自己破産でマンション管理費や修繕積立金はどうなる?

自己破産手続きをすると、当然、マンションの管理費や修繕積立金の滞納分は免責になります。では管理組合の立場からすると、マンションの区分所有者が破産すると、もう滞納管理費や修繕積立金は、取り立てることができなくなるのでしょうか? 今回は、破産者がマンション管理費を滞納していた場合の管理費の扱いについて、破産者の立場、管理組合の立場の両方から解説します。

自己破産でマンション管理費の滞納はどうなる?
ねえねえ、先生ー!
マンションを区分所有している人が自己破産したら、滞納していたマンション管理費は免責になるよねー? そしたら、管理組合の人はもう管理費は請求できなくなるのー?
いや、管理組合の人の立場から説明すると、破産者が滞納してた管理費や修繕積立金は、次のマンションの区分所有者に請求できるよ。これは区分所有法という法律で決まってるから、新しい購入者の意思に関わらず、前の滞納者の管理費を支払う義務がある。(参考
そうなんだ・・・。
次のマンション購入者さんはちょっと可哀そうだね。もちろん、その分、競売の入札価格が安くなったりするんだろうけど。じゃあ、破産者はもう一切、マンション管理費は払わなくてもいいの?
原則的にはそうだね。破産者の立場からすると、自己破産の開始決定より前に滞納していた分のマンション管理費は免責になるからね。次のマンションの購入者が代わりに滞納分の管理費を支払ったとしても、その分を求償権(※)として破産者に請求することはできない。
・・・ん?ちょっと待って!
「自己破産の開始決定より前に」ってどういう意味? 自己破産手続きをすれば、破産者が持っているマンションは手続きのなかで処分されるんだから、自己破産前の滞納しかありえないでしょ?
さすが、鋭いところに食いついてきたね(笑) じつは自己破産をしても、破産手続きの中でマンションが売却処分されないケースがあるんだ。パターンは2つある。(1)同時廃止(※)になった場合と、(2)破産財団から放棄された場合の2つだね。覚えてるかな?
あ!そっか・・・、マンションを区分所有している場合でも、住宅ローンがたくさん残っていてオーバーローン状態になっている場合は、自己破産手続き内では処分されないケースがあるんだっけ。(参考記事)。
そうだね。どっちにしても最終的には、住宅ローンの債権者によってマンションは競売処分されるんだけど、その時期が遅くなってしまうと、自己破産の手続き後も破産者に管理費が発生し続ける可能性があるんだ。その分は免責されないから注意が必要だね。
  • 破産者が滞納したマンション管理費は、次の区分所有者に請求できる
  • 破産者は免責決定を得れば、破産前の管理費の支払い義務はなくなる
  • 管財事件になった場合、マンション管理費は優先的に配当を受けられる
  • 破産開始前の滞納管理費は優先的破産債権、開始後の管理費は財団債権
  • 同時廃止になった場合は、破産開始後の管理費は破産者に請求できる
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破産者が滞納した管理費は、次の所有者に請求できる

自己破産をすると、破産者が滞納していたマンションの管理費や修繕積立金は、当然、免責になります。ただし管理組合の立場の人からしても、それによって滞納管理費が回収できなくなることはありません。

法律上、破産者が滞納していた管理費は代わりに新しい所有者(購入者)にも請求できるからです。

破産者が滞納していた管理費は、新しい買受人にも代わりに請求できる。(区分所有法8条)-説明図

マンションの所有権を売買するときの、購入者のことを法律用語で「特定継承人」といいますが、区分所有法では、特定継承人の責任について以下のように定められています。

【マンション購入者の責任】

前条第一項に規定する債権(マンション管理費の請求権のこと)は、債務者たる区分所有者の特定継承人に対しても行うことができる。(区分所有法8条

つまり区分所有のマンションを購入した方が「払いたくない」と言ったとしても、管理組合は法律上の権利として、前所有者の滞納管理費を請求することができます。

滞納管理費はマンションの売却価格にも反映される

この辺りの事情を考慮して、競売の場合は、あらかじめ物件の評価額から「滞納管理費分」を控除して最低入札価額(買受可能価額)を決定します。

競売の価格図

任意売却の場合は、あらかじめ不動産業者が「重要事項説明」として購入者に滞納管理費の支払い義務があることを説明した上で、売買代金に上乗せするかたちで一括で支払うことも多いです。

