法定地上権は競売の土地、建物の評価額に影響する?
前回の記事では、法定地上権という概念について説明しました。競売によって建物だけが売却されてしまったようなケースでは、建物の落札者には自然に地上権が発生する(民法388条)という概念ですね。 金融機関が土地や建物を担保にとる場合には、当然、この法定地上権を考慮した上で担保価値を算出します。今回の記事では、法定地上権の評価額について解説します。
前回の説明で、法定地上権についてはよくわかったんだけど、この法定地上権が発生する場合って、競売での配当額にも何か影響があったりするのかなー?
それってつまり、地上権のような「土地を使わせてあげる権利」にも独立した評価額が付くってことなのー? で、その権利は建物に付いてるものだから、評価額も建物に加算するってこと?
- 法定地上権が成立する場合、土地の評価は大きく下がり、建物の評価は上がる
- 競売での抵当権者への配当額についても、法定地上権の評価額が影響する
- 競売の評価書では、一括価格だけでなく建物と土地の内訳価格が公表される
- 同一人が土地と建物を落札した場合でも、配当額には法定地上権が影響する
- 法定地上権(土地利用権)の評価額は、一般的な賃借権割合を用いて算定する
競売では土地と建物の価格は別々に評価される
土地と建物は別個の不動産として売買の対象となりますので、当然、それぞれに別々に値段が付きます。例えば土地であれば、国の公示地価や路線価などをもとに算定できますし、建物であれば、再建築費(現時点で建物を再建築したときにかかる費用)から経年劣化による減損分を差し引くことで計算できます。
不動産の評価方法には、土地と建物の価値を別々に算定してそれを合算する積算評価という方法と、その不動産から将来得られる利益(家賃など)から逆算して考える収益評価(DCF法)の2つがあります。簡単にいうと、原価から計算する方法と、将来の収益から計算する方法があるわけですね。
競売の場合は、ほとんどの物件では積算価格による評価がおこなわれています。裁判所が選任した評価人は、地価や建築費などをもとに、以下の図のように土地と建物の資産価値をそれぞれ別個に計算した上で、最後にこれを合算するわけです。
一般的に競売物件のサイトなどで売却基準価額として表示されている価格は、土地と建物の合計価格(一括価格)だけですが、実はちゃんと土地と建物の値段もそれぞれ算出されているわけですね。
競売の物件は、公告の1週間後から裁判所がいわゆる3点セット(物件明細書、評価書、現況調査報告書)を開示しています。この中の評価書を確認すれば、誰でも物件の建物と土地それぞれの評価額を確認することができます。
この評価書の内訳価格は、土地と建物がセットで売却される場合にも、債権者への配当の判断のために利用されます。例えば、土地だけに抵当権を設定している債権者と、建物だけに抵当権を設定している債権者がいる場合などに、参考にされるわけですね。
実際の競売の物件データや3点セットは、例えば以下のサイトで閲覧できます。
実際の評価書は、以下のようなかたちで記載されています。【一括価格】という項目の下に、【内訳価格】として土地と建物の評価額がそれぞれ記載されています。
この内訳価格は債権者への配当の判断のために使われるものですが、多くの物件のケースでは、建物の評価額がかなり大きく算定されて、一方で土地の評価額が(公示価格などと比べて)かなり低く算定されています。
土地の評価額が公示価格等よりもかなり低く算出され、一方で建物の評価額が大きくなるのは、「土地利用権価格」が考慮されているからです。
つまり「土地を利用する権利」の価値が、価格として算出され、それが土地の評価額から控除されて建物に加算されていることになります。
法定地上権により土地の価値は下がり、建物は上がる
土地というのは、必ずしもそのものに価値があるわけではなく、住宅や駐車場など何らかのかたちで使用することに価値があります。そのため土地の評価額は、更地なのか、(法定地上権の付着した)底地なのか、で大きくその価値が変わってきます。
(参考:「法定地上権って何?競売と法定地上権をわかりやすく解説」)
建物などが何もない空き地のことです。まっさらな状態の土地で自由に利用できるため、ほぼ地価100%の価値を持ちます。地価が1000万円の更地なら、評価額も大体1000万円になります。
底地の評価額
宅地の上に建物が存在しており、宅地に借地権(ここでは法定地上権)が付着している場合の土地のことです。土地の持ち主は、自由に土地を使用することができなくなるので、土地の値打ちは半分以下に下がります。地価が1000万円の土地でも、法定地上権が付着していると500万円以下になります。
もう少しわかりやすく説明しましょう。
土地の価値というのは、以下の図ように「底地の価値」と「土地利用権の価値」にわけることができます。さらに既に建物がたっていて、法定地上権などが成立している場合は、「土地の利用権」は実質的に建物側に付いていると考えられるのです。
そのため、競売の土地や建物の評価では、この「土地利用権等価格」を計算して、その分の金額を土地からマイナスします。同時に、建物の評価額にはこの「土地利用権等価格」をプラスすることになります。
【土地】 基礎価格(公示価格など) - 土地利用権価格(法定地上権価格)
【建物】 基礎価格(再建築費など) + 土地利用権価格(法定地上権価格)
※上記の金額に、競売市場修正(0.7)を掛けて、最終的な評価額が算出されます。
例えば、土地の価格が3000万円、建物の価格が1000万円である場合に、法定地上権の評価額(土地利用権価格)が土地の50%分の1500万円だとすると、土地、建物の価格はそれぞれ以下のようになります。
実際の計算例
- 土地 3000万円-1500万円 = 1500万円
- 建物 3000万円+1500万円 = 4500万円
ご覧のように、法定地上権などの土地利用権等価格を考慮すると、土地と建物の評価額は逆転します。
そのため「土地の評価額は3000万円もあるんだから、担保は土地だけでも十分でしょ!」と法定地上権のことをよく知らないまま、土地だけに抵当権を設定してしまった債権者は、競売にかけてもなんと1500万円しか回収できないことになってしまいます。
さて、この土地利用権価格(法定地上権価格)はどのように計算するのでしょうか?
