競売での売主の瑕疵担保責任と「権利の瑕疵」について

競売でも売主に担保責任が生じる場合がある?

ご存知のように競売では通常、瑕疵担保責任は適用されません。つまり建物の柱が腐食していたり、給排水設備が故障していたり、といった欠陥が後から見つかった場合でも、売買契約を取り消したり、損害賠償を請求することはできません。ですが、そのような建物の欠陥ではなく、権利関係の不備や欠陥の場合には、競売でも売主の担保責任が認められる場合があります。

競売でも「権利の瑕疵」なら担保責任は存在する?
ねえねえ、先生ー!
たしか、競売では後から住宅の欠陥に気付いても、取消しとか賠償請求とかはできないよね? 例えば、シロアリにめちゃくちゃ食われてボロボロになってても、自費で修復するしかないんだっけ?
そうだね、競売の場合は「そもそも多少の欠陥がある可能性を考慮して、市場価格の5~7割の価格で売却される」ものなんだ。だから元所有者にも裁判所にも、瑕疵担保責任の適用はない。事前にしっかり調べてから入札する。自己責任、ノークレームが原則だね。
ふむふむ。それってシロアリとか雨漏りとか、そういう建物の欠陥だけじゃなくて、例えば「建物だけを競売で購入したら、土地を借りる権利がちゃんと付いてなくて、建物が使用できない」みたいな権利関係の不備でも、自己責任なのー?
非常にいい質問だね。厳密にいえば、競売で売主が免責されるのは、いわゆる「物の瑕疵」だけなんだ。つまり、賃借権や地上権などの権利関係について、「権利があると聞いていたのに実際はなかった」(権利の瑕疵)といった場合は、競売でも担保責任が認められる。
なるほどー、
例えば、競売物件の資料(現況調査報告書など)に、「賃借権があります」って書いてあるのに、実際に購入する時点で賃借権がなかった場合、とかだと、担保責任が認められるってことだねー。
一応、法律上はそうだね。その場合は購入の取消しができると同時に、元所有者(債務者)に代金の減額請求や返還請求ができる。ただ、債務者にはお金がないケースも多いから、その場合は、競売で配当を受けた債権者(金融機関)に返還請求ができるね。
ほうほう。権利の瑕疵は、返還請求ができるっと(メモ)。
じゃあ例えば土地で、「評価書では道路に面していると書いてあったから買ったのに、実際には無道路地で(建築基準法上)建物が建てられない」っていう場合は、担保責任はあるー?
いや、その場合は裁判所の判例では「物の瑕疵」に分類されるから、元所有者に瑕疵担保責任は存在しないね。同じく「宅地のつもりで購入したけど、都市計画法上の都市計画道路で、建築に制限があった」みたいな場合も、物の瑕疵にあたるね。
  • 競売ではシロアリ被害、給排水設備の故障など隠れた欠陥は補償されない
  • 競売では裁判所も元所有者も、民法570条による瑕疵担保責任は負わない
  • ただし競売でも、元所有者は民法566条の「権利の瑕疵」の担保責任は負う
  • 評価書にあると記載された権利(借地権など)がなかった場合などが該当
  • 権利の瑕疵の場合、買受人は元所有者や債権者に代金の返還請求が可能

競売物件の「物の瑕疵」と「権利の瑕疵」の違いって?

住宅の瑕疵というと、「雨漏り」「シロアリ被害」「給排水設備の故障」といった建物の隠れた欠陥をイメージされる方は多いと思います。これらは物の瑕疵といいます。住宅の購入後のトラブルでも最も多いものの1つですね。

ご存知の方も多いと思いますが、競売の場合、これら「物の瑕疵」を落札後に発見したとしても、元所有者や裁判所からは一切補償はされません。これは、競売では裁判所や売主(債務者)の瑕疵担保責任が免除されているからです。

競売ではこれら欠陥が後から見つかっても売主等に補償を求めることはできない。―説明図

競売では「物の瑕疵」の瑕疵担保責任は免除されている

一般の不動産売買の場合、物件の購入後に「隠れた瑕疵」が見つかった場合には、売主や仲介の不動産事業者には瑕疵担保責任があります。そのため物件の瑕疵について、事前にちゃんと説明がなかった場合には、購入後であっても、売買契約の取消しや損害賠償請求などが可能です。

