奨学金で自己破産する前に知りたい救済(減額)制度とは?
少し前から奨学金が返済できないという問題は社会問題になっています。つい最近も、奨学金の返済ができず自己破産にいたった、という40歳フリーターの事例がYahooニュースに取り上げられていました。
奨学金が返済できなくなって自己破産してしまう例が最近増えているみたいだけど、奨学金が払えなくなったらもう自己破産するしかないのかなー?!
奨学金に債務整理をする以外の救済方法があるってことなのー?!
奨学金の借入は、超低金利な上に元本が大きいローンのため、将来利息のカットなどを任意交渉する「任意整理」等ではほとんど解決になりません。また最近は奨学金の返還をめぐって訴訟をおこされる案件も増えてきたため、自己破産にいたってしまうケースが増えてきています。
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そもそもなぜ奨学金で自己破産する人がいま増えているの?!
将来のキャリアや就職のため、大学に進学するために借りた奨学金で、逆に返済に苦しめられて自己破産に至ってしまう、という事態が現実に増えつつあります。
昔から奨学金の未返済、滞納は社会問題になっていましたが、ここ数年の傾向として(奨学金滞納者に対して)奨学金返還訴訟をおこす団体が急増するなど、奨学金の取り立てに対する意識が以前よりも厳しくなっているため、結果として自己破産等に至る債務者が増えているといいます。
まず前提として、今でも奨学金の未返済額は年々増え続けています。これは奨学金を借りて進学した学生が、正規雇用に就けていないこと、給与が上がらないこと、など可能性は色々ありますが、とにかく事実として奨学金を返済できない人が多いのです。以下は奨学金の未返済額累計と未返還者数の推移です。
またこれに伴い、奨学金の返還訴訟件数も急増しています。日本学生支援機構調べ(産経ニュース)によると平成24年度の奨学金の訴訟件数は6193件にも上りました。
2004年度当時には、奨学金に関する返還訴訟件数は年間50件程度しかなく、訴訟をおこしてまで取り立てるものではない、という風潮もあったため、奨学金債務のみで破産する債務者というのはほとんどいませんでした。しかし奨学金返還率が年々悪化したことで、今では日本学生支援機構は、奨学金の長期延滞者には訴訟、強制執行による取り立てを行うスタンスを明確にしています。
日本学生支援機構のホームページの「延滞した場合-JASSO」で示されているように、まず奨学金の延滞には「遅延利息」が付されます。
利息制限法等に基づき、借金に延滞があった場合に追加で付することのできる利息です。日本学生支援機構の場合は、平成10年(2008年)3月以降に貸与が終了した方の場合、第一種奨学金で5%、第二種奨学金で10%の延滞利息が付されます。(平成26年3月28日以降は5%)
日本学生支援機構の遅延利息5~10%は、一般的な貸金業者の延滞利息と比較すると決して高いわけではありません。こちらの記事でも解説しているように、利息制限法で7条1項では、営業上の金銭貸借契約での遅延損害金は年率20%まで認められていますので、貸金業者の相場と比較すると遥かに低い金利です。
ただし奨学金は元本金額が非常に大きいため、10%の利息が乗ると毎年の返済額は相当なものになります。ちなみに最近の奨学金による破産者増加を受けて、日本学生支援機構では平成26年4月以降に発生する延滞金の賦課率を年10%から5%にまで引き下げています(参考リリース)。これで今後、返済が少し楽になる方も増えるのではないでしょうか。
また前述のように日本学生支援機構JASSOは、長期延滞に対しては「訴訟によって回収をおこなう」「強制執行による取り立てを行う」というスタンスを明確にしています。奨学金が長期間に渡って延滞した場合、裁判所への支払い督促がなされ、それでも返済されない場合は強制執行がなされます。
- 支払督促申立 ・・・ 裁判所への支払督促の申立て(債権を法的に確定させる)
- 仮執行宣言付支払督促申立 ・・・ 強制執行を可能にする為の申立て
- 強制執行 ・・・ 上記に異議がなければ強制執行が可能
これらは消費者金融や貸金業者が強制執行をおこなう手続きや手順と代わりありません。強制執行というと、家財道具などが差押えられるイメージがあるかもしれませんが、現実世界でまず差押えられるのは、給料の振込口座になります。
差押えの流れについては、こちらの記事で詳しく説明しています。
奨学金での自己破産を避けるにはどうすればいいの?!
