会社が破産しても元従業員の未払給料や退職金は貰える?

会社が破産した場合でも、破産開始決定の3カ月前までの未払給料は財団債権 となり、破産管財人から随時弁済を受けることができます。それより前の未払分についても配当手続きのなかで優先されます。また、労働者健康安全機構の未払賃金立替払制度を利用すれば、過去6か月間の未払給料と退職手当のうち最大80%を立替払いして貰うことができます。

法人が破産した場合の未払給料
ねえねえ、先生ー!
夫が勤めていた会社が倒産しちゃって・・・、まだ数カ月分の未払給料や退職手当があるんだけど。これって破産手続きの中で支払って貰うことはできるのかな?
そうだね。
まず未払給料は、1)財団債権と 2)優先的破産債権に分類されることを知っておこう。財団債権は、破産手続き外で随時支払って貰える債権、優先的破産債権は配当手続きの中で優先される債権だ。
※ 財団債権については『 自己破産での「財団債権」「先取特権」の優先順位は?』を参照してね。
それ、前にも習ったよね。
要するに、破産した法人の財産の中から一番最優先で支払って貰えるのが財団債権だよね。配当まで待たなくても良くて、いつでも請求すれば支払って貰えるやつ。未払給料は財団債権なの?
破産開始の3カ月前までの未払給料は財団債権だね。
例えば、8月31日に破産準備のために解雇されて、正式に9月15日に破産開始決定されたとしよう。その場合、6月15日~8月31日分の未払給料は財団債権になる。

破産開始決定の3カ月前までのの未払給料分が財団債権になる-説明図

なるほど…。
単純に退職前の3カ月分の給料が財団債権になるわけじゃないのね。ちょっとややこしいな。でもこの間分は最優先で支払って貰えるんでしょ。じゃあ、それより前の分はどうなるの?
それより前の未払給料は全額が優先的破産債権になる。
優先的破産債権っていうのは、財団債権よりは優先順位で劣るけど、他の一般債権よりは配当手続きの中で優先される債権のことだね。
だからもし配当原資がなければ1円も貰えない。
あくまで破産債権だから、特別扱いはされないのね。
ちゃんと他の債権者と同じように破産手続きの手順を踏んで、もし法人に財産が余っていれば最後の配当では優先して貰える感じか。
じゃあ全額回収は期待できない場合も多そう。
うーん、そうだね。
ただ、労働基準監督署の『未払賃金立替払制度』を組み合わせて利用すれば有効だよ。この制度は、退職日から6カ月前までの未払給料のうち、最大8割を代わりに国が支払ってくれる制度なんだ。

未払賃金立替払い制度の説明図-退職日6カ月前までの未払給料のうち最大8割を立替払いする制度

えー、そんな凄い制度があるの?!
じゃあ、未払給料のうち8割はその「未払賃金立替払い制度」っていうのを使って国から受け取って、残りの2割分を破産した会社の管財人弁護士から受け取ればいいってこと?
そうだね。
立替払制度は、古い年月の給料から充当されていくから、残り2割も財団債権になることが多い。つまり組み合わせて使うことで、ちゃんと未払給料の全額が受け取れる可能性は高くなるね。
法人が破産した場合の退職金はどうなる?
未払給料のことはわかったけど…。
もし未払の退職金がある場合はどうなるの? 退職金は金額も大きくなるし、何となく全額を受け取るのは難しそうなイメージがあるけど…。これも財団債権になるのかな?
退職前の給料3カ月分に相当する金額は財団債権になる。
例えば、月給40万円の人で未払いの退職手当の金額が150万円の場合、そのうち120万円(3カ月分)は財団債権になって、残りの30万円が優先的破産債権になるね。

未払退職金の財団債権の説明図-退職前の給料3カ月分と同じ金額分が財団債権になる

やっぱり財団債権と優先的破産債権に分かれるのね。
でも給料の場合は、たしか破産開始前の3カ月分に限定するって話だったよね…? 退職手当の場合も、破産開始の3カ月前までに退職した人、とか何かそういう制限はあるの?
いや、それが面白いところだけど、退職手当の場合は時期の制限はないんだ。数年前に退職した人でも、未払の退職金があれば(退職日前の給料3カ月分に相当する金額を)財団債権として請求できる。もちろん消滅時効にかかってたらダメだけどね。
ふむふむ。
たしか労働基準法での退職金の時効は5年だよね。退職して5年以内であれば、かなり優先的に支払って貰える可能性があるのね!
じゃあさっきの立替払い制度の利用はどうなの?
こっちは支給資格が厳しい。
会社の破産申立ての6カ月前以内に退職した人じゃないと、そもそも未払賃金立替払制度の対象者にならないんだ。でも支給資格を満たしてれば、未払いの退職手当も最大8割まで立替払いして貰えるよ。

