準自己破産なら取締役会決議や同意書なしで法人破産できる
取締役会設置会社の場合、会社を自己破産させるためには、取締役会での過半数決議が必要になります。決議を行わない場合には、代わりに取締役全員と監査役の同意書を貰わなければなりません。しかし連絡の取れない取締役がいて、取締役会を開催したり同意書を貰うことが難しい場合には、準自己破産という方法もあります。
法人を自己破産させるためには、取締役会の決議が必要って聞いたんだけど本当なのー? ってことは、取締役の過半数の同意がなければ破産できないんだよね
取締役会設置会社の場合は、法人破産の申立てのときに裁判所に取締役会議事録を提出しないといけない。取締役会のない会社(取締役2人以上)の場合でも、取締役の過半数の同意書が必要だね。
でも、もし取締役の全員が会社を破産させることに同意しているなら、わざわざ集まって取締役会を開催する必要もない気がするけど。何かもう少し簡単な方法はないのかなー?
もし一部の取締役が破産することに反対していたり、そもそも行方不明で連絡が取れなくて過半数の決議が得られない場合は、どうやって法人を破産させればいいの?
準自己破産という方法であれば、一応、取締役1人でも破産を申し立てることはできる。例えば、代表取締役が逃げて行方不明になった場合とか、社内で意見が割れている場合とかね。
じゃあ法人は全部、準自己破産で申立てをすればいいんじゃないの?
取締役の過半数の同意も必要なくて、しかも会社の代表権限すらも必要ないってことでしょ?
でも連絡が取れない取締役がいて同意書が貰えないような場合は、準自己破産を申し立てるしかないってことでしょ? それとも解任したほうが早いのかな。
株主総会の決議で解任したり、連絡が取れるなら辞任して貰ったほうが良い場合もある。ただし取締役の数が、法律や定款の員数を割ると、退任登記が受理されない場合があるから注意が必要だね。
- 法人破産には原則、取締役会議事録または取締役の過半数の同意書が必要
- 取締役全員の同意書があれば、取締役会の決議は省略できる(みなし決議)
- 取締役1人の会社(非取締役会設置会社)は委任状だけでいい場合もある
- 取締役会の決議ができない場合でも、準自己破産なら取締役1人で申立て可
- ただし準自己破産だと予納金が高額になったり破産原因の調査が必要になる
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1.会社を自己破産させるための取締役による決議の方法取締役による決議の方法
2.取締役会を開催しない場合は取締役全員の同意書でも可取締役全員の同意書でも可
3.取締役1人でも準自己破産を申し立てる方法もある準自己破産という方法もある
4.自己破産の前に取締役を辞任・解任して退任して貰える?辞任・解任で退任して貰える?
会社を自己破産させるための取締役による決議の方法
会社を自己破産させるかどうかを決定するのは、基本的には取締役です。
定款に特別な定めがない限り、株主総会での決議は必要ありません。
そのため、会社の自己破産を裁判所に申し立てる場合には、原則として代表取締役の名前で申立てをし、取締役会の承認を得ていることを証明するために申立書類に取締役会議事録(または取締役の同意書)を添付する必要があります。
会社には取締役会設置会社と、非取締役会設置会社の2つがあります。
取締役会設置会社では取締役会での過半数決議が必要となります(会社法362条)。一方、非取締役会設置会社では取締役の過半数の同意が必要になります(会社法348条)。
決定方法
形体 | 説明 |
---|---|
取締役会設置会社 | 取締役3名以上からなる取締役会を設置している会社のこと。取締役会での過半数決議が必要。裁判所に取締役会議事録を提出。 |
非取締役会設置会社 | 取締役会を設置していない会社。取締役が複数人いる場合は、取締役の過半数の一致が必要。裁判所に過半数の一致を証する書面を提出。 |
取締役会設置会社 |
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取締役3名以上からなる取締役会を設置している会社のこと。取締役会での過半数決議が必要。裁判所に取締役会議事録を提出。 |
非取締役会設置会社 |
取締役会を設置していない会社。取締役が複数人いる場合は、取締役の過半数の一致が必要。裁判所に過半数の一致を証する書面を提出。 |
そのため、例えば、夫と妻の2人で役員を営んでいる小さな会社(非取締役会設置会社)の場合、夫婦2人の同意書があればOKです。
よく聞かれますが、取締役2名の場合の過半数は2人です。
また取締役が4名であれば3名以上の一致が必要です。
取締役1人の法人の場合
取締役1人の法人の場合は、取締役の同意書は必要ない場合が多いです。
というのも、取締役が1人であれば、自己破産の申立てを弁護士に依頼したときの委任状を裁判所に提出していますので、それで十分、取締役の意思確認が可能だからです。
ただしこれは管轄裁判所によっても運用が違う可能性がありますので、担当の弁護士に確認してください。
取締役会を設置している会社でも、取締役会を開催しなくていい場合もあります。
それは取締役全員の同意書(監査役がいる場合は監査役も)がある場合です。
会社法370条では、取締役会の決議の目的事項について取締役の全員が書面で同意したときには、可決の決議があったものとみなすことができると定められています。(ただしあらかじめ定款に記載しておくことが必要です)
