での売却方法を模索することもできますので、早めに専門業者などに相談することが必要です。(参考:「任意売却でマンションの滞納管理費は清算できる?」)
分譲マンションの管理費滞納により競売にされるケース
さて実際に、管理費の滞納が原因で分譲マンションが競売にかけられるケースでは、いくつか知っておくべきポイントがあります。まず一番注意しなければならないのが、競売にかけられた分譲マンションにまだ住宅ローンの債務が残っている場合です。
住宅ローン債務が残っている場合、分譲マンションには銀行等の金融機関による抵当権が設定されています。この場合、登記された抵当権は、一般の先取得権である滞納管理費よりも優先します。つまり、まず先に抵当権を設定している金融機関が債権を回収し、さらに余りがあれば、管理組合が滞納管理費を回収します。
区分所有法の7条によると、管理費や修繕積立金などの「管理組合の規約もしくは集会の決議に基づく債権」については、区分所有権の上に先取特権を有する、と定められています(区分所有法7条)。つまり、他の一般の債権に比べると優先的に競売で回収する権利を有するわけですね。
しかしこれは、あくまで一般の債権(無担保債権)と比較して・・・という話であり、抵当権にまで優先できるわけではありません。民法336条の但し書きによると、「登記をしていない先取得権は、登記をした第三者には対抗できない」とされています。つまり、先に金融機関による抵当権登記が設定されている場合は、抵当権が優先されます。(民法336条)
逆にいえば、もし分譲マンションの資産価値よりも、住宅ローン残高の方が多い場合、競売にかけたとしても、滞納管理費は1円も回収できないことになります。
具体例をあげます。例えば、分譲マンションの資産価値が800万円で、住宅ローンの残債が1200万円だとしましょう。この場合、もし競売により分譲マンションが800万円で落札されたとしても、その売買代金は全額、抵当権者である金融機関に配当されるので、管理組合には1円も配当されませんよね。
こういった無剰余のケースでは、管理組合が競売を申立てても裁判所の判断で競売が取消されることがあります。これを無剰余取消しといいます。
つまりオーバーローン(マンションの資産価値よりも住宅ローンの残債の方が多い状態)の場合には、管理組合が競売を申立てても、裁判所に却下される可能性があるのです。
ではマンションの管理組合の立場からすると、このようなケースでは泣き寝入りして諦めるしかないのでしょうか?
実は通常の競売申立てで無剰余取消しになってしまった場合でも、管理組合にはもう1つ競売を申立てる方法があります。それは、区分所有法59条を根拠とする競売の申立てです。区分所有法59条には、以下のような定めがあります。
区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共同生活の維持を図ることが困難であるときは、管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもって競売を請求することができる。(一部省略)(区分所有法59条)
つまり簡単にいうと、マンションの居住者たちと共同生活をする上で重大な障害があり、他の方法を使ってもその問題を解決できなかった場合は、最終的に管理組合は、競売により強制的にその障害を排除することができる、という規定です。
この59条競売は、例えば威圧的、危害的な暴力団員などを追い出したいときにも使われたりする条文ですね。
マンションの管理費を滞納し続けている居住者の存在が、この条文でいう「区分所有者の共同生活上の障害が著しい」とまで言えるかどうかは正直ケースバイケースです。滞納額があまりにも小さかったり、滞納期間も短すぎる場合は、59条による競売は認められない場合もあります。
ここで区分所有法の59条競売の要件を、もう1度整理すると以下のようになります。
区分所有法59条競売ができる条件
- マンション居住者たち(区分所有者)の共同の利益に反するとき
- マンション居住者たち(区分所有者)が共同生活を営む上での障害が著しいとき
- 通常の強制競売や、和解交渉、訴訟提起など他の方法でダメだったとき
なお、区分所有法59条の競売が認められたからといって、売買代金から直接、配当が貰えるようになるわけではありません。あくまで競売が無剰余取消しになることを回避できる、というだけなので、競売は執行されますが、配当の優先順位が変わるわけではありません。
滞納管理費が、抵当権を設定している金融機関に優先できないのは同じですので、売買代金はすべて抵当権者に配当されることになります。
しかしそれでも管理組合の立場からすれば、競売を執行して居住者を追い出せるだけで十分にメリットがあります。なぜなら管理費の滞納額分は、次の所有者に代わりに請求することが区分所有法でも認められているからです。
滞納した管理費は代わりに次の所有者に請求できる?
