交通事故の加害者の賠償責任は自己破産で免責される?
交通事故の加害者が自己破産した場合、物損事故であれば、修理代などの損害賠償債務は破産手続きによって免責されます。一方、人身事故で相手にケガをさせた場合は、加害者に「重大な過失」があった場合のみ、治療費や慰謝料、休業損害などの損害賠償債務は非免責債権 ※ となり、免責されません。単なる過失であれば、人身事故でも免責されます。
友達が交通事故をおこして加害者になっちゃったの。無保険だったから、いま数百万円の損害賠償請求をされてるんだけど…、被害者には気の毒だけど、自己破産したら免責されるかなー?
破産法253条の非免責債権(※)に該当する場合は免責されない。つまり「破産者が故意や重大な過失によって加えた、相手の生命や身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」は免責されない。
逆にいえば、それ以外の場合は免責されるのね? ってことは、物損事故で相手の車を凹ませて、修理代を請求されてる場合は、「生命や身体を害する不法行為」ではないから免責されるのか。
それに人身事故で相手にケガをさせた場合でも、「重大な過失」がなければ免責されるよ。だから重大な過失があったかどうか、が一番重要なポイントになるね。
例えば、私の友達は前方不注意でぶつかって、相手に軽いケガを負わせてしまったの。それで、過失運転致傷罪で検察に呼ばれて、でも最終的には不起訴になったんだけど…。免責はどうなるかな?
よくある安全運転義務違反のレベルであれば、「重大な過失」とまでは言えないだろう。もちろん個別の事情にもよるから、実際には裁判になってみないとわからないけどね。
明確な基準が決まってるわけではないから、最終的には個別ケースごとでの裁判官の判断になるのね。でも一般論でいうと、どういうケースが重大な過失と判断されやすいの?
酒酔い運転とか、薬物の使用とか、30キロ以上のスピード違反とか、あとは無免許運転やひき逃げで悪質性が加重される場合とか。
故意に匹敵するような過失だと、免責されないかもね。
加害者の損害賠償債務を免責するかどうかは、破産手続きを管轄してる裁判所が判断するのかなー? そうだとすると、被害者から免責反対の意見書を出される可能性もあるよね?
破産手続き全体として免責許可の判断をするだけだね。だから重大な過失があったかどうか、非免責債権になるかどうかは、破産手続き後に民事裁判で争うことになる。
ときどき「交通事故の損害賠償債務は免責されない」と誤解している方がいますが、悪質な危険運転をしたなどの「重大な過失」がない限り、免責になる可能性は十分あります。また重大な過失があったかどうかは、破産手続きではなくその後の民事裁判で争われます。そのため、交通事故によって破産手続き自体が免責不許可になることはありません。
詳しくは弁護士に相談してください。
参考 → 自己破産におすすめの法律事務所を探す
- 加害者の交通事故(物損事故)の損害賠償債務は、自己破産で免責される
- 人身事故の場合、加害者に故意又は重過失があった場合のみ免責されない
- 重過失の例は、酒酔い運転、病気や薬物、無免許運転、重度の速度違反など
- 安全運転義務違反など、一般的な単純過失であれば免責の可能性は十分ある
- 非免責債権になるかどうかは、破産後の民事裁判で、受訴裁判所が判断する
債務整理であなたの借金がいくら減るのか無料診断してみよう
1.交通事故での「重大な過失」ってどんな場合?「重大な過失」の具体例
2.警察に「安全運転義務違反」のみ認定された場合安全運転義務違反のみの場合
3.刑事事件として起訴されて罰金刑・懲役刑になった場合起訴されて罰金刑・懲役刑の場合
4.非免責債権かどうかは破産手続き後の民事裁判で決める非免責債権かは民事裁判で決める
5.相手が保険会社の場合、破産手続きで諦める可能性もある相手が保険会社の場合
交通事故で「重大な過失」と判断されるのはどんな場合?
