個人再生の開始決定前に提起された訴訟は中断できる?
個人再生を弁護士(または司法書士)に依頼すると、彼らは消費者金融などの各債権者に受任通知を送り、「個人再生の申立ての準備に入った」ことを伝えます。 受任通知の送付後は、借金の催告はストップし、債権者は個人再生の手続きを待つことになります。 ただし、実際に申立てるまでの期間があまりに長引くと、債権者から訴訟をおこされることがあります。
既に弁護士の先生に個人再生のお願いをしてお任せしてたら、ある日突然、裁判所から訴状が届いたんだけど!!! 個人再生の委任後に消費者金融から訴訟されるってよくあることなのー?!
受任通知で取り立てをストップしてから、まずは先に弁護士さんへの着手金を分割で支払う約束にしてたんだよねー、それで結構時間が経っちゃったみたい。
着手金の支払いと並行して個人再生の申立てをしてくれる弁護士さんもいるし、受任後の申立てのスケジュールについては先に確認しておいたほうが良かったかも。 まあ、訴訟されたものは仕方ないね。
いま提起されている訴訟は、個人再生手続きが開始されれば中断されるのかなー?
- 受任通知の送付から個人再生の申立てまでが長すぎると訴訟される可能性も
- 債権者は訴訟で確定判決を得ると、強制執行ができるようになる
- 個人再生の開始決定でも、係属中の訴訟を中断することはできない
- 但し個人再生の開始決定がなされると、強制執行や差し押さえは中止になる
1.個人再生の委任後、訴訟をおこされることがある?
2.裁判所から訴状や呼出状が届いたらどうする?!
3.貸金請求訴訟の流れとスケジュールについて
4.個人再生の開始決定で訴訟を中断することはできない?!
5.申立てまでに時間が掛かってしまう良くあるケース
個人再生の委任後、訴訟をおこされることがある?
弁護士への委任後にすぐに個人再生の申立てをおこなった場合には、(その前から既に訴訟をされていた場合を除き)あらためて訴訟をおこされることは、通常ありません。
なぜなら、個人再生の開始決定がなされると、強制執行や差し押さえの手続きはすべて中止になってしまうからです。
わざわざ手間と費用をかけて訴訟をして、確定判決を得てもどうせ差し押さえはできないわけですから、個人再生の申立てがされるとわかっていれば、普通は訴訟をしようとは思いません。
民事再生法39条1項では、「再生手続きの開始決定があったときは、(略)既にされている再生債権に基づく強制執行等の手続きは中止する」と定めれられています。また最終的に再生計画が認可されれば、ここで中止された強制執行手続きは失効します。(参考:民事再生法39条1項、184条)
しかし、債務者が一向に個人再生の申立てをしようとしない場合は話は別です。
弁護士(または司法書士)の受任通知後は、消費者金融などの債権者は直接、債務者から取り立てることが法律上できなくなります。
そのため、数カ月、半年と経っても一向に申立てがなされない場合、債権者は代理人である弁護士に今後のスケジュールについて確認します。しかしその後もなかなか申立てがされないとなると、債権者も自分の借金回収のために貸金返還請求訴訟をおこすことがあります。
個人再生の委任後に、訴訟されるケースで最も多いのがこの申立てまでに時間が掛かり過ぎた場合です。最も時間が掛かってしまうのにも理由があるのですが、これについては後述します。
裁判所から訴状や呼出状が届いたらどうする?!
