個人再生の最低弁済額と清算価値保障について
個人再生は、民事再生法という法律で定められた借金の減額救済制度のことですが、その個人再生では法律により「最低でも、これだけの金額は返済しなければならない」とする基準額が決められています。これを最低弁済額といいます。
個人再生ではあらかじめ、法律で最低いくら返済してください、という金額が決められているって聞いたんだけど、これって大体幾らくらいを想定すればいいのー?!
じゃあ最低弁済額ってどうやって決まっているのかなー? 例えば、具体的な例でいうと、借金が300万円ある人の最低弁済額は幾らくらいになるのか教えて欲しいなー?
- 最低弁済額とは「最低この金額は返済する」という法律の基準額のこと
- 借金額100万円以下は減額なし、101~500万円は100万円まで減額
- 清算価値が上回る場合は、そちらが最低弁済額になる(清算価値保障)
1.個人再生では借金は”最低弁済額”だけ返済すれば大丈夫?!
2.法律で定められた最低弁済額の基準は?!
3.ただし清算価値が上回る場合は、清算価値が最低弁済額になる
4.給与所得者等再生の場合の最低弁済額っていくらなの?!
5.最低弁済額以上の金額を返済することってあるの?!
個人再生では借金は”最低弁済額”だけ返済すれば大丈夫?!
個人再生は、民事再生法という法律で認められた債務者の借金救済制度です。裁判所の認可が降りれば、借金の金額をあらかじめ法律で定められた基準額にまで大幅に減額することができます。この基準額のことを最低弁済額といいます。
簡単にいうと、法律で「あなたの借金は、これだけ返済すれば残りは免除してあげるよ」と定められた金額のことです。
最低弁済額について定めているのは、民事再生法231条2項3項になります。民事再生法では、最低弁済額の基準について、以下のような取り決めがあります。
借金の総額 | 最低弁済額の基準 |
---|---|
~100万円 | 全額 |
100万円~500万円以下 | 100万円 |
500万円~1500万円以下 | 債務額の5分の1 |
1500万円~3000万円以下 | 300万円 |
3000万円~5000万円以下 | 債務額の10分の1 |
※個人再生の最低弁済額では、住宅ローンの残債務額は除いて計算します
この表が民事再生法で決められた最低弁済額の基本になります。 少しややこしいように見えるかもしれませんが、9割以上の個人債務者は、借金の総額は1000万円以下に収まるでしょうから、実質的には上の3列だけ知っていれば大丈夫だと思います。
つまり、借金額100万円以下は減額なし、借金額100万円~500万円は100万円まで減額、501万円以上の場合は、大体5分の1まで減額、というのがほとんどの個人の借金に当て嵌まるケースではないかと思います。
ちなみにグラフにすると以下のようになります。
借金額が多くなるほど、基本的には返済額も大きくなりますが、一方で減額の割合も大きくなる(つまり借金額が大きいほど多くの割合が減免される)ようになっていることがわかります。
何を言っているかさっぱりわからないと思いますが、今から順を追って説明しますので大丈夫です。
実は最低弁済額は上記の基準だけではまだ決定しません。もう1つ条件があります。それが、「上記の基準額と最低弁済額を比較して、より金額の大きい方を最低弁済額とする」というものです。
清算価値とは、簡単にいうとあなたの財産などを全て現金に換価して清算した場合の価値のことです。例えば銀行口座の預金、株などの有価証券、保険の返戻金、持ち家であれば住宅や車など、これら全ての現金価値のことですね。
もっと砕いていえば、「あなたが自己破産したときに債権者に分配される金額価値」のことです。個人再生では、最低でもこの清算価値の金額以上の額を最低弁済額として返済することが必須とされています。
個人再生では、債権者保護の目的から「最低でも清算価値を上回る金額を弁済すること」が定められています。これを法律用語では「清算価値保障の原則」といいます。
清算価値保障の原則とは、個人再生の再生計画において、債務者が清算価値以上の返済を債権者に対して保障する原則のことをいいます。つまり、自己破産して住宅や車などの財産の処分をしなくてもいい代わりに、少なくとも自己破産をする場合(財産を清算する場合)よりもたくさんの金額を返済することを債権者に保障する、ということです。
民事再生においては、債権者は最低でも「自己破産を選択した場合よりも、最終的に多くの金額を受け取ることができる」必要があります。そうでないならば、債権者の立場からすると、自分により不利な民事再生(個人再生)の適用を許可する理由がないからです。
もし債務者が自己破産をして、家や住宅、預金などの財産を処分して分配した方がより多くの返済を受け取れるのであれば、債権者からすると自己破産をしてくれた方が都合が良いです。そのようなことが起きないように、民事再生法では「清算価値保障の原則」を設けています。個人再生をする場合には、少なくとも自己破産をする場合よりも多い金額を返済することを、保証しなければならないのです。
ちなみに民事再生法で、この清算価値保障について定めているのは、条文174条2項4号にある以下の文言です。(出典:法令データベース-民事再生法)
174条2項 裁判所は次の各号のいずれかに該当する場合には、再生計画不認可の決定をする。
(4)再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき。
つまり清算価値保障の原則を満たさない返済計画案(再生計画)は、上記の「再生債権者の一般の利益に反する」として、裁判所からの認可が降りないということになります。裁判所の許可がおりないと当然ながら、借金の減額についても効力が発生しないため、個人再生そのものが無効になってしまいます。
しかし結論から言ってしまうと、ほとんどの個人再生のケースではこの清算価値保障というのは、実はあまり問題になりません。 そもそも、個人再生をするに至るまで借金を抱えているわけですから、普通に考えてそれほど高額で換価可能な財産は持っていないケースがほとんどでしょう。
会社の民事再生であれば財務諸表を作成しており、また何かしらの資産が計上されているでしょうから、予想配当率などを元にして清算価値を割り出すことができます。しかし個人では、よほど大きな財産を持っている場合を除き、清算価値は問題になりません。もし時価である程度の財産価値がある資産を持っている場合は、自分で適正な評価額を計算することは困難なので、弁護士等に相談することが必要になります。
給与所得者再生の場合の最低弁済額っていくらなの?!
