自己破産で水道光熱費は免責される?電気は止められる?
電気代やガス代などの公共料金で、自己破産より前に滞納していた分は、通常の破産債権 ※ となりますので、自己破産が終われば免責されます。もちろん自己破産の開始後に新たに発生する電気代やガス代は、支払わなければなりません。水道代だけは少し特殊で、上水道の滞納分は免責されますが、下水道の分は非免責債権 ※ なので免責されません。なお自己破産で滞納分が免責されたことを理由に、電気や水道の供給を止められることはありません。
電気代やガス代を数カ月前から滞納しちゃってて、水道代に至っては半年分くらい滞納しちゃってるんだけど・・・、これって自己破産に含めちゃっても大丈夫なのかな・・?
まったく全然わかんないよね。日本語でお願いします。
つまり、自己破産の直近1カ月分だけは「財団債権」(※)になって免責されないけど、それより前の分は全部、自己破産すれば免責されて、支払義務がなくなるってことでいいのね?
ただし例外が1つだけあって、下水道代だけは税金に準じた扱いがされるから、免責されないんだ。過去の滞納分も含めて、全部、支払義務が残る。最初に君がいってたのも、多分、下水道料金のことだね。
ところで、過去の数カ月分の電気代を払わないまま、自己破産で踏み倒しちゃったら、電力会社の人に電気を停められちゃったりしないの? そしたら生活できないんだけど・・・
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1.自己破産をしても、電気やガスが止められることはない?
2.自己破産の開始決定前に電気を止められる可能性はある
3.自己破産の申立てをした月の公共料金は、支払わないとダメ
4.下水道料金は、租税等の請求権なので免責されない
自己破産をしても、電気やガスが止められることはない?
自己破産するほどに生活が追いつめられている方のなかには、既に数カ月以上に渡って、電気やガスなど公共料金の支払いが滞っている方もいます。なかには、もう既に何度も催告を受けて、電気やガスを停められる寸前の方もいるかもしれません。
そこで心配なのが、「自己破産に公共料金の滞納分を含めてしまうと、電気やガスがいよいよ停止されてしまうのではないか?」という問題です。
結論からいうと、先生の会話にもあったように、電力会社やガス会社は、自己破産を理由に電気やガスの供給を停めることはできません。しかし、これは正確にいうと、(1)自己破産の開始決定後に、(2)自己破産前の滞納分の支払いがないことを理由にして、供給を停止してはいけない、ということです。
弁護士の介入や自己破産の申立てから、実際に自己破産が「開始決定」されるまでにはタイムラグがありますから、その間に滞納を続けていると、電気等が停止される可能性はあります。
電力会社などのインフラ事業者が、「自己破産したこと」を理由に電気やガスを停めてはいけない、というルールの根拠は、破産法55条にあります。
まずは条文をチェックしてみましょう。言葉は難しいですが、長々とした解説文を読むより、まずは条文を読んだ方がわかりやすいです。
破産者に対して継続的給付の義務を負う双務契約の相手方は、破産手続開始の申立て前の給付に係る破産債権について弁済がないことを理由としては、破産手続開始後は、その義務の履行を拒むことができない。(破産法55条)
「継続的給付を目的とする双務契約」というのは、毎月、継続的に事業者に使用料などを支払って、事業者も毎月一定のサービスを給付する契約のことです。
例えば、電気代・ガス代・水道代などの公共料金が典型的ですが、他にも、携帯電話やインターネット回線の通信料金なども、この「継続的給付を目的とする双務契約」に含まれます。(家賃などの賃貸借契約は含まれません)
この条文の趣旨は、「自己破産の開始決定後に、ちゃんと毎月の料金を支払っているのであれば、業者側も毎月のサービスの給付を続けないとダメだよ」「自己破産前の滞納分の支払いがないことを理由に、自己破産の開始後に、サービスの給付を停止してはいけないよ」ということです。
過去の滞納分を理由に、電気やガスなどのインフラを停止されてしまうと、生活できなくなりますから、結局、自己破産をしても、滞納分を支払わざるをえなくなってしまいます。それだと、自己破産をする意味がありません。
そのため、破産法では、「毎月料金を支払って毎月サービスを受ける」性質の契約に関しては、自己破産の開始後にちゃんと支払いを続けている限り、自己破産前の滞納分を理由にサービスを供給を停止してはいけない、という条文が定められているのです。
自己破産の開始決定前に電気を止められる可能性はある
先ほども少し言いましたが、ここが落とし穴の1つです。
通常、自己破産をする場合には、申し立ての3カ月前くらいには弁護士を介して、「自己破産する予定です」という受任通知(※)を送付します。これは、各債権者への支払いを停止してから、実際に自己破産を申立てるまでの準備(書類集め、債権調査、取引履歴の開示など)で3カ月くらいかかることが多いからです。
つまり、電力会社等にも「自己破産する」ことを通知する場合は、実際に自己破産の手続きが開始する前に、電気を停められてしまう可能性は否定できません。ここが難しいところです。
万が一、電気やガスを止められてしまったとしても、自己破産の開始後に申立日以降の分をちゃんと支払えば、電気やガスの供給は再開されます。なので、いずれにしても、自己破産前の滞納分を支払う必要はありません。できるだけ早く自己破産の開始決定が得られるように、申立てを急ぐべきです。
