共同抵当が設定された不動産の競売手続きについて
融資の担保として不動産に抵当権が設定される場合、その対象の不動産は1個とは限りません。現実には、1つの債務に対して2つ以上の不動産に抵当権が設定されることも多いです(これを共同抵当といいます)。例えば、2000万円の借金の担保として、1500万円の不動産A、1000万円の不動産Bの2つの不動産に共同抵当が設定されている場合、競売の配当額はどうなるのでしょうか?
じゃあ2つの不動産が同時に競売されなかったらどうなるのー?
- 1つの債務に対して複数の不動産に抵当権が設定されることを共同抵当という
- 共同抵当物件が同時に競売されると、それぞれの負担は不動産価格按分となる
- 例えば不動産A、不動産Bの評価額が3:2であれば売却代金の負担も3:2になる
- 共同抵当の不動産の片方だけが競売になると、その全額を返済に充当できる
- 上の場合、次順位抵当権者は損失額分だけ共同抵当の抵当権者に代位できる
共同抵当の物件が競売された場合の配当について
1つの債権の担保のために、複数の不動産に抵当権を設定することを共同抵当といいます。(一定の金額を限度として、継続的に金銭貸借取引を繰り返すために、複数の不動産に抵当権を設定することを共同根抵当といいます)。
1つの債権に対して、複数の不動産を担保にとること。共同抵当という特別な抵当権設定があるわけではなく、1つの借金に対して2つ以上の不動産を担保にとると、自動的に共同抵当となる。共同抵当に設定された物件は、登記簿の【共同担保目録】で他の債権者にも確認できる。
共同根抵当
複数の不動産に根抵当権を設定すること。お金を貸したり返したり、を何度も繰り返すような取引をする場合に、毎回、抵当権登記を抹消して設定し直すのは非常に手間なので、決められた限度額の範囲での貸し借りをまとめて担保するための抵当権を、根抵当権という。
返済が滞ってしまったり、契約の履行義務に違反があった場合、債権者はこの共同抵当の不動産を競売にかけて、貸金を回収することができます。この際、複数の不動産をまとめて同時に競売にすることもできますし、1個ずつバラバラに競売にかけることもできます。
共同抵当の物件を同時に競売にかけることを同時配当といいます。(バラバラに競売にかける場合を異時配当といいます)。
共同抵当の複数の不動産を同時に競売にかける場合で、2つの不動産の評価額の合計が債権額を上回る場合、それぞれの不動産から幾ら分ずつ返済に充当するのが妥当なのでしょうか? 例えば2000万円の債務の担保として、不動産A(時価1500万円)と不動産B(時価1000万円)に共同担保として抵当権を設定している場合はどうなるのでしょうか?
この場合、それぞれの不動産からの負担は、不動産価格按分という方法によっておこなわれます。
共同抵当の複数の物件を同時に競売にかけるときに、どっちの物件から幾らずつ回収するか、を決める方法です。民法392条1項では、同時配当の場合には「それぞれの不動産の価額に応じて、その債権の負担を按分する」と定められています。(民法392条1項)
不動産価格按分の事例
【例】債務額2000万円、共同抵当の不動産A(時価1500万円)、不動産B(時価1000万円)の場合
不動産A:不動産B = 1500万円:1000万円 = 3:2
不動産A の負担 = 2000万円 × (3/5) = 1200万円
不動産B の負担 = 2000万円 × (2/5) = 800万円
「どっちにしろ合計額で1500万円を回収するのであれば、按分方法なんて何でもいいじゃないか」と思われる方もいるかもしれません。しかし後順位抵当権者の存在を考えるとこの按分方法は非常に重要になります。
上記の例でいえば、不動産Aに第2抵当権を設定している金融機関がいた場合、300万円の配当を受けることができます。また不動産Bに第2抵当権を設定していた金融機関は200万円の配当を受けることになります。これは次の説明にも絡んでくるので、少し覚えておいてください。
債権者は共同抵当の不動産を別々に競売にかけることもできます。これを異時配当といいますが、この場合は上記の按分方法とは異なり、1つの不動産の全額を返済に充てることができます。
債務額2000万円、共同抵当の不動産A(時価1500万円)、不動産B(時価1000万円)で、不動産A のみを競売にかけた場合
売買代金の1500万円全額を返済金として回収できる。(民法392条2項)
しかし、ここで問題となるのが後順位抵当権者です。
例えば、上記の例で不動産A に別の金融機関が第2抵当権を設定していたとしましょう。この場合、先ほどの同時配当であれば300万円の配当を受けることができたのに、今回の異時配当で先に競売にかけられてしまうと、1円も回収することができなくなってしまいます。
このように共同抵当を設定している第1抵当権者が、「同時配当にするか、異時配当にするか」を自由に選択した結果、第2抵当権者などの後順位抵当権者が思わぬかたちで損失を受けてしまうのは理不尽ですし、可哀そうですよね。
そのため民法では、異時配当によって後順位抵当権者の配当額が減ってしまった場合には、その減ってしまった金額分を限度として、共同抵当の抵当権者に代位することができる、と定めているのです。
民法392条2項では、異時配当の場合において「次順位の抵当権者は、その弁済を受ける抵当権者が前項の規定に従い他の不動産の代価から弁済を受けるべき金額を限度として、その抵当権者に代位して抵当権を行使することができる。」と定められています(民法392条2項)。
つまり、共同抵当を設定している第1抵当権者が、片方の不動産のみの抵当権を実行して競売にかけたことで、第2順位抵当権者の配当額が減ってしまった場合には、代わりにもう片方の不動産を第2順位抵当権者が競売にかけられるということです。
共同抵当の代位の事例
担保 | 時価 | 第1抵当権 | 第2抵当権 |
---|---|---|---|
不動産(A) | 1500万円 | 債務額2000万円(共同抵当) | 債務額1000万円 |
不動産(B) | 1000万円 | 債務額2000万円(共同抵当) | なし |
上記のような事例で、不動産Aと不動産Bを同時に競売にかけた場合と、不動産Aを先に競売にかけた場合とで、それぞれの配当額は以下のようになります。
【同時配当】
不動産A ・・・第1抵当権者(1200万円)、第2抵当権者(300万円)
不動産B ・・・第1抵当権者(800万円)
【異時配当】
不動産A ・・・第1抵当権者(1500万円)、第2抵当権者(0円)
不動産B ・・・第1抵当権者(500万円)
この場合に、先に不動産Aだけを競売にかけた異時配当のケースでは、第2抵当権者は配当額が300万円減ってしまいます。そのため、不動産Bにも共同で抵当権を設定している第1抵当権者に代位して、第2抵当権者が不動産Bを競売にかけることで、不動産Bから300万円を回収することができるのです。
【代位】
不動産A ・・・第1抵当権者(1500万円)、第2抵当権者(0円)
不動産B ・・・第1抵当権者(500万円)、<-第2抵当権者が代位(300万円)
本来、第2抵当権者は、不動産B には何ら抵当権の設定をしていませんので、第2抵当権者が不動産Bを勝手に競売にかけたり、不動産Bから債務を回収することはできません。
しかし第1抵当権者の共同抵当の物件で、かつ先に不動産Aが競売にかけられることで配当額が減ってしまった場合に限り、第2抵当権者は代わりに不動産Bからお金を回収することができるんですね。