法人と代表取締役が自己破産する場合の費用や注意点
株式会社や有限会社を運営している代表取締役の方で、多額の借金を抱えて自己破産を考えている方の場合、原則として会社と代表者個人は同じ時期に自己破産を申し立てる必要があります。これは法律上、必須ということではないのですが、裁判所の運用上、同時に清算することを求められることが多いです。また同時に申立てた方が通常、自己破産にかかる費用も安くなります。
会社の事業がうまくいかなくて借金が膨らんじゃった場合って、会社の方は放置したまま、代表取締役さんだけ個人で自己破産することはできるの?
個人と法人は、法律上、別の主体だから理屈上は片方だけ自己破産させることもできる。ただ実際の運用では、裁判所に「法人の方も破産を申し立てるように」と言われることが多いんだ。
代表取締役が会社の連帯保証人になってる場合が多いからかな?
たしかにそれだと、会社だけ破産させても、代表者も一緒に破産しないと意味ないってのはわかるけど。
それに零細企業の場合、会社と個人の資産が混在しているケースも多い。代表者個人と会社の財産を一緒に調査して清算しないと適切な破産処理ができないことも多いんだ。
会社に対して貸付金があったり、逆に会社から仮払金でお金を引き出してたり、会社の名義で社用車を買ってたり、とか、よくある話だもんね。オーナーとして株を持っていればそれも資産だし。
法人を破産させようと思ったら、予納金は最低70万円~じゃなかったっけ。そんなお金用意できないよ。代表者個人だけ破産して、会社は休眠会社として放置したくなる気持ちもわかる気がするけど。
例えば、東京地裁では一定の条件を満たせば、予納金は最低20万円で済む。しかも同時に申し立てれば、法人と個人で合計して20万円で済むんだ。他の裁判所でも、同時に申立てると安く済むことが多い。
- 法人破産でも少額管財を利用でき、予納金を20万円に抑えられる場合がある
- 法人と個人で同時に破産を申し立てれば、合計20万円~で済む裁判所もある
- 代表者だけ破産を申請することは原則認められず、できても管財事件になる
- 法人の財産から代表者個人の破産費用を支出することは可能だが注意が必要
- 法人の破産費用のために資産や事業を売却する場合は、管財人の否認に注意
1.法人の自己破産でも少額管財が使える3つのパターン法人で少額管財が使える場合
2.法人の自己破産のための費用はどうやって調達するの?法人の破産費用の調達方法
3.法人の財布から代表者個人の破産費用を支払っていいか法人が個人の破産費用を払うか
法人の自己破産でも少額管財が使える3つのパターン
会社の代表取締役が自己破産する場合、原則として法人と代表者は同時に自己破産することが求められます。
法律上、そうしなければならないと定められているわけではないですが、裁判所では、代表者個人の破産を申立てたとき(または法人の破産を申立てたとき)にもう一方の破産も申し立てるよう指示されることが多いです。
その具体的な理由は、以下のようなものです。
- 代表者個人だけが自己破産すると、民法の規定により委任契約が終了するので、会社の方の代表取締役が不在になってしまう
- 会社だけが破産処理されずに残ってしまうと、債権者はいつまでも不良債権を処理(税務上の損金算入)できず、迷惑になる
- 中小企業など多くの会社では、代表者個人が法人の負債の連帯保証をしていることが多く、一緒に自己破産をしないと問題が解決しない
- 代表者個人だけが自己破産する場合でも、会社の株や、貸付金などの資産は破産財団となるので、法人の運営継続は事実上困難になる
- 零細企業の場合、オーナーと会社の資産がキチンと区別されていないことも多く、代表者個人の破産でも結局、法人の資産調査が必要になる
- 法人だけの破産を認めた場合、廃業前に預金や資産などの財産を不正に代表者個人に流出させたり、隠匿に繋がる事例が実際に多い
しかし会社を破産させるためには、昔は高額な予納金が必要でした。
法人の自己破産は、財産や取引関係が複雑で調査が必要なため、原則として同時廃止 ※ にはならず、必ず管財事件 ※ になります。
そのため、以前は会社を破産させるためには、通常管財で最低70万円~、という高額な予納金が必要でした。しかも代表者個人も併せて自己破産するとなると、個人の予納金50万円~と合計して、最低120万円のお金が必要、という時代があったのです。
以下は、通常の管財事件にかかる裁判所費用(予納金)の金額です。
