収益物件の賃料が担保不動産収益執行で差押えられる場合
収益物件を所持していてローン支払いが滞っている場合、債務の返済のために収益物件の賃料債権が差押えられる可能性があります。これを担保不動産収益執行といいます。通常、担保不動産収益執行は、競売の申立てと同時に行われることが多いですが、任意売却の買主探しと並行して行われることもあります。今回は担保不動産収益執行について分かりやすく説明しましょう。
賃貸目的で持っている収益不動産の場合、ローンの返済が滞ったりすると賃料収入を差押えられることがあるって聞いたんだけど、本当なのー?
「競売で落札されるまでには時間が掛かるから、その間に発生している賃料収入についても【担保不動産収益執行】で差押えておこう」ってことだね
- 収益物件の場合、債権者は抵当権をもとに賃料収入を差押えられる
- 賃料債権を差押える方法は、担保不動産収益執行と物上代位の2つ
- 収益執行の場合は、裁判所が住宅の管理維持や賃料回収なども代行する
- 物件の管理は裁判所が選任した管理人(弁護士、執行官)が行う
- 収益執行と並行して、競売手続きや任意売却がされることが多い
収益物件の賃料収入を差押えるための強制執行手続き
債務者のローン返済が滞った場合、抵当権を設定している銀行などの金融機関は、競売や任意売却で残債務を回収することが多いです。しかし任意売却や競売というのは、今日明日すぐに出来るものではありませんね。実際に換価して現金化するまでに時間が掛かります。
担保不動産が賃貸を目的とした投資物件である場合は、毎月ちゃんと賃料収入が発生しているわけですから、金融機関としてはローン残債の回収のために「取りあえず賃料収入を差押えておきたい」と考える場合も多いです。
その場合、金融機関は抵当権に基づく強制執行で、裁判所に収益執行という方法を申立てることができます。強制執行というのは何も競売だけではないんですね。
さて、抵当権を設定している担保不動産の賃料収入を差押える方法は2つあります。担保不動産収益執行による方法と、物上代位による方法です。まずこの2つの違いだけ先にざっくり説明しておきますね。
物上代位は、かなり昔からある賃料債権の回収の方法です。手順としては債権者が裁判所に「債権差押命令」の申立てをおこないます。
民法の371条には、「抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ。」という定めがあります。つまりローン返済の遅延などで契約違反があったときには、抵当権の範囲は賃料収入にも及ぶということです。この条文に基づき、抵当権を根拠として債権差押えをするのが物上代位です。
執行手続きとしては単なる債権差押えですから、手順や方法は給与差押えなどと同じですね。つまり第3債務者の調査や特定、取立ては全て自分でやらないとダメです。このケースでいえば、部屋の賃借人の調査や賃料回収を自分でやる必要があります。
担保不動産収益執行って何?
一方、担保不動産収益執行は2003年にできた比較的あたらしい制度です。上記の物上代位が、賃借人の調査や特定、取立てを全て自分でやらなければいけないのに対して、収益執行の場合は賃借人への通知や賃料の回収、配当などをすべて裁判所がやってくれます。
また物件の維持管理や、不法占拠者、家賃滞納者への対応も、裁判所が選任した管理人が全てやってくれます。裁判所が選任した管理人には、強制管理といって所有者から取り上げた不動産の管理権の全てが委任されます(民事執行法188条、95条)。
物上代位権のデメリットは、(1)債権者が自ら賃借人から賃料を取立てなければならない点と、(2)物件の維持管理ができない点の2つです。ローン債権者である金融機関や銀行は、不動産管理会社ではありませんから、賃料の取立てや物件の管理修繕は本来、専門外であり仕事ではありません。
その点、担保不動産収益執行はメリットが多いです。裁判所に選任された管理人は、使用収益についての全ての権限を持ちます。例えば「新入居者との賃貸借契約を結ぶ」「エレベーターが止まったので修理依頼する」といった判断は全て管理人がやってくれるため、債権者としては安心して有利な条件での任意売却や競売手続きを模索することができます。
担保不動産収益執行については、競売や任意売却と並行して利用されることが増えているものの、まだまだ一般的な知名度が低くあまり利用されていない制度です。以下、担保不動産収益執行の手続きのポイントについて、簡単にまとめておきます。
担保不動産収益執行の申立ては割と簡単ですので、弁護士などに委任しなくても自分で出来ます。必要な書類は、申立書一式、担保権を証明する「不動産登記事項証明書」(直近1カ月以内のもの)、法人の場合は代表者事項証明書、債務者の住民票(第三者でも債権回収のための住民票取得は可能)、などです。
予納金は裁判所によって異なりますが、60~90万円以上はかかるケースが多いです。これらは物件の管理費見込額や管理人報酬などをもとに決定されます。また別途、申立手数料が抵当権1個につき収入印紙で4000円かかります。また登録免許税が必要です。
(参考ページ:「東京地方裁判所-担保不動産収益執行手続について」)
収益執行の管理人には、執行官または弁護士が選任されます。執行官というのは、要は裁判所の職員のことです。占有や滞納などのトラブルがある場合には、弁護士が選任されるケースが多いです。
担保不動産収益執行の場合、固定資産税はまず配当前の費用として控除されます。つまり、差押えた賃料収入からまず固定資産税を差し引いてから債権者に配当されます。
(参考文献:「民事執行法における担保不動産収益執行と固定資産税等」)
管理人が取立てた賃料収入は、必要経費や租税、管理人の報酬などの費用を控除した後、裁判所が決めた一定の期間ごとに債権者に配当されます。また、そもそも配当の見込みがない場合は、担保不動産収益執行の申立ては取消しになります。(民事執行法106条)
担保不動産収益執行が裁判所により許可されると、裁判所から住宅の居住者宛に「担保不動産収益執行のお知らせ」というものが届きます。内容としては、「貴方が入居されている建物について、民事執行法の担保不動産収益執行手続きが開始しました。つうきましては、今後の家賃は裁判所に振り込んでください」という旨の通知です。
居住者の方は、付属している陳述書に現在支払っている家賃の月額を記入した上で裁判所に返送します。その陳述書をもって、管理人は入居者から賃料の取立てを行うことになります。