自己破産すると郵便物は全て管財人に転送されてしまう?
自己破産で管財事件(または少額管財)となり破産管財人が選任された場合には、破産者への郵便物はすべて管財人に転送されて、管財人のチェックを受けることになります。これは「隠し財産がないか?」「債権者漏れがないか?」を目的とした措置であり、東京地裁・大阪地裁では全ての管財事件で管財人への郵便物の転送がおこなわれています。
自己破産をすると、個人宛の手紙や郵便物もすべて管財人さん(※)に転送されて、中身を見られちゃうって聞いたんだけど、本当なのー? ちょっと嫌だなぁ・・・
例えば、Amazonで注文品を買ったりしたら、その宅配便の中身まで転送されてチェックされたりしないのかなー? それに一緒に住んでいる家族宛の郵便物まで転送されたりしない?
佐川急便のような宅配便や、家族宛の郵便物まで転送されることはないのか、ちょっと安心。ちなみに、この管財人への郵便物の転送って一体いつまで続くの? 期間とかって法律で決まってるのかなー?
実際はもっと早い場合も多いけど。大体の場合、「債権者集会まで」くらいを目安に考えておけばいいよ。もちろん管財人宛に転送された郵便物は、その都度、面談や打ち合わせのときに受け取れるし。
- 破産で管財事件になると郵便物は管財人に転送される。同時廃止なら問題なし
- 転送されるのは原則、郵便局の「郵便」のみ。民間業者の宅配便は関係なし
- 転送されるのは破産者個人宛の郵便物だけ。同居人宛の郵便物は転送されない
- 銀行や金融機関からの「転送不要郵便」等の書留でも、管財人に転送される
- 転送される期間は、大体は「債権者集会」まで。遅くとも破産手続き終了まで
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1.裁判所による回送嘱託(転送の指示)の手順と方法
2.回送嘱託によってどのような財産が見つかるのか?
3.どのような種類の郵便物が転送の対象になるか?
4.チェック後の破産管財人から破産者への郵便物の受け渡し方法
5.管財人への郵便の転送は一体いつまで続くの?(期間)
裁判所による回送嘱託(転送の指示)の手順と方法
自己破産を申立てた場合で、破産者に「換金して債権者に配当できるような財産」が特に何もない場合は、通常は同時廃止(※)という手続きになります。この場合、破産手続きは開始と同時に終結するため、破産手続きそのものは1日で終わります。
一方、破産者に車や家、高額な保険金などの何らかの財産がある場合には、管財事件(または少額管財)となります。この場合は、財産内容の調査と換金、配当手続きのために、破産管座人が選任されます。
この辺りは以下の記事で詳しく解説しています。
裁判所によって破産管財人が選任されるのは、破産者の財産を換金して配当する必要のある「管財事件」になったときだけです。
つまり郵便物が管財人に転送されてチェックを受けることになるのも、管財事件または少額管財になったときだけです。同時廃止の場合は、郵便物が誰かに転送されるようなことはありません。まずは最初にこの点を明確にしておいてください。
ここまで「転送」というわかりやすい言葉を使ってきましたが、正式には「回送」といいます。
破産手続きで管財事件になると、破産手続きの開始決定と同時に、裁判所から日本郵便株式会社に「回送嘱託」がおこなわれます。これは「今後、破産者宛の郵便物はすべて管財人の××さんの事務所に回してね」と郵便局の集配局に裁判所から職権で指示を出す、という意味です。
最初に一応、根拠となる法律の条文を見ておきましょう。破産法81条です。
裁判所は、破産管財人の職務の遂行のために必要があると認めるときは、信書の送達の事業を行う者に対し、破産者にあてた郵便物を破産管財人に配達すべき旨を嘱託することができる。(参考条文)
ここで「信書の送達の事業を行う者」と指定されている点に注目しておいてください。
後ほど、「どのような郵便物が回送(転送)の対象になるか?」「どの郵便は転送の対象にならないか?」を解説しますが、現行法上、「信書の送達の事業を行う者」として認可されているのは日本郵便、つまり郵便局だけです。