まず前提として、加害者が「自賠責保険」や「任意保険」に加入している場合は、保険会社からの賠償金は、加害者が自己破産しても、ちゃんと被害者に支払われます。この点は問題ありませんので、安心してください。
ただし任意保険の受け取りについては少し注意点もあります。
詳しくは以下の記事を読んでください。
本記事では、保険金だけで損害賠償額を賄うことができず、加害者本人に賠償金の支払い義務が残っている状態で、加害者が自己破産してしまった場合の損害賠償債務の扱いについて解説します。
不法行為による損害賠償債務は、1)相手の身体や生命を害する不法行為であること、2)加害者に故意または重過失があること、の2つの要件が揃ったときに非免責債権になります。
まず最初に根拠条文をみてみましょう。
免責許可の決定が確定したときは、破産者は(略)破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りではない。
2.破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
3.破産者が故意または重大な過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
(条文リンク)
悪意を持ってわざと交通事故をおこすケースは稀でしょうから、現実的にはほとんどが3項の問題になります。そのため、交通事故の損害賠償債務が免責されるかどうかは、「人身事故かどうか?」「重大な過失があったかどうか?」が争点になります。
一般的に重大な過失とは、「わずかな注意さえあれば簡単に回避できたのに、著しく注意力が欠如していた場合」や「悪意または故意に匹敵するような過失」のことをいいます。
実際には、個別の事情ごとに裁判官が判断をしますので、裁判になってみないとわかりません。
ただし1つの目安として、自動車保険の損保会社などが過失割合の認定のために、業務で使用している「判例タイムズ」の「過失相殺率の認定基準」という冊子が参考になります。
判例タイムズの別冊基準
修正要素 | 例 |
---|---|
重大な過失 | 酒酔い運転(道交法65条1項)居眠り運転無免許運転(道交法117条の2)概ね時速30km以上の速度違反(高速道路を除く)過労、病気及び薬物の影響、その他の理由で正常に運転できないおそれ |
著しい過失 | 脇見運転等の著しい前方不注視(道交法70条)著しいハンドル・ブレーキの操作不適切(道交法70条)携帯電話等の通話運転、画像を注視しながらの運転(道交法71条5号の5)概ね時速15km~30kmの速度違反(高速道路以外)酒気帯び運転(道交法65条1項) |
重大な過失 |
---|
酒酔い運転(道交法65条1項)居眠り運転無免許運転(道交法117条の2)概ね時速30km以上の速度違反(高速道路を除く)過労、病気及び薬物の影響、その他の理由で正常に運転できないおそれ |
著しい過失 |
脇見運転等の著しい前方不注視(道交法70条)著しいハンドル・ブレーキの操作不適切(道交法70条)携帯電話等の通話運転、画像を注視しながらの運転(道交法71条5号の5)概ね時速15km~30kmの速度違反(高速道路以外)酒気帯び運転(道交法65条1項) |
過失の重さは、「重大な過失 > 著しい過失 > 単純過失(軽過失)」の順です。
ただし上記の判例タイムズの基準は、あくまで両者の過失割合を認定するための基準です。
特に「著しい過失」というのは、民事裁判でそのまま用いられる基準ではありません。
その意味をまず簡単に説明しておきます。
過失割合の認定とは
交通事故には、事故の状況に応じて「基本過失割合」が定められます。
例えば、車Aが青信号の交差点を右折するときに、直進する対向車Bに衝突した場合、A:Bの基本過失割合は「80:20」と定められています。
Aが80%悪くて、Bが20%悪い、ということですね。
これが基本過失割合です。
そこから、上記のような要因がどちらかにあった場合には、過失割合が修正されます。
具体的にいうと、「著しい過失」があった場合には10%程度、「重大な過失」があった場合には20%程度、過失割合が修正されます。これを「修正要素」といいます。
例えば、先ほどの対向車Bに「重大な過失」があった場合には、過失割合は20%程度減算されて、A:Bの過失割合は「60:40」になります。
「著しい過失」の判断が難しい
