養育費や婚姻費用分担は自己破産しても免責されない?
離婚後の養育費の支払いや、離婚前の婚姻費用(※)の支払いは、自己破産をしても免責されません。典型的な非免責債権の1つです。養育費(や婚姻費用)で、自己破産開始決定よりも後に発生した分は、そもそも破産手続きと関係のない債権なので、破産手続きの期間中であっても支払わなければなりません。自己破産より前の養育費の滞納分は、破産手続きの期間中は請求することができません。が、免責確定後にも支払い義務が残ります。
もし(元)夫が養育費や婚姻費用を支払わなかったり、滞納したまま自己破産しちゃった場合って、未払いの分の養育費はどうなるの? それにこれからの支払い分はちゃんと貰えるの?
でも自己破産の手続き期間中は、養育費や婚姻費用は請求できないでしょ? 自己破産って申立てから免責決定までに半年くらいかかる場合もあるよね。その間、生活費が貰えないと困るんだけど。
つまり、「自己破産前に滞納していた分」は非免責債権だから破産手続き後に全額を請求してOK、「自己破産後に発生した分」は手続き外債権だから破産手続き中も請求してOKってことね?
- 養育費や婚姻費用は、破産開始前の「滞納分」は非免責債権になる
- 非免責債権は、破産手続き中は請求できないが、免責決定後に全額請求できる
- 破産開始決定後(破産手続き中)の養育費や婚姻費用は、手続き外債権になる
- 手続き外債権は、破産手続きとは関係がないので、毎月、支払い義務がある
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養育費や婚姻費用についての強制執行はどうなる?
養育費や婚姻費用は、妻や子供の「毎日の生活のため」に日々新しく発生する権利です。
例えば、離婚協議や調停で「20歳になるまで6年間、毎月8万円の養育費を支払う」と決めていて、将来の具体的な請求額が576万円(年間96万円 × 6年)と自己破産前に確定しているとします。この場合でも、養育費が「576万円の1つの債権」として扱われることはありません。
養育費の金額は将来、変わる可能性もあるからです。
そのため、自己破産手続きでは、(1)自己破産前に既に発生していて、まだ支払われていない分(滞納分)と、(2)自己破産の開始決定後に毎月新しく発生する養育費の支払い分、とを区別して取り扱います。前者は破産債権となり、後者は手続き外債権となります。
先生の会話にもあるように、養育費等の滞納分は「破産債権」ではありますが、分類としては「非免責債権」になります。そのため、自己破産手続きが進んで、最終的に免責許可が下りたとしても、滞納分も免責にはなりません。
つまり最終的には、妻は全額を請求することが可能です。
ただし、一応は「破産債権」であることに変わりありませんので、破産手続き中の行使が禁止されます(破産法100条)。破産債権は、破産手続きの中でしか行使することができません。非免責債権だからといって、破産手続きが終わるまでは直接、夫に請求することはできません。
破産手続きが終われば(免責決定が出た後であれば)、夫に対して養育費の滞納分を請求することもできますし、婚姻費用の滞納分について差押えをすることも可能になります。
既に養育費・婚姻費用の差押えをしていた場合
養育費や婚姻費用の滞納分について、既に給与差押えなどの強制執行を開始していた場合は、これらは、いったん失効(または中断)します。破産法で「破産債権に基づく強制執行は、破産開始決定により失効する」と定められているからです(破産法42条)
基本的に、すべての強制執行手続きは、自己破産の開始とともに失効・中断するのが原則です。これについては以下の記事で解説しています。
養育費や婚姻費用の場合も、基本的には同じです。「自己破産前の滞納分」について、給与差押え等がされていた場合は、差押えは失効します。
しかし例外として、既に滞納分は解消していて「将来分のためだけに給与差押えが続いている状態」の場合は、自己破産が開始しても給与差押えは解除されません。養育費や婚姻費用の差押えは少し特殊なので、「滞納分がなくなった後も、将来分のために差押えが続く」ことがありえます。
上記の意味がよくわからない場合は、ぜひ以下の記事をご覧ください。
