離婚した元夫・元妻の住所を戸籍の附票から調べる方法
連帯債務で住宅ローンを借りると、離婚した後も住宅が夫婦の共有名義のままになっている場合があります。ここで問題になるのは、離婚後に元夫(妻)と連絡が取れなくなって、いざ住宅を任意売却しようとしても売れなくなるケースです。住宅の任意売却には共有名義人の同意が必要ですが、元配偶者の居場所がわからない場合、戸籍から現住所を調べることは可能でしょうか?
夫婦が離婚した後、共有名義になっている住宅を任意売却したくなったときに、元旦那さんと連絡が取れない場合(どこに住んでるかわからない場合)って、住民票を取得することはできるのかなー?
それに戸籍って本籍地でしか取得できないんじゃなかったっけ? 元旦那さんの本籍地とか知らないんだけど><
でも、もしその元旦那さんが本籍を動かしていたらどうなるの? 男性の場合、フツ-は離婚したり再婚したりしても、苗字(氏)が変わらないから本籍ってあんまり動かさないよね?
もし元旦那さんが転籍していたら、奥さんは元旦那さんの今の「戸籍の附票」(現住所)は取得できないのかな? 少なくとも自分の名前がないから、本人の戸籍として請求することはできないよね?
「連帯債務で住宅ローンを組んでいる」「共有名義の住宅を任意売却したい」という理由を説明して、役所の人に元夫の戸籍の附票を請求することはできないのかな?
- 離婚した元夫の現住所は、住民票ではなく「戸籍の附票」で確認できる
- 元夫の本籍が婚姻時と変わってなければ、元妻でも自分の戸籍として取得可能
- 元夫が転籍している場合は、元妻は自身の戸籍としては取得できなくなる
- ただし元夫の住所が変わったり再婚していても、転籍しているとは限らない
- 元夫が転籍していても、子供がいる場合、正当な理由がある場合は請求可能
1.戸籍の情報について最低限知っておきたいことまとめ
2.元夫(元妻)の現在の本籍を探すことはできる?
3.元配偶者の「戸籍の附票」を請求する権利はあるの?
4.子供がいる場合に元夫(元妻)の戸籍の附票を取得できる?
5.正当な理由があれば他人でも戸籍の附票の取得が可能
元夫(元妻)の現在の住所地が戸籍の附票からわかる?
連帯債務の住宅ローンについて、例えば離婚後に連絡が取れなくなった元夫が支払いを滞納している場合や、共有名義である住宅を任意売却したい場合などで、元夫(元妻)と、どうしても連絡を取りたいケースがあると思います。
電話やメール、郵便物で連絡が付かなくなった場合、すぐに思いつく方法としては、「元夫の実家に連絡をとって居場所を聞く」「元夫の職場に連絡をして現在の住所を聞く」などの方法もありますが、そもそも実家の連絡先を知らないケースや、職場も転職していて連絡が付かないケースも多々あります。
これらの場合でも、条件によっては「戸籍の附票」を取得することで、元配偶者の現住所が確認できる場合があります。もちろん悪用は厳禁なので、それについても後述します。
まずは、「そもそも戸籍と住民票の違いって何だっけ?」「戸籍ってわかってるつもりだけどよくわからない」という方のために、戸籍について最低限知っておくべきことをまとめてみました。既に戸籍について十分理解のある方は、こちらから飛ばして読み進めてください。
まず最低限の知識を正しく理解できていないと、これからする話がチンプンカンプンになると思います。以下、これからの話を理解するために必要最低限の情報を解説していますので、まずザッと読んでみてください。軽く読み流して、わからなくなったらまた戻ってきても大丈夫です。
そもそも戸籍とは
一組の夫婦とその子供で1つの戸籍が構成されます。同じ苗字(氏)の人間しか同じ戸籍には入りません。また爺と孫のように3世代が1つの戸籍に入ることはありえません。
戸籍の人数について
1人でも存在する限り戸籍は成立します。離婚後に女性が1人で戸籍を持つこともできますし、父母が死亡した場合など、子供が1人で戸籍を持つ場合もありえます。ただし離婚や死亡の結果1人になることはあっても、自ら1人で戸籍を作ることは通常ありません。
離婚と除籍について
