債権者の意見書の提出(意見申述)で免責不許可になる?
自己破産が開始すると、各債権者は裁判所に対して「免責についての意見書」を提出することができます。「この破産者には免責不許可事由 ※ があるので、免責にしないでください」と、裁判所に意見を述べることができるのです。しかし実務上は、債権者からの意見書で免責不許可が決定することは稀です。そのため、ほとんどの場合、債権者からの意見書の提出はありません。
自己破産をしても、免責不許可事由(※)があると免責が下りない場合があるって聞いたんだけど、債権者からも「免責不許可にしてくれ」って意見書が出ることもあるんでしょ?
自己破産手続きが開始されると、必ず意見申述期間というのが2カ月間くらい設けられるんだ。この意見申述の期間中に、破産債権者は、裁判所に免責についての意見書を提出することができる。
じゃあもし債権者さんに、「この破産者を免責不許可にしてくれ」っていう意見書を出されてしまったら、それが理由で免責不許可になっちゃう可能性もあるの?
ただし意見書の中身は、破産者に免責不許可事由があることを明らかにする内容じゃないとダメなんだ。だから、そもそも免責不許可事由がなければ、債権者の意見書で免責不許可になることはないよ。
じゃあ、もしかして、自己破産で債権者から「免責についての意見書」が提出されるケースというの自体が、そもそも珍しいのかな?
どういう債権者さんが意見書を出してくるの?
個人の債権者だと、単に恨みや怒りを綴っただけの意見書も多いし、それで免責不許可になることはないよ。ただ意見書が出ることが予めわかってる場合は、管財事件(※)になっちゃう可能性はあるね。
免責不許可事由がない場合は、債権者からの意見書をそれほど恐れる必要はありません。しかし免責不許可事由が存在する場合は、債権者だけでなく、破産管財人からも「免責についての意見書」が提出されます。こちらの方が影響が重大なので、免責不許可事由がある場合は自己破産をすべきかどうか、よく専門家と相談してください。
参考 → 自己破産におすすめの法律事務所を探す
- 自己破産の手続きでは、必ず2カ月程度の免責意見申述期間が設けられる
- 債権者は意見申述期間中に「免責についての意見書」を裁判所に提出できる
- 提出する意見書は、免責不許可事由の事実を指摘する内容でないとダメ
- 債権者の個人的な感情や、困る等の事情を陳述しただけの意見書では意味なし
- 免責不許可事由を指摘したとしても、実際には裁量免責になる可能性が高い
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1.債権者が免責についての意見書を提出する方法免責についての意見書の提出方法
2.裁判所に意見書を提出できる意見申述期間について免責意見申述期間について
3.債権者の意見書で免責不許可になることはある?免責不許可になることはあるの?
4.実務上は、破産管財人が提出する意見書のほうが重要破産管財人の意見書の方が重要
債権者が免責についての意見書を提出する方法
まずは債権者が、「免責についての意見書」を提出するまでの流れを知っておきましょう。
以下、話をわかりやすくするために、債権者の目線で説明を進めていきます。
自己破産の開始決定がなされると、裁判所から各債権者にその旨の通知書が届きます。
(ここで通知される債権者は、申立てのときに債権者一覧表 ※ に記載した債権者です。)
さらにその通知書には、「破産者の免責について意見がある場合には、その旨の意見書を×月×日までに提出してください」という内容が記載されています。
具体的には、以下のような内容です。
免責について意見を述べる場合には、期日においてする場合を除き、書面(意見書)によって行っていただく必要があります(破産規則76条1項)。
書面を提出される場合には、破産法252条1項各号に掲げる事由に該当する具体的な事実を記載する(同規則76条2項)ほか、住所、氏名、事件番号を必ず明記してください。
要するに、ただ単に「免責不許可にしてください」と記載するだけでなく、具体的に「破産者は、×月×日に、〇〇という行為をしており、これは破産法252条×項の免責不許可事由に該当します」という内容を記載してください、という意味です。
具体的な免責不許可事由としては、例えば、
「お金を借りる際に収入や財産状況について嘘の申告をしていた」、「事業資金という名目で借金をしていながら、実際は、キャバクラの女の子に貢いでいたり、パチンコやFXなどの投機行為で溶かしていた」、「親族からの借金だけ、わざと債権者一覧表に記載せずに外している」
などの指摘が考えられます。
免責不許可事由については、以下の記事で詳しく説明しています。
自己破産の手続きでは、破産者は免責不許可事由がない限り、必ず免責になります。
そのため、債権者の意見書は、単に個人の感情的な恨みつらみを記載したものでは全く意味がありません。具体的に破産者の行為が、破産法253条(免責不許可事由)のどれに該当するのかを指摘するものでなければ、ただの紙切れになります。