しかし、どうしても自己破産前に電気を停められて困る場合は、電力会社等には介入通知を送付せずに、「滞納分を自分で支払う」「親族などを頼って第三者弁済して貰う」などの方法で、滞納を解消してしまう手もあります。ただしこれは、厳密にいえば偏頗弁済になってしまう可能性もあるため、担当の弁護士の先生とよく相談する必要があります。
一般的には、生活のために必要な公共料金であれば、滞納分を支払っても偏頗弁済にはならない(裁判所も許容してくれる)場合が多いようです。
自己破産後に、電気代やガス代を滞納すれば止まる可能性あり
これは当たり前の話ですが、破産法55条は「自己破産前の滞納分はお咎めなしにする」という法律です。自己破産の開始決定後に滞納があれば、それを理由に電気やガスを止められても、当然、文句はいえません。
さらに細かいことをいえば、破産法55条で指定されているのは「破産手続開始の申立て前の給付に係る破産債権」です。「開始前」ではなく「申立て前」の滞納分なのです。
つまり「自己破産の申立て~自己破産の開始決定」までの期間の公共料金は、支払義務が残ります(後述しますが、この部分は財団債権 ※ です)ので、自己破産の申立日を含む1カ月分の公共料金を支払わなければ、電気やガスを止められる可能性はあります。
破産の申立てをした月の公共料金は、支払わないとダメ
これを先に説明するとややこしくなるため、敢えて後回しにしましたが、「自己破産の申立てをした日」が含まれる月の請求分は、財団債権 ※ になりますので、免責されません。よって、この部分を支払わなければ、電気やガスが止まる可能性はあります。
例えば、7月12日に自己破産を申し立てて7月19日に自己破産の開始決定が得られたとします。この場合、例えば、6月30日~7月29日分の電気代(請求:8月分)は財団債権となり、免責されません。
自己破産の申立てより前の日付け分も請求に含まれていますが、要は、「日割り計算して免責したりはしない」という話だと理解してください。以下、根拠条文です。
前項の双務契約の相手方が破産手続開始の申立て後、破産手続開始前にした給付に係る請求権(一定期間ごとに債権額を算定すべき継続的給付については、申立ての日の属する期間内の給付に係る請求権を含む。)は、財団債権とする。(原文リンク)
財団債権というのは、破産手続きによらずに随時、破産財団に請求できる債権のことです。
詳しくは以下の記事で解説していますが、個人の破産者の方のレベルでは、「自己破産しても免責されない債権」のことだと思っておけば大丈夫です。例えば、直近1年間の税金滞納分、管財人への報酬、裁判所への予納金などが、典型的な財団債権です。
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ちなみに個人破産では、自己破産前の直近6カ月分の電気代や水道代は、民法306条(外部リンク)でいう「日用品の供給」にあたりますので、一般の先取特権として、配当において他の債権者に優先します。そのため、直前6カ月分の公共料金の滞納分は「優先的破産債権」というカテゴリーになります。
ただし、これも破産者の目線ではあまり関係のない話です。個人破産では、ほとんどのケースで配当なんて出ませんし、優先的破産債権とはいっても、「破産債権」である以上は、免責決定がでれば免責されます。
なんとなく「自己破産の申立てをした月の分は、支払わないとダメ。それより前の滞納分は、免責決定されれば免責になる」と覚えておけば大丈夫です。
下水道料金は、租税等の請求権なので免責されない
「なんで電気代もガス代も水道代も免責されて、下水道料金だけ非免責債権なんだ・・・」と不思議に思われる方も多いと思います。正直、明確な理由はよくわかりませんが、ともかく法律上の分類としてはなぜかそうなっています。
上水道というのは、各家庭の蛇口まで飲用可能な水を運ぶ設備にかかる費用のことです。一方、下水道というのは、家庭から排泄された汚水の浄水処理にかかる費用です。使用量の通知などを見れば、上水と下水、それぞれバラバラに検針されて料金が計算されているのがわかります。
とはいえ一般的には、水道代としてまとめて請求が来ますので、特に違いを知らない方も多いでしょう。
下水道料金だけ免責にならない理由は、下水道料金が破産法上の「租税等の請求権」に分類されているからです。そもそも租税等の請求権は、「免責されない債権」の代表選手として有名ですが、その定義は以下のようになっています。
4.国税徴収法または国税徴収の例によって徴収することのできる請求権(以下「租税等の請求権」という。)・・・(破産法97条)
つまり、「国税徴収の例によって徴収できる債権」のことを租税債権等というわけです。これは何かといえば、国や市役所などの行政が、滞納処分 ※ によって強制的に徴収することができる債権かどうか?という意味です。
国や行政が強制的に徴収することが認められている債権は、自己破産をしても免責されません。例えば、市民税や固定資産税、国民健康保険などがそうですが、同じように、下水道の使用料についても地方自治法231条の3による強制徴収が認められているのです。
一方、電気代やガス代は当たり前ですが、行政による強制徴収なんて認められていません。そして、なぜか上水道料金についても、強制徴収できるという規定が存在しないのです。
この辺りの詳しい解説は、以下の弁護士の方のブログが非常に参考になります。
そのため、少し不思議ではありますが、下水道料金だけが税金等の公租公課と同じ扱いを受けることとなります。つまり、下水道料金の滞納分は免責されません。
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