任意売却でマンションの滞納管理費は清算できる?
前回の記事では、分譲マンションの管理費や修繕積立金などを長期間滞納してしまうと、管理組合から訴訟を提起されたり、強制執行で競売にかけられる可能性があると説明しました(参考:「管理費や修繕積立金を滞納し続けると強制競売になる?」)。では、もし競売ではなく任意売却をしたい場合、管理費を滞納している分譲マンションの任意売却は可能なのでしょうか?
分譲マンションの管理費をずっと滞納し続けていると、金額によっては管理会社や管理組合から訴訟をおこされたり、競売を申し立てられる可能性があるんだよねー?
もし滞納管理費を支払う余裕がなくて、住宅を諦めて手離すなら、やっぱり少しでも高く売るために任意売却にしたいんだけど、マンションの滞納管理費があっても任意売却はできるのかなー?
- マンションの管理費や修繕積立金を滞納していても任意売却は可能
- 任意売却の場合、売買代金の中から滞納分の管理費を一括で支払うのが一般的
- 債権者が自分の取り分(配当)を減らして滞納管理費を負担することになる
- 住宅金融支援機構では過去5年分までなら滞納管理費の負担を認めている
- ただし負担を認めるのは元本のみ。遅延損害金や、他の駐車場代などは認めない
任意売却で滞納している管理費等を一括で解消する方法
分譲マンションの管理費や修繕積立金の支払いは、仮に毎月2~3万円だとしても数年単位で滞納が続くとかなりの金額になります。しかし、住宅ローンの支払いなどに行き詰ってしまっている方の多くは、同様に管理費や修繕積立金も支払えずに滞納してしまっているケースが多く、なかには数百万円単位で滞納している場合もあります。
この管理費の滞納の問題は、まず以下の記事を読んでほしいのですが、「たかが管理費、滞納しても大丈夫だろう」と思って甘くみていると、管理組合などから訴訟を提起されたり、競売の申立てをされることも珍しくありません。
もし住宅ローンの返済も行き詰ってしまって、かつ滞納管理費なども支払いが不可能な場合は、住宅を諦めて手離さざるを得ないかもしれません。しかし、競売で売却してしまうのはお勧めできません。できれば、競売ではなく、任意売却で解決できるようにするべきです。
まず前提として、仮に競売になったとしても、住宅ローンの残債が多い場合には滞納管理費にまで配当が回りません。例えば、滞納管理費が100万円、住宅ローンがまだ1200万円残っていて、かつマンションの評価額が800万円だったとします。この場合、売買代金はすべて抵当権を設定している金融機関に回収されてしまいます。
つまり競売に掛けられて分譲マンションを失ったにも関わらず、滞納管理費の支払い債務100万円はそのまま全額残ってしまう可能性がある、ということです。
しかも管理組合は、競売後、新しい所有人(買受人)にも滞納管理費100万円を請求できることになります(区分所有法8条)。つまり、滞納管理費が残ったままの状態で売却することになりますので、当然、競売での落札価額は安くなってしまいます。
そもそも競売だと安い価格でしか売れない上に、「競売の配当金は全て抵当権者が回収するため、滞納管理費は(直接的には)解決しない」「買受人にも支払義務が発生するので、落札価額がさらに下がってしまう」「住宅ローン債権者は管理費を1円も負担してくれない」など、さまざまな不都合があるわけです。
一方、任意売却であれば、以下のようなメリットがあります。
任意売却で滞納管理費を解消するメリット
- 競売より高い市場価額で売却できるので、より多く住宅ローンを返済できる
- 売買代金の中から債権者が滞納管理費の一括支払いを認めてくれる
- 仲介の任意売却業者が、遅延損害金などの減額交渉をしてくれる場合がある
- 引越し費用(転居費用)を負担して貰える可能性がある(参考記事)
一番のポイントは、任意売却であれば(ほとんどのケースでは)売買代金から管理費の滞納分が優先的に支払われるため、滞納管理費の問題が売却によって直接的に解決する、ということです。
言い方を変えると、任意売却では債権者が売買代金の中から滞納管理分を負担してくれるわけです。競売の場合は、前述のように、売買代金のなかから滞納管理費が配当されるケースが少なく、滞納管理費が残ったまま買受人に引き渡されますので、ここは非常に大きな違いです。
また競売よりも早期解決できることを交渉材料として、「任意売却が成功したら直ぐに一括で支払うから、遅延損害金は免除してください」と管理組合の説得を試みることもできます。
管理組合の立場からすると、競売だと回収までに最低でも半年以上の期間がかかる上、(配当が得られない場合)自分で買受人から徴収する必要があります。また競売が無剰余取消しになってしまう可能性もあるため、多少、遅延損害金を免除してでも任意売却で数カ月後に一括で支払ってくれる方がいい、という管理組合も多いはずです。
もちろん言うまでもなく、単純に任意売却の方が高額で売却できる、というのも非常に大きなメリットです。
任意売却で控除が認められる費用、認められない費用
前述のように、任意売却ではまず売買代金のなかから優先的に滞納管理費などの費用を差し引いて、残った金額を債権者で配分します。
例えば、任意売却でのマンションの予想売却価額が900万円、住宅ローンの残債が1000万円、滞納管理費が100万円だとします。この場合、まず売買代金900万円から100万円を管理組合に支払い、残った800万円を住宅ローンの抵当権者に配分します。
本来、抵当権は滞納管理費よりも優先されますので、売買代金900万円の全額を債権者が回収しても、理屈上は何も問題ありません。
しかし滞納管理費が残ったままだと、任意売却の買主にも支払義務が残ってしまうため、買い手が嫌がって物件を購入してくれません。(中古マンションの売主が滞納した管理費は、区分所有法8条により、本人の意思に関わらず買主にも支払義務が残ります)。
そのため任意売却を成功させるための必要経費として、債権者が自らの回収額を減らしてでも、滞納管理費の負担を認めてくれるケースが多いのです。つまり、「滞納管理費分を負担したとしても、トータルでは競売より回収額が多くなるはず」という計算があるわけですね。
ただし本来、債権者には滞納管理費を負担する義理も義務もありませんので、どこまで費用として認めて負担してくれるかは、債権者の裁量で決まります。債権者のなかには、もしかすると「滞納管理費は負担しない」という方針の金融機関もあるかもしれません。
住宅金融支援機構は、任意売却にあたって負担を認める費用項目をあらかじめ公表していることもあり、他の銀行や金融機関もこれを基準として参考にしています。さて、気になる滞納管理費についてですが、住宅金融支援機構では以下のように定めています。
決済日の前日までの全額。ただし過去5年分に限る。延滞金は除く。
つまり、元本分であれば過去5年間に滞納した管理費と修繕積立金は全て費用として認めてくれる、ということです。ただし、遅延損害金、駐車場代、駐輪場代などは認められません。多くの銀行や金融機関もこの方針を採用しています。
過去5年分に限る、と定めているのは、おそらく管理費の請求債権の消滅時効が5年だからでしょう。つまり、基本的には滞納している管理費の全額が支払われることになります。
遅延損害金については、(1)売主が負担するか、(2)買主が債務を引き継ぐか、(3)仲介の任意売却業者が頑張って交渉して、免除して貰うか、の3パターンがあります。もっとも、マンションによってはそもそも遅延損害金がない場合もありますので、あらかじめ管理規約を確認しておく必要があります。