債務額(借金)が5000万円以上だと個人再生できない?!

個人再生では、手続きの開始要件として債務額が5000万円以下であることが必要とされています。住宅ローンの債務額は除外することができますが、残りの借金の額が5000万円を超える場合には、個人再生を利用することはできません。では、住宅ローンの保証人になっている場合はどうでしょうか? また担保権付きの借金や事業リースを含めて5000万円を超えるとダメなのでしょうか?

債務額が5000万円を超えると個人再生できない?
ねえねえ、先生ー!
住宅ローンを除く借金の総額が5000万円を超える場合は、個人再生はできないって聞いたんだけどー。 これって、住宅ローン特則を利用するかどうかに関係なく、住宅ローン残高は控除しても大丈夫なのー?
そうだね、いわゆる5000万円要件のことだね。住宅ローン特則を利用しない場合でも、住宅ローンの残債は控除して計算して大丈夫だよ。高額だからね。他にも担保権付きの借金は、全部、担保額を差し引いて計算して大丈夫だよ。
なるほどー、
例えば車ローンが300万円残っていた場合でも、所有権留保された車の残存価値が100万円だったら、計算に加えるのは200万円だけでいいってことだね?
そうだね、車ローンの所有権留保も、担保権(別除権)だからね。
担保権がある場合、債権者は先に担保権を行使して残った額分だけ再生手続きに参加できる。だからこの場合だと、200万で計算して合計額が5000万円を超えなければ大丈夫だ。
ふーん、なるほどなー。
じゃあ他の人の借金の保証人になっている場合はどうなのー? 例えば、夫の住宅ローンの保証人になっていて、保証債務も合計すると5000万円を超えてしまう場合は?
うーん、これは困るケースだね。
保証債務は住宅ローン債権には当たらないから除外することはできないんだよね。つまり保証債務との合計で5000万円を超える場合には、残念ながら個人再生は利用できないんだ。
  • 個人再生は債務額が5000万円を超える場合は利用できない(5000万円要件)
  • 住宅ローン債務は控除できる、担保付き債権については担保額分は控除できる
  • 保証人になっている場合は、保証債務は控除できない(含めないとダメ)
  • 事業による借入や個人保証も、5000万円を超えると個人再生できない
個人再生でいくら借金が減るのか、他の債務整理の方が良いか診断する

個人再生の5000万円要件で控除できるのはどんな借金?

個人再生は借金の金額が大きければ大きいほど、大幅に借金を減額することのできる制度です。例えば最低弁済額の基準では、借金が3000万円の場合には1/10まで債務を圧縮できるため、なんと2700万円も借金が免責されることになります。

しかし個人再生は、あくまで一般の個人が利用することを前提として民事再生を簡易化した制度です。あまりに債務額が大きい場合には、本来の通常民事再生の手続きで対応すべきです。

そのため、個人再生手続きの開始決定の要件として、「(住宅ローン債権の額と、別徐権行使によって回収できる額を除いた)借金の額が5000万円を超えない場合のみ、個人再生手続きを開始できる」と定められています。

住宅ローン等を除く債務額が5000万を超えると個人再生できない-説明図

個人再生手続開始の要件

再生債権の総額(住宅資金貸付債権の額、別除権の行使によって弁済を受けることができると見込まれる再生債権の額(略)を除く。)が五千万円を超えないものは、この節に規定する特則の適用を受ける再生手続(以下「小規模個人再生」という。)を行うことを求めることができる。(民事再生法221条

そのため、もし住宅ローンや別除権付き債権を除く債務の総額が5000万円を超える場合には、裁判所により申立てが棄却されることになります。

また【別除権】という言葉は法律用語でわかりにくいのですが、簡単にいうと担保付き債権のことです。「債権者で担保を取っている場合は、先に自分で担保権で回収してね。担保権で回収した分は、個人再生には含まれないよ」という意味です。

担保権付き債権は、担保の時価評価額を差し引いた分だけを加えて計算する-説明図

代表的な例は自動車ローンですね。自動車ローンの返済ができなくなると、まず信販会社は車を引き上げることで残債を回収します。そのため、車の残存価値(時価の評価額)分は、5000万円の計算に含めなくて大丈夫、ということです。

別除権と車ローンについては以下も参考にしてください。

保証債務を含めて5000万円を超えるとダメ?

