過払い金返還請求の強制執行の方法について

過払い金請求訴訟などで裁判所から確定判決を得た場合、大手貸金業者であれば基本的に支払わないということはありません。しかし、中小の貸金業者等の場合、判決を無視して支払わなかったり、極端に低い額の和解案を提示してくることがあります。

過払い金返還請求で強制執行はできる?
ねえねえ、先生ー! 過払い金請求訴訟で支払いの判決が出てたとしても、そこでまだ終わりじゃない可能性があるのかなー?! つまり、もし相手方の貸金業者が支払ってくれない場合には、強制執行とかの手続きが必要になるのー?!
そうだね、誰もが名前を知っているような大手貸金業者の場合、確定判決が出てもそれを無視して支払わない、ということはまずない。ただ、経営や資金繰りの苦しい中小消費者金融などの場合には、確定判決があっても支払わないという可能性も、全くないことはないね。
ふーん、その場合、強制執行の手続きっていうのはどうやって進めればいいのー?! 
また、裁判の判決後に強制執行をする場合、そのときの弁護士費用はまた別途かかることが多いのかなー?!
強制執行をする場合は、裁判所に強制執行の申立て手続きをすることになるね。詳しく後述するけど、基本的には判決書(正本)がそのまま債務名義になるから、それを根拠に銀行預金などの差押え請求が可能になる。弁護士費用については別料金になるケースもあるね。
  • 判決後にも過払い金を支払わない業者には強制執行手続きが必要
  • 判決正本は債務名義になるため、そのまま強制執行申立てが可能
  • 弁護士への依頼費用については別料金になる場合もある

 
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過払い金請求の強制執行の方法と、必要な準備って?!

強制執行とは、裁判所から判決や支払い命令が出たにも関わらず、それに相手が応じない場合に、金銭的な回収などを裁判所が強制的に実現してくれる方法のことをいいます。

強制執行手続きの方法の説明図

強制執行の方法には「不動産執行」「動産執行」「債権執行」の3つが法律上認められています。差押えや強制執行というと、不動産や住宅などの不動産執行を想像する方が多いかもしれませんが、実務上、選択することになるのはほとんどの場合、「債権執行」です。

債権執行とは何かというと、つまりは「銀行口座預金の差押え」です。銀行にお金を預けるということは、銀行に対して預金債権(いつでも預金を返して貰う権利)を持っている、ということになります。 これが最も現実的に簡単に取り立てが可能な債権であるため、債権執行では銀行預金を差押えることが多くなります。

過払い金訴訟の判決から強制執行までの手続き

以下、現実的な実務としてはほとんど弁護士にお願いすることになるでしょう。一般の方が自分で強制執行手続きを進めるのは、なかなか簡単ではありません。
ただし流れを把握しておくことは重要だと思いますので、強制執行までの手続きについて説明します。

強制執行の申立てに準備が必要なもの

(1)訴訟の判決正本 (債務名義)
(2)判決書への執行文付与申請
(3)判決の確定証明書の取得
(4)判決正本の送達証明書の申請

もし法律的な根拠もないのに、誰でも好き勝手に他人の財産の差押えが出来てしまったら大変なことになりますよね?

そのため、強制執行の手続きを申し立てるためには、その債権が確実に存在することを証明するための書類が必要になります。これを「債務名義」といいます。

債務名義
債務名義とは裁判所などの国家機関によって作成された書類で、特定の誰かが、誰かに対して持つ債権について、その存在や範囲を公的に証明した文書のことです。例えば裁判の判決書や和解調書、調停調書などの調書、仮執行宣言付支払督促などの文書がこれにあたります。

 
この債務名義は、一般の方には少しピンと来ない言葉だと思いますが、凄く簡単にいうと「AさんはBさんに対して100万円の債権がある」ということを国が証明してくれる文書のことです。国家機関が作成した借金の証明書のようなものですね。

この債務名義があるからこそ、執行機関はその債務名義をもとに強制的な取り立てが可能になります。逆にいえば、債務名義がなければ強制執行はできません。
そして過払い金返還訴訟で勝訴した場合の「判決書」(正本)は、ここでいう債務名義にあたります。

債務名義には、執行文がないと強制執行ができない

先ほどは「債務名義」を根拠として、強制執行の申立てが可能なことを説明しました。しかし実は、この債務名義だけではまだ強制執行の申立てが可能な効力がありません。

以下のような執行文が付与されて、はじめてその債務名義は「現時点で執行力がある」ことが証明された状態になります。

強制執行の執行文の例
※少額訴訟における確定判決の場合は、この執行文付与申請は不要です。

 
訴訟裁判の判決の場合、この執行文があってはじめて、判決書が「執行可能な債務名義」となり、次の強制執行の手続きに移行することが可能になります。

この執行文は、訴訟をした裁判所の書記官に申請することで発行して貰うことができます。ただし訴訟判決の場合は、この執行文付与の申請をする際に、同時に「確定証明書」を添付・提出する必要があるため注意が必要です。

確定証明書
裁判の判決が確定したことを証明する書類です。裁判の判決は、判決が出た時点ではまだ効力が確定していません。相手方はその判決に対して、まだ控訴する可能性があるからです。判決正本を受け取った翌日から2週間以上が経過して、その間に控訴がない場合、はじめて判決が確定します。

 
裁判の判決正本は、判決が出た時点ではまだ効力が確定していませんので、判決書を債務名義とするためには別途、その判決が既に確定したことを証明する書類が必要になります。 これも裁判所書記官へ申立てることで発行して貰うことができます。

判決正本(債務名義)が相手に届いていることの証明書が必要

最後にあと1点、強制執行を申立てる際に必要な書類があります。それが「送達証明書」です。この送達証明書とは、債務名義となる書面(過払い金訴訟の場合は、訴訟判決書)が相手に間違いなく届いていることを、証明する書類のことです。

