携帯料金の未払いで簡易裁判所に訴訟や差押えがされる場合
携帯料金の未払いについて、強制解約後に何度も催告を受けているにも関わらず、それでも放置を続けていると簡易裁判所から特別送達で訴状や支払督促が送られてくることがあります。もし裁判になった場合は、裁判所に出頭して「裁判上の和解」を目指すことになりますが、もし判決が出てしまった場合はその次の段階として差押えになることもあります。
もし携帯の未納料金をそのまま払わずに放置していると、裁判になったりすることがあるって本当ー? たかが携帯料金で裁判になったり差押えになったりするのかな、って気もするけど。
でも実際に携帯の利用料金を支払ってなくてこっちが悪いのは事実なんだから、「異議申立て」っていうのをしても裁判所に却下されちゃうんじゃないの?
- 携帯キャリアによる未払い料金請求の裁判は、訴訟の件数としては結構多い
- 簡易裁判所に支払督促や通常訴訟の手続きが申し立てられることが多い
- 支払督促の場合でも、2週間以内に異議申立てをすれば通常訴訟に移行する
- 訴訟になった場合でも、大半は「裁判上の和解」となり分割払いで合意する
- 和解できずに判決が出た場合は、給与差押えや動産執行になる可能性がある
1.携帯料金の未納を放置していると裁判になることもある
2.裁判上の請求は「通常訴訟」か「支払督促」の2つが多い
3.裁判のゴールには「和解」か「判決」しかない
4.分割で支払う意思を示しても裁判になるケースがある?
5.実際に差押えや強制執行まで発展する可能性はあるの?
携帯料金の未納を放置していると裁判になることもある
全体の割合からすればそれほど多くはないかもしれませんが、実際に「携帯料金の未払いを理由とする訴訟」は頻繁におこなわれています。簡易裁判所の予定表を見ればわかりますが、原告を携帯キャリアとする民事訴訟は実はかなり多いのです。
裁判にどのくらい積極的かは、キャリア各社で差はあります(例えば、ドコモやソフトバンクなどは比較的多く、KDDIを原告とする訴訟は少ないようです)が、いずれの携帯会社であっても、未払い料金の金額によっては裁判沙汰になってもおかしくはありません。
もちろん、その前の段階として何度も「法的措置を取ります」という催告書が届きますので、裁判になるまで支払っていない方の中には、「払いたくても払えない」という無資力な方も多いでしょう。
その場合、携帯会社側も「一括で払うお金がない」ことはわかっていますので、裁判になったとしても、最終的には 裁判上の和解 になることが多いです。つまり、裁判所に出頭して裁判官の仲裁のもとで、相手の携帯会社の担当者さんと、分割返済の方法(月々の返済額と返済期間)を決めることになります。
携帯料金の未払いで簡易裁判所に訴えられた場合、手続きとしては主に2パターンが考えられます。「支払督促」と「通常訴訟」です。「支払督促」という言葉は、普通の催告書でも使われることがありますが、裁判所の送付する支払督促はまた意味が違います。
どちらの手続きにしても、まずは簡易裁判所から「特別送達」で郵便が届きます。
この簡易裁判所からの郵便物は受け取り拒否ができませんので、必ず受け取ってください。留守であれば不在票が入りますが、そのまま故意に受け取らないようにしていても、最終的には勝手に法的手続きが進行していきますのでメリットがありません。これは以下の記事で解説しています。
支払督促が届いた場合は、まず必ず2週間以内に「異議申立て」をしてください。
支払督促が届いた場合
裁判所からの郵便物に、「督促異議申立書」という用紙が同封されています。この中に「分割払いについて債権者と話し合いを希望する」というチェック欄がありますので、そこにチェックをして簡易裁判所に郵送するだけです。
支払督促は放っておくと2週間で 仮執行宣言 が付されますので、たった2週間で相手方は差押えが可能になります。しかし非常に手続きが簡単な制度である一方で、異議申立てをするだけで必ず通常訴訟に移行する(確定を阻止できる)ので拒否するのも簡単です。
