自己破産すると債権者や貸金業者はいつ貸倒処理するの?
以前の記事(こちら)で、「もし免責不許可になった場合でも、債権者が既に貸倒処理をしていれば、その後も請求してこない可能性がある」という話をしました。今回はその点を掘り下げて説明します。債務者が自己破産を申立てた場合、債権者は、申立ての時点で債権額の1/2を損金処理できます。また個人の同時廃止の場合、開始決定の時点で全額を貸倒処理する業者もあります。
自己破産が開始されると、債権者さんは貸したお金が回収できなくなるから、債権の「貸倒処理」をするんだよね? ってことは、もし免責不許可になっても、請求が再開されない可能性もあるのかなー?
ただ税法上、貸倒処理ができる場面は限られている。例えば、破産時に貸倒処理するためには、「債務者の資産状況、支払能力から全額が回収できないことが明らかな場合」でなくてはならないんだ。
債務者が自己破産を申請してるんだから、「資産状況、支払能力からして回収できないことは明らか」なんじゃないの?
何も問題なく貸倒処理できそうな気がするけど。
つまり破産手続きでは、まだ配当が出る可能性もあるし、免責許可が下りない可能性もあるでしょ? だから債権者としては、自己破産の開始時点で全額を貸倒れにしていいのか?って問題があるわけ。
税務上、全額を損金にするためには、債権の全額が回収不能になったことが確定してから貸倒処理をしないとダメ、ってことなのか。
じゃあ、自己破産で貸倒処理するタイミングはいつなの?
例えば、法人同士の取引で、相手企業が破産して債権が回収できなくなった場合は、破産手続きが終結または廃止した時点で貸倒処理しないとダメなんだ。法人には免責手続きがないからね。
ただし個人破産で同時廃止(※)になった場合には、破産費用すら支払えないと裁判所が認めたわけだから、免責許可まで待たなくても、開始決定の時点で貸倒処理できるという考え方もある。
じゃあ、最初の「貸金業者によっては、自己破産の開始決定の時点で貸倒処理してるから、もし免責不許可になっても再び請求して来ない可能性がある」ってのは、同時廃止の場合の話なのね?
あと貸倒処理とは別だけど、債権者は自己破産の申立ての時点で、債権額の半分を「貸倒引当金」として計上することもできるんだ。
だから、この場合も請求が再開されない可能性はあるね。
免責不許可事由があっても、敢えて自己破産をするメリットとして、「自己破産の開始決定により、貸金業者が請求を諦めることが多い」という点が挙げられます。免責不許可事由があっても自己破産の開始はできますし、実務上は大半のケースで裁量免責になります。もし万が一、免責不許可になっても、事実上、業者が請求を諦める可能性もあります。まずは弁護士等に相談しましょう。
参考 → 自己破産におすすめの法律事務所を探す
- 自己破産の申立の時点で、債権者は債権の半分を引当金として損金算入できる
- 消費者破産で同時廃止になると、開始決定時に全額を貸倒処理する業者もいる
- 一般的には、個人破産では、免責許可決定時に債権の全額が貸倒処理される
- 法人破産では、破産手続きの終結または廃止時点で全額の貸倒処理が可能
- まだ担保や保証人があり、債権回収の可能性がある場合、貸倒処理できない
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1.自己破産で債権者が税務上の貸倒処理をするための要件税務上の貸倒処理の要件は?
2.自己破産の開始決定の時点で貸倒処理はできるか?開始決定時に貸倒処理できる?
3.自己破産の申立ての時点で債権額の半分は損金処理できる申立て時点で半分は損金処理できる
4.結局、免責不許可後も請求されない可能性は高いのか?結局、免責不許可後の請求はある?
