自己破産の少額管財って何?東京地裁と全国の運用まとめ
少額管財とは、原則として破産開始決定の約3カ月後に指定される債権者集会の期日をもって、短期間で破産手続きを終結させて、破産費用を低額におさえることを目指す、という管財事件 ※ の運用方法のことです。自己破産には同時廃止と管財事件の2種類があります( 参考記事 )が、個人破産の場合、管財事件といえば、現在はこの「少額管財」を指すのが一般的です。
自己破産について調べてると、よく「少額管財」って言葉を聞くんだけど…。なんか、通常の管財事件 ※ よりも、裁判所に支払う費用が安くなるって聞いたんだけど、どういうことなの?
というのも、今は個人の管財事件といったら、大体、少額管財のことを指すからね。東京地裁でも少額管財の方が当たり前になったから、少額管財という言葉は使わなくなった。やや古い言葉だね。
地方の小さい裁判所だと、少額管財の制度を導入していないことがあるって話もよく聞くよ。「少額管財」っていう名前じゃない裁判所もあるって聞くし。もう少し詳しく教えてよ!
そこで東京地裁が「もっと手続きを簡略化させて、費用を20万円まで下げよう」と平成11年に始めたのが、少額管財なんだ。
破産するのに50万円もかかるんじゃ、破産したくても破産できないもんね。でもお金がない人は、同時廃止 ※ にしてあげればいいんじゃないの? それで同時廃止の制度ができたんでしょ?
そしたら調査が甘くなるから、財産を隠そうとする破産者もいるかもしれないね。 債権者の立場から考えても、裁判所に意見を言う機会がないまま、手続きが終わっちゃうのは可哀そうだし。
債権者集会 ※ もあるから、債権者にとっても公平だ。
で、従来の管財事件だと費用が高すぎるから、東京地裁が少額管財の制度をはじめたってわけね?
それで裁判所に支払う費用(予納金)を最低20万円~にまで下げることができたのね。でも、裁判所によって名前が違ったり、制度がなかったりするのは、何でなの?
東京地裁が「費用20万円で3カ月で終わらせる管財手続き」のことを、少額管財と呼んでただけだね。同じ制度は全国に普及してるけど、少額管財と呼んでるのは東京近郊だけかもしれない。
東京の周辺だけなの?! インターネットではあちこちで「少額管財」って言葉を見かけるけど…。他の地方では、「少額管財」では通じないのかな?
じゃあ費用を調べて「予納金が最低20万円~」となってれば、名前はともかく、少額管財のような仕組みが導入されてる、と判断していいわけだ。じゃあ、今でも少額管財がない裁判所ってあるの?
田舎だと裁判官が不足していたり、管財人を引き受ける弁護士を確保するのが大変な場所もあるんだ。だから同時廃止の基準を緩くして、従来通り、なるべく同時廃止で処理してるところもある。
てことは、実は、少額管財の普及があんまり進んでいない裁判所の方が、「同時廃止が出やすい」という可能性はあるのか…。破産者からみれば、一長一短なのかもしれない。
例えば、東京地裁では、すでに自己破産の半分以上が少額管財になってる。少額管財の割合の方が、同時廃止よりも多いんだ。でも、全国平均ではまだ65%以上が同時廃止だからね。
少額管財は、最低20万円の予納金でできる管財事件のことです。全国の多くの裁判所では、すでに個人破産の予納金が最低20万円まで引き下げられており、名称はともかく、実質的には少額管財が導入されています。ただし少額管財は、弁護士に依頼して自己破産を申し立てることが条件となっている裁判所が多いです。管轄の裁判所で少額管財が利用できるかは、最寄りの弁護士にご相談ください。
参考 → 自己破産におすすめの法律事務所を探す
- 少額管財とは、最低20万円~の安い予納金(費用)でできる管財事件のこと
- 破産開始決定から約3カ月以内で破産手続を終結させることを目指している
- 従来の管財事件より安く、同時廃止より公正性が高いため普及が進んでいる
- 東京地裁では今は「通常管財」と呼ばれており、他の裁判所でも名称は様々
- 少額管財を利用するには、弁護士に自己破産手続きを依頼することが条件
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1.少額管財手続きを利用できる全国の裁判所とその費用少額管財のある裁判所リスト
2.少額管財を利用するための条件って何?!詳しく解説少額管財を利用する条件
3.3カ月で破産手続きが終わる見込みがなければならない3カ月で終結する見込み
少額管財手続きを利用できる全国の裁判所とその費用
現在では、全国の多くの裁判所で少額管財の仕組みが導入されています。