中古マンションで売主が滞納していた管理費や修繕積立金の支払い義務は、買主にも発生します。これは一般の不動産売買や任意売却でも、競売の場合でも同じです。区分所有法では、中古マンションの買主のことを特定継承人と呼びますが、特定継承人については以下のように定められています。
管理組合の規約もしくは集会の決議等に基づき他の区分所有者に対して有する債権は、債務者たる区分所有者の特定継承人に対しても行うことができる(区分所有法8条)
つまり、例え競売で1円も配当を得ることができないケースでも、区分所有者が入れ替わってさえくれれば、管理組合は新しい所有者に滞納分の管理費を請求できるのです。これは通常の契約ではありえない非常に特殊な法律ですね。
買主の承諾は必要ありませんし、売主と買主との間であらかじめ「(買主が)私は滞納管理費は支払いません」という契約を交わしていたとしても、意味がありません。管理組合が前所有者の滞納管理費を新しい買主に請求すれば、買主はそれを拒否することはできません。
もちろん、これは不動産の売買にあたっての重要説明事項ですので、買主には不動産業者から必ず説明があります。例えば、売主に100万円近いマンション管理費の滞納があるのに、それを知らずに購入した買主が、突然、マンションの管理組合から「100万円を支払ってください」と請求されたら困りますよね。
なので仲介する不動産業者は、宅地建物取扱法に基づき、事前に滞納管理費の有無を管理会社などに確認して、滞納管理費の金額や支払い義務を買主に説明する責任を負っています。もし説明がなかった場合には、仲介の不動産業者の瑕疵ですので、業者に損害賠償請求をすることもできます。
もっとも任意売却などでは、売買契約が成立したら売買代金からまず管理費を一括で支払って滞納を解消するケースが多いので、実際には買主に支払い義務が残ることはありません。(参考:「滞納管理費を、競売よりも任意売却で解消すべき理由」)
競売の場合はもっとシンプルです。マンションの滞納管理費がある場合には、その金額分はあらかじめ最低入札額から差し引かれます。
競売をするにあたって裁判所はまず現況調査をおこない、マンションの管理費や修繕積立金、駐車場代等の滞納がないかを管理組合や管理会社に確認します。その調査の結果、もし物件の競売での評価額が500万円、マンションの滞納管理費が300万円あったとしましょう。
この場合、裁判所は【物件評価額 500万円 - 滞納管理費 300万円 = 売却基準価額 200万円】として、物件の売却基準価額を200万円に設定します。この売却基準価額の80%にあたる160万円が買受可能価額(最低入札額)になります。
つまり、競売の買受人はあらかじめ管理費の滞納があることを理解した上で、そのマイナス分を織り込んだ安い価額で物件を落札することができるのです。
ちなみにこの滞納管理費については、競売物件で必ず公開されている【評価書】でも確認することができます。(評価書のなかの「滞納管理費等相当額の減価」という項目で、滞納管理費分が評価額から除外されます)。
たまに競売物件サイト(BIT)などを閲覧していると、売却基準価額が1万円などに設定されている激安物件に遭遇することがあります。「えぇーっ!物件が1万円で購入できるのー?!」と驚かれるかもしれませんが、そんなに甘い話はありません。
この手の物件に多いのが、物件の評価額よりも管理費の滞納額等が大きく、実質的な評価額がマイナスになっているケースです。
例えば、土地の地価と建物の価格の合計が200万円の物件について、滞納管理費が300万円ある場合、評価額は-100万円になります。もちろんマイナスの値段のまま売ることはできませんので、これらの物件は便宜上、売却基準価額1万円として競売にかけられることになるのです。
このように物件明細書や評価書などをキチンと確認せずに、激安の競売物件だと思って安易に飛び付くと、思わぬ債務を抱え込むことがあるので注意が必要です。
滞納した管理費や修繕積立金の消滅時効は5年
最後にマンション管理費や修繕積立金の消滅時効について解説しておきましょう。結論からいうと、管理費や修繕積立金の請求権の消滅時効は5年です。請求月から5年以上が経過すると、支払い義務がなくなります。
民法では、一般的な債権の消滅時効は10年と定められています。しかし、家賃の賃料や地代など、定期給付債権(年、月など短い期間での給付を目的とする債権)の消滅時効は、5年間とされています(民法169条)
マンションの管理費や積立修繕金が、この一般債権にあたるのか、定期給付債権にあたるのか、は昔から意見が分かれていましたが、平成16年4月23日に最高裁の判決により、このマンション管理費は定期給付債権である、という判断が下されました。
そのため、途中で訴訟提起などにより時効が中断した場合を除けば、5年間以上支払いが滞っている管理費や修繕積立威金については債権が消滅します。