法定地上権って何?競売と法定地上権をわかりやすく解説
日本の法律では、土地と建物はあくまで別々のものなので、例えば土地だけを担保にとったり、建物だけに抵当権を設定することも可能です。しかしこのようなケースで担保権実行により建物または土地のどちらかだけを競売にかけ、落札された場合、建物の所有者と土地の所有者が別人になることがあります。このときの土地や建物の権利関係はどのようになるのでしょうか?
建物、土地のどっちかだけに抵当権を設定している場合も競売ってできるのー? 例えば、建物だけに抵当権が設定されているケースで、建物を強制競売にかけるとどうなるのかなー?
たしかに建物を競売で落札しても、土地は元の所有者のままだから、何だかちょっと心配だよね。「出ていけ!」とか言われそう・・・、それに法定地上権が関係あるの?
- 競売により土地と建物の所有者が別人になる場合、法定地上権が成立する
- 法定地上権とは、民法により建物の所有者に強制的に地上権を認めるもの
- 法定地上権の存続期間や地代は地主と協議する。不調の場合は裁判所が決定
- 合意できなかった場合の存続期間は、30年間となる(借地借家法3条)
競売で建物や土地だけ落札した場合の法定地上権とは
土地と建物は、一般的には一括で担保にとられたり売買されることが多いですよね。しかし法律上は、あくまで別個の不動産です。建物や土地のどちらか片方だけに抵当権を設定することもできますし、建物だけを競売にかけて売却することも可能です。
ただし買主の立場からすると、住宅と土地の両方の権利がきっちり揃っていない物件は敬遠されがちです。そのため買い手が付きずらく売却価格が下がりやすいので、売主や抵当権者にとってもあまり好ましい状態ではありません。あくまで特殊な事情でそうなったケースと考えてください。
競売においても、土地と建物は通常セットで一括競売にかけるのが基本です。ただし、建物や土地の片方だけに抵当権が設定されているケースや、建物と土地とで別々の金融機関が抵当権を設定しているケースでは、合意が得られずに片方だけが競売にかけられることがあります。
このような場合、例えば、建物だけが競売により第三者に落札されてしまった場合、土地と建物との所有者が別人になることになります。落札した買受人の立場からすると、知らない人の所有地の上に、自分の住宅を所有することになるわけですね。
ここで問題になるのが、権利関係です。
一般的にいえば、当たり前ですが人の土地の上に、無断で建築物をつくったり建物を所有することはできません。土地の所有者に何らかの許諾を得て、借地権(土地を借りる権利)や、地上権(土地を自由に使用する権利)を取得するわけです。通常は、期間を定めて、地代(使用料、賃借料)を払って契約を交わして、地主の合意のもとで建物を所持します。
もし何も権利のない他人が勝手に建物を所有している場合、地主は「建物を撤去して、ここから出ていけ!」という建物収去と土地明け渡し請求をすることが可能です。もちろん土地を貸してあげるか、使わせてあげるかどうかは、土地の所有者が自分で任意に決めることができます。貸したくない人に土地を貸す必要はないわけですね。
ここまでは常識的に考えても、当然のことです。
ところが、競売の場合は少し事情が違います。競売では、担保権実行により強制的に権利移転が実現してしまいます。例えば、建物だけに抵当権が設定されていて、建物が競売にかけられた場合、所有者の意思に関係なく、建物は他人の手に渡ってしまうわけですね。債権者はその売却代金によって、自分の債権を回収します。
この場合、建物を競売で落札した買受人は、(法律の保護がなければ)何の権原もなく他人の土地の上の建物を所有することになってしまいます。
ちゃんとお金を払って建物を取得したにも関わらず、借地権も約定地上権もありません。地主に「ここは私の土地だから、今すぐ建物を片付けて出ていってね」と言われてしまう可能性があるわけです。これは、さすがに可哀そうですよね。
そこで、このようなケースにおいて、法律で強制的に地上権を認めてあげようという発想が、法定地上権なのです。法定地上権が認められる場合、土地の所有者の意思に関係なく、建物の所有者は地上権を取得することができます。
まずは実際の法律の条文から確認しておきましょう。民法388条では、法定地上権について以下のように定めています。
土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。(民法388条)
この民法388条の存在により、先ほど説明した法定地上権が自然に発生するわけですね。この法定地上権が成立する要件をわかりやすく整理すると、以下の4つがポイントになります。
法定地上権が発生する要件
- 債権者の抵当権設定時に、既に建物が存在していること
- 債権者の抵当権設定時に、土地と建物の所有者が同一であること
- 土地と建物のどちらか一方、または両方に抵当権が設定されること
- 競売がおこなわれた結果、土地と建物の所有者が別人になること
(3)と(4)は、法定地上権が成立する条件として今まで説明してきた内容で大体、理解できると思います。抵当権が設定されて、競売により土地と建物の所有者が別人になるからこそ、法定地上権の問題が生じるわけですからね。法律の趣旨から考えると当然です。
問題は(1)と(2)ですね。この2つについて補足的に説明しておきます。
法定地上権が発生する条件として、「最初から土地、建物の両方がちゃんと存在したのに、敢えて土地だけしか担保にとらなかった」といったように、抵当権の設定時に建物が存在していたことを前提としています。
なぜかというと、最初に更地(建物などがない真っ白な土地)に抵当権を設定した債権者は、当然、更地としての担保価値を期待して土地を担保にとっています。例えば、3000万円の土地であれば、3000万円回収できることを期待して、土地に抵当権を設定しているわけですね。
ところが後から建物が建てられて、それに法定地上権が設定されるとなると、その土地の担保価値は大きく下落してしまいます。法律で強制的に地上権が認められてしまい、「建物をどけて出ていってくれ!」と言えなくなってしまうわけですから、その土地としての利用価値は大きく下がるわけですね。これだと最初の債権者には非常に不利になるため、抵当権設定時に更地であった場合は除外されているのです。
法定地上権は、競売によって何の権利もなく(無権原で)他人の土地の上に建物を所持してしまった人を保護するための権利です。そのため、最初から土地と建物の所有者が別人であった場合には、このような話にはなりません。
土地と建物の所有者が元々別人であった場合には、双方のあいだで既に何らかの合意が成立しているハズです。例えば、賃借権や約定地上権などを取得しているはずなのです。もし何の権利もなく無断で建物を所有しているのなら、それこそ、そんな所有者を法律で守る必要はないですよね。
なので法定地上権の問題は、「抵当権設定時には土地と建物の所有者が同一で、競売によって所有者が別々になってしまったケース」に限定されています。
先ほど、法定地上権が成立するための条件として、「建物が既に存在する状態で、抵当権を設定したこと」というのがありました。この建物が既に存在する状態というのは、物理的に建物がある状態をいうのでしょうか? それとも登記上、建物の所有権保存登記がされていることを言うのでしょうか?