女性は離婚すると苗字が旧姓に戻ります。そのときに夫の戸籍から妻は除籍されます。ただし妻の名前と「除籍された」という事実は夫の戸籍に記録されたまま残ります。また除籍された妻は、1人で新たな戸籍をつくるか、婚姻前の両親の戸籍に戻るかを選べます。
子供の戸籍について
夫婦が離婚すると、妻は夫の戸籍から除籍されますが、子供の籍はそのまま夫の戸籍に残ります。苗字も夫と同じになります。子供の籍を妻の戸籍に移して苗字を妻側に変更するためには、裁判所に許可を得て「入籍届」を提出します。
戸籍の筆頭者とは
戸籍の先頭に記載される人の名前です。夫婦で姓として選んだ側が筆頭者になります。夫が「高橋さん」妻が「横田さん」で、結婚して双方が高橋さんになれば筆頭者は夫、横田さんになれば筆頭者は妻です。離婚後、妻が1つの戸籍をつくった場合、筆頭者は妻です。
本籍地とは
その戸籍を管理している住所地です。日本のどこに本籍を置いても全く自由です。いま住んでいる場所、過去に住んでいた場所、産まれた場所、先祖の縁の土地、どこでも良いですし、全く関係のない土地でも構いません。他の知らない誰かと本籍地が被っても問題ありません。
ただし戸籍は本籍地の管轄の役所で管理されていますので、戸籍関係の書類は本籍地の役所でしか取得できません(郵送は可)。
戸籍を調べるのに必要なもの
日本中の膨大な戸籍のなかから1つの戸籍を特定するのには、「本籍地」と「戸籍の筆頭者」の2つの情報が必要です。この2つの条件で絞り込んで検索すれば、戸籍は1つに特定できます。逆にいえば、この2つがわからなければ戸籍は特定できませんので、取得もできません。
転籍とは
転籍とは、本籍地を他の場所(他の都道府県、市町村区)に移すことです。転籍は日本どこでも何度でも可能です。転籍するときは、戸籍の人間の全員が一緒に転籍します。1人だけ(例:父だけ)転籍することはありません。ただし過去に除籍された人の名前(記録)は、転籍した新しい戸籍では削除されます。
転籍の効果について
夫婦が離婚した場合、夫の戸籍には元妻の名前と除籍した事実が残りますが、転籍すると新しい戸籍からは見た目上、その経歴を消すことができます。ただし、転籍しても過去の戸籍はたどることができるので、完全に隠すことにはなりません。また戸籍はいくらでも過去に連続して遡ってたどることができるので、何回、転籍しても元の戸籍を断ち切ったり、隠すことはできません。
【※解説】 「戸籍に記録されている者」から元妻の名前が消えて、さらに元夫の「身分事項」からも元妻との婚姻、離婚歴が消えます
除籍謄本とは
転籍や死亡によって、その戸籍に誰も人がいなくなったとき、その戸籍は「除籍謄本」になります。例えば、離婚して夫1人になった戸籍で、夫が転籍すれば、元の婚姻時の戸籍は除籍謄本になります。戸籍は「本籍地」と「筆頭者」の組み合わせなので、転籍で本籍地が変われば、元の戸籍は除籍謄本になります。
転籍先を見つける
ただし「除籍謄本」という名前のデータになるだけで、戸籍の情報が破棄されるわけではありません。履歴として残りますので、昔の本籍地の役所で「除籍謄本を取得する」ことができます。例えば元夫が転籍した場合でも、婚姻時の本籍地で「除籍謄本」を取得すれば、次にどの本籍地に転籍したかがわかります。
【※解説】 除籍謄本の「戸籍事項」を見れば、転籍後の「新本籍」が記載されています。これが次の本籍地です。
元配偶者が再婚したとき
ありがちな誤解として、元夫が再婚しても(転籍しない限り)元夫の婚姻時の戸籍はそのままです。戸籍は「本籍地」と「筆頭者」の組み合わせですから、これが変わらない限り戸籍は変わりません。同じ戸籍に新しい妻の名前が追加で記録されるだけです。一方、元妻が再婚した場合には、新しい夫の戸籍に入籍することになるため、元の妻1人の戸籍には人がいなくなり、除籍謄本になります。
戸籍の附票とは
「戸籍の附票」は、その人の(戸籍の情報)と(住民票の情報)を紐付けるものです。戸籍の附票を取得すると、その人の現在の住所(住民票に登録されている住所)がわかります。引越して住民票を移すたびに、その履歴が戸籍の附票に残ります。