このように、上記の基準はあくまで過失割合を計算するためのものなので、必ずしも自己破産後の免責判断で、同じ基準が用いられるとは限りません。
特に「著しい過失」というのは、過失割合を判断するための「修正要素」として用いられる特有の言葉なので、それ以外の場面ではあまり使いません。そのため、この「著しい過失」が、破産法の条文での「重大な過失」になるのか、それとも単なる過失(軽過失)にとどまるのか、は裁判官の判断次第です。
また、後で紹介する大阪地裁の判例のように、「単に過失割合が大きい、または加害者に一方的に過失があるというだけでは、非免責債権に該当することはない」とした判例もあります。
そのため、損害賠償債務が免責されるかどうかは、過失割合だけで判断できるものでもありません。
人身事故をおこした場合でも、加害者の過失が軽い場合や、逆に被害者の過失が大きい場合には、安全運転義務違反だけが加点され、罰金もなし(刑事処分では不起訴)で済むことがあります。
このように安全運転義務違反だけに問われたような場合、一般的には単純過失(軽過失)の範囲と判断される可能性が高いです。そのため、加害者の罪が安全運転義務違反のみであれば、交通事故の損害賠償債務は、自己破産で免責される可能性が十分あります。
なお、警察に安全運転義務違反と認定されるのは、以下のようなケースです。
該当する場合には、違反点数(基礎点数2点+付加点数)が加点され、免許停止などの行政処分を受ける可能性があります。
安全運転義務違反
区分 | 例 |
---|---|
操作不適 | 例)アクセルやブレーキの踏み違い、ハンドル操作のミスなど |
前方不注意 | 例)脇見運転、漫然運転、ぼんやりなど |
動静不注視 | 例)対向車や人の動きや距離、スピードを見誤った場合など |
安全不確認 | 例)前方・後方・左右の不確認など |
安全速度違反 | 例)制限速度内でも、安全上速度を落とすべき場面で落とさなかった場合など |
予測不適 | 例)自分の車の速度や車幅を正しい把握できていない場合など |
その他 | その他、安全運転の義務を怠った場合 |
操作不適 |
---|
例)アクセルやブレーキの踏み違い、ハンドル操作のミスなど |
前方不注意 |
例)脇見運転、漫然運転、ぼんやりなど |
動静不注視 |
例)対向車や人の動きや距離、スピードを見誤った場合など |
安全不確認 |
例)前方・後方・左右の不確認など |
安全速度違反 |
例)制限速度内でも、安全上速度を落とすべき場面で落とさなかった場合など |
予測不適 |
例)自分の車の速度や車幅を正しい把握できていない場合など |
その他 |
その他、安全運転の義務を怠った場合 |
前方不注意や脇見運転などは、その程度が著しい場合には、前述の判例タイムズ基準の「著しい過失」に該当します。そのため、著しく注意が欠如していたり、故意に近いかたちで危険な運転をしていた場合には、裁判所に「重大な過失」と判断されて、免責されない可能性はあります。
人身事故をおこした場合、民事で被害者から損害賠償請求をされるだけでなく、刑事事件として検察に起訴されて、罰金刑や懲役刑など処分を課せられる可能性もあります。
具体的には、加害者の過失の程度や、相手のケガ(死亡)の程度に応じて「過失運転致死傷罪」「危険運転致死傷罪」などの罪に問われる可能性があります。ただしこれらの罪は、加害者に過失がなければ成立しません。
刑事責任
罪名 | 内容 |
---|---|
過失運転致死傷罪 | 運転上必要な注意を怠って人を死傷させた場合、7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金。ただし傷害が軽いときは、情状により刑の免除あり (自動車運転死傷行為処罰法5条) |
危険運転致死傷罪 | 以下のような危険運転によって人を負傷させた場合、15年以下の懲役、人を死亡させた場合は1年以上の有期懲役。(自動車運転死傷行為処罰法2条) また酒気帯び運転や病気運転の場合は、12年以下の懲役、人を死亡させた場合は15年以下の懲役。(自動車運転死傷行為処罰法3条) アルコールまたは薬物使用で運転統合失調症やてんかんなどの病気運転制御困難な高速度での運転運転技能を有しない者の運転故意に人や車の通行を妨害する運転故意に信号無視をした運転通行禁止道路を走行する運転 |
無免許加重 | 第2条(危険運転致死傷罪)の罪を犯した者が、その罪を犯したときに無免許運転をしていた場合、6カ月以上の有期懲役。(自動車運転死傷行為処罰法6条) |
