自己破産すると生命保険外交員を辞めないといけない?!
現役で保険の営業職や生保レディの仕事に就いている方は、自己破産をすると保険外交員(保険募集人)の仕事に就けなくなる可能性があります。保険の勧誘をするには、生保一般課程試験に合格した上で、金融庁の登録を受ける必要がありますが、自己破産をすると、この登録を取り消される可能性があるからです。ただし必ず登録が取り消されるというわけではありません。
生保レディをしてる友達が、「自己破産をすると、職業制限で生命保険の勧誘員(生命保険外交員)を続けられなくなる」って悩んでるんだけど…、本当なのかなー?
自己破産の開始決定をしてから、免責許可が確定するまでの数カ月間は、法律上は「破産者」という扱いになる。この破産者に該当すると、保険募集人の登録を取り消される可能性があるんだ。
要するに、免責許可されて復権(※)するまでは、保険募集人の仕事に就けない期間ってわけね。でも「理論上は」とか「可能性がある」ってどういうこと? 必ず取り消されるわけではないの?
保険募集人が自己破産をすると、保険業法307条で「内閣は登録を取り消すことができる」と定められている。でも「取り消さなければならない」とは書いてないんだ。これを任意的取消という。
たしか 前の記事 では、宅地建物取引士も同じように自己破産で職業制限を受けるって聞いたけど、そのときは「取り消さなければならない」だったよね?
一般的には、必要的取消が多いんだ。
生命保険募集人に関しては、あくまで「取り消すことができる」って定められてるだけなのか。じゃあ、自己破産しても、実際には保険募集人の登録は取り消されないことが多いの?
自分から申告しない限り、バレなければ問題にならないことが多いように思うね。法人の場合は届出義務があるけど、個人の場合は、法律上の報告義務があるわけでもないし。
解雇事由として正当かどうかは微妙だけどね。だから念のために、自己破産を避けて任意整理(※)にするって人も多い。
生命保険募集人は、よく自己破産の職業制限の代表例として挙げられます。しかし他の職業とは異なり、すでに保険募集人として登録を受けている場合は、必ずしも登録が取り消されるわけではありません。それでも不安であれば、任意整理や個人再生を検討してください。特に任意整理であれば、官報にも載らないので会社にバレることも考えにくいです。
参考 → 自己破産におすすめの法律事務所を探す
- 自己破産の開始決定~免責許可の確定までの数カ月間を「破産者」という
- 破産者に該当する場合、内閣は、保険募集人の登録を取り消すことができる
- 内閣による登録取消しは、「取り消すことができる」という任意規定である
- 免責許可が確定して復権すれば、法律上は全く問題ない。欠格事由ではない
- 内閣の取消(保険業法307条)とは別に、保険会社の就業規則の問題がある
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1.既に保険募集人として登録されている場合の自己破産保険募集人として登録済の場合
2.自己破産すると保険会社の就業規則等に抵触する?!破産が就業規則に抵触する場合
3.勤務先の保険会社に自己破産がバレることはあるの?勤務先の保険会社にバレる?