【※解説】「附票の全部証明」を取得すれば、1枚でその戸籍に属している全員の住所がわかります。その本籍に属している間の住所変更はすべて記録されます。住定日が一番新しいものが現在、住民登録されている住所です。
住所不定について
現在住んでいる場所で正しく住民登録していない(住民票の住所と実際に住んでいる場所が異なる)場合には、戸籍の附票でも現住所はわかりません。いわゆる住所不定ですね。ただし、まともに仕事をして日常の社会生活を送っている人であれば、「住民登録しない」というのは現実的に難しいはずです。
戸籍関係の書類(戸籍謄本や戸籍の附票)は、何度も言うように「本籍地」と「筆頭者」の2つがわかれば特定できます。(ただし後述しますが、これを「請求する権利があるかどうか」はまた別の話です。)
元夫婦の場合は、少なくとも婚姻時には同じ戸籍にいたわけですから、たとえ除籍になっていたり転籍していたとしても、過去の戸籍からたどることで、相手の現在の戸籍もわかります。
(1)婚姻時の本籍の戸籍謄本を請求
(2)転籍、結婚で除籍謄本になっていた
(3)除籍謄本で転籍先を確認し、次の本籍に戸籍謄本を請求
(4)除籍謄本になっていた
(5)除籍謄本で転籍先を確認し・・・ 繰り返し
1箇所でも過去の本籍地がわかれば、そこの除籍謄本(または除籍の記録)からたどることで現在の本籍もわかります。本籍がコロコロ変わっている場合は、毎回、その本籍の管轄の役所に除籍謄本を請求しなければならないので非常に面倒ですが、少なくとも、どこかで痕跡が途絶えることはありません。
元配偶者の「戸籍の附票」を請求する権利はあるの?
さて、ここまでがザッと前提知識になります。大丈夫そうでしょうか。
結論としては、元夫の現在の「戸籍の附票」を取得すれば現在の住所がわかる、ということになります。ここから問題になるのは、現在は他人である元妻が、元夫の「戸籍の附票」を請求する権利があるかどうか?です(逆もしかり)。
戸籍の附票の取得方法には、(1)無条件で(理由の説明なく)取得できるケースと、(2)正当な理由を説明することで取得できるケース、の2つがあります。まずは無条件で取得できるケースから説明します。
戸籍の附票を無条件で取得できるケースは以下の通りです。
- 戸籍に名前が記載されている本人が請求する場合
- 戸籍に名前がある人の、配偶者が請求する場合
- 戸籍に名前がある人の、直系尊属が請求する場合
- 戸籍に名前がある人の、直系卑属が請求する場合
ここで(1)が重要なポイントなのですが、「戸籍に名前が記載されている人」というのは、「除籍になった記録が残っている人」を含みます。
例えば(夫、妻、子)の3人で編成されている戸籍で、妻が離婚して除籍された場合、元夫の戸籍に残っているのは(夫、子)の2人です。ただし、元妻の名前も「除籍された人」として残っています。この場合、元妻も本人として無条件で元夫の戸籍(戸籍謄本、戸籍の附票)を取得することができます。
戸籍に記載されている者(その戸籍から除かれた者を含む。)又はその配偶者、直系尊属若しくは直系卑属は、その戸籍の謄本若しくは抄本又は戸籍に記載した事項に関する証明書の交付の請求をすることができる。(戸籍法10条)
逆に、元妻が離婚後に新しく1人で戸籍をつくった場合、その戸籍には夫の名前は一切でてきません。そのため、元夫が元妻の戸籍を「本人の戸籍」として無条件の請求することはできません。
また夫が戸籍を転籍してしまった場合、元妻の名前(除籍された記録)は新しい戸籍には反映されませんので、元夫の新しい戸籍を、妻が「本人の戸籍」として無条件に取得することはできません。
夫婦が離婚したときに、子供の戸籍が元夫の戸籍に残ったままであれば、当然、子供の戸籍の附票を取得することで、同一戸籍にいる元夫の現在の住所も確認できます。これは元夫が転籍しても同じです。
(4)にあるように血縁関係のある親は、子供の戸籍を無条件で請求することができます。その際には、子供と親子関係にあることを証明する資料を役所に提出するだけで大丈夫です。
では、逆に離婚したときに子供の籍を妻の戸籍に移している場合はどうでしょうか?
