法定地上権が成立するときの任意売却の配当はどうなる?
通常、金融機関が不動産を担保にとるときは、土地と建物の両方に抵当権を設定します。しかし稀に何らかの事情で、土地と建物とで異なる債権者がそれぞれ抵当権を設定することがあります。このようなケースでは、建物には法定地上権という権利が付着する可能性があり、土地と建物それぞれの抵当権者の配当額に影響します。今回は法定地上権が成立する場合の任意売却について解説します。
土地と建物にそれぞれ別の債権者が抵当権を設定している場合の任意売却って、住宅の売却価格の配分はそれぞれ、土地は土地代、建物は建物代で配当すればいいのかなー?!
- 任意売却で土地と建物の抵当権者が異なる場合、法定地上権をチェックする
- 法定地上権が成立するかたちで抵当権設定した場合、配当額にも影響がでる
- 法定地上権が成立すると、土地の担保価値は下がり、建物の担保価値は上がる
- 任意売却の配当額も、競売で法定地上権が成立する場合をベースに考える
任意売却で法定地上権が成立する場合の配当額
通常、金融機関は土地と建物を一括で担保にとりますので、土地と建物とで抵当権者が異なるというケースは余りありません。しかしごく稀に、超過売却(土地または建物の担保額だけで十分に債務額を賄えること)にあたるケース等で、土地や建物の片方だけを担保にとることがあります。
上記のように土地と建物それぞれに違う債権者が抵当権を設定した場合、設定の仕方によっては法定地上権が成立する可能性があります。法定地上権とは、簡単にいうと競売によって土地と建物の所有者が別の人になってしまった場合に、建物の所有者が土地を使用する権利をいいます。
これにより、建物だけが競売にかけられても、競売後、建物の買受人が土地の持ち主に「出ていけ!」といわれる心配がなくなるわけですね。
ここで法定地上権について詳しく解説するとかなりややこしい話になるため、法定地上権については別記事にまとめています。「法定地上権って何?」「どういう場合に法定地上権が成立するの?」というのは、以下の記事を参考にしてください。
法定地上権は、建物の所有者を保護するために民法で保証された権利です。そのため、法定地上権が成立してしまうと、土地の持ち主の立場からすると、「土地を自由に使用する権利」が大幅に制限されることになりますので、その土地の担保価値は大きく下落します。
任意売却でも当然、このことを考慮して配当額を決めることになります。任意売却では、すべての抵当権者が競売よりも有利な条件でなければ合意しませんから、基本的には「競売になった場合」をベースにして、同じ優先順位で配当額を算定することになるはずです。
ここで、まず競売のケースを思い出してみましょう。
競売において法定地上権が成立する場合には、その法定地上権の価値を「土地利用権等価格」として算出し、その価値分を土地の地価から控除して、建物の価値に加算するんでしたよね。
- 土地の担保価値 = 土地の地価(公示価格等) - 法定地上権価格
- 建物の担保価値 = 建物の評価額(資産価値) + 法定地上権価格
ちなみに、この法定地上権価格は、国が公表している各地域の借地権割合を参考にして算出します。
例えば土地の地価(更地評価)が1000万円でも、借地権割合が50%であれば、土地だけを担保にとっている場合の担保価値は500万円だけです。残りの500万円は、建物側の担保価値に含まれるんでしたね。
この辺りの法定地上権の評価方法は、以下の記事でかなり詳しく解説していますので、参考にしてください。
任意売却においても、原則としてこの評価方法を踏襲することになります。
なぜなら、(繰り返しになりますが)競売と違う評価方法による配当を選択しても、それによって不利益を受ける債権者は任意売却に合意しないからです。1人でも納得しない抵当権者がいれば、任意売却の話は流れて結局、競売になってしまいます。
それでは実際に任意売却での配当事例を考えてみましょう。例えば、ある住宅を任意売却にかけて3000万円での買受人が見つかったとしますよね。この時、建物と土地にはそれぞれ別の債権者の抵当権が設定されているとします。また、土地の地価は2000万円、建物の資産価値は1000万円だとします。
任意売却での買受価格 3000万円
土地の地価 2000万円 / 建物の価値 1000万円
借地権割合 50%
土地の抵当権者:銀行A / 建物の抵当権者:銀行B
この場合、土地の抵当権者の配当は2000万円ではありません。土地の価値のうち、純粋な底地の担保価値は1000万円だけなので、土地の抵当権者への配当は1000万円になります。また、建物の抵当権者は2000万円を回収することができます。
もちろん、任意売却はすべての債権者が任意で合意して成立する契約ですから、これに納得いかなければ拒否して競売にすることができます。ただし法定地上権が成立するケースでは、競売になったとしても同じ基準で配当がされることになります。