会社の破産で取締役個人が責任追及されることはある?
取締役が経営判断に失敗し、会社の事業が傾いて破産したとしても、原則として取締役個人が損害賠償責任を負うことはありません。ただし明らかに無謀な投資を行ったり、会計書類に虚偽の記載をして粉飾したり、会社の財産を私的に流用するなど、破産原因について悪意または重過失があった場合には、取締役個人でも損害賠償義務を負うことがあります。
会社を自己破産させてしまうと、そのせいで株主や債権者から、取締役個人の経営責任を追及されて、損害賠償請求を受けたりする可能性もあるのかなー?
たしかに取締役は会社に対して、善管注意義務や忠実義務を負う。でも経営判断は取締役に委任されてるわけだから、一生懸命やってその結果、判断が間違って倒産しても個人で責任を負うことはない。
じゃあ、取締役としての本来の仕事をサボっていたり、会社の利益に反するような取引をしたせいで会社が倒産したら、そのときは株主に損害賠償請求される可能性があるってこと?
すでに株主代表訴訟が提起されている場合は、それを受け継ぐかどうかを管財人が決める。もしまだ訴訟されてない場合は、管財人は役員責任査定という破産法の手続きを使って賠償額を確定させる。
じゃあ取締役個人が、債権者に対して責任を負う場合もあるの?
もちろん連帯保証人になってれば個人でも責任を負うだろうけど、それ以外に損害賠償として請求される可能性もある?
理屈としては、取締役が職務のなかで「悪意または重大な過失」があって、そのせいで会社が破産した場合は、債権者に対して個人的に責任を負うことはありうるけど。
会社が自己破産するまでには、多かれ少なかれ、やっぱり過失とか判断ミスとかがあるわけでしょ? 役員個人に責任追及されるのは、具体的にどんな場合なの?
詐欺的な商法で儲けていたり、会計書類に虚偽記載をして粉飾決算をしたり、私的に財産を流用したり。あとは、それを注意して監督しなかった周りの平取締役にも責任追及の可能性はある。
- 取締役には、会社に対する責任と債権者(第三者)に対する責任の2つがある
- 任務懈怠や背任行為があると会社(株主)から損害賠償請求される可能性あり
- 株主代表訴訟が提起された後に会社が破産した場合、管財人が訴訟を受け継ぐ
- 粉飾決算や消費者詐欺で破産した場合、取締役は債権者に対しても責任を負う
- 法人の破産開始後は、破産管財人が「役員責任査定」手続きで賠償額を決める
1.取締役が会社(株主)に対して責任を負う場合会社(株主)に対しての責任
2.破産法では役員責任査定という制度も用意されている破産法の役員責任査定とは
3.取締役が債権者(第三者)に対して責任を負う場合債権者(第三者)に対しての責任
取締役が会社から責任を追及される可能性はある?
原則として、単に経営に失敗したというだけでは、取締役が株主や債権者から損害賠償請求されることはありません。
代表取締役であれば、会社の借入の連帯保証をしているケースが多いので、会社が自己破産すると、同時に代表者自身も破産するケースが多いです(参考記事)。しかし一般の役員で連帯保証もしていない場合は、法人が破産すればそれで終わりです。
取締役個人がそれ以上の責任を負うことはありません。
しかし取締役が、本来の自分の職務を怠っていたり、重大な過失があった場合には、個人的に責任を追及されることがあります。
取締役には、法的に以下の責任があります。
- 善管注意義務
- 忠実義務
取締役と会社との関係は委任契約です。
ですので、取締役は民法上、受任者としての善管注意義務を負います。また会社法上も、取締役は会社に対しての忠実義務を負うと定められています。(両者は同じ意味とする見解が一般的です)
そのため、単に経営に失敗しても責任を追及されることはありませんが、取締役として要求される十分な注意義務を怠ったり、そもそも会社を裏切るような行為をすれば、当然、責任を追及される可能性があります。
会社に対する責任
具体的にいうと、会社法423条では以下の場合に、役員が株式会社に対して損害賠償責任を負うと定められています。
1.取締役、会計参与、監査役、執行役または会計監査人(以下、役員等という)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
2.取締役または執行役が、第356条1項(取締役が競業や利益相反取引を行うには株主総会の承認が必要という条文)の規定に違反して、第356条1項1号の取引をしたときは、当該取引によって取締役、執行役または第三者が得た利益の額は、前項の損害の額と推定する。
(条文リンク)
1項は取締役の任務懈怠の「過失責任」を定めた条文です。
例えば、明らかに無謀で不合理な投資をしたり、極端に放漫な経営をしたり、といった場合です。
過失や不注意によって、経営判断の前提となる事実の認識について大きな誤りがあったり、その事実をもとにした意思決定の内容に著しく不合理な点があれば、善管注意義務違反となり、責任を負います。(しかし取締役が、注意義務を怠っていなかったことを証明すれば、責任は負いません)
よくある質問
例えば、会社との利益相反取引について取締役会の決議にかけられていた場合、それに賛成した取締役は任務を怠っていたものと推定されます。(出席していて、かつ反対した議事録が残っていなければ、賛成したと推定されます)
昭和48年5月22日の最高裁判決では、「取締役は、会社に対し、代表取締役が行う業務執行について監視し、必要があれば、取締役会を自ら招集する職責がある」と判事されています。形だけの役員にも監督責任はあるのです。(参考リンク)
会社の取締役に対する責任追及は、原則として経営陣(他の取締役たち)が行います。
しかし取締役同士がお互いを庇い合ったりして、責任追及が難しい場合には、株主が代わりに訴訟をおこすことができます。これを株主代表訴訟といいます。
では、取締役が任務を怠って会社が破産した後に、株主が取締役を訴えることはできるのでしょうか?