当サイトの調査によると、毎月の破産件数が100件を超えるような大きめの裁判所では、すべて少額管財が利用できます。
以下の裁判所では「個人の管財事件の引継予納金は最低20万円~」となっており、実質的に少額管財の仕組みが導入されています。
少額管財のある裁判所
都道府県 | 呼び方 | 引継予納金 |
---|---|---|
東京地裁 | 通常管財 | 最低20万円~ |
横浜地裁 | 管財事件 | 最低20万円~ |
さいたま地裁 | 管財事件 | 最低20万円~ |
千葉地裁 | 少額管財 | 最低20万円~ |
静岡地裁 | 小規模管財 | 最低20万円~ |
名古屋地裁 | 少額予納管財 | 最低20万円~ |
大阪地裁 | 一般管財 | 最低20万円~ |
京都地裁 | 管財事件 | 最低20万円~ |
神戸地裁 | 管財事件 | 最低20万円~ |
広島地裁 | 管財事件 | 最低15万円~ |
福岡地裁 | 管財事件 | 最低20万円~ |
仙台地裁 | 簡易管財 | 最低20万円~ |
札幌地裁 | 管財事件 | 最低20万円~ |
東京地裁 | |
---|---|
呼び方 | 通常管財 |
引継予納金 | 最低20万円~ |
横浜地裁 | |
呼び方 | 管財事件 |
引継予納金 | 最低20万円~ |
さいたま地裁 | |
呼び方 | 管財事件 |
引継予納金 | 最低20万円~ |
千葉地裁 | |
呼び方 | 少額管財 |
引継予納金 | 最低20万円~ |
静岡地裁 | |
呼び方 | 小規模管財 |
引継予納金 | 最低20万円~ |
名古屋地裁 | |
呼び方 | 少額予納管財 |
引継予納金 | 最低20万円~ |
大阪地裁 | |
呼び方 | 一般管財 |
引継予納金 | 最低20万円~ |
京都地裁 | |
呼び方 | 管財事件 |
引継予納金 | 最低20万円~ |
神戸地裁 | |
呼び方 | 管財事件 |
引継予納金 | 最低20万円~ |
広島地裁 | |
呼び方 | 管財事件 |
引継予納金 | 最低15万円~ |
福岡地裁 | |
呼び方 | 管財事件 |
引継予納金 | 最低20万円~ |
仙台地裁 | |
呼び方 | 簡易管財 |
引継予納金 | 最低20万円~ |
札幌地裁 | |
呼び方 | 管財事件 |
引継予納金 | 最低20万円~ |
※ 司法統計で月の破産新受件数が100件を超える裁判所のみ調査。
上記の裁判所がすべてという意味ではありません。
また同じ都道府県でも、裁判所の「本庁」と「支部」とで制度や取扱いが違う、ということはありえます。詳しくは、地元の弁護士などに相談して確認してください。
少額管財があるかどうかを調べる方法
「少額管財」という言葉自体は、東京近辺以外では通じない可能性があります。
さいたまや千葉など、東京近郊の弁護士さんであれば、少額管財がわからない、ということはないでしょう。これらの周辺地域は、平成27年まで東京地裁に破産を申し立てることが可能でしたので、東京地裁の運用についてもを知らないということはないと思います。
大阪地裁や名古屋地裁など、別の呼び方がある地域でも、大体、意味は通じるでしょう。
一方、そもそも呼び方が存在しない地域もあります。
これらの地域の弁護士さんや裁判所書記官だと、少額管財と伝えても、「それは東京の制度ですかね…? うちの地域にはありません」と回答されてしまう可能性があります。
しかし呼び方が存在しなくても、予納金が20万円であれば、実質的には東京でいう少額管財と似たような仕組みになっているはずです。
要するに名称はどうでもいいと思うので、破産者としては「もし管財手続きになった場合、予納金は20万円で大丈夫ですか?」「そのための条件は何ですか?」という質問の仕方をすれば、欲しい回答を得られると思います。
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少額管財は、おおむね、「従来の管財事件(費用50万円~)を簡略化して費用を安くする」という方向で、全国で共通の方針に基づいていますが、細かい運用方法や名称、適用条件、費用は、各裁判所によって異なります。
全体的な傾向は、「少額管財を利用する条件」でまとめていますので参考にしてください。
以下、もう少し詳しく各地域の裁判所での少額管財の特徴を説明します。
各裁判所の特徴
特徴 | |
---|---|
東京地裁 | 管財事件のうちすでに95%が少額管財法人清算でも(大規模・複雑でない限り)少額管財を利用可現在は少額管財がスタンダードになり、「通常管財」と呼ばれている予納金は4回まで分割払い可能 |