債務名義が相手に届いていない状態で、いきなり強制執行がおこなわれることは不公平ですし、そもそもあってはいけないことです。そのため裁判の強制執行手続きでは、まず債務名義が相手に送達していることを証明する「送達証明書」の提出が求められているのです。

ただし裁判の判決の場合は、債務名義となる判決書は、判決の出たその日に裁判所から貸金業者側に送付されているはずです。送達証明書は、こちらも裁判所書記官に依頼すれば簡単に発行して貰うことができます。

執行文付与申請書

必要費用:収入印紙300円
参考書式:http://www.courts.go.jp/sendai/vcms_lf/130118.pdf

判決確定証明申請書

必要費用:収入印紙150円
参考書式:http://www.courts.go.jp/sendai/vcms_lf/130118.pdf

送達証明申請書

必要費用:収入印紙150円
参考書式:http://www.courts.go.jp/sendai/vcms_lf/204009.pdf

過払い金の強制執行の手続きに必要な費用って?!

さて、ここまでは強制執行の前に準備が必要な書類などについて解説しました。上記が揃ったら、いよいよ裁判所に強制執行手続きの申立てをおこないます。

債権差押命令申立書を記載する

前述のように、過払い金請求で貸金業者に対して強制執行をする場合、まず債権執行による銀行預金差押えを狙いにいく可能性が高いでしょう。その場合は、「債権差押命令申立書」(記載例はこちら)を裁判所に提出します。

債権差押命令申立書の記入例

 
債権差押命令申立書は、当事者目録、請求債権目録、差押債権目録、などを1枚にまとめた申立て書類です。これらをホッチキスで綴じて裁判所に提出してください。

またこの際に、前述の執行文付きの判決正本(債務名義)、送達証明書、あとは資格証明書(相手が貸金業者の場合は、代表者事項証明書)を添付して提出します。代表者事項証明書は、法務局でも入手可能です。入手方法についてはこちらの記事でも解説しています。

強制執行手続きに必要な費用

強制執行手続き(債権執行の申立て)に必要な費用は以下のようになります。

  • 申立て手数料・・・4000円(収入印紙)
  • 郵便切手・・・約2500円~3000円

 
郵便切手の料金は、どの地方裁判所等に申立てるかによっても変わってきます。申立て先の裁判所は、相手方の住所地、または差押えたい銀行の所在地を管轄する地方裁判所になりますので、そちらの裁判所に詳細を確認してください。

弁護士に依頼する場合、訴訟依頼とは別料金になる?

弁護士に過払い金請求訴訟を代理人として委任している場合、着手金や成功報酬、過払い金報酬金などを支払う契約になっていると思います。(参考:過払い金請求の弁護士費用について

この契約に、訴訟後に貸金業者が支払いをしなかった場合に、強制執行手続きをして回収まで代行する契約になっているかどうかは、それぞれの法律事務所によってスタンスが異なるため一概にはいえません。

弁護士報酬の大半は、取り戻した過払い金のうち最大25%(訴訟の場合)を受け取る成功報酬を支払い原資とするものですから、実際に現金で回収できなければ自身の報酬を回収することも難しくなります。

弁護士報酬の仕組み-過払い金を実際に回収できないと弁護士報酬の支払い原資がなくなる

そのことは弁護士さんたち自身もよく理解しているため、「判決後も相手の貸金業者が支払わない場合には、強制執行手続きまで無料(手続き費用の実費のみ)で請け負う」ということを謳っている法律事務所も多数あります。

しかし、あくまで委任契約での条件は「訴訟をするところまで」である可能性もあり、強制執行手続きを依頼する場合には、別途その手続き費用を請求される可能性はあります。そのため、過払い金訴訟をする段階で、事前に強制執行になった場合の費用についても確認しておくといいでしょう。

実は強制執行をしても過払い金を回収できるとは限らない?!

その他、過払い金請求で強制執行をする場合に注意しておくべき点がいくつかあります。まず一番重要なのは、債権執行で差押え対象とする銀行口座については、こちら側で調べなければならない、という強制執行の司法制度です。

預金銀行の銀行名と支店名まではわからないと差押えできない

過払い金返還請求の債権執行などで預金口座を差押える場合、その口座(銀行名と支店名)をこちら側で突き止める必要があります。どの銀行口座に預金しているかがわからない限り、その預金債権を差押えて強制執行することはできません。

また預金口座などがわかっている場合でも、実際にいくら預金されているかは差押えてみるまでわからないことが大半です。もし残高が少なすぎて過払い金の債権額に満たない場合には、その一部しか取り返すことができません。

また複数の過払い金請求者が同時に強制執行や差押えをかけている場合には、預金が足りなくなって全額が回収できない可能性もあります。

強制執行の段階で和解を提示されるケースも

裁判の判決や支払い督促なども無視を続けている業者で、強制執行をかけてはじめて、「差押えの請求を取り下げて欲しい」という条件で過払い金支払いの和解案を提示されるケースもあります。このときに過払い金額の9割などで和解を提示されるケースがあります。

前述のように強制執行をかけても全額を取り戻せる、という確証は実はありません。そのため、時間的な手間やコスト、無駄に終わるリスクなども総合的に考慮して、この妥協案に応じて支払いを受けるかどうかはケースバイケースで弁護士との相談になります。

わざわざ訴訟までして、かつ勝訴しているにも関わらず減額での和解に応じる、というのは非常に納得できないかもしれませんが、現実に強制執行をしても全額を回収できる見込みが低い場合には、残念ながら妥協するほうが賢明な場面もあります。

 

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