共同抵当が設定された不動産の任意売却の方法

前回の記事では、共同抵当が設定された不動産が競売にかけられた場合の配当について解説しました。競売の場合、共同抵当が設定された物件のうち片方だけが先に競売にかけられるケースでは、その物件の後順位抵当権者はもう片方の共同抵当物件を代わりに競売にかけることができるんでした。任意売却ではどうなのでしょうか?

共同抵当物件の任意売却について
ねえねえ、先生ー!
共同抵当が設定された物件のうち、片方の物件だけを任意売却することはできるのかなー? あとその場合、売却代金の配当ってどうなるのかなー?
もちろん所有者の同意があれば、別々に任意売却することも、同時に任意売却することもできるよ。ただし配当にあたっては、少し注意が必要だね。共同抵当物件を同時に売却する場合は、競売と同じく不動産価格按分で問題ない。
不動産価格按分は、この前の記事でやったヤツだねー。それぞれの物件の売却代金の比率に応じて、第1抵当権者の債権に充当するんだよね。じゃあ、先に片方の物件だけを任意売却した場合はどうなるのかなー?
そう、問題は異時配当のケースだね。その場合、任意売却では、競売のように法律上の代位が認められないから、その分も考慮して後順位抵当権者への配当額を考えないといけない。少しややこしいから順に説明していくね。
  • 共同抵当の物件を同時に任意売却する場合は、不動産価格按分する
  • 片方だけを任意売却する場合、後順位抵当権者がいる場合は注意
  • 任意売却では法律上の代位ができないため、その分多く配当を払う必要あり

先に片方の共同抵当物件だけを任意売却する場合

物件を任意売却する場合、すべての抵当権者がその住宅の売却に同意しなければ、住宅を売ることはできません。抵当権が付いたままの物件を買う人はいないので、当然ですね。

そして全ての抵当権者が同意するということは、つまり全ての抵当権者が(競売と比較して)何らかのメリットが必要ということになります。

後順位抵当権者への配当額が変わってしまうケース

前回の「共同抵当が設定された不動産の競売手続きについて」の記事でかなり詳しく解説しましたが、共同抵当の物件の場合、複数の物件を同時に競売するのか、バラバラに競売するのか、で後順位抵当権者への配当額が変わってしまいます。

先に片方の物件だけを売却すると、その物件の後順位抵当権者は、受け取れる配当額が少なくなってしまうんですね。以下の図をご覧ください。

共同抵当の複数物件を同時に売却した場合と、先に片方だけ売却した場合の違い-説明図

このように、共同抵当権の設定者の采配によって後順位抵当権者の受取額が変わってしまうのは、あまり好ましいことではありません。そのため、競売の場合には、民法392条で共同抵当権者への「代位」が認められています。

つまり、共同抵当権の設定者が片方の物件だけを競売にしたことで、配当額が減ってしまった場合、その後順位抵当権者は代わりにもう片方の抵当物件を競売にかけて差額分だけ回収することができるのです。

共同抵当の片方だけを競売する場合の代位の説明図

ただし、これは競売の場合の話です。
任意売却では、法律上は上記の図のような代位権が発生しません。そのため、この点を考慮して配分額を考えないと、任意売却の話がまとまらなくなります。





任意売却でも民法392条の代位の分を考慮する

任意売却の場合には、後順位抵当権者に民法392条による代位権は発生しません。共同抵当権を設定している第1抵当権者が、任意売却の売却代金をすべて優先的に自分の債務に充当してしまうと、後順位抵当権者は、競売の場合よりも受け取れる金額が少なくなってしまいます。

そのため、共同抵当の物件のうち片方だけを任意売却する場合でも、その物件の後順位抵当権者には、複数物件を同時に任意売却する場合と同程度の配当額を渡さなければ、後順位抵当権者は担保解除に応じないでしょう。

共同抵当の物件の片方だけを任意売却する場合の説明図

つまり実務上は、片方だけ先に任意売却する場合でも、第1抵当権者は売却代金の全額を受け取るのではなく、複数物件を同時売却した場合を想定した金額で配当することになるはずです。

共同抵当が物上保証人の場合は同意が必要

さて、共同抵当のうち片方の物件だけを任意売却するケースで、もう片方の物件の所有者が物上保証人である場合には、物上保証人の同意が必要になるので注意が必要です。

例えば、物件A、物件Bの2つの住宅に共同抵当を設定していて、そのうち、物件Bを物上保証人が担保に提供しているとします。この状態で、もし物件Aだけを先に任意売却したいのであれば、物件Bの物上保証人の同意が必要、ということです。

物件Aだけを先に任意売却する場合
でも、その売却代金について、物件Bの物上保証人の同意が必要になる―説明図

これは、債権者が物上保証人に対して、担保保存義務を負っているからです。担保保存義務については、以前に以下の記事で解説していますが、実は物上保証人も含まれているんですね。

わかりやすく説明するために、少し極端な話をします。上記の例で、もし本来2000万円の価値がある物件Aを債権者が勝手に1000万円で任意売却してしまったら、どうなるでしょうか? その分、物上保証人の所有する物件Bの負担が1000万円も重くなってしまいますよね?

これでは物上保証人があまりに不利なので、債権者は物上保証人に対しても担保保存義務を負うことになります。

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