個人再生で滞納家賃や水道光熱費はどうなる?
家賃の賃料や水道光熱費は、生活に密接に関わる支出です。水道光熱費を払えなければ生活ができないでしょうし、家賃が払えなくなれば家を追い出されてしまう可能性もあります。個人再生手続きでは、手続きの開始前と開始後で、家賃や水道光熱費はそれぞれどういった扱いになるのでしょうか? 詳しく解説します。
個人再生の開始決定後は、たしか弁済禁止のルールがあると思うんだけど、家賃や水道光熱費を今まで通り支払うことは問題ないのかなー?
じゃあ水道光熱費に関しては、開始決定後の分をちゃんと払っている限りは、開始前に料金の滞納があったとしても電気やガス、水道が止まる心配はないってことだね。
滞納してる家賃を解消しないまま個人再生手続きをしたら、家を追い出される可能性はあるのかなー? あと、家賃の滞納分は水道光熱費みたいに個人再生中に返済することはできるのー?
- 家賃、水道光熱費、どちらも個人再生の開始決定後は支払い可能(共益債権)
- 水道光熱費は、過去6カ月の滞納分も支払い可能(共益債権)
- 個人再生開始後に、過去の滞納を理由に電気やガスを止めることはできない
- 家賃は、個人再生開始前の滞納分については再生債権になるので弁済禁止
個人再生で水道やガス、電気が止められる可能性はある?
個人再生をする上で、まず心配になるのが水道やガス、電気が止められる心配はないのか?という部分だと思います。特に個人再生前に、水道光熱費の滞納がある場合には、そのまま個人再生手続きをして「ガスや電気を止められないか?」というのは非常に気になるところです。
まず結論からいうと水道光熱費の場合は、少なくとも個人再生手続きの開始後の分からちゃんと払っていれば、水やガス、電気が止められる心配はありません。
水道、ガス、電気などのインフラ供給の契約は、法律用語では「継続的給付を目的とする双務契約」と呼ばれます。この「継続的給付」の義務を負う双務契約は、民事再生法では以下のように保護がされています。
再生債務者に対して継続的給付の義務を負う双務契約の相手方は、再生手続開始の申立て前の給付に係る再生債権について弁済がないことを理由としては、再生手続開始後は、その義務の履行を拒むことができない。(民事再生法50条)
つまり水道光熱費に限っていえば、個人再生前に滞納をしていたとしても、それを理由として(個人再生手続きの開始後に)電気やガスの供給をストップすることはできない、ということです。
水や電気が止まってしまうと生活ができなくなってしまいますので、それを保護するための仕組みともいえます。これはぜひ知っておきましょう。
民法で定められた債権には、【先取特権】という種類があります。
先取特権とは、債務者の財産について他の債権者よりも先に自分の返済を受けることのできる債権のことをいいます。
光熱費も直近6カ月分のものについては、この先取特権にあたります。
日用品の供給の先取特権は、債務者又はその扶養すべき同居の親族及びその家事使用人の生活に必要な最後の六箇月間の飲食料品、燃料及び電気の供給について存在する。(民法310条)
この先取特権については、個人再生では「再生計画によらずに随時、返済すること」と定められています(民事再生法122条)ので、個人再生手続きに関係なくいつでも弁済できます。
また個人再生による減額の効力も受けません。滞納分を全額支払う必要があるので注意が必要です。
※【補足】 通常の再生債権は、再生手続きの開始後は(再生計画で定めた以外の方法で)勝手に弁済することが禁止されています(弁済禁止効)が、この先取特権は対象外になります。
個人再生で賃貸物件を追い出される可能性はある?
まず家賃の滞納等がなく、かつ個人再生の開始決定後もちゃんと家賃を支払っている場合には、契約違反にあたる箇所はありませんので、個人再生が理由で追い出されることはありません。
再生手続き開始決定後は、家賃の支払いは水道光熱費と同様、「共益債権」という扱いになりますので、個人再生に関係なく随時弁済することができます。(民事再生法121条)
個人再生の開始前に家賃を滞納している場合は問題です。
先ほど、水道光熱費などの「継続的給付」の双務契約は、個人再生前の滞納を理由として供給をストップすることができない、という話をしました。しかし物件の賃貸契約の場合は、残念ながら「継続的給付」にはあたりません。
しかも個人再生の開始前に滞納していた分の家賃は、再生債権になりますので、個人再生の影響を受けて減額されます。そのため、家賃の滞納を解消しないまま個人再生をしてしまうと、契約違反を理由として大家さんに賃貸契約を解除されてしまう可能性があります。
一方で、前述のように滞納家賃は「再生債権」にあたりますので、再生計画で定めた以外の方法での弁済は禁止されます。 つまり個人再生の開始決定後に、勝手に家賃の滞納分だけを返済して滞納を解消することはできない、ということです。
滞納家賃を個人再生の対象から外すことはできない、弁済禁止により返済もできない、でも滞納のままだと追い出されてしまう・・・、という八方塞の状態になってしまうわけですが、何か対策はあるのでしょうか?
賃貸物件を追い出されて困る場合は、一番良いのは親戚や家族に代わりに払って貰い、滞納を解消して貰うことです。
個人再生の開始前であれば自分で弁済することもできなくはないですが、(弁護士への委任後であれば)偏頗弁済にあたりますので、その分、個人再生での弁済額も増えることになります。
例えば個人再生の開始直前に自分で滞納家賃20万円を払って滞納を解消した場合、他の債権者間での平等を図るために、個人再生の最低弁済額(清算価値)にも20万円を上乗せする必要があります。