特定調停と個人再生や任意整理の違いは?
特定調停という言葉を耳にされたことがある方も多いはずです。特定調停は、今までにも紹介してきた「任意整理」や「個人再生」「自己破産」そのいずれとも異なる債務整理の方法です。
自己破産は文字通り、破産して借金を清算する手続きのことなのでイメージしやすいかと思いますが、個人再生や任意整理と特定調停の違いは、なかなかピンとこない方も多いのではないでしょうか? 今回の記事では、特定調停と、その他の任意整理や個人再生との違いを比較してみようと思います。
特定調停っていう債務整理の手続きもあるって聞いたんだけど、特定調停って何なのーっ?!
特定調停は、いわゆる民事調停の1つであり、借金の返済が滞っている債務者と貸金業者との話し合いの場を裁判所が提供し、返済方法について合意できるよう仲介する債務整理の方法。位置づけとしては、任意整理と個人再生のあいだのような手続きである。
個人再生や自己破産というのは、いわゆる「民事再生法」や「破産法」などの法律に乗っ取った公的な制度のことでした。一方、特定調停というのはたしかに裁判所が絡みはしますが、法律的な制度ではなく、あくまで個人(借主)と貸金業者とが民事的な話し合いのもとで問題の解決を図る方法のことです。
裁判官や、裁判所から選任された調停委員(弁護士)の仲介・関与のもと、民事的な争いについて事情を聴取し、解決案などを提示することで和解・解決を目指す手続きのこと
例えば、「離婚調停」といえば、イメージしやすい方も多いのではないでしょうか? 離婚調停も裁判官が関与して、夫と妻のもめごとなどを客観的に判断し、和解案を提示する手続きのことですが、この夫と妻が、貸金業者と債務者、に変わったのが特定調停だと思えば少しわかりやすいかと思います。
特定調停は、「裁判所がおこなう任意整理」だとよく言われることがありますが、この表現は非常に的を得ています。先ほどから説明しているように、特定調停は、自己破産や個人再生のような法律に基づく制度上の手続きではなく、あくまでも二者間で協議して民事的に解決案を模索する手続きのことだからです。
- 二者間の協議による解決策の模索
- 裁判所が「調停委員」として協議に参加する
- 協議は本人がおこなうが、弁護士の代理も可
- 利息制限法の引き直し計算
- 借金の減額はできるが、過払い金返還請求は困難
- 二者間協議による解決策の模索
- 裁判所は一切介入せずに、二者間でのみ協議する
- 原則、弁護士が代理人として交渉する
- 利息制限法の引き直し計算
- 過払い金返還請求もあわせてできる
特定調停も任意整理も、借金減額のための交渉ライン(返済プランの見直し案の方向性)としては、やはり利息制限法に基づく引き直し計算(参考:「利息制限法に基づく引き直し計算(利息再計算)の方法」)や、将来利息カット、遅延損害金のカットなどをベースに進められることが多いです。
借金の減額幅や交渉の方向性が同じなら、任意整理でもいいじゃないか、と思われるかもしれませんが、実際そのとおりです。特定調停はもともとは、弁護士費用を払う経済的な余力がなく任意整理ができないという人のために、裁判所選任の調停委員(弁護士資格保有)をつけて協議の場を提供する目的の手続きだからです。
なので特定調停は、弁護士を代理人としてつけなくても、個人でも本人申込が可能です。ただし、それなりに貸金業者と対等に渡り合って交渉していかなければいけないので大変なのは大変です。和解できる保証もどこにもありません。そのため、多少無理してでも弁護士を代理人につけて任意整理や個人再生を検討した方がいいケースもあります。
特定調停は裁判所が関与してくる手続きのため、どちらかというと任意整理よりも、個人再生と近いものをイメージされる方が意外と多くいます。そういう方には、「個人再生と特定調停ってどう違うんですか?」と聞かれることがあります。
ですが繰り返しになりますが、特定調停は法律的な制度でも何でもなく、民事調停(民事間での協議)です。なので個人再生と特定調停はまるで意味が違います。(参考:「個人再生とは?」「個人再生と任意整理の違いは?」)
特定調停 | 個人再生 | |
---|---|---|
性質 | 民事調停 | 裁判所判決 |
要件 | 支払不能の可能性あり | 支払不能の可能性あり |
借金の減額幅 | 利息制限法の引き直し計算 | 5分の1以上の最低弁済基準 |
法律根拠 | 民事調停法 | 民事再生法 |
個人再生の場合には、「最低弁済額基準」という考え方があります。いくら以上の借金がある人は、個人再生を適用したければ、最低でも○○円は返してくださいね、という最低弁済額に一定のノルマを設けることを最低弁済額といいます。(参考:「個人再生の最低弁済額と清算価値保障について」)
なので個人再生の場合には、支払い額(弁済額)に最低基準がありますが、特定調停の場合には民事的な和解のため特に弁済額についての取り決めや最低基準というのは存在しません。和解さえできるのであれば、弁済額は何円でも構わないということです。