未払退職金の立替払いの説明図-破産申立ての6カ月前以内に退職した人のみ、未払退職金の最大8割を立替払い

退職金も立替払いの対象にはなるんだね!
ってことは、例えば、破産開始の4カ月前に退職した人で、未払給料3カ月分が90万円、未払退職金が120万円(合計210万円)の場合、最大8割の168万円が貰えるってこと?
そうなるね。
その場合、168万円はまず退職金に充当されて、次に古い日付の未払給料に充当される。つまり未払給料が42万円分残ることになるけど、この分は財団債権として破産会社に請求できる。
  • 未払給料のうち破産開始前3カ月分は財団債権、残りは優先的破産債権になる
  • 未払退職金のうち、退職前の給与3カ月分に相当する金額分は財団債権になる
  • 国の未払賃金立替払制度を利用すれば、未払給料の最大80%を立替て貰える
  • 具体的には未払給料6カ月分と未払退職金の合計額の最大8割が支給される
  • 解雇予告手当が財団債権になるかどうかは管轄裁判所の運用によって異なる

未払給料や未払退職金のうち財団債権に該当する部分

通常、会社が破産してしまうと、ほとんどの債権は紙屑も同然になります。
破産管財人 が会社に残っている財産を少しでも多く換金して債権者に配当しますが、それでも破産するくらいなので、ほとんど会社には財産が残っていない場合が多いです。

本来の債権額の5%も回収できればいいほうで、1円も配当が出ないケースも珍しくありません。

しかし元従業員の労働債権は、法律上かなり優遇されています。
特に財団債権に該当する部分については、かなり優先的に支払いを受けることができます。

労働者の未払給料などの債権は、比較的優遇されている-説明イラスト

そもそも財団債権や優先的破産債権って何だっけ?

給料や退職金などの労働債権は、すべて財団債権と優先的破産債権の2つに分類されます。

少し専門的な用語なので、詳しい説明は以前に説明した こちらの記事 を読んで欲しいのですが、大まかに説明すると、以下のような違いがあります。

債権の種類

債権の種類 説明
財団債権 破産手続きによらないで破産財団から随時弁済を受けることができる債権。つまり、配当まで待たなくても、破産手続き中に破産管財人から優先的に支払いを受けられる。
優先的破産債権 破産債権ではあるものの、他の一般の破産債権に比べて優先的に配当を受け取ることができる債権。破産手続きの中で債権額を確定させて、配当として支払を受ける。
一般債権 ほとんどの債権は、一般の破産債権になる。つまり破産手続きの中で債権額を確定させて、もし配当できる財産があれば、債権額の割合に応じて配当を受け取る。

財団債権
破産手続きによらないで破産財団から随時弁済を受けることができる債権。つまり、配当まで待たなくても、破産手続き中に破産管財人から優先的に支払いを受けられる。
優先的破産債権
破産債権ではあるものの、他の一般の破産債権に比べて優先的に配当を受け取ることができる債権。破産手続きの中で債権額を確定させて、配当として支払を受ける。
一般債権
ほとんどの債権は、一般の破産債権になる。つまり破産手続きの中で債権額を確定させて、もし配当できる財産があれば、債権額の割合に応じて配当を受け取る。

 
破産債権は、すべて 債権届出 → 債権調査(金額の確定) → 配当 の流れでしか支払いを受けることができません。
つまりまず裁判所に債権を届け出て、次に破産管財人がその債権を調査して金額を確定させて、最後に配当手続きで他の債権者と平等に(債権額の割合に応じて)財産を分配します。

しかし財団債権については、これらの手続きに参加することなく優先的に随時、破産管財人から支払を受けることができます。まだ誰も手を付けていない破産会社の財産の中から、一番最初に自分の取り分を回収できるのが財団債権です。

未払給料や退職金のうち財団債権に該当する部分

実は、未払給料や未払いの退職手当のうち、多くの部分が財団債権に分類されます。

給料は破産開始前の3カ月以内の分は財団債権になりますし、退職金も給与3カ月分相当が財団債権になります。またその他にも、破産前の3カ月以内に支給日が来るはずだった賞与や、その間の通勤費なども財団債権になります。

