借金の強制執行で給与が差押さえられる?
借金を滞納したまま、裁判所からの支払督促を放置していると消費者金融等の債権者から給与の差押えを受ける可能性があります。 勤務先が相手方の債権者に知られていなければ給料を差押えられる可能性は低いですが、契約時に職場を記入していて、かつ今でもそこに勤務している場合には、相手方は強制執行による差押えが可能です。
借金について裁判所から「支払督促」っていうのが届いて、「2週間以内に督促異議を申し立てないときは、仮執行の宣言をする」って書いてあるんだけど-。これってどうなるのー?><
給料って全額、差押えられちゃったりするのー? 給与が差押えられたら家賃も払えないし、生活できなくなっちゃうよー・・・・
何か良い方法はないのかなー?
それでも、4分の1は絶対に差押えられちゃうのかなー? 例えば、手取額が12万円しかなくてギリギリで生活してる人でも、4万円は差押えられるのー?
あと、給与の差押えがされたときに心配なのが、職場に借金のことがバレちゃうことなんだけど、会社に連絡はやっぱり行くのかなー? 勤務先にバレずに済ます方法はない?
- 裁判所の支払督促を無視すると、2週間で仮執行宣言が発付される
- 仮執行宣言付き支払督促の送達後、債権者は給与の差押えが可能になる
- 給与の差押えが可能な範囲は、原則、手取額の4分の1まで
- 給与の差押えがされると、会社(勤務先)には100%借金はバレる
- 個人再生の申立てにより、給与の差押えは中止できる(参考記事)
1.裁判所から「支払督促」が届いたら要注意です!
2.なぜ強制執行で給与債権が狙われるのか?
3.裁判所の支払督促から給与差押えまでの流れは?
4.給料の差押えの具体的な方法について
5.強制執行で給与が差押えられる範囲って?
6.給与の差押えを受けたら借金は会社にバレるか?
裁判所から「支払督促」が届いたら要注意です!
消費者金融やクレジットカードなどの滞納をずっと放置して催告を無視していると、債権者が「法的な手段」に訴えてくることがあります。
法的な手段により借金を回収する方法は、主に「支払督促」「少額訴訟」「通常訴訟」の3つです。いずれも裁判所を介して申立てを行う制度ですが、最終的な目的は全て同じです。ずばり、強制執行による債権の回収(例えば、給与の差押え)です。
手順の違いこそありますが、いずれも裁判所に借金の存在を認定して貰い、強制執行を可能にするための法律上の準備になります。
法的な手段というと、訴訟をイメージされる方も多いと思いますが、実務上は「支払督促」が選択されることが多いです。 消費者金融等が「支払督促」を選ぶのにはいくつか理由があります。まず、手続きが非常に簡単でスピーディーなことが挙げられます。
訴訟の場合は債権者、債務者の双方の主張を聞いて、証拠調べや意見聴取を経てはじめて裁判所が判決として「支払命令」を出します。一方、支払督促は、債権者からの申立てや書類の確認のみで、債務者に支払命令をいきなり送ります。
つまり債権者だけの意見を聞いて支払命令を出してくれる、債権者にとって非常に都合の良い制度なのです。しかも裁判所に一度も出頭する必要がなく、書類提出だけで完結します。
もちろん「借金に身に覚えがない」、「金額に納得がいかない」場合には、2週間以内に裁判所に異議を申し立てることができます。この段階で異議を申し立てれば、異議が正しいかどうかに関係なく支払督促はいったん効力を失います。(異議を申し立てれば、そのまま通常訴訟に移行します)。
しかし2週間以上放置してしまうと、そのまま債権者の申立てにより「仮執行宣言」が発付されてしまいます。
とにかく支払督促は時間がありませんので、スピーディーに対応することが必要です。
また金額の上限がないのも、債権者にとっての支払督促のメリットです。例えば訴訟の場合、60万円を超える借金の請求については、少額訴訟を利用することはできません(通常訴訟を利用しなければならない)。しかし支払督促の場合は、そのような金額の制限はありません。
消費者金融などの貸金業者の場合、金銭消費貸借契約を結ぶ際に、勤務先についての情報を記載させられるケースも多いと思います。
給与債権は債権者にとって差押えがしやすく、かつ最も手堅く取立てができる債権執行の1つです。そのため、借金の強制執行で給与が差押えられることは珍しくありません。
多重債務者の多くは、そもそも強制執行で差押えできる財産をあまり持っていないことも多く、また不動産などは換価手続きが非常に面倒です。その点、給料は将来に渡って確実に現金で入ってくる債権なので、差押えに非常に便利なのです。
一方、債務者の立場からすると、生活がかかっていますので、給与が差押えられるというのは大変なことだと思います。給与債権を差押えられた場合は、個人再生を申立てることで差押えを中止・取消しにすることが可能です。これは後述します。
裁判所の支払督促から給与差押えまでの流れは?