そもそも支払督促というのは、「債務者に一切の聞きとり調査等がないまま、債権者だけの意見を一方的に聞いて裁判所が発付する督促」なので、話し合う機会すら与えられません。なので、債務者としては「理由はともあれいったん異議申立てをする」のがセオリーです。
督促異議申立てをすると、そのまま「通常訴訟」に移行しますので、通常訴訟のなかで「裁判上の和解」をして分割払いを認めて貰う、というのが一般的な流れになります。
通常訴訟の訴状が届いた場合
一方、簡易裁判所に通常訴訟を申立てられた場合は、最初から「訴訟手続き」という扱いになります。そのため、やはり裁判所に出頭して 裁判上の和解 をすることになります。
(なお簡易裁判所の場合は、裁判所の許可があれば従業員でも代理人になれます。そのため、相手方は弁護士ではなく、携帯会社の担当社員さんが会社の代理人として出廷されること多いです。)
呼出状の期日に簡易裁判所に出頭すると、司法委員という役職の方が仲裁に入って話をまとめてくれますので、原告の携帯会社の社員さんと「月々いくらまでなら払えるのか?」「何カ月(何年)での分割払いにするか?」ということを協議します。これで話がまとまれば、裁判上の和解が成立し、和解調書が作成されます。
この辺りの訴訟手続きについては、「答弁書はどう書けばいいのか?」「和解内容は事前に相談した方がいいのか?」「裁判所に出廷しなくても済む場合はあるのか?」などいくつかポイントがありますが、全部書くと長くなるため別記事にまとめます。
いずれにしても訴訟になった場合、少なくともその請求が正当なものであれば、債務者側にできることは「和解で分割払いを認めて貰う」位しかありません。和解ができなければ、そのまま裁判所が一括払いの判決を出しますので、相手はすぐに差押えが可能になります。
ちなみに裁判手続きには「少額訴訟」という方法もありますが、これは同じ簡易裁判所に年間で10回までしか申し立てることができない制度です。そのため携帯会社のように、膨大な数の債権回収をしている法人の場合は、通常はあまり利用しません。
裁判になった場合の最終的な出口は、基本的に「和解」か「判決」の2択しかありません。和解が成立しなければ判決になります。
例えば、そもそも「生活が困窮していて1円も支払うことができない」という場合は、和解が成立する余地がありませんので、携帯会社側の請求通り、「被告は××万円を一括で支払え」という裁判の判決が出ることになります。
判決が出ると、相手方の携帯会社はそれを元にすぐに差押えができるようになります。ただし「差押える財産が何もない」場合は、特にそれ以上、何がおきるわけでもありません。当たり前ですが、逮捕されたりすることはありません。
この場合、最初から「支払督促」を放置していても全く同じ結果ですから、本当に生活が苦しくて到底支払えないのであれば、わざわざ支払督促に異議申立てをしても意味がないケースもあります。この辺りでご自身で判断できない場合は、法テラス などで弁護士の先生に相談してください。
支払えない金額で和解をしても意味がない
たまに裁判所の雰囲気に呑まれて(といっても簡易裁判所で和解の協議をする場合は、ドラマのような法廷ではなく普通の会議室に近いですが)、到底、支払えないような月々の支払額で和解してしまう方がいます。
しかし裁判で和解をした場合は、その内容は「和解調書」という公文書に記録されます。もしこの内容通りの支払いができなかった場合には、債権者(携帯会社)はその和解調書をもとにすぐに差押えをすることができます。つまり、最初から判決が出されるのと同じことになります。
そのため、裁判で和解をするにしても「本当に毎月支払える金額」で和解しなければ意味がありません。
ケータイの強制解約後にずっと支払いの催告を放置し続けて、いざ簡易裁判所からの通知が届いた段階になって慌てて「携帯会社と分割払いの相談をしよう」としても、上手くいかない場合があります。
つまり一部には、支払う意思があって「携帯会社側に分割払いをお願いしている」場合でも、訴訟を強行されてしまうケースが存在するのです。
結局、裁判になっても「分割払い」で和解するのであれば、なぜ携帯会社はわざわざ訴訟をするのでしょうか?この場合の携帯会社の目的は、債務名義 の取得にあります。
