個人再生後に自己破産手続きへの移行は可能?
個人再生の認可決定後に、再生計画による支払いが不可能になったり、再生計画が取消しになることがあります。こういった場合に、自己破産の申立てをして免責許可を得ることはできるのでしょうか? また、逆に「自己破産はしたくない!」という場合でも、裁判所の職権や、債権者の申立てにより自己破産に強制的に移行することはあるのでしょうか?
個人再生で借金を減額しても、結局やっぱり働けなくなって再生計画の支払いが出来なくなった場合とかって、そのまま自己破産に移行して免責して貰うことはできるのかなー?
再生計画の支払いが遅れた場合でも、債権者さん側が取消しの申立てをしない場合は、まだ個人再生の効力がなくならないから、自己破産手続きにも進めないってことだねー。
じゃあ逆に、もし再生計画が取消しになった場合は必ず自己破産しないといけないのかなー?! 例えば、裁判所の判断でそのまま強制的に自己破産に移行するようなことはあるのー?
- 債権者の申立てで再生計画が取消された場合は、自己破産の申立てが可能
- 再生計画の取消し後、裁判所は職権により自己破産を開始できる(牽連破産)
- 実際には裁判所が、勝手に自己破産手続きに移行させることは余りない
- 給与所得者等再生の遂行後の場合、認可決定の確定日から7年は破産できない
1.個人再生認可後の自己破産への移行について
2.裁判所の職権により自己破産に移行することはある?
3.個人再生後に自己破産する場合、期間の制限はある?
4.給与所得者等再生の遂行後の自己破産について
個人再生認可後の自己破産への移行について
個人再生の再生計画認可後に、さまざまな事情によって計画通りの弁済が困難になってしまう場合があります。これまでにも再生計画の変更によって弁済期限を延ばす方法や、ハードシップ免責によって残額の免責を受ける方法なども紹介しました。
しかし場合によっては、これらの方法では根本的な解決にならないケースもあると思います。
個人再生で再生計画が履行できないとなると、自己破産を検討するのが自然な流れになりますが、個人再生後に自己破産に移行するためにはどのような注意点があるのでしょうか?
個人再生の手続きは、認可決定の確定後は当然に終了します(民事再生法233条)。その後の支払い状況について、裁判所等が逐一チェックするわけではありません。そのため再生計画の支払いが不能に陥ったとしても、債権者により「再生計画の取消し」が申立てられない限り減額の効力は継続されます。
債権者は、再生計画の不履行を理由として裁判所に、再生計画の取消しを申立てることができます(民事再生法189条)。しかし実際には、全ての債権者が遅延を理由に直ちに再生計画の取消しを申立てるわけでもありません。
一方で、自己破産の申立てをするためには「破産の原因たる事実」として債務者が支払不能に陥っていることが必要とされています(破産法15条)。
個人再生の認可決定を受けている場合は、既に大幅に借金が減額されている状態ですので、そのままでは支払不能であることを説明することが難しいケースがあります。その場合には、まず債権者の申立てにより「再生計画の取消し」を受けることが条件になります。
もし既に再生計画の取消しの決定を受けている場合には、民事再生法の定めにより自己破産の申立てが可能です。 再生計画が取消されると、全ての借金は個人再生前(減額前)の状態に戻りますので、通常、支払不能であることは明白だからです。
破産手続開始前の再生債務者について再生手続開始の決定の取消し、再生手続廃止もしくは再生計画不認可の決定又は再生計画取消しの決定があった場合には、再生裁判所に破産手続開始の申立てをすることができる。(民事再生法249条)
再生計画の取消しだけでなく、債権者の書面決議による否決で再生計画が廃止になった場合や、裁判所の判断で不認可になった場合でも、債務者の申立てにより自己破産に移行することは可能です。
裁判所の職権により自己破産に移行することはある?
次は少し違うパターンです。 支払不能により再生計画が取消しになった場合に、裁判所の判断で(強制的に)自己破産手続きに移行させられてしまうケースはあるのでしょうか?
以下に該当するケースでは、裁判所は職権により自己破産の開始決定ができると定められています。つまり裁判所の判断によって、自己破産に移行させることが法律上は可能だ、ということです。(民事再生法250条)
- 再生手続き開始の申立てが棄却されたとき
- 再生手続きが廃止されたとき
- 再生計画が不認可になったとき
- 再生計画が取消しになったとき
このように個人再生手続きに失敗して破産手続きに移行することを牽連破産(けんれんはさん)といいます。
ただし実際に裁判所が職権で自己破産に移行させるケースというのは、余りありません。職権で自己破産に強制的に移行させることが増えると、個人再生の申立てを躊躇する方が増えてしまうことにも繋がりますし、また破産するのに必要なお金が不足する場合もあります。
そのため個人再生から自己破産に移行するケースの大半は、債務者が自ら希望(他に選択肢がない場合を含みますが)して申立てることになります。
個人再生後に自己破産する場合、期間の制限はある?
個人再生の認可決定後に自己破産をする場合、何か期間についての制限(例えば「1度目の個人再生から○年間は、自己破産はできない」というような制限)はあるのでしょうか?
小規模個人再生の場合は、特に期間についての定めや制限はありません。ただし、(1)給与所得者等再生を遂行した場合、(2)ハードシップ免責を利用した場合、の2つのケースでは自己破産の免責申立てが制限されるので注意が必要です。
破産法252条では、免責不許可事由(免責が許可されない要件)について定められていますが、その中の1つとして「給与所得者等再生の遂行から7年以内に自己破産を申し立てた場合」が定められています。
つまり給与所得者等再生の遂行があった場合には、給与所得者等再生の認可決定が確定した日から7年間は、自己破産による免責許可が下りないことになります。免責許可がされませんので、自己破産をしても借金がなくなりません。
破産法252条 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
1項10号 次のイからハまでに掲げる事由のいずれかがある場合において、それぞれイからハまでに定める日から七年以内に免責許可の申立てがあったこと。
(ロ)給与所得者等再生における再生計画が遂行されたこと 当該再生計画認可の決定の確定の日(破産法252条)
ただしこれは「遂行」ですので、給与所得者等再生の途中(弁済期間中)は含まれません。給与所得者等再生で3年間の計画弁済が完了した方のみ当て嵌まるので、実質的には確定日から起算して3年後~7年後までの4年間だけ、自己破産ができない(免責が下りない)ということになります。
またもし上記の免責不許可事由に該当した場合でも、裁判官の裁量により免責が下りる裁量免責という制度がありますので自己破産を諦める必要はありません。大阪地裁では、免責観察型の管財事件として扱われることで免責が下りる仕組みもあります。まずは弁護士の方等に相談してください。
こちらも同様で、ハードシップ免責が確定してから7年間は、自己破産による免責を得ることができません。
ハードシップ免責は、個人再生の履行の大部分(3/4以上)が既に完了した事案において、一定の条件を満たせば残りの債務額について免除を受けることのできる制度です。こちらは残額が僅かとはいえ、債権者の同意や決議なく借金をチャラにできる強力な制度であるため、確定日から7年は自己破産ができない、と定められています。(破産法252条1項10号ハ)