過失運転致死傷罪 |
---|
運転上必要な注意を怠って人を死傷させた場合、7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金。ただし傷害が軽いときは、情状により刑の免除あり (自動車運転死傷行為処罰法5条) |
危険運転致死傷罪 |
以下のような危険運転によって人を負傷させた場合、15年以下の懲役、人を死亡させた場合は1年以上の有期懲役。(自動車運転死傷行為処罰法2条) また酒気帯び運転や病気運転の場合は、12年以下の懲役、人を死亡させた場合は15年以下の懲役。(自動車運転死傷行為処罰法3条) アルコールまたは薬物使用で運転統合失調症やてんかんなどの病気運転制御困難な高速度での運転運転技能を有しない者の運転故意に人や車の通行を妨害する運転故意に信号無視をした運転通行禁止道路を走行する運転 |
無免許加重 |
第2条(危険運転致死傷罪)の罪を犯した者が、その罪を犯したときに無免許運転をしていた場合、6カ月以上の有期懲役。(自動車運転死傷行為処罰法6条) |
参考「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」
「危険運転致死傷罪」や「無免許運転による加重」などの罪に問われた場合には、悪質性が高いと判断されます。そのため、民事上の損害賠償請求についても「故意に匹敵する重過失」があったとみなされて、自己破産をしても非免責債権になる可能性が高いです。
一方、「過失運転致傷罪」に問われた場合は、微妙なところです。
個別の事情によってケースバイケースですが、一般的な交通事故で見られる不注意や運転ミスなどが原因であれば、「重大な過失」とまでは認定されない場合が多いでしょう。
つまり単純過失(軽過失)として、民事上の損害賠償債務は免責される可能性が十分あります。
刑事事件の場合は、被害者のケガ・死亡などの結果の重さも、起訴や量刑の判断に影響します。
しかし破産法でいう「重大な過失」に関しては、ひきおこした事故の結果の重大さと免責可否の判断は、直接的には関係がありません。あくまで過失の程度が重大かどうか、という話です。
罰金刑は免責されない
なお、誤解のないように補足しますが、検察に起訴されて罰金刑が確定した場合、罰金の支払い義務は、自己破産をしても免責されませんので注意してください。
民事上の損害賠償債務は「重大な過失」が要件ですが、刑事罰による罰金の支払いは、過失の程度に関係なく非免責債権になります。詳しくは以下の記事を参考にしてください。
参考 → 具体的な非免責債権の一覧はこちら
非免責債権かどうかは破産手続き後の民事裁判で決める
民事上の損害賠償債務が免責されるかどうか、は破産手続きの中で決まるわけではありません。
自己破産の手続きでは、裁判所は「破産者を全体として免責にするかどうか?」だけ決定します。
具体的にいうと、「免責許可決定」をするかどうかを決めるだけで、1つ1つの債権が「非免責債権」に該当するかどうか?までは判断しません。
「免責許可決定」と「非免責債権」の違い
用語 | 説明 |
---|---|
免責許可決定 | 裁判所は、債権者名簿にあるリストの債権について、全体として免責にするかどうかだけを判断する。この際、破産法252条の「免責不許可事由 ※」に該当する事情がない限り、裁判所は必ず免責許可決定を出す。 |
非免責債権 | 破産者に免責許可決定が下りたとしても、破産法253条で定められた「非免責債権 ※」には、免責の効力が及ばない。つまり非免責債権は、破産手続きで免責許可が下りることを前提とし、例外的に手続き後も、支払義務が残る債権のことをいう。 |
免責許可決定 |
---|
裁判所は、債権者名簿にあるリストの債権について、全体として免責にするかどうかだけを判断する。この際、破産法252条の「免責不許可事由 ※」に該当する事情がない限り、裁判所は必ず免責許可決定を出す。 |
非免責債権 |
破産者に免責許可決定が下りたとしても、破産法253条で定められた「非免責債権 ※」には、免責の効力が及ばない。つまり非免責債権は、破産手続きで免責許可が下りることを前提とし、例外的に手続き後も、支払義務が残る債権のことをいう。 |
よく誤解されがちですが、「免責不許可」と「非免責債権」は全く別物です。
そのため、交通事故について「重大な過失」があったとしても、破産手続き自体が免責不許可になることはありません。法律上の免責不許可事由 ※ が存在しない限り、破産手続きが免責不許可になることはないのです。
