自己破産すると財産分与や離婚慰謝料は免責になる?

自己破産をすると、原則として財産分与や離婚慰謝料の請求権は免責されます。これらの請求権は、貸金業者の債権と全く同じで一般の破産債権として扱われるものなので、裁判所による免責決定がおりれば免責になります。たとえ公正証書を作成していようと、離婚訴訟で判決を取っていようと関係ありません。ただし、離婚慰謝料に関しては、もし「非免責債権 である」と認められれば、自己破産後でも請求できます。

自己破産すると、財産分与や離婚慰謝料は免責になる?
ねえねえ、先生ー!
前回の話だと、自己破産の前に離婚した奥さんに財産分与をしても、詐害行為(※)にはならないって話だったよねー? じゃあ逆に、夫が自己破産した後でも財産分与は請求できるのかなー?
いや、それは原則できない。自己破産手続きに入ってしまうと、離婚慰謝料や財産分与の請求権は、他の債権と同じように破産債権として扱われる。配当があれば配当が貰えるけど、配当する財産がなければ、免責されて終わりだね。特別扱いはされない。
そんなーっ!><
でも財産分与の対象となる財産は、夫婦の共有財産のはずでしょ? 夫だけの財産じゃないわけだから、破産手続きが始まった後でも、管財人から「半分は私の財産です」って取り返すことはできないの?
取戻権の問題だね。たしかに一般論として、破産者の財産のなかに他人の財産が混じってしまってる場合は、その他人からの請求で取戻権が認められる場合がある。でも財産分与請求権については、取戻権は認められないという判例があるね。
うう・・・、でも離婚慰謝料はどうなのー?
以前にネットの掲示板で、「慰謝料は非免責債権(※)だから、自己破産しても免責されないよ」っていう回答を見たことがあるんだけど。非免責債権になったりしないのかなー?
うーん、微妙なところだね。非免責債権の条件としては、積極的な害意が必要とされている。だから浮気が原因の離婚とかだと、ちょっと弱い。慰謝料は免責になる可能性が高いね。逆に、暴力行為による離婚とかだと非免責債権になるかもしれない。
そうなんだ。
ケースバイケースってことね。じゃあ、もし「非免責債権だから免責しないで!」って主張しようと思ったら、夫の自己破産手続きに参加して、債権者集会とかで異議を申出ればいいのかなー?
いや、自己破産手続きは関係ないよ。破産裁判所は「非免責債権かどうか?」の判断なんてしないから、破産裁判所に文句を言っても意味ないね。自己破産が終わった後に、フツ-に慰謝料の支払請求訴訟をおこして、そこで「非免責債権かどうか?」を争うことになる。
  • 財産分与や離婚慰謝料は、原則として破産者の免責後は請求できなくなる
  • 財産分与による取戻権は認められないので、破産財団から取り返すのは無理
  • 離婚慰謝料は、その原因によっては非免責債権として認められる可能性はある
  • 養育費は免責対象にはならない。自己破産後も元夫に養育費の請求はできる
  • 破産後に破産した元夫が自主的に、慰謝料や財産分与を支払うのは問題ない
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財産分与や離婚慰謝料は破産すると免責になってしまう

元夫に対する財産分与や離婚慰謝料の請求権は、元夫が自己破産すれば免責になります。

すでに離婚協議書や調停調書によって、財産分与や離婚慰謝料の内容が確定している場合はもちろんですが、まだ具体的な慰謝料や財産分与の内容が決まる前でも、離婚の成立そのものが自己破産より前であれば、やはり原則として免責されます。

例えば、すでに離婚が成立していて、離婚協議の最中に夫が自己破産した場合は免責されます。

自己破産の時点で具体的な請求額が確定してなくても、免責される-図

まだ慰謝料や財産分与の金額が確定していない状態だとしても、自己破産前の原因に基づく請求権はすべて破産債権という扱いになりますので、破産手続きのなかでしか回収を図ることはできません。

つまり破産手続きのなかで債権届出をして、債権額を確定させた上で、裁判所に配当を要求しなければならず、自己破産後に破産者に対して直接、請求することはできません。

これは離婚訴訟の途中で夫が自己破産した場合も同じです。訴訟の途中に夫が自己破産した場合については、以下の記事で解説します。

元夫が債権者一覧表で妻への債務を申告し忘れた場合

上記のように、原則として自己破産前の離婚による慰謝料・財産分与は免責対象なので、夫が自己破産のときにちゃんと債権者一覧表 にこれらの請求権を記載して、裁判所に申告していれば免責されます。

債権者一覧表で申告された破産債権は免責される-図

では、夫が債権者一覧表への記載を忘れていた場合はどうでしょうか?