財団債権になる部分

債権の種類 説明
給料債権 破産開始決定の3カ月前の日以降の未払分が財団債権になる。
(例)8月31日に退職し、9月14日に破産開始決定があった場合、6月14日~8月31日の未払給料が財団債権となり、それ以前の未払分は優先的破産債権となる。
退職手当 退職前の3カ月間の給料総額に相当する額が財団債権になる。
(例)8月31日に退職し、6月1日~8月31日の給料総額(月給)が90万円だった場合、90万円は財団債権となり、残りは優先的破産債権となる。
賞与 就業規則などで特別な定めがない限り、原則として支給日に債権全額が発生する。
(例)1月14日に破産開始決定があり、12月20日支給予定だったボーナス80万円が未払の場合、80万円全額が財団債権となる

給料債権
説明 破産開始決定の3カ月前の日以降の未払分が財団債権になる。
8月31日に退職し、9月14日に破産開始決定があった場合、6月14日~8月31日の未払給料が財団債権となり、それ以前の未払分は優先的破産債権となる。
退職手当
説明 退職前の3カ月間の給料総額に相当する額が財団債権になる。
8月31日に退職し、6月1日~8月31日の給料総額(月給)が90万円だった場合、90万円は財団債権となり、残りは優先的破産債権となる。
賞与
説明 就業規則などで特別な定めがない限り、原則として支給日に債権全額が発生する。
1月14日に破産開始決定があり、12月20日支給予定だったボーナス80万円が未払の場合、80万円全額が財団債権となる

破産法の条文を読む(※クリックタップで開閉)

 
それでは、破産開始前に既に一部だけ退職金が支払われている場合はどうでしょうか?

一部の退職金が支払済みの場合

退職金は、破産開始の時点で未だ支払われていない分のうち、給料3カ月相当分が財団債権になります。例えば、退職金の額が200万円で、そのうち120万円は破産開始前に会社から支払われているとします。破産開始時点での未払分の残りは80万円です。

この場合、退職前の3カ月間の給与総額が90万円であれば、残りの80万円全額が財団債権となります。

破産開始前に一部の退職金が支払われている場合の未払退職金の財団債権-説明イラスト

賞与や残業代、通勤手当なども給料債権として請求できる

また決算賞与やボーナスも給料債権です。
これらは、就業規則などで特別な定めがない限り、支給日に全額が発生すると考えます。

そのため、例えば12月20日のボーナスが未払の場合、1月14日に破産開始決定があれば(3カ月前以内なので)全額が財団債権となります。しかし破産開始決定が4月14日の場合は、1円も財団債権になりません。全額が優先的破産債権です。

ちなみに以下のような債権は、すべて給料債権になります。
ですので、3カ月前以内に発生した分は、全て財団債権として請求できます。

【 給料債権 】

  • 残業手当
  • 役職手当
  • 通勤手当
  • 住宅手当
  • 単身赴任手当
  • 休日出勤手当

 
労働基準法11条では、「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」を給料債権として定義しています条文リンク

そのため、労働の対価としての性質がある債権は、すべて給料債権になります。
一方、解雇予告手当などは労働の対価性がありませんので、一般的には財団債権とはなりません。

解雇予告手当が財団債権になるかどうかは裁判所による

解雇予告手当とは

解雇予告手当とは、従業員を即時解雇する場合に支払わなければならない労働基準法で定められた手当のことです。意外とその存在を知らない方も多いかもしれません。

会社が経営不振に陥った場合、整理解雇といって、会社の都合で一方的に解雇することは法律上認められています。しかし会社が従業員を解雇するためには、最低でも解雇日の30日以上前に予告をしなければなりません。
これを解雇予告といいます。

解雇予告をせずに即時解雇する場合は、代わりに30日分以上の平均賃金を支払ってあげなければなりません。これを解雇予告手当といいます。

解雇予告手当の説明イラスト-即時解雇するのであれば、解雇予告手当として30日分の平均賃金を払わないとダメ

原則、解雇予告手当は財団債権ではない

一般的に会社を破産させる場合には、手続きの都合上、破産開始決定前までに従業員の全員を解雇します。このとき事前予告がなかった場合は、元従業員は、破産会社に対して解雇予告手当として30日分の賃金を請求できるのです。

しかしこの解雇予告手当は、解雇の手続き上必要なものであって、労働の対価として支払われるわけではありません。そのため、一般的にはこの解雇予告手当は財団債権にはならないと解釈されています。(民法上の「雇用関係の費用」にはなるため、全額が優先的破産債権になります)