冒頭の先生の会話にもあったように、個人の破産手続きで意見書を提出する債権者は、プロの金融屋ではなく個人の債権者が大半です。
そのため、たまに「破産者がお金を返済してくれないと、うちの会社も連鎖倒産してしまう」といった泣き言や、「必ず返済するといったから貸したのに許せない」といった怒りの気持ちをそのまま提出する債権者もいますが、これではほとんど意味がありません。
以下、意見書のひな型を掲載しているサイトがあったので紹介します。
- 外部リンク
- 裁判所へ提出する意見書のひな型案(その1)
意見書の書き方がわからなければ、弁護士に相談するという方法もあります。
しかし一般的には、自己破産の手続きで免責不許可になる確率は低いので、わざわざ弁護士に依頼しても費用倒れになる可能性も高いです。
破産法251条の条文では、以下のことが定められています。
「その期間は官報公告の掲載日から1カ月以上でなければならない」
そのため、裁判所は必ず1カ月以上の意見申述期間を設けなければなりません。
実際の意見申述期間は、通常の場合、自己破産の開始決定から1カ月半~2カ月くらいの間です。
例えば、東京地裁に自己破産を申し立てて、11月中旬に開始決定がなされたとしましょう。
この場合、同時廃止 ※ だとおよそ1月上旬頃に免責審尋日が指定されます。その日までが意見申述期間になります。少額管財の場合は、1月下旬~2月初旬頃に第1回債権者集会の日程が指定されます。その日までが意見申述期間です。
債権者は、この期間中に「免責についての意見書」を提出しなければなりません。
自己破産のスケジュールについては、以下の記事も参考にしてください。
ちなみに免責意見申述期間は、官報にも掲載されます。
官報の公告は誰でもネット上で確認できます(外部リンク)
債権者の意見書で免責不許可になることはあるの?
もし免責不許可事由がある場合には、免責不許可になる可能性はあります。
そのため、債権者の意見書の意味というのは、「まだ明らかになっていなかった免責不許可事由を明らかにする」ことにあります。
ただし繰り返しになりますが、実際には、破産事件のほとんどは裁判所の裁量によって免責になります。よほど悪質な事例でない限り、免責不許可事由の事実を指摘したとしても、裁量免責 ※ になる可能性が高いです。
そもそも債権者が自己破産のことを知るのは、裁判所からの通知が初めてではありません。
通常は、事前にまず破産者の担当弁護士から「自己破産する予定だ」という内容の受任通知 ※ と債権調査票が届きます。
つまり、破産者の担当弁護士がまず先に債権者と接触するわけです。
このときに、「債権者から意見書が提出されそうだな」「免責不許可事由がありそうだな」と判断した場合、担当弁護士は、破産手続きを管財事件 ※ として申し立てる可能性が高いです。
自己破産の申立ての時点で、免責不許可事由が疑われる場合、裁判所は調査のために破産管財人 ※ を選任します。
裁判所は自分で調査できる内容が限られているため、破産管財人を選任して、「この破産者を免責許可にしていいかどうか調べてくれ」と依頼するわけですね。
そして破産管財人は、破産者と何度も面談を重ねながら以下の点の調査を行います。
「免責不許可事由があるかどうか?」
「その程度は悪質なものかどうか?」
「反省しているかどうか?」
「現在は節約した生活を送っているか?」
「破産手続きに協力的か?」
調査が終わると、破産管財人は裁判所に対して「免責についての意見書」を提出します。
この破産管財人が提出する意見書が非常に重要になります。
破産管財人が提出する意見書に、「免責不許可にすべき」と記載されてしまうと、免責不許可になってしまう可能性がグッと高くなります。逆に、破産管財人が「免責は問題ない」という意見書を書けば、債権者が何を言ったところで、免責許可になる可能性が高いです。
その他のよくある質問
未払いの養育費は非免責債権 ※ なので、免責許可が下りたとしても支払義務が残ります。つまり免責許可・免責不許可の判断には関係がないので、意見書を出しても意味がありません。自己破産が終わった後に請求されるだけです。すでに公正証書や審判書で養育費の支払いが確定している場合は、免責許可が下りて破産手続きが終了した後に、すぐ差押えを受ける可能性があります。(参考記事)
債権者の免責に対する異議申立てという制度は、旧破産法(平成17年以前)時代にあったもので、現在の破産法の条文からは削除されています。現行の破産法で債権者ができるのは、免責意見申述期間において、裁判所に「免責についての意見書」を提出することだけです。
即時抗告というのは、地方裁判所の免責許可の判断について、その上級の高等裁判所でもう一度、再審理をお願いする制度のことです。ただし現実的には、高等裁判所で免責許可の決定が覆る可能性はほとんどありません。
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