自己破産で債権者が税務上の貸倒処理をするための要件
債務者の自己破産によって、貸したお金の回収が見込めなくなった場合、債権者は「貸倒処理」をおこないます。(無税償却、損金処理というのも同じ意味です)
貸倒処理というのは、簡単にいうと、資産に計上されている「債権」を取り崩して、その期の経費(損金)に振り分ける処理のことをいいます。こうすることで、不良債権が帳簿上の資産として膨れ上がってしまうのを避けることができます。
また経費に振り分けることで会社の利益を圧縮することができるので、その期に課税される法人税を減らすこともできます。
そのため、貸金業者などの債権者にとっては、「債務者が自己破産してくれれば、貸倒処理をすることができる」(意訳:損失を確定させて税金の支払いを減らすことができる)というメリットもあります。ずっと滞納のまま放置されるよりは、自己破産してくれた方が、実は債権者にとってもメリットがあるのです。
貸倒処理というのは、いつでも自由にできるものではありません。
「全然返してくれないし、そろそろこの辺で損切りしよう」と適当に業者が自分で決めて、貸倒れ扱いにすることはできません。
貸倒れによる損失が、損金算入できる場合(つまり経費として計上して税金の額を減らすことが認められる場合)というのは、法人税基本通達9-6-1~3で明確に定められています。
そのうち、主なものが以下です。
(他にもいくつかありますが、自己破産の説明と関係する項目のみ列挙しています。)
- 会社更生法、民事再生法により債権が切り捨てられた場合(9-6-1)
- 債務者に対して書面で「債務免除」の通知を送った場合(9-6-1)
- 債務者の資産状況、支払能力等から全額が回収できないことが明らかな場合(9-6-2)
参考文献:国税庁「貸倒損失として処理できる場合」
債務者が自己破産した場合には、原則として、このうちの3番目(9-6-2)で貸倒処理をすることになります。
自己破産の場合は「事実上の貸倒れ」に分類される
1番目(9-6-1)には、会社更生、民事再生、などの債務整理手続きに関する法律が並んでいます。しかしここに破産手続きの記載はありません。破産手続きには「切り捨て」という考え方がないからです。
そのため、自己破産を1番目(9-6-1)の「切り捨て」で貸倒にすることはできません。
興味がある方は以下のコラムをお読みください。
自己破産が法基通9-6-1で貸倒にできない理由(※クリックタップで開閉)
また2番目(9-6-1)には、「債権者が債権を放棄してそれを書面で通知すれば、その時点で貸倒処理できる」とあります。しかし実務上は、いくら債務者が破産したとはいえ、わざわざ債権者側から「債権を放棄します」という通知を送ってくるケースはほとんどありません。
そのため、債務者が自己破産した場合には、事実上、3番目の「全額が回収できないことが明らかな場合」に該当すると判断して、貸倒処理をすることになります。これを業界では、「事実上の貸倒」と呼んだりします。
それでは、「事実上の貸倒」の正確な要件をもう1度確認してみましょう。
法人税基本通達9-6-2には、以下のように記載されています。
つまり、以下の3つの条件が揃ったときに、はじめて債権の貸倒処理が可能になります。
- (1)債務者に資産も支払能力もない
- (2)債権の全額が回収できない
- (3)担保物がない、または既に処分済
債務者が自己破産した場合、「資産や支払能力がない」ことは明らかです。そもそも、自己破産の開始要件が「債務者の支払不能」だからです(破産法15条)。しかし問題なのは、(2)の「全額が回収できない」ことが明らかになるのはいつか?という点です。
例えば、まだ配当の見込みがある場合には、債権の全額を貸倒処理することはできません。
そのため、管財事件 ※ の場合は、破産手続きの開始決定の時点では、まだ債権の貸倒処理はできないことになります。
以下、個人破産と法人破産のそれぞれの場合を説明します。
貸倒処理の適切な時期
法人破産の場合 | 個人破産の場合 | |
---|---|---|
時期 | 破産手続きの終結または廃止の時点 | 免責許可決定時、または同時廃止の時点 |
根拠 | 法人破産には免責手続きがない。 裁判所が「法人に財産がない」ことを認めて廃止決定、終結決定を出し、それによって会社の登記簿は閉鎖され、会社は消滅する。 そのため、廃止決定・終結決定の時点で分配可能な財産がないことが確定し、債権の全額が消滅したと考えるのが妥当であり、その時点が破産債権者にとっての貸倒れの時点となる。 (国税不服審判所 平成20年6月26日裁決の意訳) |
個人破産には免責手続きがある。 そのため、原則として、免責許可が下りた時点で債務者の支払い義務がなくなり、債権全額の回収ができないことが確定する。ただしサラ金債務者のような、いわゆる消費者破産で、開始決定と同時に手続きが廃止される場合(同時廃止の場合)には、「債務者は破産手続きの費用すら支払えない」と裁判所が認めて手続きを廃止させたわけなので、全額が回収できないことが明らかになったものとして、免責許可を待たずに損金経理できる。 (専門誌「税と経営」の税務コラム) |
法人破産の場合 | |
---|---|
時期 | 破産手続きの終結または廃止の時点 |