既に保険募集人として登録されている場合の自己破産
保険募集人と自己破産の関係については、「これから保険募集人の資格を取得するのか」「すでに保険募集人の登録を受けているのか」で全く話が違います。
まずこの2つを明確に区別しなければなりません。
前者の場合、破産者に該当する人はそもそも登録を受けることができません。
詳しくは、以下の記事で説明しているので参考にしてください。
「まだ保険会社に入社していない」「これから保険会社の採用面接を受ける」といった場合は、たとえ免責許可を得て復権 ※ していても、自己破産の事実が不利に働く可能性はあります。
(これは法律の問題というより、各保険会社の採用基準の問題です)
しかし「既に保険会社に入社していて、かつ研修や一般課程試験も済み、保険募集人の登録も終わっている」状態の人が、自己破産をする場合のリスクは、それほど大きくありません。
保険業法では、生命保険募集人が自己破産をした場合、「内閣(金融庁)は、保険募集人の登録を取り消すか、または6カ月以内の期間を定めて、業務の全部もしくは一部の停止を命じることができる」と定められています。
先生の会話にもあったように、「~取り消すことができる」と記載されている点がポイントです。
つまり保険募集人の登録を取り消すかどうかは、金融庁の「任意」であって、他の職業制限のように、必ず資格を喪失するわけではありません。
一方、保険募集人として登録を受けた「法人」の場合は、違います。
法人の場合は、保険業法280条で「自己破産をしたときは(破産管財人 ※ が)内閣にすぐ届出をしなければならない」と定められており、またその場合には「保険募集人の登録は、その効力を失う」と定められています。
つまり、法人の保険募集人が自己破産した場合は、即時、保険募集人としての資格を失うことになります。内閣への届出義務も法律で定められています。
一方、この条文でも個人の保険募集人については何も記載されていません。報告の義務も定められていませんし、登録が当然に効力を失うとも書かれていません。実際に自己破産をした生命保険募集人の方で、登録の取消しを受けなかったケースも報告されています。
このように個人の生命保険外交員の場合、法律上は、自己破産したことを金融庁に報告する義務はありません。登録の取り消しもあくまで金融庁の「任意」です。
しかし、自己破産の事実が発覚した場合に、登録を取り消される可能性がどの程度あるかは、残念ながら正確なデータがないため、一般論としては何とも言えません。任意とはいえ、「取り消すことができる」と記載されている以上、登録を取り消される可能性はあると思っておいた方がいいでしょう。
不安な点がある場合は、必ず自己破産前に法律の専門家に相談することが必要です。
また、個人再生 ※ や任意整理 ※ を検討することもお勧めします。
個人再生は、裁判所に申請して借金を1/3~1/5程度まで減額する手続きですが、この個人再生には職業制限がありません。ですので、万が一にも保険募集人の登録を取り消される心配はありません。
任意整理はさらに安全です。
法律上、金融庁に登録を取り消される心配がないのは同じですが、さらに勤務先の保険会社に債務整理した事実がバレる可能性も低くなります。そのため、後述する「就業規則によって解雇される」などの問題もクリアできます。
自己破産すると保険会社の就業規則等に抵触する?!
保険会社によっては、就業規則で「自己破産した場合は解雇する」と定められていたり、入社時に「自己破産した場合は解雇することに同意する」といった誓約書を書かせる会社もあるようです。
※ ちなみに会社の解雇事由は、就業規則に必ず記載してあります。(労働基準法89条)
もちろん就業規則に解雇事由として記載されているからといって、会社側は必ず解雇できるわけではありません。
従業員を解雇するためには、客観的に合理的な理由が必要です。
つまり会社の業務に支障をきたす、迷惑をかけるような理由がなければ、解雇権の濫用となります。たとえ雇用契約や就業規則で「解雇する」と記載していても無効です。(労働契約法16条)
一般論としていえば、自己破産を理由に従業員を解雇することはできません。
しかし生命保険の勧誘員の場合は、その職務の性質上、全く合理性がないと言えなくもないので、自己破産が解雇の正当理由になるかどうかは微妙なところです。労働問題として、弁護士等に別途、相談する必要があると思います。
これも微妙なところです。
自己破産をした場合、官報 ※ という国の機関誌に2回(開始時と免責時)、氏名や住所が掲載されます。この官報の情報は、ネット等で公示されているので誰でも閲覧可能です。
そのため、官報から勤務先の保険会社にバレる可能性は0ではありません。
とはいえ一般的な勤務先であれば、わざわざ官報の情報をチェックしたりしませんので、官報から自己破産がバレることは、ほとんどありません。官報は毎日発行されていますし、図書館等に行かない限り、過去分を氏名で検索することもできません。
しかし、保険会社や金融機関は少し特殊です。
一部の大手保険会社では、官報情報をデータベース化して社内で保有していることがあります。
(生命保険協会が作成した「個人情報保護のための取扱指針」でも、官報に記載された公知の情報を、個人情報として取得・収集することは問題ない、とされています)
また金融機関や保険会社に向けて、有料で官報の検索サービスを提供する業者もあります。
そのため、自己破産した事実が保険会社に絶対にバレないとは言い切れません。
既に採用されて保険会社で働いているのであれば、あまり過剰に心配する必要はないと思いますが、不安であれば、任意整理や個人再生にした方が無難かもしれません。
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