従来の予納金
負債額 | 法人 | 個人 |
---|---|---|
~5000万円未満 | 70万円 | 50万円 |
5000万円~1億円未満 | 100万円 | 80万円 |
1億円~5億円未満 | 200万円 | 150万円 |
5億円~10億円未満 | 300万円 | 250万円 |
10億円~50億円未満 | 400万円 | |
50億円~100億円未満 | 500万円 | |
100億円~250億円未満 | 700万円 | |
250億円~500億円未満 | 800万円 | |
500億円~1000億円未満 | 1000万円 | |
1000億円~ | 1000万円以上 |
※東京地裁の「特定管財」の場合。大阪地裁の「個別モデル」も類似。
しかし現在では、法人を破産させるのにこれだけの費用がかかることは通常ありません。
少額管財という制度(大阪地裁では「一般モデル」という制度)が普及したことで、よほど大規模な法人でない限り、最低20万円~の予納金で自己破産できるようになったからです。
少額管財というのは、本来、時間とお金のかかる破産手続きを迅速かつ安く進めることを目的にして、東京地裁ではじまった制度です。
具体的には、裁判所費用(予納金)の金額を、最低20万円~にまでおさえます。
少額管財では、原則として自己破産の開始決定の3カ月後に開かれる第1回の債権者集会で、破産手続きを終結させます。そのため、債権の回収や財産の換価業務も、目安として第1回目の債権者集会まで(原則3カ月以内)に終わらせることを目指します。
少額管財については、以下の記事を読んでください。
もともとは、この管財事件は個人の消費者破産のための制度でした。
しかし前述のような理由で、法人の破産のための高額な予納金を支払うことができず、キチンと法人を清算しないまま放置したり夜逃げする代表者が増えました。
そのため、一定の条件を満たす場合に、法人でも少額管財が利用できるようになりました。
例えば、東京地裁では以下の3つのタイプの法人少額管財が認められます。
- 法人併存型
- 法人単独型
- 法人清算型
法人併存型とは、法人の規模が小さく実質的に個人と同視できる場合で、代表者が法人と一緒に自己破産を申立てるパターンです。
この場合は、法人と個人とで同じ破産管財人が付きますので、予納金の金額は2人合わせて最低20万円~(+代表者個人の分の官報広告費1万円程度)で済ますことができます。
法人単独型とは、法人にも個人にも資産がほとんどない状態で、法人だけを単独で自己破産させるパターンです。例えば、実質的な廃業からすでに時間が経過していて、法人に明らかに資産がない場合は、法人だけを単独で破産させることも可能です。
そして、最後は法人清算型です。
これは、法人に多少の資産や債権があり、若干の換価業務が必要になる場合でも、それほど事案が複雑でなければ少額管財の適用を認める、というものです。これにより、資産のある法人を破産させる場合でも、予納金が20万円で済むケースが非常に多くなりました。
法人少額管財の3つの類型
類型 | 説明 |
---|---|
法人併存型 | 個人と同視できる法人で、個人とともに破産手続きをする必要がある場合 |
法人単独型 | ほとんど資産のない法人で、代表者とは別に破産手続きをする必要がある場合 |
法人清算型 | 若干の資産があり換価業務が予想されるが、予納金を納付するのが困難な場合 |
ただしいずれの場合も、代理人弁護士が付いていることが条件になります。
本人申立てや司法書士ではダメなので、弁護士に自己破産を依頼してください。
他の裁判所の場合
横浜地裁や大阪地裁でも、同じように法人併存型の破産手続きがあります。
つまり、個人と法人を一緒に破産させる場合には、最低20万円~の予納金(+官報広告費1万円)だけで、個人と法人の両方の破産手続きを申し立てることができます。
一方、千葉地裁など一部の裁判所では、法人と個人の破産を同時に申立てた場合には、法人の予納金は最低20万円~、個人代表者の予納金は最低10万円~(合計30万円~)という運用になっています。
このように裁判所によっては、別々で予納金が発生する可能性もあります。
しかしそれでも、別々に申し立てるよりは同時に申し立てた方が、予納金が割引されて安くなることが多いです。
これは、同時の申立てであれば、同じ1人の破産管財人が個人と法人の両方を担当できるからです。
法人の自己破産のための費用はどうやって調達するの?