しかし、競売の場合は、この瑕疵担保責任の規定が免除されています。

【売主の瑕疵担保責任】

売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第566条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。(民法570条

競売の場合は、そもそも所有者(売主)の意思に反して、強制的に住宅が売却されるケースも多いため、物件の補修や欠陥についてまで所有者に責任を負わせるのは、あまりに可哀そうだ、という考え方があります。

そのため競売では、最初からある程度の欠陥が存在する可能性を前提として、価格設定がおこなわれます。

競売市場修正率の説明図-裁判所「競売の物件は欠陥があるかもしれないですが、その分、安く売るので予め理解して入札してくださいねー。」

具体的にいうと、積算評価(土地の地価と、建物の建築額を合計して評価する方法)で算出した金額に、競売市場修正率(0.5~0.7)を掛けて計算されます。 市場価格よりも3~5割も安い価格で落札できるのは、この瑕疵担保責任を買主が負担するからなんですね。





住宅には「物の瑕疵」だけでなく「権利の瑕疵」もある

では、全てのケースにおいて競売の売主(債務者)は、担保責任が免除されるのでしょうか?

実はそうではありません。競売の場合でも「権利の瑕疵」があった場合には、売主はその担保責任を負わなければならない、と規定されているのです。そのため、競売では全ての担保責任が免除される、というのは厳密には正しくありません。

物の瑕疵について

物の瑕疵とは、建物の物理的な欠陥のことです。例えばシロアリ被害、雨漏り、土台の腐食などは典型です。他にも、建築基準法などの法律で土地の利用を制限されるケース(法律上の瑕疵)、騒音や異臭などが酷いケース(環境瑕疵)、過去に自殺があったケース(心理的瑕疵)などで、事前に説明がなかったような場合も、解釈上は物の瑕疵に含まれます。

物の瑕疵(物理的瑕疵、環境瑕疵の説明図)

権利の瑕疵について

権利の瑕疵とは権利関係に不備があって、買主が本来の目的で土地や建物が利用できない場合を指します。建物を買ったのに、本来付いているはずの借地権(土地を借りる権利)がなかったり、または綺麗な土地を買ったはずなのに別の誰かが既に地上権(土地を使う権利)を持っていた、という場合です(民法566条)。

権利の瑕疵の説明図(例:地上権や借地権の不備)

 
競売の場合でも、実はこの「権利の瑕疵」があった場合には、元の所有者に担保責任が認められます。つまり買受人は元の所有者(または競売の債権者)に、売買契約の解除と、代金の返還請求をすることができます。

もっとも元の所有者はそもそもお金がないから、住宅を競売にかけられてしまったわけで、元の所有者に代金の返還請求をしても、お金は戻ってこないことが多いです。

そのため、もし元の所有者が無資力である場合には、代わりに競売にかけて配当を得た債権者に、代金の返還請求をすることが可能です(民法568条2項

債務者が無資力(お金がない状態)である場合には、債権者に代金の返還請求が可能―説明図

実際に「権利の瑕疵」により代金返還が認められた事例

実際に「権利の瑕疵」として売買代金の返還請求が認められた有名な判例として、平成8年1月26日の最高裁判決があります。

この事例は建物だけが競売にかけられていたケースで、裁判所の現況調査報告書に「買受人は土地の借地権を継承できる」という記載があり、かつ物件の価格(売却基準価額)も借地権を考慮して計算されていました。

競売の物件資料では、「土地を使う権利(借地権)」も当然に継承できる、という記載があった。-説明図

この場合、競売での買受人は「この建物を買えば、当然、借地権も付いてくる」と想定して物件を落札しますよね。
ところが実際には裁判所の売却許可決定の直前に、土地の持ち主が地代の不払いなどを理由に、建物の所有者との借地契約を解除してしまったため、買受人は土地の借地権を取得することができませんでした。