簡単にいうと、一部の債務者に対しては「何かあったときに、いつでも給与差押えなどの強制執行ができるように、念のために裁判の判決や和解調書を取っておく」ということが社内の方針として決まっている場合があるのです。
裁判外で(携帯ショップ等で)分割払いの和解交渉をしたとしても、今後、またその約束を破って支払いが遅れる可能性は十分に想定できます。それであれば裁判上の和解をして、和解調書を作成しておいた方が、イザというときにいきなり強制執行ができて有利なわけですね。
債務名義については以下の記事でも詳しく解説しています。
とはいっても、差押えるような財産がなければ特に何ができるわけでもありません。
お金が銀行口座に眠っているような方であれば、すでに裁判の段階で未納金を支払っている可能性が高いでしょうし、もし仮に自宅などの不動産を保有していたとしても、数十万円の携帯債権のために不動産を競売にかけられる可能性は低いです。
ただし勤務先が携帯会社側に知られている場合は、給与差押になる可能性がないわけではありません。またごく稀にですが、家に執行官が訪ねてきて金目の物があれば押収していく「動産執行」がなされる場合もあります。
実際に差押えや強制執行まで発展する可能性はあるの?
こちらも全体の割合としては少ないと思いますが、全くないわけではありません。「差押えになるわけがない」とタカを括っていると痛い目にあう可能性があるので、当たり前ですが、支払う余力があるのであれば未納金は早めに支払ってください。
差押えの可能性があるとすれば、「給与差押え」「預金差押え」「動産執行」の3つなので、これらについて説明します。
例えば、「ケータイ会社には今の勤務先は知られていないから、給与差押えはないだろう」と考えている方は多いですが、大手携帯会社は3社ともCICという 信用情報機関 に加盟しています。
CICには、勤務先の情報が登録されていますので、クレジットカード、カードローン、車ローン、その他、何らかの債務で現住所を登録していれば、携帯会社がそれを閲覧することは簡単です。
一方、銀行口座の場合は、「どの金融機関のどの支店に口座があるか?」を債権者側で特定しなくてはならないため、現実的には、引落し用に使っていた銀行口座以外を差押えるのはかなり難しいかもしれません。住所地近辺の銀行の支店を、手当たり次第、差押えてみることはできなくもないですが、債権が少額であれば普通はやらないでしょう。
もちろん、携帯会社に教えている銀行口座にお金が残っていれば、預金が差押えられる可能性はあります。ただ口座にお金が残っているかどうかは差押えてみないとわかりませんし、あまり預金口座を差押えられたという話は聞きません。
動産執行というのは、債権者の申立てを受けて、裁判所の執行官が債務者の家にある持ち物(動産)の中から換金可能なものを差押え、これを競売にかけることで、債権を回収する強制執行手続きの1つです。もちろん 債務名義 が必要です。
動産執行の場合は、携帯会社側が「やろう」と思えばできます。
既に判決を取っている(または裁判上の和解後に、債務者が約束を破った)場合は、2~4万円の予納金を裁判所に支払うだけで、裁判所の執行官を債務者の家に訪問させて、資産価値のある財産があれば「没収」することができます。
ただし、実際には「資産価値のある財産」なんて庶民の家にはほぼありません。中古品としての時価が20万円を超えるような高額な美術品やら、宝石やら、楽器やらがあれば押収されますが、裁判になっても携帯代すら払えないような方の家には、普通そのようなものはないため、動産執行はほぼ9割は「執行不能」として空振りになります。
- 参考記事
- 動産執行をされるとどうなる?動産執行の流れと没収財産(準備中)
そのため、一般の民間会社の債権回収で「動産執行」がされるケースは、最近ではほとんどありません。ドコモの場合は、たまに動産執行をするケースがあるという話を以前は聞きましたが、今はわかりません。他の携帯会社の場合は、ほとんどないでしょう。
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