上記のように長期間に渡って奨学金の返済を滞納してしまい、訴訟・強制執行の段階になってしまった場合、ほとんど選択肢が残っていませんので自己破産や個人再生手続きを検討せざるを得なくなります。しかしまだその前の段階であれば、日本学生支援機構からもいくつかの救済策が用意されています。
日本学生支援機構の「減額返還制度」を利用すると、毎月の返済額を半分にまで減額して返済することが可能です(返済期間は2倍になります)。この減額返還制度を適用して貰うためには、収入が一定以下である旨の条件が必要ですが、この条件が平成26年4月から緩和され、より多くの方が利用できるようになっています。
減額返還制度 | 給与所得者 | 給与所得者以外 |
---|---|---|
収入条件 | 収入300万円以下 | 所得200万円以下 |
被扶養者控除 | 38万円 | 38万円 |
親等への生活補助控除 | 38万円 | 38万円 |
一律控除 | 25万円 | 25万円 |
出典:日本学生支援機構「減額返還制度」について 上記データは2015年3月時点調査のもの
この「扶養控除」と「一律控除」が2014年4月から新たに適用された緩和条件です。例えば給与収入で年収300万円を超える方であっても、25万円の一律控除により325万円以下であれば、「経済的な困窮」を理由とした減額返還制度の適用を申請できます。
また年収400万円の方でも、扶養家族が2人いる場合、≪年収400万円-(扶養控除38万円×2)-控除25万円 = 299万円≫となり、減額返還制度を適用できることになります。
またその他、「災害や傷病により返済が困難な方」や「海外在住により返済が困難な方」についても、減額返還が認められる可能性がありますので、詳しくは公式ページをご確認ください。
同じく日本学生支援機構の「返還期限猶予(一般猶予)制度」を申し込むことで、一定の条件を満たす場合に最長12カ月(1年間)の返還期限の猶予を受けることができます。
1度の申し込みで最大12ヶ月の猶予ですが、事情の継続が認められれば1年に1度の更新(再申請)が可能で、最大10年間(120か月)の猶予を受けることが可能です。
日本学生支援機構の「返還期限猶予制度(公式ページ)」は文字通り、奨学金の返済を一定期間、猶予してもらえる制度です。平成26年4月から、奨学金返済支援の一環として、返済期限猶予の連続申請の制限が最大5年から最大10年に延長されました。
ただし返還期限猶予の申請が可能なのは、「失業中」「傷病中」「災害」「経済困難」「海外研修中」などの規程の要件を満たす場合のみです。詳しくはこちらの「猶予事由による証明書と猶予期間」をご参照ください。
またこの期限猶予は、借金の総額や利息が減るわけではありません。あくまで先延ばしになるだけなので、将来の負担を減らしたい場合は、上の「減額返還制度」を利用して少しずつでも返済を継続することをお勧めします。
こちらは平成24年度から開始された日本学生支援機構の面白い奨学金制度です。仕組みとしては、一般的な奨学金と同様、返還型であり元本の返済義務があるのですが、その返還開始時期が年収300万円を超えるまでの間、猶予されるという仕組みです。
大学卒業後の給料は新卒であってもそれほど多いわけではありません。また人によっては就職活動に失敗し、すぐに職に就けない場合もあります。所得連動返還型無利子奨学金では、年収300万円を超えるまでの間は返済を猶予することで、修学中に学費を心配することなく安心して学業に取り組むことを支援する仕組みです。
さらに上記の「返還期限猶予制度」と異なり、こちらの所得連動返還型奨学金は猶予年数に上限がありません。10年以上であっても年収300万円に満たない期間はずっと返済猶予を受けることが可能です。 まさに良いことずくめのようですが、適用条件が「第一種奨学金」に限られるなど、奨学金を受けるための条件が少し厳しいため注意が必要です。(公式ページ)
どうしても返済ができない場合はまず個人再生を検討
上記のように日本学生支援機構でもいくつかの救済措置(減額制度や返済猶予制度)が用意されています。しかしこれらの制度はいずれも、借金元本そのものを減額したり、利息を免除してくれる性質のものではありません。
そのため、将来的にもう絶対に返済が不可能な状態に陥っている場合には、債務整理を検討する必要があります。
借金整理というと、どうしてもまず「自己破産」を検討する方は多いです。これは借金の問題に疲れた方の多くが「借金が0円(帳消し)になる」という自己破産のメリットに惹かれる、というのもあると思いますが、そもそも自己破産の知名度が圧倒的に高く、「個人再生」という制度をそもそも知らない方が多い、という点が問題です。
個人再生とは、民事再生法という法律に基づき、借金の元本を最大5分の1程度にまで減額すると同時に、将来的にかかる利息を免除して、減額後の借金を3年~5年かけて分割して返済する、という法律上認められた債務整理手続きです。
例えば奨学金の借金が現在300万円残っている場合には、個人再生手続きを適用することで借金の元本を100万円にまで圧縮できます。個人再生を適用した場合、この100万円には利息は一切付きませんので、3年間で支払う場合、月々の返済額は2.7万円(5年間の場合は1.6万円)にまで減額することができます。
もちろん個人再生にも全くデメリットがないわけではありませんが、自己破産に比べると法律上の制限等も少なくなります。どうしても法律上の破産者にはなりたくない、という方で一定の収入がある方であれば、破産せずに個人再生する、という選択肢もあります。(個人再生について)