個人再生で離婚後の慰謝料や養育費は減額できる?
最近では夫や妻の借金が原因で離婚する夫婦も珍しくありません。そもそも離婚自体がめずらしいことではなくなった時代です。そこで気になるのが、離婚に伴って生じた慰謝料や養育費の支払いについて、個人再生で減額することはできるのか?という問題です。 個人再生は原則、全ての借金が大幅に減額されますが、慰謝料や養育費はどうでしょうか?
個人再生では、借金は最低弁済額で決められた基準(目安1/5)まで減額されるって話だけど、離婚後の養育費や慰謝料についても減額ってされるのかなー?!
将来の養育費については、個人再生手続きに関係なく、離婚時の協議で決めた通りに払い続けないとダメってことだね。 で、過去の未払い分の養育費は・・・えーっと・・・非減免債権って何だっけ?
まあ養育費は減額されないってこと、将来分と未納分の養育費で扱いが違うってことだね。 離婚時の慰謝料はどうなのかなー? これも養育費と同じように減額はされないのー?
- 養育費は個人再生で減額されない。全額支払いの義務がある。
- 個人再生の開始より後の養育費は共益債権として今まで通り支払う。
- 個人再生前に、未払いの養育費があった場合は非減免債権となる
- 慰謝料は「悪意による不法行為」が原因の特殊ケースを除き、減額される
1.手続き開始後の養育費は、個人再生と関係なく支払いが必要
2.個人再生前に、既に払えずに養育費を滞納している場合
3.離婚時の慰謝料は、個人再生で減額される可能性が高い
4.慰謝料が非減免債権にあたるかどうかは、訴訟で決める
個人再生でも養育費は減額されず全額支払う
個人再生では、養育費については減額対象にはなりません。 養育費は子供の生活、監護や教育のために必要なものであり、扶養義務に基づくものなので、他のキャッシングなどの借金と同等に扱って減額することはふさわしくないからです。
個人再生の手続き開始より後に、日々新たに発生する養育費の支払い義務については、共益債権となります。共益債権は「個人再生手続きによらずに随時、弁済する」と定められていますので、個人再生手続きに関係なく、決められた通りの支払いが必要です。(民事再生法121条)
例えば、離婚協議書や覚書、公正証書などで、養育費について以下のように定めていたとしましょう。
○○ は ×× に対し、養育費として平成_年_月_日から同人が成年に達する日の属する付きまで、1カ月金 3万円ずつ、毎月末日限り ××名義の書き預貯金口座に振り込んで支払う。
×××銀行 ×××支店
口座番号 ××××××××××
この場合、個人再生手続きの開始後も、再生計画の履行中も、個人再生に関係なく毎月末日までに3万円を支払い続ける必要があります。共益債権は、民事再生法85条の弁済禁止(詳しくはこちら)にも該当しませんので、再生手続き中も支払って問題ありません。
なお、将来に渡って支払っていく養育費については、共益債権なので債権者一覧表に記載する必要はありません。再生計画にも含まれません。ただし、そのような支払い義務を負っていることは、陳述書などで裁判所に説明する必要があります。
個人再生の手続き前に、既に養育費を払えない状態になっている場合は、未払い分の養育費の扱いはどうなるでしょうか?
この場合、滞納分の養育費については、非減免債権になります。非減免債権というのは他の借金と同様、再生債権ではありますが、減額することは認められない、という特殊な債権です。
再生債権のうち次に掲げる請求権については、当該再生債権者の同意がある場合を除き、債務の減免の定めその他権利に影響を及ぼす定めをすることができない。(民事再生法229条3項)
(1)再生債務者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
(2)再生債務者が故意または重大な過失により加えた、人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
(3)夫婦間の協力及び扶助の義務、婚姻から生ずる費用の分担義務、子の監護の義務、その他の扶養義務に係る請求権
子供の養育費は、このうち明らかに(3)の子の監護、扶養にあたりますので非減免債権となり、個人再生で減額することのできない債権になります。
とはいえ再生債権の一種ですから、債権者一覧表への記載は必要ですし、最低弁済額を算定するときの基準金額にも含める必要があります。また再生手続き中に勝手に弁済することは禁止されます。
では次に、支払い方法について確認しておきましょう。
非減免債権は、最終的には全額を支払う必要がありますが、その支払い方法は少し特殊なので注意が必要です。例えば、月5万円の養育費の支払いについて、手続き開始前の半年分(合計30万円)が未払いになっているケースを考えてみます。
まず再生計画の履行期間(原則3年)のうちは、全額を支払う必要はありません。他の借金と同じように一部を弁済するだけで許されます。個人再生の再生計画では、以下のように定めていたとします。
再生債権の元本および再生手続き開始決定の日の前日までの利息・損害金についての合計額の80%に相当する額について免除を受ける
この場合、前述の未払い養育費30万円について、再生計画の3年間は20%に相当する6万円だけを支払えば大丈夫です。月々に換算すると1666円ですね。もちろんこれは過去の未払い分の話で、同時に毎月5万円の養育費は共益債権として支払いが必要です。
また再生計画の3年間が終了した段階で、残りの80%に相当する24万円を一括で支払う必要があります。
もう一度まとめると、非減免債権の支払いは、再生期間中の3年間は他の借金と同じように圧縮分だけを支払い、再生期間の終了後に残額を一括で支払うことになります。(民事再生法232条4項)
離婚時の慰謝料は、個人再生で減額される可能性が高い
慰謝料については、養育費のように継続して発生するものではなく、離婚協議の時点(個人再生前)に確定しているものなので、全額が再生債権になります。
問題はこの慰謝料が「減額されるかどうか?」ですが、非減免債権にあたらない限りは、一般の再生債権として減額されることになります。
非減免債権にあたる債権は、こちらの通りです。このうち可能性があるとすれば、(1)の「悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」ということになります。
この「悪意で加えた不法行為」については、専門家の間でも意見がわかれるところですが、一般的には、「積極的に相手を害する意図を持って行った不法行為」と解釈されます。
つまり離婚の慰謝料の原因が、意図的に妻(や夫)を傷つける目的でされた行為でなければ、慰謝料は非減免債権にはなりません。
例えば、夫の不倫や浮気などが理由で離婚した場合、この不貞行為が「妻を積極的に加害する意図でされた行為か?」というと、そこまでは言えないケースが多いのではないかと思います。この場合、慰謝料は非減免債権ではありませんので、他のキャッシングの借金等と同じように減額されます。
一方、家庭内暴力(DV)などが原因で離婚したケースであれば、非減免債権の要件を満たすかもしれません。このあたりは、ケースバイケースになります。
なお、「自分のケースでは、慰謝料が非減免債権かどうか微妙で判断が難しい」というケースもあるかもしれません。しかし、残念ながら特定の債権が非減免債権にあたるかどうかは、個人再生手続き内では判断できません。
個人再生手続き内で決定できるのは、「債権が存在するかどうか?」「債権や担保物の評価額が正しいかどうか?」だけです。そのため、債権者と再生債務者の間で、慰謝料が非減免債権かどうかで争いがある場合、個人再生手続きで確定することはできません。
当然、債務者側は「減額したい」という思惑があれば、一般の再生債権として申告するでしょうから、もし元妻が「絶対に減額させたくない!」という場合には、別途、訴訟手続きをして非減免債権かどうかを確定する必要があります。