前述のように、まずは裁判所から「支払督促」が届きます。
裁判所からの郵便物は、「特別送達」という方法で郵送されます(郵便法66条)ので、確実に郵便職員から手渡しで受け取ることになります。受け取りには署名が必要で、郵便ポストに投函されることはありませんので、「気付かなかった」ということは通常ありません。
債務者は、請求の趣旨記載の金額を債権者に支払え。
債務者がこの支払督促送達の日から2週間以内に督促異議を申し立てないときは、債権者に申立てによって仮執行の宣言をする。
平成○年○月○日
簡易裁判所 裁判所書記官
この支払督促には、通常、督促異議申立書が同封されています(同封されていない場合は、裁判所の窓口で受け取ります)。
前述のように、支払督促を受け取った日(送達日)から2週間以内に異議の申立てをしない場合、そのまま債権者が「仮執行宣言の申立て」をすることで、裁判所から仮執行宣言が付されてしまいます。
裁判所により仮執行宣言が付されてしまうと、債権者は直ちに強制執行の申立てをすることが可能になります。(民事執行法22条4号)
既に債権者が勤務先を知っていて、直ぐに「債権差押命令申立書」を提出した場合、最短で1~2日で裁判所から差押命令が発令されて、そこから1~2日で第三債務者(この場合、勤務先)に差押命令が送達されることになります。
たまに「仮執行宣言の発付から更に2週間、異議申立て期間があり、その後、差押えが可能になる」という間違った情報を掲載しているサイトがありますが、仮執行宣言は確定を待つことなく債権執行ができる手続きです。
「仮執行宣言付き支払督促正本」が債務者に送達された後は、送達証明書(相手方に届いたことを証明する書類)さえあれば、債権者はすぐに強制執行ができます。さらに、そこから2週間待つ必要はありません。
債務者は、仮執行宣言付きの支払督促が届いてから更に2週間は、異議申立てができ、通常訴訟に移行することができます。
ただし前述のように、その間に債権者が差押え手続きを進めれば、それを異議申立てだけで阻止することはできません。阻止するためには、同時に別途、「強制執行停止の申立て」をすることが必要です。
仮執行の宣言を付した支払督促に対する督促異議の申立てがあった場合において、支払督促の取消し若しくは変更の原因となるべき事情がないとはいえないこと、又は執行により著しい損害を生ずるおそれがあることにつき疎明があったときは、裁判所は強制執行の一時停止を命じることができる。(民事訴訟法403条1項3号)
1度目(最初の支払督促を受け取った時)の異議申立てであれば、異議が正しいかどうかに関わらず、支払督促を無効にすることができますが、2度目(仮執行宣言付き支払督促)の異議申し立ての場合は、正当な理由がなければ強制執行は停止できません。
また、2度目の異議申し立て期間(2週間)でも督促異議の申立てがなかった場合には、支払督促は確定することになります。
給料の差押えの具体的な方法について
債権者が給料を差押える場合には、上記の債権差押命令申立書の「差押債権目録」に、勤務先の情報を記載して裁判所に提出します。
金______円