免責不許可事由については、以下の記事を読んでください。
ですので、もし被害者が裁判所に「免責についての意見書 ※」を提出して、「私の交通事故の損害賠償債務は、非免責債権なので免責にしないでください」と異議を述べたとしても、それで破産手続きでの免責の判断に支障が生じることはありません。
被害者の請求が認められるかどうかは、破産手続きが終わった後に、別途、民事訴訟で争われるべき話であって、破産手続き中に解決すべき話ではないからです。
そのため、自己破産の手続き後、被害者が裁判所(自己破産の裁判所とは別のところ)に通常訴訟を提起してくる可能性があります。
もし既に、交通事故の賠償額が認められた裁判の確定判決や、裁判上の和解調書がある場合(いわゆる債務名義 ※ がある場合)には、相手はいきなり差押さえの手続きに踏み切ってくる可能性もあります。一方、私文書による示談書しかない場合には、いきなり強制執行はできませんので、まず通常訴訟になります。
通常訴訟になった場合は、争いは以下のような構図になります。
被害者
「交通事故で××円の損害を被ったから支払ってくれ。
証拠として加害者と交わした示談書を提出する」
被告の抗弁
加害者
「請求原因については認める。
だが、自己破産で免責許可決定が下りたので支払義務はない。
証拠として、免責許可決定の確定証明書を提出する」
原告の再抗弁
被害者
「免責許可決定が下りたことは認める。
だが加害者には重大な過失があり、その損害賠償債務は破産法253条の非免責債権に該当する。
証拠資料として、××、××を提出する。
だから支払義務はなくならない」
この通常訴訟の中で、3の部分の「損害賠償債務が非免責債権にあたるかどうか?」が主な争点として争われます。つまり「交通事故に際して、加害者に重大な過失があったかどうか?」がココで争われ、最終的に裁判官が判決を下します。
もし相手がいきなり差押えの手続きをしてきた場合でも、反対に加害者(破産者)の側から請求異義の訴訟 ※ を提起して、やはり裁判で決着をつけることになります。
大阪地裁の判例
過去の大阪地裁の判例では、破産法253条の「重大な過失」の意味について、「ほとんど故意に等しいような極めて著しい注意欠如や、極めて危険な運転の様態に限定される」と解釈しました。
(平成25年6月13日大阪地裁判例)
またこの判例では、加害者の過失割合が大きい場合(過失割合 90:10)や、一方的に加害者に過失がある場合(過失割合 100:0)でも、それだけで損害賠償債務が非免責債権になることはない、と判事しました。
そのため、やはり一般論としていえば、飲酒運転や無免許、過度なスピード違反などの悪質な危険運転でなければ、原則として免責が認められる可能性は高いといえます。
ここまでは話をわかりやすくするために、「被害者が直接、損害賠償請求をして、裁判で非免責債権かどうかを争う」というパターンを説明してきました。
しかし実際には、被害者も人身傷害保険などの任意保険に加入しており、すでに自身の保険会社から賠償金の支払いを受け取っている場合も多いです。その場合には、加害者は被害者からではなく、被害者の保険会社から請求を受けることになります。
要するに、保険会社が被害者の損害賠償請求権を代位取得して、被害者の代わりに請求してくるケースも多いということです。
そして保険会社から請求を受けている場合には、加害者の自己破産によって、保険会社が請求の続行を諦めてくれる場合があります。
被害者が加害者に直接請求している場合には、「破産して逃げるなんて許せない」「私はまだ事故で苦しんでいるのに…、加害者だけ平穏な生活に戻るなんて認められない」といった感情の問題も絡んできます。そのことが、破産手続き後も、非免責債権として裁判で争ったり、請求を続行する動機の1つになりがちです。
一方、任意保険会社が債権者の場合は、相手もあくまで商売です。
そのため、加害者に財産がなく、すでに自己破産をして免責許可決定も出ていることがわかれば、わざわざ裁判をしてまで「非免責債権かどうか?」を争ってこない可能性もあります。
仮に、非免責債権と認められて確定判決が得られたとしても、実際に差押える財産がなければ、結局、回収は不可能だからです。
もちろん請求額にもよりますので一概にはいえませんが、破産手続き後に、もし保険会社が請求をしてこなければ、それで損害賠償の話は事実上、終わりになります。
閉じる