この場合、元夫に故意や過失があって裁判所への申告(債権者一覧表への記載)を怠っていたのであれば、例外的に非免責債権になる可能性があります。つまり例外的に、自己破産の後でも慰謝料や財産分与を請求できます。

ただし、夫が債権者一覧表に記載し忘れたことに過失がなかった場合や、妻が自己破産の開始決定について知っていた場合には、やはり原則通り免責されます。

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債権者一覧表への記載漏れについては、以下の記事で詳しく解説しています。

破産後も自然債務として任意で支払って貰うことは可能

自己破産で免責になってしまった後でも、元夫が自ら「支払いたい」と申し出た場合には、妻はそれを受け取ることはできます。ただし妻の方からそれを催告したり請求することはできません。

このような債務のことを、自然債務といいます。

自然債務とは

自然債務とは、支払いの義務がなく債権者の方から請求することはできないが、債務者の方から任意で支払った場合には受け取ることができ、返還の必要もない債務のことをいいます。自己破産で免責された債務は、自然債務になります。

 
つまり妻の方から自己破産後に「慰謝料を支払ってくれない?」と請求することはできません(それを認めると免責の意味がないので当たり前です)が、夫が自発的に支払ってくれた場合には、受け取っても問題ありません。

自然債務として夫が自発的に支払うのは問題ない-イラスト

そのようなお人好しな男性がいるかはわかりませんが、正義感や責任感の強い方であれば支払ってくれるかもしれません。

ちなみに、自然債務として支払いを受けた場合には、その後に何か言われたとしても返還義務はありません。例えば、「やっぱり自己破産で免責になったはずだから返してくれ」と言われても、返還する必要はありません。

管財人に対して財産分与による取戻権の行使はできない

破産者の財産として差押えられている破産財団 のなかに、他人の財産が混ざってしまっている場合には、他人からの請求でその財産を取戻すことができる場合があります。これを取戻権といいます。

例えば、破産者の会社が倒産するときに、その倉庫のなかに従業員の私物が混じっていた場合は、従業員は取戻権の行使によってその私物を管財人から返して貰うことができます。

他人の所有物の場合、取戻権を行使できる可能性も-図

これと同じ理屈で、財産分与についても夫婦の共有財産の分配にあたる部分については、「取戻権が行使できるのではないか?」という議論があります。しかし結論からいうと、財産分与については、取戻権の行使は認められていません

理由の詳細については、法律的な話になりますので、興味のある方のみ続きを読んでみてください。

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浮気による離婚慰謝料は、非免責債権にならないの?

不法行為による損害賠償請求権のなかには、一部に非免責債権となるものもあります。例えば、不注意による交通事故で、相手に重大なケガを負わせてしまった場合、その損害賠償請求は自己破産しても免責されません。

相手に与えた損害が著しく大きい場合や、すごく悪質である場合には、被害者への救済の意味や、加害者に対する罰則の意味で、免責が認められないことがあるのです。

損害賠償請求は内容によっては非免責債権になる-イラスト

一方、離婚慰謝料が「非免責債権にならないのか?」と聞かれる方は多いですが、こちらはほとんどの場合は自己破産で免責になります。特に、浮気や不貞による慰謝料請求などは、直接的な加害行為ではありませんので、大抵の場合は免責になります。

自己破産で非免責債権となる損害賠償請求権の条件

破産法253条では、以下の2つの場合に損害賠償請求権が非免責債権になる、と定めています。

1つは「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求」、もう1つは「破産者が故意または重大な過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求」です。

損害賠償請求が非免責債権になる要件-図

離婚の慰謝料に関していえば、身体や生命を脅かすような不法行為が原因となるケースはかなり稀だと思います。

そのため、ほとんどのケースでは離婚原因が(2)にあたるかどうかが問題になります。例えば、浮気や不倫、夫婦生活への不協力、悪意の遺棄、DV、モラハラなどが「悪意で加えた不法行為」に該当するかどうかです。

「積極的な害意」がなければ非免責債権にはならない

破産法でいう「悪意で加えた不法行為」の悪意の意味は、一般的には「積極的な害意があること」と解釈されています。つまり直接的に被害者に危害や損害、苦痛などを与える目的でした行為であれば、非免責債権になる可能性があります。

例えば、自己破産の直前に、最初から返すつもりがないにも関わらず、嘘の申告をしてお金を借りて詐取した場合には、非免責債権になる可能性があるでしょう。

一方で、例えば、浮気や不貞行為というのは、元夫と浮気相手の女との行為による精神的な苦痛であって、元夫が直接的に、妻に対して「危害を加えよう」「損害を与えよう」としてした行為ではありません。

このような場合には、原則として非免責債権にはなりません。

不貞行為の慰謝料は原則として非免責債権になる

実際に、平成15年7月31日の東京地裁の判決では、5年間も不貞行為を働いていた夫に対する妻の慰謝料請求を「非免責債権には当たらない」と判断し、妻の請求を棄却しました。

そのときの判決の内容の抜粋が以下になります。

東京地方裁判所平成15年7月31日

本件の場合、不貞関係が継続した期間は少なくとも約5年に及び、しかも××の離婚を確認することなく結婚式を挙げたという事情もあるから、不法行為としての悪質性は大きいといえなくもないが、本件における全事情を総合勘案しても、原告に対し直接向けられた被告の加害行為はなく、したがって被告に原告に対する積極的な害意があったと認めることはできないから、その不貞行為が「悪意をもって加えたる不法行為」に該当するということはできない。したがって、被告の不貞行為すなわち不法行為に基づく損害賠償責任は免責されたということになる。

