取締役が自己破産すると委任契約の終了により退任になる

株式会社の取締役や監査役などの役員は、会社と委任契約を結んで仕事をしています。そのため、例えば、取締役が個人的な借金を理由に自己破産した場合、民法上の「委任終了事由」に該当し、取締役の地位は自動的に退任となってしまいます。しかしこれは、いわゆる欠格事由などの職業制限とは違いますので、株主総会の決議ですぐに再度、取締役として就任することは可能です。

自己破産による委任関係の終了
ねえねえ、先生ー!
会社の役員をやっている人間が自己破産をすると、法律上、役員を退任しなければならないって噂を聞いたんだけど..、本当なのー?
それだと困るんだけど…
本当だね。
取締役や監査役などの役員と、会社との関係は委任契約だからね。民法653条では、「委任契約は、委任者または受任者のどちらか一方が破産すると終了すると定められているんだ。
そっか…。
雇用契約で会社に雇われてる従業員と違って、役員は会社に仕事を委任されてる形になるんだね。じゃあ自己破産で委任契約が終了しちゃったら、やっぱり退任しないといけないの?
うん、そうだね。
自己破産の開始決定が出たときの日付で、裁判所の開始決定通知(裁判書)を添付して、退任登記をしないといけない。でも取締役を続けたいなら、そのまますぐに再任することもできるよ。
えっ、そうなの?
普通は、自己破産で職業制限を受ける場合って、ちゃんと自己破産手続きが終わって免責許可を受けて、復権(※)するまではその職業に就けないよね? 取締役は例外なの?
例外というか、そもそも破産者であることは取締役の欠格事由ではないからね。つまり民法上、委任が終了するから退任扱いになってしまうだけで、破産者が取締役に就任できないという法律はない。
だから臨時株主総会の決議でまたすぐ就任できるよ。
そうなんだ。
じゃあ、臨時株主総会で取締役に再任して貰うための手順は、どうすればいいの? 例えば、父親と母親と息子の3人が役員の小さな非公開会社で、息子が自己破産した場合とか。
取締役会のない会社の場合は、株主総会は口頭で招集できる。
例えば、最短で前日に電話をかけて「明日、株主総会をやるから」と言うだけでもいい。あとは、株主総会で決議をして議事録を作成し、息子さんの就任承諾を貰えば、それで再任の登記ができるよ。
【補足】
なお、会社とは無関係の個人的な借金が原因であれば、任意整理や個人再生などの別の債務整理手続きを検討すれば、そもそも民法上も委任契約は終了しませんので、一度も取締役を退任することなく役員としての業務執行を継続できます。どの債務整理の手続きを選択すべきかは、弁護士等に相談してください。

参考 → 自己破産におすすめの法律事務所を探す

  • 取締役が自己破産すると委任関係が終了し、取締役は自動的に退任となる
  • 破産者であることは欠格事由ではないので、すぐにまた就任することも可能
  • 具体的には、臨時株主総会を招集して過半数の決議でまた取締役に選任する
  • 自己破産により退任した取締役は、欠員でも取締役の権利義務を承継しない
  • 逆に会社側(委任者)が破産しても、取締役の地位は当然には失われない
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自己破産をすると委任契約の終了により退任になる

会社の取締役が個人的に自己破産をすると、破産開始決定により委任関係が終了します。
つまり会社との委任契約が終了し、自動的に取締役ではなくなることになります。

以下、民法の条文です。

【 民法653条 】

(委任の終了事由)

委任は、次に掲げる行為によって終了する。
1.委任者または受任者の死亡
2.委任者または受任者が破産手続開始の決定を受けたこと
3.受任者が後見開始の審判を受けたこと。
条文リンク

 
そのため、取締役が破産開始決定を受けた場合は、2週間以内に取締役の退任登記を登記所に申請しなければなりません。

退任登記の申請期限

自己破産による退任登記は、裁判所の嘱託登記ではなく申請登記です。
つまり裁判所が勝手に登記してくれるわけではなく、会社が自分で登記申請をする必要があります。

会社法では役員の変更があったときには、その変更が生じた日から2週間以内に登記申請しなければならないと定められています(会社法915条)。退任登記の場合は、退任の日から2週間以内です。

役員変更(選任・退任など)の登記は、変更が生じた日から2週間以内に申請が必要-説明図

登記を怠った場合には、登記懈怠により100万円以下の過料に課される可能性もあります。
しかし現実には、まだ後任者が決まっていない場合など、退任登記がされないまま放置されることが多いのも事実です。

欠格事由ではないので、再任のために復権を待つ必要はない

破産者であることは、会社法上の取締役の欠格事由ではありません。
つまり破産者であっても、法律上、会社の取締役に就任すること自体は何ら問題ありません。

例えば、自己破産の開始決定日の翌日にすぐに取締役として再任することもできます。

この点が、宅地建物取引士や警備員、弁護士、会計士などの一部の職業で自己破産が欠格事由とされている点と、大きく異なります。

自己破産により退任した場合でも、再度、取締役に就任することは何も問題ない。-説明イラスト

自己破産による欠格事由とは

欠格事由とは法律上、その職業や資格に就くことのできない条件のことをいいます。

例えば、取締役の場合は、何らかの犯罪で禁固刑以上の刑に処された者や、高齢で認知症になり後見開始の審判を受けた者、証券取引法違反で処罰された者、などが欠格事由になります(会社法331条)。これらに該当する人は、取締役にはなれません。