債務者(______勤務)が第三債務者から支給される、本命令送達日以降、支払期の到来する下記の債権にして頭書金額に満つるまで。
1.給料(基本給と諸手当、ただし、通勤手当を除く)から給与所得税、住民税、社会保険料を控除した残額の4分の1
(参考書式:「債権差押命令申立書のダウンロード」)
この申立てが受理され、裁判所から差押命令が発令されると、裁判所から勤務先の職場に、「債権差押命令」という書類が送達されます。
この差押命令が届いたら、勤務先の職場は差押えられた部分の債権について、債務者(従業員)に支払うことができなくなります。例えば20万円の手取賃金に対して5万円が差押えられた場合、その5万円を従業員に支払うことはできません。
またこの差押命令書は、債務者にも送達されます。債務者に送達された日から1週間以上が経過すると、債権者は勤務先から直接、差押えた給与を取立てることが可能になります。
勤務先が債権者に支払いをする方法は2つあります。1つは、(1)債権者と直接、連絡をとって差押えた給与額を債権者に振り込む方法、もう1つは(2)供託所(法務局)に差押えたお金を預けて、供託所に分配して貰う方法、です。
差押えた給与部分について、直接、債権者と連絡を取って債権者の指定する口座に振り込みます。振込を確認したら、債権者は裁判所に毎月、「取立届」を提出します。
(2)勤務先が供託所に預ける方法
差押えた給与部分について、法務局に供託します。その後、裁判所が債権者に連絡をとり、配当手続き(または弁済交付手続き)をします。債権者は裁判所から証明書を受け取って、それと引き換えに供託所で払渡を受けます。
上記のように、任意で供託所に差押えた給与を供託することを、「権利供託」といいます。一方で、給与を差押える債権者が複数いる場合には、勤務先は必ず供託をしなければならない義務を負います。これは「義務供託」といいます。
第三債務者(職場)が法務局に供託する場合、(1)差押えられた金額だけを供託する方法と、(2)手取額の全額を供託する場合があります。
例えば、給与額(手取り)が20万円で、そのうち5万円が差押えられている場合、勤務先は5万円だけを供託して残り15万円を従業員に支払うこともできれば、20万円全額を供託することもできます。
20万円全額を供託した場合、裁判所が配当手続きにより、5万円を債権者に支払って、15万円を債務者(従業員)に払い渡すことになります。ただし、この配当手続きは通常、数カ月に一度まとめておこなわれる(毎月おこなわれない)ので、全額を供託された場合には従業員の立場からすると手続きがやや面倒なことになります。
勤務先の立場からすると、「債権者への支払い遅れや、金額間違いなどの責任を負いたくない」「面倒事に巻き込まれたくない」という思惑から全額を供託することが認められています。債権者への支払いを怠ると、今度は勤務先が取立訴訟を受ける可能性もあるからです。
ただし差押えられている債務者の立場からすると、「せめて(差押範囲外の)給与については直接、振り込んで貰った方が生活が助かる」という場合が大半だと思います。ここについては、相談が可能であれば勤務先と相談すべきでしょう。
強制執行で給与が差押えられる範囲って?