 
このように、不貞行為や浮気による慰謝料の場合は、ほとんどが自己破産によって免責されるのが実情です。

これに対して、暴力(DV)や暴言、モラルハラスメントなど直接的な危害行為が離婚原因となっている場合には、慰謝料が非免責債権になる可能性はあります結局のところ、最終的にはそれぞれのケースや個別事情にもよるため、裁判をしてみなければわからない場合もあります。

非免責債権かどうかを争うなら、改めて訴訟しないとダメ

自己破産を管轄する裁判所では、慰謝料の請求権が「非免責債権にあたるかどうか?」の判断まではおこないません。

自己破産の裁判所が判断するのは、破産債権の全般について「免責にするかどうか?」だけです。個別の1つ1つの非免責債権については、後日、各自で勝手に請求してくださいというスタンスなので、自己破産の裁判所に対して、異議を申し立ててもあまり意味がありません。

破産裁判所では非免責債権かどうかの判断はしない

そもそも論として、もし破産債権のなかに非免責債権があったとしても、それだけで免責不許可になることはありません。離婚慰謝料が非免責債権であろうがなかろうが、裁判所の免責許可の判断には影響しないのです。

なので、「私の離婚慰謝料は非免責債権なんです!」ということを自己破産の裁判所に主張したとしても、特に意味はありません。非免責債権であるならば、自己破産の手続きが終わった後に、破産者に対して普通に請求すればいいだけの話です。

もし破産者が「自己破産で免責されたはずだから支払義務はない!」と主張して、両者が対立する場合は、最終的には、通常の民事訴訟によってケリをつけることになります。

自己破産手続きでは、破産債権の全般を免責にすべきかどうかだけ判断して決める。-図
個別の債権が「非免責債権かどうか?」は、その後に通常訴訟をして、裁判の中で決める。-図

通常訴訟で非免責債権になるかどうかを白黒つける

裁判になると、元妻の慰謝料の請求に対して、元夫は「既に自己破産で免責を貰ってるんだから支払義務はない」ということを抗弁として主張してくるはずです。

それに対して、元妻は「離婚慰謝料は、非免責債権だから免責にはならない」ということを再抗弁として主張することになります。

抗弁とは

抗弁とは、相手の主張する事実を認めた上で、それを無効化する事実を新しく主張することをいいます。例えば、「貸したお金を返せ」という訴訟をおこされた場合、「借りていない」というのは否認です。それに対して「借りたけど、もう既に返した」というのが抗弁です。

 
つまり、夫側は「離婚慰謝料の請求権が存在した」ことは認めた上で、それを無効化するために「自己破産で免責決定が下りた」事実を主張します。それに対して、妻側は「自己破産で免責決定が下りた」事実は認めた上で、それを無効化するために「離婚慰謝料は、非免責債権である」ことを主張します。

ここで注意が必要なのは、抗弁というのは、主張する側に立証責任があるということです。上記の例でいえば、「自己破産で免責が下りた」ことの証明責任は元夫にあり、「離婚慰謝料が、法律上の非免責債権にあたる」ことの証明責任は元妻にあります。

つまり、破産法でいうところの「悪意で加えた不法行為」であることを、妻側が説明・立証しなければなりません。

夫側-自己破産で免責決定されたことを証明、妻側-悪意で加えた不法行為であることを証明

「自己破産の免責決定が下りた」ことの証明は非常に簡単です。免責許可決定の確定証明書を提示すればいいだけですから。それに対して、「非免責債権にあたること」の立証は、なかなか大変です。

破産債権者表をもとに直接、強制執行することはできる?

通常、相手の財産に対して給与差押えなどの強制執行をしようと思ったら、まずは裁判をして判決を取らないといけません。

ところが、破産手続きの中で破産債権の金額が確定がされて破産債権者表が作成された場合には、この破産債権者表は債務名義 になりますので、それをそのまま裁判所に持っていって裁判所書記官に執行文を書いて貰えば、いきなり強制執行をすることもできます。

【破産債権者表の記載の効力】

(略)破産手続廃止の決定が確定したとき、または(略)破産手続き終結の決定があったときは、確定した破産債権については、破産債権者表の記載は、破産者に対し、確定判決と同一の効力を有する。この場合において、破産債権者は、確定した破産債権について、当該破産者に対し、破産債権者表の記載により強制執行をすることができる。(破産法221条

ただし、既に免責決定されている債権について強制執行することは当然許されませんので、破産債権者表を使って強制執行することができるのは、破産債権者表の記載から明らかに非免責債権であることがわかる場合に限られます。

「非免責債権かどうか?」が破産債権者表からはわからない場合には、裁判所書記官は執行文を付与してくれません。執行文が付与されなければ強制執行もできません。

執行文が付与して貰えない場合は、やはり正当な手順通り、まず破産者に対して通常訴訟(離婚慰謝料の給付訴訟)をおこして、裁判のなかで非免責債権であることを認めて貰い、勝訴判決を取ってからあらためて強制執行を申立てる流れになります。
 

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