このような理由から、原則として解雇予告手当は、破産手続きの中で配当として受け取れることを期待するしかありません。

ただし東京地裁など一部の裁判所では、破産管財人からの申請があれば、この解雇予告手当を財団債権として扱うことを認めています。つまり優先的に支払がされる場合があります。

解雇予告手当は原則として財団債権にはならないが、東京地裁では管財人の申請があれば財団債権として認める―説明イラスト

ご自身の管轄裁判所での運用がわからない場合は、会社側の弁護士や破産管財人などに聞いてみてください。

未払の給料や退職金の金額が自分ではわからない場合

優先的破産債権について配当を受け取るためには、破産開始決定後、速やかに自分の債権を裁判所に届け出なければなりません。

また財団債権については、「裁判所に届出をしなければならない」という破産法上の規定はありません(待っていれば破産管財人から随時、弁済される可能性はあります)が、こちらも出来れば自分から「財団債権がある」ということを破産管財人に申し出るべきです。

しかし従業員の方では、そもそも未払給料や退職手当がいくらなのか、自分で把握できないこともよくあります。

未払給料の額が自分ではわからない―イラスト

自分で金額がわからない場合は破産管財人に聞けばいい

就業規則や給与規程があれば、自分で計算することもできます。
ですが中小零細企業の場合、そのような情報がきちんと従業員に開示されている会社ばかりではありません。

また各種手当などを含む未払給料の金額を正確に把握するには、やはり会社側に残っている賃金台帳などの資料を確認する方が遥かに確実です。

ちなみに賃金台帳というのは、以下のような資料です。
従業員1人につき1枚作成され、労働日数や時間外労働、基本給、通勤手当、保険料などが全て記載されています。

賃金台帳の例

労働基準法での作成義務があるので、会社側には賃金台帳が残っているはずです。

わからなければ破産管財人に聞く

自分の未払給料や退職金の額がわからない場合は、破産管財人に聞いてください。(破産管財人の連絡先がわからなければ、会社側の窓口となっている代理人弁護士などに聞きましょう)

破産管財人には、給料債権についての「情報提供努力義務」が定められています。
それだけ労働者の債権は、法律で手厚く保護されているということです。

【 情報提供努力義務 】

破産管財人は、破産債権である給料の請求権または退職手当の請求権を有する者に対し、破産手続きに参加するのに必要な情報を提供するよう努めなければならない。
破産法86条

また後ほど説明する労働者健康安全機構の 「未払賃金立替払制度」 を利用する際にも、その金額について、破産管財人の証明書を発行して貰う必要があります。

ある程度の規模の会社であれば、自分で調べたりしなくても、会社側や破産管財人が未払額を計算してくれて、受け取りのための手順を案内してくれることもあります。破産管財人が元経理の社員などを補助者として雇って、まとめて給与計算などをすることも多いです。

しかしそうでない場合は、自ら債権者として積極的に行動しなければなりません。

未払賃金立替払制度で、最大8割まで補償して貰える

会社が破産した場合、破産管財人に未払分の給料を支払って貰うのと同時に、もう1つ絶対にやるべきことがあります。それが『未払賃金立替払制度』の利用です。

これは過去6カ月間の未払給料(賃金)と退職金の総額のうち、最大80%までを独立行政法人の労働者健康安全機構が立て替えて、代わりに支払ってくれるという制度です。(参考リンク

まずは支給条件などを確認してみましょう。

未払賃金立替払制度で支払って貰える金額

まず重要な点として、立替払いの対象となる賃金は「定期賃金」と「退職手当」だけです。

定期賃金とは毎月1回以上支払われる賃金のことをいいます。
例えば、給与の基本給や残業代、扶養手当、通勤手当などは対象になります。しかしボーナスや賞与は対象になりません。

また前述の「解雇予告手当」も、未払賃金立替払制度の対象には含まれません。

立替払いの金額

立替払いの対象となるのは、退職日の6カ月前の日以降に支給日の到来する未払給料と、未払いの退職金の合計額です。そのうちの80%を立替て貰うことができます。

ただし支給額には、以下の年齢による上限があります。

退職時点での年齢 総額の限度額 立替払の上限額
45歳~ 370万円 296万円
30歳~44歳 220万円 176万円
~29歳 110万円 88万円

※ 右列「立替払いの上限額」は、中央列「総額の限度額」に80%を掛けたもの

要するに年齢によって、立替払いの対象となる未払給料と退職金の合計額の上限が決まっています(中央列)。そのうち実際に支給される金額が80%になります(右列)。

具体的な事例1

例えば、以下の事例を考えてみましょう。

【事例1】

会社員33歳。毎月15日締め、25日支払の会社で、
平成28年3月25日支給分から給料が未払いに(基本給30万円)。
そのまま未払が続き、平成28年9月30日付けで退職。退職金120万円も未払い。
平成28年10月16日に会社の破産開始決定。