もう一度、復習しましょう。個人再生において5000万円要件で除外することができるのは、(1)住宅ローン債権(住宅資金貸付債権)、(2)別除権付き債権(被担保債権)、の2つだけです。

1.住宅資金貸付債権 2.別除権行使による弁済額の2つのみ控除可能-説明図

保証債務はこのどちらにも該当しませんので、再生債権として計算に含める必要があります。その結果、5000万円を超える場合には個人再生は利用できません。

少しややこしいですが、住宅ローンの連帯保証人になっている場合も同じです。 住宅ローンの保証債務は、民事再生法でいう「住宅資金貸付債権」ではありませんので、ここでいう5000万円要件の控除対象にはなりません。

保証債務(住宅ローンの連帯保証を含む)は5000万円要件の除外対象にはならない-説明図

例えば、奥さんがキャッシングやカードなどの借金が合計600万円あり、さらに旦那さんが借りている住宅ローンの残額4500万円について、奥さんが連帯保証をしているとします。この場合、保証債務を含めた合計額が5000万円を超えますので、奥さんは個人再生ができません。

一方、旦那さんは、住宅ローン額分は控除されますので、他の借金が5000万円以下であれば個人再生できる可能性は高いです。少し変な話ですが、保証債務が「住宅ローン債権」に当たらない以上、そういう扱いになります。

太陽光ローンを含めて5000万円を超える場合はダメ?

一時期、太陽光ローンがかなり流行りました。銀行の金融商品にも、リフォームローン等の一環、または住宅ローンの一部として、太陽光ローンを提供するケースも増えているようです。

この太陽光発電設備のためのローン残高を含めると、5000万円を超えてしまう、という場合は5000万円要件に引っかかるのでしょうか?

これも前述と同じで、太陽光ローンが「住宅資金貸付債権」にあたる、と判断されれば、5000万円の計算から控除することができます。太陽光ローンが、個人再生上の住宅ローン債権に当たるのかどうか、ということですね。

太陽光ローンが住宅資金貸付債権にあたるかどうか-説明図

個人再生における住宅ローン債権に該当するためには、少なくとも以下の要件が必要です。

住宅資金貸付債権に該当するための条件

(1)ローンの担保として、住宅に抵当権が設定されていること
(2)(リフォームローンの場合)住宅の改良に必要な資金の貸付であること

そのため、例えば、無担保ローンとして太陽光ローンを借りている場合はダメです。5000万円要件での控除はできないので、太陽光ローン残高を含めて5000万円を超える場合には、個人再生は利用できません。

新築での住宅建設や購入、または増改築にあたって住宅を担保としたローンを借りている場合には、控除できる可能性はあると思います。詳しくは最寄りの弁護士の先生等に確認してください。

個人事業での借入が5000万円を超える場合はダメ?

個人事業で、事業ローンや融資などの借入を含む合計額が5000万円を超えている場合や、あるいは法人の個人保証による保証債務を含む合計額が5000万円を超えている場合は、個人再生を利用することはできません

事業に関わる借入金というのは、金額も桁違いに大きくなりがちです。 実際には、5000万円要件に引っかかる大半のケースが、この個人事業に関わる借入や債務ではないかと思います。

ただし、事業ローンや未払いリース料債権などで担保が存在する場合は、前述のように担保の評価額については除外して5000万円の計算することができます。

例えば、個人事業で営業のための機械、電化製品、OA機器などをリースで借りている場合があります。この場合の未払いのリース料債権は、別除権付き債権の1つと解釈されます。

リース会社は債務不履行を理由として機器を回収し、換価することが可能ですので、いわばリース機器を担保にとってお金を貸しているのと同じことです。そのため、リース機器の時価評価額については、5000万円から控除して計算することができます。

債務額が5000万円を超えると自己破産しかできない?

債務額が5000万円を超えていて個人再生が利用できない場合、自己破産しか選択肢はないのでしょうか?

これは前述のように、通常の民事再生を利用するという選択肢もあります。 通常民事再生は、法人や企業が利用するための再生手続きですが、債務額が5000万円を超えるような場合は、個人でも民事再生を利用できます。

ただし、民事再生は手続きがさらに煩雑です。また裁判所への予納金が50万円以上と高額になる、債権者の過半数による賛成が必要になる(小規模個人再生の場合は、「過半数の反対がなければ許可」なので、かなりハードルが違います)、など色々な問題があります。

そのため、通常、個人で5000万円要件に引っかかる場合には、自己破産を選択するケースが多いのではないかと思います。
 

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