自己破産をすると宅地建物取引士の資格は失効する?
自己破産をすると破産手続きの期間中は、宅地建物取引士の登録を受けることができなくなります。現在、既に宅地建物取引士として登録を受けている場合は、自己申告して宅地建物取引士証を返納しなければなりません。ただ、これは自己破産手続きが終わるまで(免責許可を受けるまで)だけで、その後はまた登録申請をすることができます。宅建試験の合格まで取消しになるわけではありません。
たしか自己破産をすると、宅地建物取引士の資格が取消しになっちゃうんだよねー>< せっかく難しい試験に受かったのに、また受け直さなくちゃいけないのかなー?
じゃあ自己破産をしたら、その後どのくらいの期間、宅地建物取引士の登録を受けることができなくなるの? なんかネットで「10年間は宅地建物取引士になれない」って書き込みを見かけたんだけど…
- 自己破産が開始すると、宅地建物取引士の登録はいったん削除になる
- 自己破産を開始した日から30日以内に、本人が登録の都道府県知事に届け出る
- 喪失期間は通常3~6カ月。自己破産が終わったらまた登録申請できる
- 破産者が宅建業の免許を受けている場合は、破産管財人が廃業を届け出る
- 自己破産しても宅建試験の合格歴は消えない。受験生も受験までは普通に可能
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1.自己破産すると宅地建物取引士の登録は削除される
2.宅建業の免許を受けている場合の自己破産
3.自己破産後に再度、宅地建物取引士の登録をするには?
4.宅建試験の受験は、自己破産をしてても合格できるの?
自己破産すると宅地建物取引士の登録は削除される
宅建試験に合格した後、実際に宅地建物取引士になるためには、都道府県知事から登録を受ける必要があります。通常いったん宅地建物取引士として登録を受ければ、その登録は一生有効です。
しかし宅地建物取引士が自己破産してしまった場合には、その登録は削除になってしまいます。また自己破産をしている人で、まだ破産手続きが終わっていない人は、宅地建物取引士としての登録を受けることができません。
宅地建物取引士が自己破産した場合には、その旨を、自身が登録している都道府県の役所に本人が届け出なければなりません。これは完全に自己申告です。
※管轄の県庁・都庁に「宅地建物取引士死亡等届出書」を提出します。この死亡等届出書のなかに「破産」の項目があります。
一方、都道府県知事は、宅地建物取引士から自己破産した旨の届出があった場合、その登録を削除しなければなりません。また宅地建物取引士証は速やかに都道府県知事に返納する必要があります。
以下、それぞれ根拠となる条文を解説します。
試験に合格した者(略)は、国土交通省令の定めるところにより、当該試験を行った都道府県知事の登録を受けることができる。ただし、次の各号のいずれかに該当する者については、この限りでない。(3)破産者で復権を得ないもの
(宅地建物取引業法18条1項)
自己破産時の届出義務
第18条1項の登録(宅地建物取引士の登録)を受けている者が、次の各号のいずれかに該当することになった場合は、各号に定める者は、その日から30日以内に、その旨を登録している都道府県知事に届け出なければならない。
(2)第18条第1項1号または3号(破産者で復権を得ないもの)~5号の3までに該当するに至った場合 本人
(宅地建物取引業法21条2項)
申請等に基づく登録の削除
都道府県知事は、次の各号に掲げる場合には、第18条第1項の登録(宅地建物取引士の登録)を削除しなければならない。
(2)前条の規定による届出があったとき
(宅地建物取引業法22条)
宅地建物取引士証の返納
宅地建物取引士は、第18条第1項の登録が削除されたとき、(略)、速やかに、宅地建物取引士証をその交付を受けた都道府県知事に返納しなければならない。
(宅地建物取引業法22条の2 6項)
つまり、宅地建物取引士の登録を受けるためには「破産者でないこと」が必要(18条1項)であり、既に宅地建物取引士の登録を受けている人が破産者になった場合には本人による届け出が必要(21条2項)であり、届出があった場合には都道府県知事が宅地建物取引士の登録を削除する(22条)、ということです。
ただし、一度は登録削除にはなりますが、この先ずっと宅地建物取引士として登録できなくなるわけではありません。
上の条文を見ていただければわかりますが、宅地建物取引士の登録が受けられないのは「破産者で復権を得ないもの」に該当する場合です。逆にいえば、復権すれば宅地建物取引士の登録を受けることができる、ということです。
復権とは、自己破産の開始により制限を受けた権利が、手続きの完了とともに回復することをいいます。(参考:「自己破産の復権とは?」)
破産者が復権するパターンはいくつかありますが、最も一般的なのは「免責の確定」によるものです。
自己破産手続きが順調に進み、特に問題がなければ裁判所により免責決定を受ける(借金が免除になる)ことになりますが、この免責決定が確定すると破産者は復権となり、破産手続きに伴う資格制限などが解除されます。
免責決定が出てから、それが正式に確定するまでは2週間ほどです。全体でいうと、破産手続きが開始してから免責決定が確定するまでは、およそ3~6カ月程度となります。
その後、再度、宅地建物取引士の登録申請をして、登録されるまでにおそらく1~2カ月かかりますので、合計で4~8カ月くらいの期間は宅地建物取引士の仕事に就くことができなくなります。