前述のように、法人の少額管財が認められれば、法人と代表者個人の自己破産の予納金(裁判所費用)はかなり安くおさえることができます。
しかし弁護士費用については、法人の破産手続きと個人の破産手続きで別々に必要になるケースもあり、結局、合計60~100万円程度の費用の準備が必要になることも珍しくありません。
支払不能に陥ったら、まずは必ず弁護士に相談しましょう。
弁護士に相談する時点では、まだ破産費用が用意できていなくても構いません。法人の破産にかかる費用は高額なので、実際にそういうケースが多いです。
法人に売掛金がある場合は、それを回収して破産費用に充てるのが一般的です。
売掛金の回収だけで不足する場合は、事業譲渡をしたり、会社の資産を売却することで破産費用を捻出することも考えられます。
しかし、これらは自分でやらずに弁護士に任せた方がいいです。
支払不能に陥った後に事業や資産を売却した場合、もし後でその価格が適正でないと判断されると、破産手続きの開始後に破産管財人に否認されてしまう可能性があるからです。
詳しくは以下の記事を読んでください。
法人が破産する場合、残り債権の回収や財産の売却(換価業務)は、基本的に破産管財人の仕事です。
破産することを決めた後に、自分で勝手に債権を回収したり、資産を売却したり譲渡する行為はできる限り控えなければなりません。許されるのは、自己破産の申立費用を準備するための最低限の行為だけです。
そのため、自分で判断せずに弁護士と相談しながら進めることが重要です。
法人の破産の場合、どのタイミングで破産する事実を債権者に告知するかという問題もあります。
個人破産の場合は、すぐに受任通知 ※ を送ることで貸金業者からの取り立てをストップさせることができる、というメリットがあります。また同時廃止として進めるために、債権調査票を集めなければならない、という理由もあります。
しかし法人の破産の場合、受任通知を送ったところで債権者の取り立てが止まるわけではありません。それどころか自己破産することがわかると、リース機材を回収されたり、在庫商品の搬入をストップされたり、担保権を実行されたり、余計に強引な取り立てを招く可能性があります。
そのため、法人の破産手続きの場合は、個人の破産とは違い、申立ての前に債権者に受任通知を送らないパターンも多いです。秘密裏に準備を進めて、いきなり裁判所に自己破産を申し立てることが多いのです。
銀行に受任通知を送った方がいい場合
しかし例外的に、早めに銀行に受任通知を送った方がいい場合もあります。
それは、今後入金される売掛金などを、銀行の貸付金と相殺されないようにするためです。
破産法72条では、「支払の停止があった後に破産債権を取得した場合はその債権を相殺できない」と定められています。これは少し法律知識がないとわからないですが、要するに、「銀行は、支払の停止があった後に口座に入金されたお金を相殺することはできない」という意味です。
弁護士が送る受任通知は、債権者に、会社の債務超過や支払停止の事実を通知するものです。
つまり銀行に受任通知を送付しておけば、銀行は、受任通知を受け取った後に入金されたお金を相殺できないことになります。
そのため、銀行に入金される予定の売掛金を、破産費用として使うことを予定している場合は、銀行に相殺されてしまわないように受任通知を送っておいた方がいい場合があります。
もう1つ難しい問題があります。
それは、「法人の財産から代表者個人の破産費用を支払ったり、代表者個人の財布から法人の破産費用を支払うことが認められるか?」という問題です。
厳密にいえば、法人と個人はあくまで別々の主体です。
そのため、例えば、法人の預金口座から代表者個人のための弁護士費用を支払うのは、法人が代表者個人のためにお金を流出させるのと同じことですから、法人の債権者を害する行為と言えなくもありません。
つまり詐害行為 ※ として、破産管財人に否認される可能性があるということです。
実際に過去にも、法人が代表者個人の弁護士費用を支払ったケースで、破産管財人が否認権を行使して、弁護士に対して不当利得返還請求をし、その請求が認められた判例もあります。(大阪地裁 平成22年8月27日)
しかし原則としては、このような破産費用の支出に対しては柔軟に対応するべきで、管財人はよほどの事情がない限り、否認権を行使すべきではないという見解もあります。
実質的には、(個人が法人の連帯保証をしているため)個人と法人の債権者はほとんど同じであることが多く、法人が個人の破産費用を支払ったとしても、法人の債権者を害することにはならないと考えられるからです。
この辺りは弁護士ともよく相談する必要があります。
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