例えば、佐川急便やヤマト運輸などの宅配便やメール便は、転送の対象とはなりません。郵便法に詳しい方ならご存知だと思いますが、民間業者で「信書の送達事業」の認可を受けている業者は、今のところ日本郵便しかありません。
まあややこしい話は抜きにして、とりあえずは「回送の対象となるのは日本郵便だけ」と理解しておいてください。
破産管財人が、破産者宛の郵便物(信書)を転送させて開封する主な目的は2つ。(1)隠し財産がないかを調査すること、(2)申告されていない債権者がいないかを調査すること、です。
例えば、公共料金やクレジットカードの引落し通知書から申告されていない銀行の預金口座が見つかることもありますし、固定資産税や自動車税の通知書から、車や不動産を隠し持っていることが発覚することもあります。
これらは非常に悪質な破産者の例ですが、もっと身近なものでいえば、保険会社からの通知書によって「保険の解約返戻金」等が見つかることもよくあります。例えば、子供の学資保険だったり、あるいは親が積み立ててくれていた破産者名義の生命保険などは、争いがありますが、破産者の財産と認定される場合も多いです。
また法人の破産手続きの場合は、取引先が多くなりますので、郵便物をチェックすることで把握していなかった債権者が見つかったり、売掛金などの財産が見つかることもあります。
銀行や金融機関などでは、本人確認や住所確認を厳格に行う意味からも、郵便物を「転送不要」郵便で送ることがよくあります。これは、「住所地が変わっている場合は、転送せずに差出人に返送してくださいね」という郵送方法です。
しかし繰り返しますが、管財人への郵便物の回送嘱託は、正式には「転送」ではなく「回送」ですので、転送不要郵便であるかどうかは関係ありません。破産者本人宛の郵便物であれば、すべて回送されます。
(以下、わかりやすいので引き続き「転送」という言葉は使います)
どのような種類の郵便物が転送の対象になるか?
裁判所による回送嘱託の場合、原則として転送の対象になるのは「郵便物」だけです。ただし必要があると認められるときには「荷物」も転送の対象とされることがあります。(やや稀なケースですが)
そもそも「郵便物」と「荷物」の違いをあまり理解されていない方も意外と多いですが、いわゆるメール便は「荷物」です。昔は小包冊子という名前でしたよね。
新聞や雑誌、会報、カタログやパンフレット、書籍などの送付はすべて「荷物」の扱いですから、原則として転送対象にはなりません。
一方、手紙やハガキ、請求書、領収書、見積書、契約書、申込書、招待状、通知書、案内書などで、「文書内に個人の宛名が入っているもの」「何らかの意思表示や事実を伝えるための文書」は、いわゆる信書として「郵便物」の扱いになります。これらは全て問答無用で管財人への転送されます。
郵便局のサービスでいえば、手紙やハガキ、レターパックなどは郵便物にあたります(信書が送れます)ので、これらは管財人への転送の対象となります。
一方、日本郵便の「ゆうパック」や「ゆうメール」は法律上は「荷物」の分類ですので、転送対象が「郵便」だけに指定されている場合は、原則として管財人への転送対象にはなりません。転送の対象が「郵便および荷物」と指定されている場合のみ、転送対象になります。
また、ヤマトや佐川急便などは法律上、信書を取り扱うことが許可されていませんので、彼ら民間業者が運ぶものはすべて「荷物」です。小さくても大きくても荷物です。
民間の宅配業者はそもそも回送嘱託の対象事業者になっていませんので、メール便だろうと宅配便だろうと、管財人に転送されることはありえません。たとえ転送対象が「郵便および荷物」と指定されていたとしても、民間業者の宅配は関係ありません。少しややこしいですかね・・・。
例えば、Amazonや楽天で商品を購入した場合、以下のパターンに分類されることになります。
日本郵便から送付される場合は、回送嘱託に「荷物」が指定されている場合のみ管財人への転送対象になる可能性があります。ヤマト運輸や佐川急便などの民間宅配業者から送付される場合は、指定の有無にかかわらず、転送される可能性はありません。