宅地建物取引士の方には、社員として不動産会社に勤務している方もいれば、個人事業として宅建業の免許を受けて開業している方もいると思います。
先ほどまでは、「宅地建物取引士」の話でしたが、今度は「宅建業者」の話になります。
宅地建物取引士が自己破産をした場合は、「本人申告により登録削除になる」と説明しましたが、宅建業者(法人、個人事業主)が破産した場合には、破産管財人が国土交通大臣か都道府県知事にその旨を届け出ることになります。
宅建業者が破産した場合は、そのまま宅建業の免許は取消しになります。
1.宅地建物取引業を営もうとする者は、国土交通大臣または都道府県知事の免許を受けなければならない。(宅建業法3条)
2.国土交通大臣または都道府県知事は、免許を受けようとする者が次の各号のいずれかに該当する場合は、免許をしてはならない。(1)成年被後見人もしくは被保佐人または破産者で復権を得ないもの (宅建業法5条)
免許の取消し
国土交通大臣または都道府県知事は、その免許を受けた宅地建物取引業者が、次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該免許を取り消さなければならない。(1)第5条1項1号(破産者で復権を得ないもの)に該当するに至ったとき
(宅建業法66条)
廃業の届出
宅地建物取引業者が次の各号のいずれかに該当することとなった場合には、各号に掲げる者はその日から30日以内に国土交通大臣または都道府県知事に届出なければならない。
(3)宅地建物取引業者について破産手続き開始の決定があった場合-破産管財人
(宅建業法11条)
このように、自己破産をすると(免責許可が確定するまでの間は)宅建業を継続することはできなくなります。
自己破産後に再度、宅地建物取引士の登録をするには?
自己破産で復権すると、また改めて宅地建物取引士の登録を申請することができるようになります。
申請は各県におこないますが、登録手数料が37,000円かかります。これは東京都と神奈川県の場合ですが、おそらくどの都道府県でも同じだと思います。
あと宅地建物取引士の再登録にあたって、法定講習を約6時間ほど受ける必要がある場合は、この法定講習にも16,500円(交付手数料4,500円、講習会受講料12,000円)がかかります。
合計すると5~6万円の費用がかかることになります。
宅地建物取引士の登録申請にかかる期間は、通常1カ月ほどです。ただし登録申請が多い時期だと2カ月以上かかることもあるようです。
宅地建物取引士の登録申請にあたっては、自分が「破産者で復権を得ないもの」ではない、ということを証明する書面を提出する必要があります。
それが身分証明書です。市役所にいって「身分証明書を交付してください」といえば貰えます。
一般的に身分証明書というと、免許証やパスポートなどのことを指すイメージがありますが、実は市役所に「身分証明書」という名前の公的な書類があるんですね。それも「破産者等ではない」ことを証明するため、だけのような変わった書面です。
本 籍:神奈川県横浜市 ××××××
本人氏名:教えて子
生年月日:昭和58年×月×日
一.禁治産又は準禁治産の宣告の通知を受けていない
一.後見の登記の通知を受けていない
一.破産宣告又は破産手続き開始決定の通知を受けていない
上記のとおり証明する。
平成27年11月30日
この身分証明書は、宅地建物取引士の登録申請をする際には必ず提出が求められます。
ただし既に自己破産手続きが終わっていて、免責許可も確定している場合には、身分証明書を取得すると上記のように「一.破産宣告又は破産手続き開始決定の通知を受けていない」と記載されますので、安心してください。
たまに質問等で見かけるのが、「宅地建物取引士の資格が失効になるのは、免責許可を受けるまでの数カ月だけなんだから、届出をしなければバレないんじゃないか?」というものです。
ただこれは、明らかに宅建業法に違反する行為なのでやめた方がいいでしょう。
自己破産の開始決定は官報にも掲載されますので、バレる可能性はあります。そんなことをしなくても、半年ほど我慢して復権すれば、数万円の手数料でまた宅地建物取引士として堂々と再登録できるわけですから、余計なリスクを背負う必要はないと思います。
また個人で開業して免許を受けて、その後、事業が破産した場合には、前述のように破産管財人から30日以内に都道府県知事に届出がありますので、どっちみち隠すことはできません。
宅建試験の受験は、自己破産をしてても合格できるの?
もう1つよくある質問が、「宅建試験に向けて勉強しているんだけど、自己破産したら試験が受けられなくなるの?」というものです。
これは合格までであれば、全く関係ありません。
宅地建物取引士の試験には、特に受験資格はありませんし、「自己破産者は受験できない」という制限もありませんので、普通に勉強して受験することができます。結果、70%以上が正答できれば他の受験生と同じように合格します。
もちろん合格後に、宅地建物取引士として実際に都道府県の登録を受けようと思ったら、前述のように「復権」していなければ登録ができません。ただ現時点でまだ受験生の場合は、合格後のことを気にする必要はないでしょう。
いったん宅建試験に合格してしまえば、合格は一生有効であり、いつでも登録したいときに宅地建物取引士の登録申請をすることができます。なので自己破産手続きをしている人が、宅建試験の勉強をしていても全く問題はありません。