昔は、破産者も欠格事由としてこの中に含まれていました。
しかし会社法が施行されてからは、破産者は取締役の欠格事由から除外されました。

取締役の欠格事由の例-説明イラスト

なお、自己破産の職業制限については、以下の記事を読んでください。

参考記事
自己破産で資格制限を受ける職業の一覧

 
上記のような理由から、自己破産により委任契約が終了しても、取締役として再任したい場合は、自己破産手続きが終わるのを待ったり、免責許可を受けて復権 するのを待つ必要はありません。

株主総会で取締役として選任されれば、すぐにでも役員として復帰できます。

破産後に株主総会で取締役に再任するための手順

取締役は、株主総会の普通決議で選任されます。
そのため、まずは株主総会を招集する必要があります。(臨時株主総会はいつでも招集できます)

株主総会を招集するのは、残っている他の取締役です。

株主総会を開催するまでの最短スケジュールは、株式会社の形態によって違います。
家族だけで経営しているような零細企業であれば、前日に口頭で伝えるだけで招集できる場合もあります。

株主総会の招集方法

会社形態 説明 招集方法
非取締役会
設置会社
(非公開会社)
取締役会を設置していない会社で、かつ、全ての株式に譲渡制限が付されている会社 取締役が株主総会を招集する。招集は会日の1週間前まで。ただし定款で短縮することができる。招集は原則、口頭でよく、書面による通知を要しない。
取締役会設置会社(非公開会社) 取締役3名以上からなる取締役会を設置しているが、株式には全て譲渡制限が付されている会社 取締役会が株主総会を招集する。招集は会日の1週間前まで。定款での短縮はできない。招集通知は書面または電子メール。
取締役会設置会社(公開会社) 取締役3名以上からなる取締役会を設置しており、かつ、株式の一部または全部を譲渡できる会社 取締役会が株主総会を招集する。招集は会日の2週間前まで。定款での短縮はできない。招集通知は書面または電子メール。

非取締役会設置会社(非公開会社)
説明 取締役会を設置していない会社で、かつ、全ての株式に譲渡制限が付されている会社
招集方法 取締役が株主総会を招集する。招集は会日の1週間前まで。ただし定款で短縮することができる。招集は原則、口頭でよく、書面による通知を要しない。
取締役会設置会社(非公開会社)
説明 取締役3名以上からなる取締役会を設置しているが、株式には全て譲渡制限が付されている会社
招集方法 取締役会が株主総会を招集する。招集は会日の1週間前まで。定款での短縮はできない。招集通知は書面または電子メール。
取締役会設置会社(公開会社)
説明 取締役3名以上からなる取締役会を設置しており、かつ、株式の一部または全部を譲渡できる会社
招集方法 取締役会が株主総会を招集する。招集は会日の2週間前まで。定款での短縮はできない。招集通知は書面または電子メール。

 
当然ですが、規模の大きい会社で、かつ株式を公開している会社ほど、株主総会の招集方法はより厳格になります。

ただし世の中にあるほとんどの会社は、いわゆる同族経営(家族経営)の非公開会社です。
例えば、父親が代表取締役、母親と息子が取締役、といった零細・中小企業で、株式も公開していない(定款の規定で自由に譲渡できない)非公開会社が大半です。

このような非公開会社で、かつ取締役会を設置していない会社の場合は、上記のように、口頭で株主総会を招集することができ、かつ定款で招集期間を短縮することができます。

非公開会社でかつ非取締役会設置会社なら、株主総会を口頭で招集でき、かつ定款で招集期間を短縮できる-説明イラスト

例えば、定款で「株主総会の招集通知は会日の前日までに発する」と定めてあれば、最短で、前日に口頭で招集をして、その翌日には株主総会を開催することができます。
夕飯の食事の席で「明日、株主総会やるから」と言うだけでもいいわけです。

取締役を選任するときの株主総会議事録の内容

株主総会議事録の作成は、それほど難しくありません。
以下のような書式で作成すれば大丈夫です。

【 臨時株主総会議事録 】

平成×年×月×日午前×時×分、当会社において臨時株主総会を開催した。
定刻、代表取締役××は議長席に着き、開会を告げ、本日の出席株主数およびその持株数を次のとおり報告し、本総会は適法に成立した旨を述べて、直ちに議事に入った。

議決権のある株主総数 2名
株主の議決権の総数 400個
出席株主数 2名
出席株主の議決権の総数 400個

(第1号議案) 取締役1名選任の件

議長は、取締役1名を選任する必要がある旨を述べ、下記の者を指名し、取締役として推薦したい旨を述べてその理由を説明した。
議長がその可否を議場に諮ったところ、満場一致でこれに賛成したので、議長は下記の者を取締役として選任することに可決確定した旨を宣した。
なお被選任者は、席上就任を承諾した。