この場合、退職日は9月30日ですから、その6カ月前の3月30日~の分の定期賃金が立替払いの対象になります。毎月15日締めですから、対象となるのは以下の期間です。

【 立替払いの対象 】

  • 3月16日~4月15日分(4月25日支給分)
  • 4月16日~5月15日分(5月25日支給分)
  • 5月16日~6月15日分(6月25日支給分)
  • 6月16日~7月15日分(7月25日支給分)
  • 7月16日~8月15日分(8月25日支給分)
  • 8月16日~9月15日分(9月25日支給分)
  • 9月16日~9月30日分(日割り計算)

退職日の6カ月前の日以降に支払日の到来する給料が立替払いの対象-説明図

9月分は日割計算となりますが、3月16日~3月30日(4/25支給分)は全額対象になります。
支払日が退職日の6カ月前以降に到来しているからです。

つまり6カ月分の月給と、半月分の日割賃金、退職手当までが対象となります。
これを計算すると合計額は315万円です。もしこの方の年齢が50歳であれば、315万円の8割に相当する252万円が支給されます。

しかし、この方の年齢は33歳なので、合計額の上限は220万円です。
そのため、220万円の80%の176万円が立替払いで支給されることになります。

破産手続きの中で受け取れる財団債権との充当関係

前述のように、未払給料や退職金のうち財団債権に該当する部分は、破産管財人からも優先的に支払いを受けることができます。では、先に労働者健康安全機構から立替払いを受け取った場合の計算方法はどうなるのでしょうか?

引き続き、先ほどと同じ事例で考えてみましょう。

【事例2】

会社員33歳。毎月15日締め、25日支払の会社で、
平成28年3月25日支給分から給料が未払いに(基本給30万円)。
そのまま未払が続き、平成28年9月30日付けで退職。退職金120万円も未払い。
平成28年10月16日に会社の破産開始決定。
労働者健康安全機構から176万円の立替払いを受給

この場合、労働者健康安全機構の立替払いは、まず退職手当に充当されて、その次に日付の古い給料債権に充当されます。

つまり176万円の立替払いにより、退職金120万円の支払は完了したことになり、未払給料は56万円まで支払われた状態になります。古い順なので、4月25日支給分の全額(30万円)と、5月25日支給分の一部(26万円)が支払われた状態です。

また3月25日支給分は、退職日の半年以上前なので立替払いの対象外です。
そのため、未払給料は 225万円(7カ月半分)-56万円(立替払分)で 残り169万円になります。

財団債権の金額

上記の事例で財団債権に分類されるのは、7月16日~9月30日までの未払給料です。
この部分は、労働者健康安全機構の立替払いで全く支払われていませんので、この3カ月分の未払給料は財団債権として、(法人に財産があれば)全額を破産管財人から受け取ることができます。

【 財団債権になる部分 】

  • 7月16日~8月15日分(8月25日支給分)
  • 8月16日~9月15日分(9月25日支給分)
  • 9月16日~9月30日分

上記の合計額は、給料2カ月半分ですので75万円です。
つまり残りの未払給料169万円のうち、75万円分は財団債権として破産管財人から最優先で支払いを受けることができます。

そして5月25日支給分の一部残り(4万円)と、6月~7月の支給分(60万円)、さらに3月25日支給分(30万円)の合計94万円が優先的破産債権となります。

未払給料のうち、未払賃金立替払い制度と財団債権の分を除いた残りが優先的破産債権 - 説明図

未払賃金立替払制度で、立替払いを受け取るための手順

未払賃金立替払制度を利用する資格があるのは、会社の破産申立ての日の6カ月前までに退職した元従業員に限定されます。

例えば、平成29年12月15日に破産の申立てをした会社の場合、立替払い制度を利用できるのは、平成29年6月15日以降に退職した人だけです。それより前に退職した方は、立替払いを受けることはできません。