結論からいうとこれは原則できません。
会社が破産した場合は、もうその会社は財産処分権を失ってしまうので、株主の所有物ではなくなります。以降は、債権者のために破産管財人 ※ がすべての会社の財産管理し、処分してお金に換えます。
そのため、取締役に明らかな任務懈怠があり、損害賠償を請求すべき場合は、株主ではなく破産管財人がそれを行うことになります。
すでに株主代表訴訟が提起されていて、その後に会社が破産した場合は、破産開始決定によって訴訟は中断します。その後、破産管財人が「債権者の配当のため(破産財団の回復のため)に続きをやった方がいいな…」と判断すれば、その訴訟の続きは破産管財人が受け継ぎます。
破産手続きは、できる限り迅速に進めることが要求されます。
そのため、破産法では、破産管財人が裁判所に申し立てることで、訴訟よりも簡便な方法で取締役の責任に基づく損害賠償請求権の査定ができる制度を設けています。
これが、役員責任査定です。
裁判所は、法人である債務者について破産手続開始の決定があった場合において、必要があると認めるときは、破産管財人の申立てにより又は職権で、決定で、役員の責任に基づく損害賠償請求権の査定の裁判をすることができる。
(条文リンク)
ただし役員責任査定は、取締役が1カ月以内に異議の訴えを提起すれば、いわゆる通常訴訟に移行します(管轄は破産裁判所のままです)。そのため、実務上は、役員責任査定が用いられるケースというのは、あまり多くありません。
取締役が債権者から責任を追及される可能性はある?
前述したのは、取締役が「会社に対して」責任を負う場合です。
会社を破産させたことで、会社に対して損害賠償責任を負う(それを株主の代わりに破産管財人が請求する)、という少し奇妙な構図です。
しかし取締役は、会社だけでなく、債権者などの第三者に対して責任を負うこともあります。
こちらも会社に対する責任と全く同じで、単に、取締役が経営判断に失敗したことで会社を破産させただけであれば、取締役個人が債権者に対して責任を負うことはありません。
例えば、会社が銀行から融資を受けているとします。
この場合、あくまで債権者と債務者の関係にあるのは、会社と銀行です。取締役は、会社から経営について委任を受けているだけに過ぎず、(連帯保証のケースなどを除けば)銀行と取締役の間には何の契約関係もありません。
しかし会社法429条では、以下の場合には、取締役は責任を負うと定められています。
1.役員等がその職務を行うについて悪意または重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
2.次の各号に掲げる者が、当該各号に定める行為をしたときも、前項と同様とする。ただしその者が当該行為をすることについて注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りではない。
1項 取締役および執行役 次に掲げる行為
イ 株式、新株予約権、社債もしくは新株予約権付き社債を引き受ける者の募集をする際に通知しなければならない重要な事項についての虚偽の通知(以下略)
ロ 計算書類および事業報告ならびにこれらの付属明細書並びに臨時計算書類に記載し、または記録すべき重要な事項についての虚偽の記載または記録
ハ 虚偽の登記
二 虚偽の公告
要するに、取締役がその職務を執行するときに、「この行為をすることで会社が破産するレベルの損害を被ることを知っていた」り、「知らなかったけど重大な過失があった」場合には、取締役は債権者に対して責任を負います。
とはいえ、実際に問題となるのは特に悪質な事例だけです。
例えば、消費者詐欺のようなビジネスモデルで収益を上げていたり、会社の財産を私的に流用させて使い込んでいたり、など、明かな違法行為や不正行為があった場合です。
またいわゆる粉飾決算のように、虚偽の計算書類や事業報告を公表した場合にも、第三者に対して責任を負います。
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