債権者が貸金返還請求の訴訟を提起すると、裁判所からは【訴状】と【呼出状】(口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状)が届きます。多くの方は訴訟に慣れていないので、裁判所から訴状が届いたというだけで、パニックのように不安になりがちですが、落ちついて弁護士に相談しましょう。
呼出状の内容は、概ね以下のような内容になります。
原告から訴状が提出されました。
当裁判所に出頭する期日が下記のとおり定められましたので、同期日に出頭ください。
なお、訴状を送達しますので、下記答弁書提出期限までに答弁書を提出してください。
期日: 平成○年○月○日 口頭弁論期日
出頭場所: ○○地方裁判所 第○号法廷
答弁書提出期限: 平成○年○月○日
債権者は受任通知後、電話や書面で直接、取り立てを行うことは禁止されているものの、訴訟を提起することや差押えによって回収することは制限されていません。
前述のように個人再生の開始決定後は、強制執行や差押え手続きは中止になりますが、開始決定前であれば、債権執行により給与債権の一部を差押えることも可能です。
人によっては給与が差押えられること自体よりも、職場に連絡が行くこと自体を嫌がる方もいます。しかし相手方に勤務先を知られている場合は、給与の差押えが確定すれば必ず裁判所から職場に差押命令の通知が届くことになりますので、借金をしていることが職場にもわかってしまいます。
結論からいうと差押えを回避するためには、訴訟の確定判決や債権執行よりも先に個人再生の手続きを開始決定させることが重要です。
個人再生の開始決定がされれば、既に実行されている差押えや強制執行が中止になるだけでなく、新しく強制執行を申立てることもできなくなります(民事再生法39条)。そのため、訴訟により確定判決を得ても実質的に意味がなくなります。
個人再生を申立ててから開始決定がなされるまでは1カ月程度。一方で、貸金請求訴訟は訴状が受理されてから、第1回口頭弁論まで1~2カ月はかかります。債務額が60万円以下の少額訴訟であれば1回の審理で即日判決となりますが、通常訴訟であれば、そこからまだ判決確定までに通常2~3カ月以上はかかるはずです。
申立てには諸々準備が必要で時間が掛かりますが、できるだけ申立てを急ぐことで差押えにまでは至らずに済む可能性も十分あります。
また既に差押えが始まってしまった場合には、個人再生の申立てと同時に裁判所に中止申立てをすることで、(裁判所に必要と認められれば)開始決定までの間、再生債権に基づく強制執行の手続きを中止することができます。(民事再生法23条1項)
貸金請求訴訟の流れとスケジュールについて
裁判所から訴状が届くと、まず前述のように第1回口頭弁論の期日が指定されます。
ただし裁判所が遠方の場合などは、この第1回口頭弁論には出頭しなくても大丈夫です。答弁書を期日までに提出し、擬制陳述とする旨を書けば、第1回公判は欠席しても構いません。
被告が初回の口頭弁論に出頭しない場合に、裁判所に提出した答弁書の内容を「陳述したもの」と見なす制度のことです(民事訴訟法158条)。通常訴訟の場合は、2回目以降の口頭弁論では書面を提出しても陳述した扱いにはなりません(擬制陳述はできない)。簡易訴訟の場合は続行期日でも擬制陳述は可能です。
この答弁書は必ず提出する必要があります。答弁書を提出しない場合、訴状内容について争いがない(擬制自白)と裁判所に判断されますので、欠席判決として結審になりそのまま判決日が言い渡されることになってしまいます。つまり1回の審理で裁判が終わってしまうので、その分、強制執行が早まることになります。
時間がない場合には、取りあえずは以下のように簡素に書いて提出するだけでも大丈夫です(「追って書き」といいます)。
第1 請求の趣旨に対する答弁
1.原告の請求を棄却する
2.訴訟費用は原告の負担とする。との裁判を求める
第2 請求の原因に対する答弁
追って認否する。
もし請求額が60万円以下の場合は、通常訴訟ではなく少額訴訟をおこされる可能性があります。
この少額訴訟は判決までのスピード重視を目的とした簡易制度ですので、特別な事情がある場合を除き、原則、1回の審理で結審します。つまり即日判決が出てしまいますので注意が必要です。もし少額訴訟を希望しない場合には、答弁書とともに通常訴訟への移行を申し出ることができます(参考:裁判所ホームページ)
訴額が60万円を超える場合には、通常訴訟になります。この場合は1回目の口頭弁論後に、第2回口頭弁論の期日が指定され、第2回、第3回と期日が進んでいきます。通常は1カ月に1回程度のペースで期日が設定されます。
裁判所が双方の主張・証拠が出揃ったと判断すれば、証拠調べを経て審理は終了して判決が言い渡されることになります。消費者金融からの借金で、ただ返済を滞納している場合には、まず間違いなく敗訴して「被告は、原告に対し、○○○万円を支払え」という判決が出ることになります。
裁判所の判決が出てから実際に確定されるまでは、(控訴をしない場合で)2週間かかります。ただし仮執行宣言付きで判決が出ている場合には、債権者は確定を待たずに強制執行手続きをすることができます。
判決が確定されてしまえば(または仮執行宣言付きの判決が出れば)、そこから実際に差押えがされるまでは、あっという間です。
判決後、翌日には裁判所から判決書が送付されます。その後、3日程度で債権者は「送達証明書」を得ることができます。また、強制執行をするためには、判決書への執行文付与が必要ですが、これもすぐに得ることができますので、実質的には1週間程度で強制執行が可能になります。
この段階まで来てしまうと、債権者が本気で差押えをするつもりでかつ勤務先まで知れているのであれば、差押えは免れることができません。あとは時間との勝負になります。
前述のように、少しでも早く個人再生を申立てることが必要です。個人再生の開始決定が先にされれば、以降、債権者は強制執行手続きをすることはできません(民事再生法39条1項)。また先に差押えが開始してしまった場合には、申立てと同時に裁判所に差押え中止を申立てることができます。(民事再生法26条1項)
個人再生の開始決定で訴訟を中断することはできない?!