この場合でも、理論上は無条件で取得が可能なはずです。
つまり(3)により子供は親の戸籍謄本を無条件で取得できます(子供はどちらの籍にいようとも、直系尊属である両親の戸籍謄本を取得できます)から、親権のある母親(元妻)は、子供の法定代理人として父親(元妻)の戸籍謄本を無条件で請求できる可能性があります。
ただし実際のところ、この辺りは実務では役所ごとの担当者の判断になります。ケースによっては理由を聞かれる場合があり、その理由が正当なものであると認められない場合は、戸籍の附票の取得も拒否される可能性があります。
市町村長は、前項の請求(本人等による戸籍謄本等の請求)が不当な目的によることが明らかなときは、これを拒むことができる。(戸籍法10条2項)
最近は個人情報の取り扱いも厳しいですし、上記のような方法で、もし子供を利用して元夫(元妻)の住所を知ろうとしているのが明らかな場合には、一応、理由を突っ込まれても不思議ではありません。
このようなケースでは、後述のように正当な理由をもって、第三者として開示請求することを検討した方がいいかもしれません。
前述のように、条件によっては離婚後も元夫や元妻の「戸籍の附票」を取得することは可能です。ただしこれらの情報は、養育費の支払いの問題や、連帯債務のローンの問題、共有名義の財産の処分、名義変更など、正当な理由があって必要な場合にのみ取得されるべきであり、決して興味本位や悪用で取得されるべきではありません。
例えば、DV被害やストーカーなどで、元配偶者に戸籍の附票など、現住所を特定できる書類を閲覧されたくない場合には、これらの書類(戸籍の附票、住民票など)に閲覧制限をかけることができます。詳しくは、お住まいの役所や警察署、DV支援センターなどにご相談ください。(参考:「配偶者暴力相談支援センター一覧」)
さて、ここまで無条件で「戸籍の附票」を取得できるケースについて解説してきました。
しかし上記に当て嵌まらず、無条件では取得できない場合でも、正当な理由を提示することで第三者(他人)でも戸籍謄本や戸籍の附票が請求できるケースがあります。
正当な理由があれば他人でも戸籍の附票の取得が可能
第三者(他人)であっても、正当な理由があると認められる場合には、戸籍謄本等の取得は可能です。例えば貸金業者などの債権者は、債務者が引越してしまい連絡が付かなくなった場合には、金銭消費貸借契約書やその他、疎明資料を示すことで、債務者の戸籍の附票(現住所)を取得することができます。
一般的には、第三者が戸籍謄本等を請求するためには、以下のどれかに該当する必要があります。(参考:戸籍法10条2項)
- 自己の権利を行使し、または自己の義務を履行するために必要な場合
- 国または地方公共団体の機関に提出する必要がある場合
- その他、戸籍の記載事項を利用する正当な理由がある場合
夫婦間でいえば、離婚協議で取り決めた公正証書の内容に違反して、元夫の養育費の支払いなどが滞っている場合には、正当な理由として現住所の確認のために戸籍の附票を請求することができます。この場合は元妻の立場というより、債権者の立場として請求することになります。
共有名義の住宅を任意売却したいケース、連帯債務の住宅ローンで元夫が約束通りの支払いを履行しないケース、なども上記の(1)(3)に該当する可能性が高いです。
ただし何をもって「正当な理由」とするかについては、最終的には各役所ごとの判断に従うしかありません。「こういった理由で元夫の戸籍附票を取得したい」ということを実際に役所で相談し、どういった書類の提出が必要かを確認した方がいいでしょう。
また第三者による交付請求の場合は、「弁護士や司法書士でなければ請求できない」と誤解されている方もいますが、必ずしもそういうことはありません。正当な理由があり、それを証明することができれば、一般人であっても交付請求は可能です。
ただし戸籍法では、弁護士や司法書士は上記の3つの要件に関わらず、「業務を遂行するために必要がある場合には、戸籍謄本等の交付の請求をすることができる」と定められています。そのため、ケースによっては弁護士に依頼した方がスムーズに進む場合もあるかもしれません。
前1項の規定に関わらず、弁護士、司法書士、土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士、弁理士、行政書士は、受任している事件または事務に関する業務を遂行するために必要がある場合には、戸籍謄本等の交付を請求することができる。(戸籍法10条2項3号)
もちろん、「弁護士に委任すれば、正当な理由がなくても戸籍謄本等が請求できる」ということではありません。念のため。