給与所得者等再生における可処分所得の計算方法
以前にも説明したことがありますが、個人再生手続きには「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の2種類が存在します。(参考:「小規模個人再生と給与所得者等再生の違い」)
実際のところ実務上は、給与所得者等再生を選択すると計画弁済の支払い額が増えてしまう可能性があるため、小規模個人再生を選択する場合が多いです。
ただ、給与所得者等再生にも「債権者の書面決議が不要」などのメリットがあります。書面決議で債権者の同意が得られないと、裁判所からも個人再生の認可が下りませんので、この債権者決議不要というのは大きな魅力です。(参考:「個人再生の書面決議で債権者に反対されたらどうなる?」)
給与所得者等再生のカギは可処分所得?!
給与所得者等再生と小規模個人再生の一番の違いは、「再生債務者の可処分所得の大きさが最低弁済額に影響する」ということです。小規模個人再生の場合は、民事再生法で定められた最低弁済基準を上回る額を支払えばOKですが、給与所得者等再生の場合は、「最低弁済額基準と可処分所得の2年以上、のどちらか大きい方」を支払う必要があります。
つまり可処分所得が多ければ多いほど、給与所得者等再生の場合は支払額が大きくなってしまいます。ではこの可処分所得というのはどうやって計算されるものなのでしょうか?
ここまで小規模個人再生の話が多かったけどっ、個人再生手続きには給与所得者等再生っていうのもあるよねーっ!この給与所得者等再生での返済額決定に影響する可処分所得ってどーやって計算すればいーのっ?!
民事再生法241条3項では、最低限度の生活を維持するために必要な一年分の費用を、再生債務者やその被扶養者の年齢、居住地域、扶養人数、物価その他の事情を勘案して別途、政令で定める、としている。
民事再生法では上記のように、あらかじめ地域や世帯に応じて、最低生活費の金額を政令で定めることとしています。まずは実際にその政令を確認してみましょう。以下のリンクをご覧ください。
法令データなのでちょっと白黒の文字ページでわかりにくく見えてしまいますが、自分の最低生活費を調べる方法は至って簡単です。自分の住んでる地域がどの区にあたるのか、世帯人数は何人か、年齢は何歳なのか、などの条件をもとに金額を探して合計するだけです。
整理すると、最低生活費を構成する費用には以下の5つがあります。
- 個人別生活費の額
- 世帯別生活費の額
- 冬季特別生活費の額
- 住居費の額
- 勤労必要経費の額
個人生活費について
個人生活費は、再生債務者自身とその被扶養者がそれぞれ何歳なのか、住んでいる地域はどこなのか、の2つの条件をもとに決定されている項目になります。
この民事再生法の最低生活費は、住んでいる地域によって区割りがあります。細かい区割りについては、上記の政令ページを確認していただきたいのですが、いくつか主要な都市を抜粋して区割りを紹介します。
区割り | 都市 |
---|---|
第一区 | 埼玉県の浦和市、大宮市、東京都の特別区、八王子市や町田市、神奈川県の横浜市や川崎市、藤沢市、愛知県の名古屋市、京都府の京都市、大阪府の大阪市、府中市、堺市、吹田市、兵庫県の神戸市、尼崎市、その他 |
第二区 | 北海道の札幌市、宮城県の仙台市、埼玉県の所沢市やその他、千葉県の千葉市、神奈川県の横須賀市、平塚市、滋賀県の大津市、京都府の宇治市、大阪府の岸和田市、兵庫県の姫路市、明石市、岡山県の岡山市や倉敷市、など |
第三区 | 北海道の函館市、小樽市、旭川市、室蘭市、釧路市、帯広市、苫小牧市、青森県の青森市、岩手県の盛岡市、秋田県の秋田市、山形県の山形市、福島県の福島市、茨城県の水戸市、栃木県の宇都宮市、群馬県の前橋市、埼玉県の川越市、春日部市、千葉県の野田市、佐倉市、神奈川県の海老名市、新潟県の新潟市、富山県の富山市、石川県の金沢市、福井県の福井市、山梨県の甲府市、長野県の長野市、静岡県の静岡市、浜松市、など |
第四区 | 北海道の夕張市、宮城県のその他都市、茨城県のその他都市、栃木県のその他都市、新潟県、石川県、長野県のその他都市、岐阜県の大垣市、愛知県の瀬戸市、豊川市、三重県、兵庫県、奈良県、広島県、岡山県のその他都市、などなど |
第五区 | その他、各都道府県の都市多数 |
第六区 | 第一区から第六区のいずれにも属さない市町村 |
なんとなく上記を眺めてみていただければわかると思いますが、第一区にいわゆる大都市の大半が含まれています。そのため第一区の最低生活費が一番高く設定されています。逆に第六区に近づくにつれて、どんどんマイナー都市、零細市町村が含まれていきます。そのため、第六区が一番最低生活費が安くなります。
参考までに、例として35歳一般成人(男性)の最低生活費を上記の区ごとに比較してみましょう。すると、各区の最低生活費のうち、一年間の「個人生活費」については以下のように定められています。
区割り | 35歳男性の最低生活費 |
---|---|
第一区 | 499,000円/年間 |
第二区 | 477,000円/年間 |
第三区 | 454,000円/年間 |
第四区 | 432,000円/年間 |
第五区 | 409,000円/年間 |
第六区 | 387,000円/年間 |
例えば、東京の23区内であれば第一区に分類されるので49万円くらいです。たった49万円で一年間も生活できるのか?と思うかもしれませんが、もちろんまだここに「世帯別生活費」や「冬季特別生活費」、「住居費」、「勤労必要経費」が乗るかたちになります。
ここで神奈川県の横浜市に在住している36歳男性(扶養家族なし、1年間の収入は220万円)の例をもとに、残りの世帯別生活費、冬季特別生活費、住居費、勤労必要経費についてもまとめて見てみましょう。36歳独身男性で横浜市に住んでいる場合には、居住区は第一区に分類されるため、各費用は以下のようになります。
最低生活費項目 | 26歳横浜市在住男性の場合 |
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個人別生活費 | 499,000円/年間 |
世帯別生活費 | 527,000円/年間 |
冬季特別生活費 | 16,000円/年間 |
住居費 | 642,000円/年間 |
勤労必要経費 | 525,000円/年間 |
合計 | 2,209,000円/年間 |
このように可処分所得の計算式に用いられる「最低生活費」は220万円となります。住居費と冬季特別生活費については、上記の第一区~第六区の分類だけでなく、同時に住んでいる県によっても金額が異なります。また勤労必要経費については、年間の収入によって金額が異なります。
さて最低生活費の計算が長くなってしまったため、本来の目的を忘れてしまいそうになりますが(苦笑)、最低生活費の額を計算して終わりではありません。給与所得者等再生の弁済額に影響するのは「可処分所得」です。ここで最後に、可処分所得の計算方法を復習しておきましょう。
可処分所得
= 収入 – (税金 + 社会保険料 + 最低生活費)
※給与所得者等再生で必要な弁済額は、ここで計算する可処分所得の額の2倍(2年分)と、最低弁済基準額のどちらか大きい方になります。