個人再生の手続きでは、訴訟を中断させることはできません。
個人再生の開始決定がなされたとしても、既に係属中の訴訟に関してはそのまま進行することになります。
通常の民事再生では、訴訟手続きの中断という項目があります。
しかしこの規定は、個人再生では適用除外となっています。そのため個人再生の開始決定では、訴訟を中断することはできません。
ただし繰り返しになりますが、個人再生の開始決定後は、強制執行手続き、差押えは当然に中止することができます。そのため、訴訟を中断できなくても、それほど問題はないとも言えます。相手方が勝訴して仮執行宣言付き判決等の債務名義を取得したとしても、個人再生が開始されていれば、結局、強制執行することはできないからです。
また認可決定後に判決が出た場合でも、再生債権に関する訴訟であれば、再生計画による権利変更の影響を受けて減額されます。例えば、すべての再生債権の弁済率が20%であれば、訴訟中の再生債権に関しても20%まで減額されます。
ここまでは、弁護士からの受任通知後、申立てまでが長引いてしまい貸金返還請求訴訟をされてしまったケースについて説明しました。
しかしそれ以外にも、個人再生の委任前にそもそも既に訴訟をされているようなケース(または、裁判所からの訴状が届いて慌てて弁護士に個人再生を委任したケース)というのも考えられます。
このような場合には、個人再生の手続きに入ったことを債権者に伝えて交渉することで、訴訟を取り下げて貰える可能性があります。実際に近日中に申立てがされる見込みであれば、債権者からしても訴訟を継続する意義はほとんどなくなります。
申立てまでに時間が掛かってしまう良くあるケース
さてここまで述べたように、個人再生開始決定前の訴訟による差押えリスクを減らすためにも、弁護士の受任後には出来るだけ速やかに個人再生の申立てをおこなうことが理想的です。ただし実際には、諸々の事情で個人再生の申立てが遅れてしまうことがあります。
例えば、以下は良くある例になります。
弁護士事務所によっては、方針上、着手金がすべて支払われるまでは個人再生の申立てを行わない場合があります。
弁護士が介入して債権者に受任通知が送付されると、すべての返済が一度ストップしますので家計には多少の余裕が生じます。その余裕がある間に、まずは「分割払いで弁護士費用を積み立ててください」という指示がされる場合です。
もちろん弁護士の先生も生活のための仕事ですので、先に自身の報酬を確保するのは当然ともいえます。ただし、個人再生の申立てまでにかなり時間が掛かるようであれば、あらかじめスケジュールについて相談しておくことが必要です。(もちろん、手続きと並行して弁護士費用を支払う事務所もあります)
場合によっては、親戚や家族などの第三者に弁護士費用だけでも用意して貰って、スムーズに個人再生の申立てが出来るようにすべきではないかと思います。
当初、任意整理をするつもりで弁護士や司法書士に依頼し、受任通知を送付して貰ったような場合です。その後、いろいろ調べたり相談するうちに、任意整理では厳しいという話になって、個人再生に後から切り替えることがあります。
こういったケースでは、受任通知の送付から長期に渡って個人再生の申立てまでがなされない場合があり、債権者により訴訟される可能性があります。これも受任通知の送付前にもう少ししっかりと相談して話を詰めておくことで、避けられる問題です。