破産管財人から破産者への郵便物の受け渡し方法
回送嘱託によって管財人に転送された郵便物は、管財人が郵便物を開けて中身をチェックした後に破産者に返還されます。
特に、公共料金の請求書だったり、保険料の払込通知書だったり、といった郵便物は納付期限がありますので、なるべく早く破産者に返還して貰う必要がありますよね。
この際の、管財人から破産者への郵便物の受け渡し方法は、主に以下の4つです。
- 破産者が管財人の事務所まで取りに行く
- 管財人が破産者の代理人弁護士にまとめて渡す
- 管財人との面談や債権者集会のときに受け取る
- 管財人から自宅に郵便で送って貰う
どの方法でも構いませんので、破産管財人と相談して決めれば大丈夫です。
一般的には、管財人との面談や打ち合わせのときにまとめて受け取ったり、あるいは破産者が管財人の事務所まで受け取りに行くケースが多いのではないかと思います。
ちなみに破産管財人というと何か怖い人をイメージされる方も多いですが、普段はフツ-に弁護士をされている方が選任されますので、弁護士さんとお話するのと同じです。
もちろん必ず融通が利くというわけではありませんが、例えば、「事務所まで受け取りにいくので、自宅に郵便で送るのはやめてください」といった希望があれば、直接、管財人に言っておいた方がいいと思います。
管財人からの郵便物の受け渡し方法として、(4)の「自宅に転送して貰う」という方法を選ぶときは、1つ注意が必要です。
それは、管財人から破産者宛に転送するときは、封筒に赤字で「破産管財人からの郵便のため転送不要」とデカデカと記載して郵送されることが多いからです。
破産者からすると、「同居してる家族もいるのに、なんて配慮のない・・!」と思うかもしれませんが、こうしておかないと、管財人から破産者宛に送った郵便が、また郵便局によって間違って回送されてしまい、破産管財人のところに戻ってきてしまう可能性があるためです。
実務上、管財人向けのマニュアルでもそうするよう記載されていることが多いです。
そのため自宅に送って欲しくない場合は、管財人の事務所に受け取りにいくか、面談や債権者集会のときにまとめて受け取れるようお願いしておいた方がいいでしょう。
管財人への郵便の転送は一体いつまで続くの?(期間)
まず回送嘱託によって管財人への転送がはじまるのは、破産手続きの開始決定時からです。
その後の主なイベントとしては、(1)債権者集会、(2)配当による破産手続きの終結、(3)免責審尋、(4)免責許可決定、と続くわけですが、このスケジュールの流れでいうと、遅くとも(2)の「破産手続き終結まで」には、管財人への転送は解除されることになります。
破産法81条3項では、回送嘱託の期限について以下のように規定されています。
破産手続きが終了したときは、裁判所は、第1項に規定する嘱託(回送嘱託のこと)を取り消さなければならない。(参考条文)
そのため、遅くとも破産手続き終了時には、管財人への転送は解除されるということです。
そもそも債権者のために「隠し財産がないか?」「債権者漏れはないか?」をチェックするための制度なので、免責決定まで引っ張っても特に意味がないからですね。
さらに言うと、この回送嘱託は「破産手続き終了まで続けなければならない」というものではありませんので、調査が十分だと判断されればもっと早い段階で取り消されることも多々あります。
例えば、多くのケースでは、回送嘱託の期間は(1)の債権者集会のときくらいまでを目安としているようです。
この場合は、債権者集会が何回開催されるかにもよりますが、1回だけだとすると破産手続きの開始決定からおよそ2~4カ月で管財人への郵便物の転送は解除されることになります。(少額管財の場合は、原則、債権者集会は1回しか行われません)
一方、債権者集会が2回、3回、と続けておこなわれる場合は、債権者集会が終わるまでは管財人に郵便物を転送する期間も引き延ばされることが多いです。
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