根拠 | 法人破産には免責手続きがない。裁判所が「法人に財産がない」ことを認めて廃止決定、終結決定を出し、それによって会社の登記簿は閉鎖され、会社は消滅する。 そのため、廃止決定・終結決定の時点で分配可能な財産がないことが確定し、債権の全額が消滅したと考えるのが妥当であり、その時点が破産債権者にとっての貸倒れの時点となる。 (国税不服審判所 平成20年6月26日裁決の意訳) |
個人破産の場合 | |
時期 | 免責許可決定時、または同時廃止の時点 |
根拠 | 個人破産には免責手続きがある。そのため、原則として、免責許可が下りた時点で債務者の支払い義務がなくなり、債権全額の回収ができないことが確定する。 ただしサラ金債務者のような、いわゆる消費者破産で、開始決定と同時に手続きが廃止される場合(同時廃止の場合)には、「債務者は破産手続きの費用すら支払えない」と裁判所が認めて手続きを廃止させたわけなので、全額が回収できないことが明らかになったものとして、免責許可を待たずに損金経理できる。 (専門誌「税と経営」の税務コラム) |
このように原則として、自己破産の開始決定の時点では、まだ債権の貸倒処理はできません。
ただし例外的に、個人の消費者破産で、かつ同時廃止の場合には、開始決定の時点で貸倒損失を計上することができる、という意見もあります。
もちろんこの場合にも、実際にどのタイミングで貸倒処理をするかは、各貸金業者、債権者によって異なります。消費者金融だから開始決定時に損金処理しているはず、とは一概にはいえません。
なお、上記以外にも、以下のケースでは破産手続きの終結を待たずに、貸倒処理をすることが認められています。
- 担保物(抵当不動産など)がまだ処分売却されていないが、
先順位担保権者がいて無剰余である(配当見込みがない)とき - 破産管財人から配当額が0円であることの証明が発行されたとき
- 債務者の資産処分が終了していて今後の回収可能性もなく、
かつ破産終結までに相当な時間がかかるとき - 債務者・保証人等に差押えられる財産がなく、1年程度行方不明のとき
(法人税関係個別通達-全銀協への回答より)
自己破産の申立ての時点で債権額の半分は損金処理できる
このように債権の全額を「貸倒処理」できる場面というのは、法律上、限定されています。
しかし実は債権者にとってもう1つ、債権額を損金処理する方法があります。
それが「貸倒引当金の計上」です。
貸倒引当金というのは、まだ税法上の要件を満たしていないため全額の貸倒処理ができない場合に、将来の貸倒れのリスクの備えて、今のうちに債権額の一部を損失として計上しておき、その分を「負債」として積立てておく、というものです。
つまり資産に計上されている債権は崩さずにそのまま置いておき、同時に、その一部を「負債」とみなして、前倒しで損金処理する(経費にする)という考え方になります。
そのため、「貸倒処理」とは似て非なるものです。
債務者が自己破産をした場合、前述のように、債権の全額を貸倒処理するためには、破産手続きが終結するまで待たないといけない場合が多いです。
しかし貸倒引当金の計上であれば、自己破産の申立ての時点で、債権額の1/2まで損金にすることができます。当然、損金にできるということは、当期の利益額を圧縮して法人税の額を減らすことができる、という意味ですから、債権者にとってメリットがあります。
債務者が自己破産の申立てをした時に、「貸倒引当金繰入額」という勘定科目(仕訳)で損金経理できる金額は、以下の計算式で求めます。
貸倒引当金繰入限度額 = ( 債権額 - 相殺可能な額 - 担保権実行、保証債務の履行で回収できる額 ) × 1/2
全く難しい話ではありません。
要するに、相殺可能な分、保証人に請求できる分、担保から回収できる分、は控除した上で、その金額の半分までは損金経理できる、という意味です。
ちなみに損金経理というのは、「税金の計算上、経費にすることは認めるけど、そのためには、ちゃんとその期の決算で損失として計上してないとダメ」という要件のことです。要するに決算が確定した後に、後出しジャンケンで経費にすることはできません。
そのため、自己破産の申立て時に、債権額の1/2を損金処理するのであれば、その年度で必ず損金として計上しておかなければなりません。
これは正直いってわかりません。
そもそも免責不許可になるケース自体が極端に少ないので、「免責不許可後に請求が再開されたかどうか?」について、あまり十分な数の経験談を聞くことができません。
しかし「免責不許可後も請求は再開されなかった」という声が一定数あるのは事実です。
これは以下の記事でも説明しています。
また「貸金業者は開始決定時に損金処理をするので、免責不許可になっても、その後に積極的に取り立てを再開することは少ない」という意見自体はよく見かけます。
しかし免責不許可事由がある場合には、原則として同時廃止にはなりませんので、開始決定時に全額を貸倒処理できるかは微妙です。つまりこの具体的な意味は、「貸倒引当金を計上するために債権の半分を損金処理する業者が多い」ということになります。
貸倒引当金の計上がなされ、回収見込みの低い不良債権に分類されることで、免責不許可になった後も、業務上、その後の請求がされないということは十分ありえると思います。
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