個人再生の方法には、「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の2つの再生手続きの方法があります。ここまでは話がややこしくならないように、敢えて小規模個人再生の話しかしていませんでした。
しかし給与所得者等再生を選択した場合には、ここにもう1つだけ条件が加わることになります。それは「上記の最低弁済額と、法定可処分所得2年分とを比較して、より金額の大きい方を最低弁済額にする」という条件です。
給与所得者等再生とは、サラリーマンなどの給与所得者が申請することができる個人再生手続きの方法です。(ただしよく誤解されがちですが、サラリーマンだからといって給与所得者等再生を申請しなければいけない、ということではありません)。
もし、この給与所得者等再生を使って個人再生の申請をした場合、債務者は最低でも法定可処分所得の2年分以上の金額を債権者に返済する必要があります。
例えば、借金額400万円のサラリーマンAさん(換価可能な財産はなし)のケースを考えてみます。もしこのAさんの給与収入(所得税や住民税、社会保険料を差し引いた額)が年間500万円、生活していくのに必要な最低生活費が年間240万円だと仮定します。
借金総額・・・400万円
年間給与収入(税金、社会保険差し引き後)・・・400万円/年間
最低限必要な生活費・・・240万円/年間
この場合、最初の最低弁済額の基準額によると、借金は500万円以下なので借金は100万円まで圧縮できます。 しかし、給与所得者等再生を適用する場合、法定可処分所得は、(400万円-240万円=160万円)の2年間分なので320万円になります。
つまりこのサラリーマンAさんは、給与所得者等再生を適用するのであれば、最低320万円は返済しなければならない、ということになります。Aさんの場合は、給与所得者等再生を選択すると返済額が200万円以上も増えてしまうことになりますね。
ちなみに、この決まりは民事再生法241条2項7号で定められています。個人再生は最低でも3年間以上かけて返済することが求められる債務整理の方法のため、「給与所得者の場合は、努力すれば最低でも法定可処分所得の2年分は返済できるはずだろう」という目的のもと、このような条文が定められています。
先ほどのサラリーマンAさんの例を見ればわかるように、給与所得者等再生を選択することで個人再生による返済額が増えてしまう可能性があります。また前述のように、サラリーマンや給与所得者であっても、給与所得者等再生を選ばなければならない、というわけではありません。小規模個人再生を選んでも問題はありません。
そのため、実際にはサラリーマンであっても小規模個人再生を選択するケースが多いです。小規模個人再生と給与所得者等再生、どちらを選んでもいいと言われている以上、払わなくてもいい借金をわざわざ支払う理由も意味ないですからね。
もちろん給与所得者等再生にも全くメリットがないわけではありません。例えば、給与所得者等再生では、再生計画に対する債権者の決議が不要というメリットがあります。つまり、債権者の同意が必要なく、個人再生の条件を満たしていて、かつ裁判所さえ許可してくれれば個人再生ができる、というメリットです。
この辺りと支払い額を天秤にかけて弁護士の方等に相談し、自分に有利な方を選択すればいいと思います。
最低弁済額以上の金額を返済することってあるの?!
ここまで見てきたように、個人再生における最低弁済額(返済しなければならない金額)というのは、民事再生法でしっかりと定められています。では実際のところ、この法律で定められた最低弁済額以上の金額を、貸金業者等に返済することはあるのでしょうか?!
結論からいって法律で定められた最低弁済額以上の金額を支払う必要や義務は一切ありません。最低弁済額で200万円までの減額が認められているのに、わざわざ300万円を返済する再生計画案を提出する方は、まずいないでしょう。貸金業者等の債権者も、裁判所が認可した再生計画案の支払い額を超えて、催促したり返済請求をすることは一切できません。
唯一例外があり得るとしたら、友達や家族への返済でしょうか。最低弁済額は、あくまで最低限、支払う金額について定めたもので、任意で支払いたい場合にまで、「それ以上返済してはいけない」と定めたものではありません。
そのため、友達や家族との関係修復のために、個人再生の手続きが全て終わった後に自分の意思で最低弁済額(債務額)以上の金額を弁済することは自由です。(個人手続き期間中の返済は、偏頗弁済となり裁判所の認可がおりなくなる可能性があるため、友達だけに全額返済する行為はNGです)