これは答えからいうと、建物が実際に存在さえすれば、所有権保存登記がされていなくても条件を満たす、つまり法定地上権は成立すると解釈されます。
銀行などの金融機関の立場からすれば、例え保存登記がされていなくても、既に実際に建物が建っているのであれば、当然、土地の値段は建付地(建物の存在する土地のこと)として評価して担保にとっているはずなので、法定地上権を認めても抵当権者に思わぬ損害を与えることにはならないからです。
さて、法定地上権では民法388条により自動的に地上権の発生が認められることになりますが、地代はどうなるのでしょうか? いくら法律で地上権が自然発生するからといって、1円も払わずに他人の土地を使用し続けることが認められるわけではありません。
まず原則として、地代は土地の所有者と協議して決めることになります。なので特に決まりがあるわけではなく、双方の話し合いで自由に決めることもできます。
ただし(もし高すぎる地代を要求されるなど)協議で地代について合意することができなかった場合は、裁判所に地代確定請求訴訟という訴訟をおこします。訴訟によって、裁判所に地代を決めて貰うわけですね。先ほどの民法388条でも「地代は、当事者の請求により、裁判所が定める」と記載されています。
裁判所が決める地代の相場は、概ね一般的な借地での地代と同じような額になります。例えば、(1)固定資産税の3~4倍、または(2)土地の更地評価額の1% といった相場から決めることが多いようです。
法定地上権の地代相場
- 固定資産税の3~4倍程度
- または更地評価額の1%程度
法定地上権は、地上権(他人の土地を使用する権利)ですから当然、一定の期限があります。
この期限も地代と同様、まずは当事者間が協議して決めることになります。ただし、協議をしても話がまとまらなかった場合には、期間に関しては借地借家法3条を適用することとされています。
この借地借家法3条が適用された場合は、法定地上権の存続年数は30年になります。
なおこの30年が経過した後の更新についても、借地借家法が適用されます。もし30年後にまだ建物が存在していれば、「継続して土地を使用している」と見なされますので、法定更新といって原則、自動的に地上権が更新されます。このときの更新期間は、初回更新が20年間、その後の更新は10年間ごとになります。(借地借家法4条)
ただし土地主が(地代の滞納など)正当な理由があって更新を拒否した場合は、法定更新がされない可能性があります。その場合は、建物の収去や土地の明け渡しを請求される可能性があります。
後から建物が建てられた場合には一括競売ができる
なお、ここまで「既に建物がある状態で、土地または建物に抵当権を設定し競売をかけた結果、建物と土地の所有者が別人になった場合には法定地上権が成立する」ということを説明しました。ここまでは大丈夫そうでしょうか?
最後に、「更地(何もない土地)に既に抵当権を設定している状態で、後から建物が建てられた場合」について補足したいと思います。この場合には法定地上権が成立しないことは既に説明したとおりですが、それだけではなく、このようなケースでは債権者は土地だけでなく建物も一括して競売にかけることが認められています。
これを一括競売といいます。
抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは、抵当権者は、土地とともにその建物を競売することができる。ただし、その優先権は、土地の代価についてのみ行使することができる。(民法389条)
土地に抵当権が設定されている状態で、後から建物が建てられた場合には法定地上権は成立しません。しかし、もし債権者が抵当権を実行して土地だけを競売にかけてしまうと、土地と建物の所有者が別になってしまうので面倒なことになります。また建物が存在する状態で、土地だけを競売にかけても(欲しい人が少ないので)更地のような価格で売ることができません。
そのため、先に更地に抵当権を設定している債権者は、後から建物ができた場合にも、「建物ごとまとめて競売にかける」ことが許されているのです。土地と建物をセットで競売にかけることで、より高い価値で売却することができるわけですね。
とはいえ、債権者はあくまで土地にしか抵当権を設定していないわけですから、売却代金のうち土地代以上の金額を優先的に回収することはできません。
例えば、更地での土地の評価額が3000万円、建物が1000万円、合計4000万円で競売で売却できた場合、抵当権者が優先的に回収を図ることができるのは、3000万円までになります。それでも、建付地(建物のある土地)だけを競売にかけるよりは、ずっと多くの金額を回収できます。