裁判所の調査後、借地契約を解除されてしまい、土地が使えない―説明図

それどころか、土地の持ち主から「建物を撤去して土地を明渡してくれ」と訴訟を提起され、負けてしまったのです。これでは何のために建物を買ったのかわかりませんよね。

そのため買受人は当時、競売を申立てた債権者に対して、「権利の瑕疵」を理由に民法568条による売買代金の返還請求訴訟をおこし、それが最高裁判決で認められました。

ただし損害賠償請求までは原則として認められない

このように権利関係について不備があった(事前の説明と違った)場合には、競売においても前所有者や債権者への担保責任が認められます。

ただし原則として可能なのは売買代金の返還請求までであり、損害賠償請求までは認められません。これについて、民法568条では以下のように規定されています。

強制競売における担保責任

前二項の場合において、債務者が物若しくは権利の不存在を知りながら申し出なかったとき、又は債権者がこれを知りながら競売を請求したときは、買受人は、これらの者に対し、損害賠償の請求をすることができる。(民法568条3項

つまり原則として、競売での担保責任では損害賠償請求はできませんが、例外として以下の2パターンのどちらかに当て嵌まる場合には、損害賠償請求が可能なケースがある、とされています。

例外として損害賠償請求できる場合
  • 債務者が(借地権など)権利が本当はないことを知っていて言わなかったとき
  • 債権者が(借地権など)権利が本当はないことを知っていて、競売を申立てたとき

 
ここまで解説してきたように、瑕疵担保責任に関する条文は、民法566条(権利の瑕疵)、民法570条(物の瑕疵、隠れた瑕疵)の2つが存在します。民法566条が適用される場合には、競売でも売主や債権者は担保責任を負います。民法570条が適用される場合には、売主や債権者は瑕疵担保責任を負いません。

民法566条 ⇒ 競売でも担保責任がある(返金のみ)、民法570条 ⇒ 競売では瑕疵担保責任が免除される

細かい個別ケースによっては、566条、570条のどちらを適用すべきか、という点について法律上の学説が別れる場合があります。

ただし実際の裁判所の判例では、競売の場合、ほとんどが「570条の類推適用」で処理されます。実務上は、競売で一度、売却決定されたものが次々と瑕疵担保責任により後からひっくり返されてしまうと、手続き上の安定性を欠いてしまって困ります。そのため大半のケースでは、担保責任のない570条が適用されるようです。

競売で売主に担保責任が認められないケース

さて前述のように、競売では民法570条の「物の瑕疵」にあたるケースでは、売主は担保責任を負いません。そのため、後で瑕疵が見つかっても、売買代金の返還請求等は認められません。

以下のケースでは、「物の瑕疵」にあたるかどうかの判定がやや微妙ではあるものの、裁判所の判例では「瑕疵担保責任を負わない」とされた事例について解説します。





道路に接面すると記載があったが実際は無道路地だった

土地を宅地として購入する場合、その土地が道路に面しているかどうかは非常に重要です。というのも、建築基準法では、接道義務というものが定められており、最低でも2m以上が道路に接していなければ、その土地には建物が建てられないからです(建築基準法43条

ところが競売で売られる土地のなかには、ごく稀に、現況調査報告書などの資料が間違っていて、「道路に○○m接面している」という記載があったものの、実際に落札してみたら無道路地だった、というケースがあります。

報告書の内容と違って、無道路地だった場合―売主に担保責任なし

このようなケースで、競落人が売買代金の返還を求めて裁判で争った事例がありますが、裁判所は「土地の欠陥は、物の瑕疵である(570条適用)から、競売では売主は担保責任を負わない」として、返還請求を棄却しました。

都市計画道路の領域内で建物が建てられなかった

都市計画道路の領域内として指定されている土地は、あらかじめ都市計画法に基づいて、都道府県知事の許可を得なければ建物を建てることができません。また許可を得るための条件として、いつでも簡単に建物を移転できる、または撤去できる必要があるため、かなり土地の利用が制限されます。

このように、土地の利用が法律上の制限を受けることについて、事前説明がなかった場合の瑕疵を法律上の瑕疵といいます。

この制限の事前説明がなかったケースについて、学説上は民法566条(権利の瑕疵)を類推適用すべき、という声も多数ありますが、昭和41年4月14日の最高裁判決では民法570条の瑕疵にあたるという判断を示しています(最高裁判例ページ)。
つまり、競売の場合は担保責任が免除されます。

他にも、森林法上の保安林に該当する土地(森林法25条)で、森林の伐採が制限されるようなケースについても全く同じです。

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