これをみなし決議といいます。
取締役会設置会社は、取締役が取締役会の決議の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき取締役の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなす旨を定款で定めることができる。(会社法370条)
そのため、わざわざ取締役会で集まることが難しい場合や、取締役が身内で同意書を取るのが簡単な場合は、破産することについての同意書だけ貰って裁判所に提出する方が簡単です。
同意書の書式
ちなみに、取締役の同意書は以下のような簡単なフォーマットのもので大丈夫です。
××地方裁判所 第×民事部 御中
同意書
株式会社××につき、××地方裁判所に破産手続き申立てをする件について同意します。
以上
代表取締役 署名押印
取締役 署名押印
監査役 署名押印
通常は1枚の同意書に取締役全員が記名押印することが多いです。
ですが、各取締役1名につき1枚の同意書でも問題ありません。
取締役1人でも準自己破産を申し立てる方法もある
取締役会で決議をすることが難しい場合、同意書を貰うことが難しい場合もあります。
例えば、社内で破産手続きについての意見が対立している場合や、あるいは行方不明で連絡の取れない取締役がいる場合です。
今でこそ取締役が1人でも会社は作れますが、一昔前は最低3名以上の取締役がいなければ法人化できませんでした。そのため、身内などを形式的に役員にしたケースも多く、いざ破産するときになって連絡が取れなくて困る事例も少なくありません。
そこで破産法19条では、取締役1人が単独で申し立てることのできる方法を定めました。
それが準自己破産です。
次の各号に掲げる法人については、それぞれ当該各号に定める者は、破産手続開始の申立てをすることができる。
1.一般社団法人又は一般財団法人 理事
2.株式会社又は相互会社 取締役
3.合名会社、合資会社又は合同会社 業務を執行する社員
(条文リンク)
例えば、最近だと2016年10月に「うちナビ」という不動産会社が準自己破産を申し立てて、少し話題になりましたね。
うちナビは、鈴木奈々さんをCMに登用したりして積極的にPR活動を行っていた賃貸不動産仲介・管理会社でしたが、経営状態が悪化し、代表取締役の角南社長が行方不明になっていたことで、代わりに取締役が準自己破産を申立てました。
このように準自己破産であれば、代表取締役でなくても破産を申し立てることができます。
また1人で申立てが可能なので、取締役会の決議や同意書が不要になります。
しかし準自己破産にもデメリットがあります。
破産手続きが通常の自己破産よりも複雑で面倒になることです。
準自己破産は、1人の取締役だけで単独で申立てできます。
そのため、「本当に破産原因となる事実が存在するのか?」「取締役の権利濫用ではないか?」を確認する必要があります。
そのため、準自己破産の申立てでは、本当に破産原因があること(会社が債務超過に陥っていること)を疎明するために、財務諸表などの資料を裁判所に提出しなければなりません。
また、裁判所の予納金も高額になることがあります。
規模の小さい会社の場合、本来であれば、法人少額管財が適用されれば20万円の予納金で済みます。しかし準自己破産の場合だと、管轄裁判所によっても異なりますが、最低50万円以上の予納金が必要になる可能性も十分あります。
法人少額管財については、以下の記事を読んでください。
例えば、高松地裁で準自己破産を申し立てると、予納金の額は一律で50万円加算されます。
もともとの破産費用が43万円の場合であれば、準自己破産だと93万円になってしまうということです(参考リンク)
自己破産の前に取締役を辞任・解任して退任して貰える?
もう1つの方法として、破産手続きに協力してくれない取締役に辞任して貰ったり、あるいは行方不明で連絡の取れない取締役を解任する方法も考えられます。
取締役はいつでも自分の意思で辞任して、契約を終了させることができます。(民法651条)
また株主は、いつでも株主総会の普通決議で取締役を解任できます(会社法341条)
ただし辞任の場合、取締役の人数が会社法上の規定人数(または定款で定めた人数)を下回ると退任登記が受理されなくなるので注意が必要です。
取締役の人数は、会社法または定款の員数を下回ることはできません。
例えば、取締役会設置会社の場合には最低3人の取締役が必要です。3人しか取締役のいない会社の場合、そのうち1人が取締役を辞任することはできません。
もう少し正確にいうと、一応、辞任することはできます。
しかし辞任後も、次の後継の取締役が選任されるまでの間、法律上の権利義務をそのまま承継することになります。
そのため、商業登記簿上は次の取締役が選任されるまでの間、ずっと「取締役」のままになります。この間は、登記所は退任登記を受理してくれません。
また取締役に欠員が出ている場合(法律や定款上の員数を割っている場合)には、有効な取締役会を開催することもできません。
このような場合には、株主総会で会社の定款を変更したり、非取締役会設置会社に変更する必要があります。非取締役会設置会社であれば、会社法上、取締役は1人からでも大丈夫です。あとは定款の員数を減らせば、取締役が欠員になることはありません。