また住宅ローンの債権者主導で任意売却している場合には、債権者が滞納管理費分を実質的に負担してくれることもあります。

この際に新しい購入者が代わりに支払った滞納管理費分は、本来は、前所有者に対して請求する権利があります。これを求償権といいます。

しかし前所有者が自己破産をして免責決定を得た場合は、この求償権も原則、免責になります。新しい購入者は、破産者に対して代わりに負担した滞納管理分を請求することはできません。

自己破産した場合の、管理費の求償権の扱い-説明図

ただし一部の条件の下では、自己破産の開始決定より後に発生していた管理費分については求償権が行使できる(免責にならない)場合があります。これについては以下で後述します。

管理費は自己破産手続きの配当でも優先的に回収できる

ここまではマンションの「新しい所有者」から回収する方法の話でしたが、それだけでなく、自己破産の配当手続きからも一部の管理費の回収は可能です。

自己破産で管財事件になる場合は、破産管財人によって債務者の財産は差押えられ、換価されて債権者に配当されます。この場合は、破産手続きに参加することで、配当によってマンション管理費の一部を優先的に回収できます。

自己破産の開始決定より前の滞納管理費の優先順位-図

自己破産の開始前に滞納していたマンション管理費は、区分所有法で「先取特権」にあたると定められています。

【破産手続きでのマンション管理費の優先順位】

(1)区分所有者は、(中略)、規約もしくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権および建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。(区分所有法7条1項

(2)前項の先取特権は、優先権の順位および効力については、共益費用の先取特権とみなす。(区分所有法7条2項)

少し専門用語が並んでわかりにくいと感じるかもしれませんが、簡単にいうとマンションの管理費は、他の一般的な破産債権よりも優先的に配当を受けられる、ということです。

この辺りの破産債権の優先順位について、詳しく知りたい方は以下の記事を参考にしてください。

もちろん管財事件でも、破産者に配当するほどの財産が見つからなかった場合には、途中で破産手続きが廃止になる可能性があります。この場合は、優先債権であっても配当を受けることはできません。

自己破産開始後のマンション管理費

ちなみに自己破産の開始後、手続きの期間中に新たに発生している管理費についても、管財事件の場合は、財団債権として破産管財人に請求できます。

自己破産の開始後に発生した管理費の優先順位-図

「破産財団の管理に関する費用」は、「財団債権」として破産手続きによらずに随時、最優先で支払いを受けることができます。

管財事件の場合は、破産管財人がマンションを管理して競売や任意売却で処分することになりますので、その間に発生している管理費については、(配当を待たなくても)随時、破産財団のなかから弁済を受けられます。

破産者にマンション管理費の支払義務が発生するケース

ここまで説明したように、マンションの区分所有者が自己破産した場合には、破産者には滞納管理費の支払義務はなくなります。

管理組合としては、(1)新しい所有者に代わりに請求する、(2)破産手続きに参加して配当により回収する、のどちらかの方法で、破産者の滞納管理費を回収するのが原則です。

管理費の回収の2つの方法-図

しかし、一定の条件の場合では、「自己破産の開始後に発生したマンション管理費」について、破産者に支払義務が残るケースがあります。

自己破産手続きの中でマンションが処分されなかった場合

自己破産手続きの中で、破産者が区分所有するマンションが処分されなかった場合には、破産宣告よりも前のマンション管理費については免責になりますが、破産宣告よりも後に発生した管理費について、破産者に支払義務が残ります。