強制執行で給与の差押えを受けたとしても、全額が没収されるわけではありません。いくら借金の返済のためとはいえ、給与を全額を差押えられてしまったら生活していくことができないですよね。
そのため民事執行法152条では、差押禁止債権という項目があり
「給料、賃金、退職年金、賞与等は、その支払期に受けるべき給付の4分の3に相当する部分は、差し押さえてはならない。」と定められています(民事執行法152条)。
ここでいう「支払期に受けるべき給付」とは手取額のことをいいます。つまり、差押えが可能な額(差押可能額)は、まず給与額面から給与所得税、住民税、社会保険料、等の税金を控除して残った額のうち4分の1までということになります。
ただしこれは、生活に最低限必要な給与額を保護する目的の法律であり、給与所得がかなり高額な方については、この保護が適用されません。
具体的には、月額給与が44万円を超える場合(4分の3にあたる所得が33万円を超える場合)には、33万円を超える部分については全額を差押えたれてしまいます。
例えば、給与の手取額が24万円の場合、差押可能額は1/4に当たる6万円になります。もし給与の手取額が48万円であれば、差押可能額は33万円を超えた部分、つまり15万円になります。
これを図にすると以下のようになります。
給与額 | 差押可能額 | モデルケース |
---|---|---|
~43万円 | 給与額の4分の1 | 給与24万円 ⇒ 差押え6万円 |
44万円~ | 33万円を超えた範囲 | 給与58万円 ⇒ 差押え25万円 |
もし仮に、複数の貸金業者が同時にこの給与の差押え請求を行ったとしても、この範囲の額以上を差押えることはできません。
例えば、給与の手取額が24万円で、差押命令が出ている債権者が3社の場合、差押可能額は3社合計で6万円になります。この6万円は、前述の義務供託により法務局に預けられて、裁判所の配当手続きにより各債権者に、それぞれの差押債権額に応じて配当されます。
上記の規定では、どんなに給与所得の低い方でも必ず4分の1は差押えを受けてしまうことになります。例えば、給与所得が(税金控除後の)手取り12万円の場合、4万円は差押対象になります。しかし現実的に、12万円の手取りで4万円を差押えられると、かなり生活は困難なハズです。
このように、生活やその他の事情で差押額を減らして欲しい場合には、裁判所に差押禁止債権の範囲の変更を申立てることで、執行裁判所の判断により一部の差押えを取り消して貰える可能性があります。
執行裁判所は、申立てにより、債務者及び債権者の生活の状況その他の事情を考慮して、差押命令の全部若しくは一部を取り消し、又は前条の規定により差し押さえてはならない債権の部分について差押命令を発することができる。(民事執行法153条)
上記の例でいえば、手取額12万円のうち4万円が差押対象だったところを、差押禁止債権の拡張により、裁判所の判断で1~2万円等に減額される可能性があります。
給与の差押可能額が1/4までに限定されているのは、債務者の最低限の生活の保護のためですが、この生活のなかには、例えば子供や家族の生活も含まれていると考えられます。
そのため、養育費や婚姻費用等の扶養義務にかかる債権の滞納が原因で差押えを受けている場合には、通常よりも多くの金額の差押えが認められています。具体的には上記債権の差押えでは、手取額の1/2(半分)が差押えの対象になります。
またこちらも同様に、手取額が66万円を超える場合には、33万円を超える部分の全額が差押え対象になります。例えば、手取額が40万円であれば差押可能額は20万円、手取額が80万円であれば差押可能額は47万円になります。
給与の差押えを受けたら、借金は会社にバレるか?
「給与の差押えをされれば、会社に借金をしていることがバレるのか?」ということは多くの方が抱く疑問ですが、これは残念ながらハッキリ言って100%絶対にバレます。
裁判所から差押命令の通知が届きますし、その後の実務手続きにおいても、勤務先は自ら差押部分にあたる給与債権を、債権者の口座に振り込んだり、または法務局に供託したり、といった手間や負担が毎月発生します。
できれば職場にも事前に相談をしておくことが望ましいかもしれません。また、ずっと給与が差押えられたままでは生活にも支障をきたすでしょうから、早めに完済して差押えを解除するか、債務整理手続きによって差押えを中止することが必要です。
個人再生は、借金の返済に行き詰まってしまった場合に、民事再生法という法律の制度に則って、借金を大幅に減額して貰う救済手続きです。
この個人再生の申立てをおこなうと、開始決定がなされた時点で給与の差押え手続きを中止させることができます。これについては長くなるので、次回の記事「個人再生手続きで給料差押えを中止・取り消しする方法」で詳しく解説します。