立替払制度の対象者-会社の破産申立ての6カ月前までに退職した人だけが対象

ただし未払の退職金を、財団債権として破産管財人に請求することはできます。
退職金で財団債権になるのは、前述のように、退職日前の3カ月間の給与総額に相当する部分なので、退職した時期とは関係がありません。

立替払いの請求手順

立替払いの請求をするためには、以下のページから「未払賃金の立替払請求書」をダウンロードして必要事項を記入します。

外部リンク
未払賃金立替払請求書・証明書-記入用

 
こちらの申請書は、左側の請求書と右側の証明書がセットになっています。
左側の請求書には、自分の氏名や生年月日、住所、未払給料の請求額、振込先口座などを記入します。

右側の証明書は、破産管財人が作成するものです。
請求額通りの未払給料が存在することを破産管財人が証明してくれます。

未払賃金立替払請求書の例-左側が請求書で右側が破産管財人発行の証明書

破産管財人から証明書の交付を受けたら、あとは請求書とセットで労働者健康安全機構に提出すればOKです。

なお、会社側が一括で従業員の立替払請求書を用意して、まとめて破産管財人の証明を受けた上で、破産管財人経由で請求書が交付される場合もあります。よく手順がわからない場合は、一度会社側に相談してみるといいでしょう。

弁済許可制度なら破産債権の部分も前倒しで受け取れる?

繰り返しますが、財団債権は、破産手続きに参加しなくても随時、優先的に支払いを受けることができます。一方で、優先的破産債権は、破産手続きに参加して配当を待たなければ受け取ることができません。これが原則です。

しかし実はここでも法律は、未払いの労働債権を特別扱いしています。

具体的にいうと、「元従業員が生活に困窮している場合には、他の債権者に迷惑をかけない限度で、配当手続きを待たずに、優先的破産債権に分類されている未払給料を前倒しして破産手続き中に支払ってもいい」という条文があるのです。

これを弁済許可制度といいます。

元従業員の生活が苦しい場合、優先的破産債権も他の債権者に迷惑かけない範囲で先に支払うことができる-弁済許可制度の説明イラスト

会社の申立てが遅れ、財団債権として受け取れない場合

未払給料のうち財団債権になるのは、破産開始決定前の3カ月分に限定されます。
そのため、従業員は何も悪くないのに、会社側の破産の申立てが遅れることで、未払給料を財団債権として受け取れなくなることがあり得ます。

例えば、経営不振により8月31日に全従業員を解雇した後に、準備に時間がかかってしまい、11月10日に破産申立て、11月20日に破産開始決定がなされたとします。この場合、財団債権になるのはたった10日分程度です。

残りの未払給料はすべて優先的破産債権になってしまいます。

さらに半年以上申立てが遅れてしまった場合はもっと最悪です。
未払賃金立替払い制度まで利用できなくなってしまいます。

会社側の都合で3カ月以上破産申立てが遅くなると財団債権でなくなる。6カ月以上遅れると賃金立替払いも利用できなくなる-説明イラスト

優先的破産債権は、原則として配当手続きまで受け取れません。
しかし法人破産の手続きは、開始決定から最低でも3~4カ月、遅いと半年以上かかります。

それほど先まで未払給料を受け取れないとなると、失職した元従業員の方は、生活を維持できずに困窮してしまうかもしれません。そこで準備されたのが弁済許可制度です。

弁済許可制度の申立てを破産管財人にお願いできる

破産法101条では、以下のように定められています。

【 破産法101条 】

優先的破産債権である給料の請求権または退職手当の請求権について届出をした破産債権者が、これらの破産債権の弁済を受けなければその生活の維持を図るのに困難を生ずるおそれがあるときは、裁判所は、最後配当、簡易配当、同意配当、中間配当の許可があるまでの間、破産管財人の申立てにより又は職権で、その全部または一部の弁済をすることを許可することができる。

ただし、その弁済により財団債権または他の先順位もしくは同順位の優先的破産債権を有する者の利益を害するおそれがないときに限る。(条文リンク

要するに、財団債権より優先することはできないし、他の優先的破産債権者の取り分を減らすこともできないけど、それに反しない範囲であれば、生活に困窮している従業員の配当分を前倒しで支払ってもいい、ということです。

この制度は、まず生活に困っている従業員が破産管財人に相談し、破産管財人が裁判所に許可の申立てをする、という流れになります。

破産法101条2項では、破産管財人は「元従業員から申立てを求められたときは、直ちに裁判所に報告しなければならない」と定められています。そのため弁済許可制度を利用したい場合は、まず破産管財人に相談してください。
 

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