一方、破産開始後に日々発生する分は「手続き外債権」ですので、破産債権ではありません。そのため、こちらは破産手続き中に破産者に請求しても問題ありませんし、破産手続き中に破産者に対して強制執行することも出来てしまいます。
例えば、6月初旬に自己破産の開始決定がされた場合、6月末以降に発生する養育費は今まで通り、遅滞なく支払わなければなりません。
こちらは非免責債権どころか、そもそも破産債権ではありませんので、前述の「自己破産の開始決定後は、破産債権に基づく差押えをすることはできない」という破産法42条 の条文が適用されません。
なので、支払いが遅れれば、強制執行をされても文句は言えません。
既に自己破産が開始しているので、自宅や預金などの差押えはできないでしょうが、給与を差押えられる可能性は十分あります。
自己破産の開始決定後に支給される給与は、新得財産 ※ となりますので、もともと破産手続きの処分対象になりません。
つまり、開始決定後の養育費や婚姻費用に基づいて、開始決定後の給与を差押えるのであれば、「破産債権に基づく差押え」にも「破産財団に対する差押え」にも当たりませんので、すぐにでも強制執行が可能です。
養育費や婚姻費用というのは、家族である妻や子供の生活のための費用なので、どんな状況であっても「支払わなくていい」ということはありません。支払ってあげないと子供が生活できません。
ただし「転職したせいで、収入が激減してしまった」「自己破産までしてるのに毎月××万円も払えるわけがない」「相手は再婚して養子縁組までしてるんだから、養育費はもう要らないはずだ」といった様々な事情で、現在の養育費や婚姻費用が高すぎる ということはありえます。
この場合は、家庭裁判所に養育費・婚姻費用の減額調停を申し立ててください。
養育費や婚姻費用というのは、夫婦それぞれの収入に応じて、裁判所が作成した「算定表」に基づいて客観的に計算されます。もし収入が大幅に減っていたり、相手の収入が増えているのであれば、養育費等の減額が認められる可能性はあります。
特に、自己破産するほどの経済状況に陥っているのであれば、養育費の減額が認められる可能性は高いでしょう。
たまに「調停なんて相手が話し合いに応じてくれないと意味がないだろ」と誤解されている方がいますが、養育費や婚姻費用の調停は、不成立に終わったとしても自動的に審判に移行します。審判に移行すれば、裁判官が算定表をもとに決定を下しますので、相手の同意は必要ありません。
自己破産の直前に養育費を支払うと、偏頗弁済になる?
さて、自己破産の開始決定後に生じる養育費・婚姻費用は、支払い義務があることがわかりました。では自己破産の直前、特に自己破産を申し立ててから開始決定が下りるまでの間はどうでしょうか?
一般的には、自己破産の直前期は、借金の個別返済が禁止されます。自己破産の直前に、他の債権者への返済をストップさせておきながら、特定の債権者だけに優先的に返済をするのは不公平だからです。
これを偏頗弁済の禁止 ※ といいます。
しかし養育費や婚姻費用の場合は、相当な範囲内であれば、自己破産の直前に支払ったとしても偏頗弁済にはなりません。管財人による否認対象にもなりませんので、自己破産前だからといって支払いを停止する必要はありません。
なお、偏頗弁済については以下の記事も参考にしてください。
婚姻費用の場合は、婚姻関係が続いている限りずっと発生するものなので「一括払いする」ということはないでしょうが、養育費は子供が成人するまでの期限付きのものなので、「将来の養育費を一括払いする」ことが可能です。
例えば、月5万円の養育費を5年間であれば、将来分の金額は「300万円」と具体的に算定できます。そのため、離婚時に一括で300万円を支払えば、将来の養育費の負担義務を免れることができます。
しかし自己破産の直前に養育費の一括払いをした場合は、偏頗弁済になってしまう可能性があります。敢えて自己破産の直前に、将来分を一括払いする必要性がないからです。
自己破産の直前にたくさんの現金を元妻に支払うと、他の一般の債権者を害することになるのは明白です。
そのため、自己破産の直前に、将来分の養育費までまとめて一括払いすると、その金額によっては、管財人に否認権 ※ を行使されてしまう可能性があります。毎月発生する分の養育費を支払うだけであれば、問題ありません。
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