取締役 氏名

議長は、以上をもって本日の議事を終了した旨を述べ、午前×時×分閉会を宣言した。
以上の議事を明確にするため、議事録を作り、議長および出席役員が次に記名押印する。

株式会社 ××× 臨時株主総会

議長 代表取締役 ×××
   取締役 ×××
   取締役 ×××

 
上記のような内容で株主総会議事録を作成し、自己破産した取締役から就任承諾書を貰えば、登記所で、役員の就任登記が可能になります。

自己破産による退任の登記とあわせて申請することもできます。
(自己破産による退任登記には、退任したことを証する書面として、裁判所から送達される破産開始決定書が必要です)

なお就任承諾書は、株主総会の席で自己破産した取締役本人が就任を承諾すれば、省略することもできます。しかしそのためには、平成27年2月以降、株主総会議事録内に取締役の住所を記載することが必要になりました。

詳しくは司法書士などに確認してください。

自己破産で取締役に欠員が出ても、権利義務は承継しない

取締役会を設置している会社の場合、取締役は法律上、最低でも3人以上必要です。
また会社の定款でそれ以上の人数を定めている場合は、その人数が必要になります。

では、もし3人しか取締役のいない取締役会設置会社で、そのうちの取締役の1人が自己破産した場合はどうなるのでしょうか?

退任後も取締役の権利義務を承継する場合がある

もし3人しかいない取締役のうち1人が、辞任や任期満了によって退任した場合、その取締役は退任後も取締役としての権利義務を承継します。

要するに平たくいうと、退任したくても退任できないということです。

会社法または定款上の最低限の員数を下回り、取締役に欠員が出た場合、後任の取締役が選任されるまでの間は、登記所は、取締役の退任登記を受理してくれません。

取締役の権利義務者の説明イラスト

そのため、自分の意思で辞任した場合や任期満了の場合は、後継の取締役が決まるまでの間、なお、取締役としての責任を負わなければなりません。登記簿上も退任ができないので、外部からみればずっと現役の取締役のままです。

このような状態の取締役を、「権利義務者」「権利義務取締役」と呼んだりします。
では自己破産による退任の場合はどうでしょうか?

自己破産で退任しても取締役の権利義務は承継しない

自己破産による委任契約の終了によって取締役を退任した場合は、取締役としての権利義務を承継することはありません。つまり取締役に欠員が出ていても、そのまま退任になります。

この場合は、速やかに株主総会を招集して後任の取締役を選任する必要があります。
(もちろん前述のように、同じ取締役の再任でも問題ありません)

自己破産による退任で欠員がでても、取締役は権利義務者にならない―説明イラスト

取締役会の開催方法

「欠員がでているのに、どうやって取締役会を開いて株主総会を招集するのさ?」と思われるかもしれませんが、取締役会自体は欠員がでていても、定足数さえ満たしていれば開催できます。

例えば、3人の取締役会で、取締役のうち1人が自己破産によって退任していても、残り2人が出席すれば、一応は過半数の取締役が出席していることになります。そのため、有効な取締役会として決議が可能です。

しかし定足数を満たすことさえできない場合(例えば、3人の取締役のうち2人が自己破産や死亡によって退任した場合)は、裁判所に一時取締役の選任を請求しなければならず、かなり手続きが面倒になります。

会社(委任者)が破産した場合、取締役は地位を失う?

民法の規定では、「委任者または受任者が破産手続開始の決定を受けたとき」に委任が終了すると定められています。

ということは、取締役個人(受任者)が自己破産したときだけでなく、法人(委任者)が破産したときにも委任が終了し、全ての取締役や役員は自動的に退任になりそうな気もします。
しかし最高裁判例(平成21年4月17日)はこれを否定しています。

つまり、会社が自己破産しても、取締役は当然にはその地位を失いません。

法人側が終了しても委任は終了せず、取締役はその地位を失わない―説明イラスト

財産処分権は失うが、会社組織に関する権利は失わない

もし民法の条文をそのまま読み、「法人の破産開始決定によって全ての委任が終了し、役員は全員、自動的に役員でなくなる」と解釈すると、破産手続きを進める上で色々不都合が生じます。
代表取締役を含め、役員が1人もいなくなってしまうと困ります。

法人の破産手続きが開始されると、破産管財人 が選任され、法人の財産はすべて破産財団 となります。そのため、取締役にはもはや財産処分権はなくなります。

しかし例えば、役員の選任や解任のような会社組織の内部に関する行為は、破産管財人の仕事ではありません。これらは、法人の破産開始決定後も引き続き、代表取締役や役員の仕事です。

そのため、裁判所は「民法の委任終了の規定は、財産に関する行為を内容とする通常の委任に関するものであり、会社が破産開始決定を受けた場合でも、会社と取締役との委任関係は終了しない。取締役らは法人の破産開始決定によりその地位は当然には失わない」と判事しました。

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