一般的には、近辺の土地などを参考に土地の借地権割合を決定し、その割合を土地の更地価格にかけて計算します。
例えば、その土地の借地権割合が60%で、土地の更地価格が2000万円であれば、法定地上権価格は1200万円(2000万円 × 60%)になります。つまり土地の価値は1200万円を控除した金額(2000万-1200万=800万円)になり、建物の価値には1200万円が加算されます。
なお、それぞれの土地の借地権割合は、国の路線価図のページで確認することができます。国税庁がホームページで公表している路線価図には、それぞれの宅地にA~Gのアルファベットが割り振られています。例えば、「215D」「320C」といった具合ですね。このアルファベットが、借地権割合を示しています。
記号 | 借地権割合 | 記号 | 借地権割合 |
---|---|---|---|
A | 90% | E | 50% |
B | 80% | F | 40% |
C | 70% | G | 30% |
D | 60% | - | - |
各土地の路線価や借地権割合については、以下のサイトをご確認ください。
借地権割合は、田舎や地方よりも、都心部の方が借地権割合は高くなります。また、住宅地よりも商業地の方が借地権割合は高くなります。一般的には、住宅地の借地権割合は60%(東京は70%)程度、商業地の借地権割合は80%程度だといわれています。
実際には法定地上権が成立しないケースでは?
さて、ここからが少しややこしい話になります。この法定地上権を想定して算出された土地と建物の評価額(内訳価格)は、前述のように裁判所からの債権者への配当の際の判断に用いられます。競売で住宅を売却して、その売却代金を債権者に配当するときの判断材料にするわけですね。
そしてこの評価額は、実際には土地と建物の買受人が同一であった場合にも用いられます。
かなりわかりにくい話なので、ピンと来ない方は何度か繰り返し読んでみてください。まず土地と建物を同じ買受人がセットで落札した場合には、民法388条でいう法定地上権は、現実には発生しません。(これについては、前回の記事の「法定地上権が成立する要件」をご確認ください。)
「実際には同一の人が建物と土地を買受けて、法定地上権が発生しなかったのであれば、法定地上権額は考慮しなくてもいいじゃないか!」と思われる方も多いかもしれませんが、抵当権の設定時に法定地上権が発生するような関係にあった場合には、競売では法定地上権額を考慮した評価額に基づいて配当がされるのです。
なぜなら、金融機関が抵当権を設定する段階では、「今後、もし競売になったら法定地上権が成立して、土地の評価額が大きく下がるかもしれない」とわかった上で抵当権を設定しているハズだからです。その上で片方だけを担保にとっているのであれば、後で「法定地上権の成立で損をした」と文句を言うのはおかしいですよね。
例えば、上の図で土地だけに抵当権を設定した銀行Bは、「将来、競売になって土地の所有者が変わってしまったら、土地の担保価値は減るな」と当然わかっている上で、土地の担保価値を算出しているはずです。そのため、裁判所は売却代金の配当にあたって、(実際に法定地上権が発生したかどうかに関係なく)銀行A、銀行Bへの配当にあたっては土地利用権等価格(法定地上権)を考慮して判断することになります。
その結果、銀行Aはより多くの配当を受け、銀行Bは地価よりも少ない金額しか優先的に配当を得ることができないわけですが、それは抵当権設定時に想定できたはず、ということです。