このようなケースがあり得るのは、具体的には以下のような場合です。

  • マンションに多額の住宅ローンが残っていて、同時廃止になった場合
  • 管財事件の手続きの途中で、マンションが破産財団から放棄された場合

 
同時廃止になった場合や、破産手続きの途中でマンションが破産財団から放棄された場合など、自己破産手続きのなかでマンションが処分されなかった場合、自己破産の開始より「後に」発生した管理費は、破産者が支払わなければならないのです。

自己破産の開始後に(1)同時廃止になった場合、(2)破産財団から放棄された場合、の管理費は、免責されない-図

区分所有のマンションに多額の住宅ローンが残っている場合、自己破産手続きのなかで処分しても債権者への配当が出ないため、自己破産手続きの中で処分されないことがあります。

例えば、区分所有マンションの価値が1000万円に対して、住宅ローン残額が1500万円ある場合、競売にかけたとしても、全額を住宅ローン債権者に持っていかれてしまうため、破産財団として差押える意味がありません。

こういった場合には、「資産価値なし」と判断されて同時廃止になったり、管財事件の途中でも破産財団から放棄されることがあります。

オーバーローンの場合、住宅ローン残額が住宅の評価額の1.5倍以上だと同時廃止になる-図

つまり裁判所や破産管財人がマンションの処分を、住宅ローン債権者の金融機関に譲るようなイメージですね。

そのため結局は、金融機関がマンションを競売にかけたり、任意売却して処分することになります。破産者がそのまま区分所有マンションに住み続けることはできません。

問題は、マンションが売却される時期(タイミング)です。

自己破産の開始後に発生した管理費を誰が払うか?

自己破産の開始前に滞納していた管理費は、どちらにしても免責決定が出れば、免責になります。問題は、自己破産の開始後に発生したマンション管理費です。

自己破産の開始決定後、同時廃止になったり、マンションが破産財団から放棄された場合、その後しばらくは破産者がマンションを保有し続ける状態になってしまいます。

すぐに買い手が見つかればいいですが、任意売却をするにしても最低3カ月はかかりますし、競売となると最低でも半年以上はかかります。この間の管理費については、破産手続きでは免責になりませんので、「誰が支払うか?」が問題になります。

同時廃止後、金融機関が住宅を売却するまでの期間の管理費-図

もちろん、破産者にも支払能力がないケースが多いので、結局はこれも「新しい購入者」がまとめて負担することが多いです。

しかし、破産宣告後に発生したマンション管理費については、新しい所有者が代わりに負担した分は、求償権が行使できます。つまり、新しい所有者が前の所有者(破産者)に対して負担分を請求することができるのです。

これについては、東京高裁の判例もあります。

東京高裁 平成23年11月16日判決引用

本件のように、破産者が滞納していた区分建物の管理費(修繕管理費を含む。)については、破産手続開始前のものは、破産債権として免責の対象となり、また、同手続開始後のものについても、当該区分建物が破産財団の一部として存在する限り、破産法一四八条一項二号にいう「破産財団の管理に関する費用」に該当し、財団債権となるから、破産者がこれを弁済する義務を負わない。他方、区分建物に抵当権等が設定されていて余剰価値がなく、破産管財人が破産手続中にこれを放棄した場合、放棄後に生ずる管理費については、破産法や民事執行法に特別の手当がないため、破産者が義務を負わないとする法律上の根拠に欠け、このため、担保不動産競売手続において買い受けた者が、代位弁済した管理費を求償請求した場合、破産者は、これを支払うべき義務を負うことになる。

【参考文献】破産財団から放棄された区分所有建物に発生した費用について

このように、いくら自己破産をしていても、破産手続きの開始後に発生したマンション管理費については、後々、新しい所有者から求償権による請求を受けてしまう可能性があることは、破産者の方も知っておくべきでしょう。
 

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