横浜地裁 | 「管財事件」「大規模管財」の2種類があり、前者が少額管財と同じ予納金(個人)は最低20万円~、司法書士関与で30万円~、本人申立は50万円~夫婦で一緒に自己破産を申し立てる場合も少額管財の対象(合計20万円~)法人と代表取締役の同時破産でも少額管財の対象(合計20万円~) |
さいたま地裁 | 個人の管財事件(少額管財)は最低20万円~法人と代表者の同時破産は合計25万円~(会社20万円、個人5万円) |
千葉地裁 | 個人の管財事件(少額管財)は最低20万円~法人と代表者の同時破産は合計30万円~(会社20万円、個人10万円) |
名古屋地裁 | 通常管財と少額予納管財(S管財)の2種類があり、後者が少額管財通常管財の予納金は最低40万円~、少額予納管財は最低20万円~少額予納管財は、弁護士が申立代理人になることが条件破産手続きの換価対象財産が60万円未満であることが条件 ⇒ ただし預貯金・保険解約返戻金など、現金化しやすい財産は超えても可否認対象行為 ※ がないことが条件 ⇒ 否認対象行為がある場合、事前に弁護士と相手との間で返還合意が必要 |
静岡地裁 | 小規模管財事件(少額管財)は最低20万円~異時廃止 ※ が確実、または財団形成見込額が1000万円未満であることが条件3カ月以内に換価業務(資産の売却や債権の回収)が終了する見込みがあること不動産がある場合は、売却の難易度等で少額管財の可否を判断する債権者数が50人以下であること、全ての債権者を把握していることが条件 |
大阪地裁 | 「一般管財」と「個別管財」がある。一般管財は、東京の少額管財に近い。一般管財の予納金は最低20万円~、個別管財の予納金は最低50万円~大阪地裁では、管財事件のうち一般管財の割合が90%以上神戸地裁、京都地裁の運用は、ほぼ大阪地裁と同じ |
仙台地裁 | 「簡易管財」と「通常管財」がある。簡易管財は、東京の少額管財に近い。簡易管財の予納金は最低20万円~、通常管財の予納金は最低50万円~主に免責不許可事由がある場合、資産調査が必要な場合に「簡易管財」になる売却・換価・配当可能な財産がある場合は、原則、「通常管財」になる |
広島地裁 | 管財事件(少額管財)の予納金は最低15万円~ただし広島地裁では、同時廃止の割合が多く、基本的に同時廃止がメイン同時廃止の振り分け基準は資産60万円以下と、他県と比べて基準が緩い (東京地裁では、20万円以上の資産があると少額管財になる) |
福岡地裁 | 個人の管財事件(少額管財)の予納金は20万円~ただし債権者数が50社未満であることが条件債権者数が50社を超える場合は、個人でも最低50万円~ |
大分地裁 | 「e管財」という名称で、少額管財に近い制度が運用されている主に「自由財産の拡張 ※」を目的として、低い予納金で管財人を選任可 |
ご覧のように、どの裁判所も「最低20万円~」となっています。
これは、手続きが実際に開始してから新しく財産が見つかったり、あるいは資産の売却に手こずったりして、管財人 ※ の仕事が増えたり長引いたりした場合に、後から追加で予納金を求められる可能性がある、ということです。
少額管財の場合でも、事前に「20万円で済む」と約束して貰えるわけではないので注意してください。
少額管財を利用するための条件って何?!詳しく解説
少額管財を利用するための条件は、裁判所によって違います。
東京地裁や大阪地裁のように、すでに管財事件のほとんどが少額管財(一般管財)となっている裁判所もあります。一方、いくつかの条件を満たした場合のみ、例外的に少額管財を認める、というスタンスの裁判所もあります。
そのため一概には言えませんが、全国的には以下のような条件の裁判所が多いです。
- 地方の裁判所によっては、司法書士を不可としている場合がある
- 本人申立ての場合は、原則不可(予納金は最低50万円~になる)
少額管財は、短期間で破産手続きを終わらせなければなりません。
そのためには、管財人の仕事をできるだけ減らし、迅速に手続きを進めなければならず、事前に債権者の調査や、財産の調査が十分に済まされている必要があります。そのため、ほとんどの裁判所では、本人申立てによる少額管財を認めていません。
統計上でも、全ての破産手続きのうち97%が、弁護士または司法書士による申立となっています(平成26年弁護士会調査)。本人申立ては、費用的にもほとんどメリットがなく、選択肢として「なし」と考えてよさそうです。
少額管財は、3カ月以内に破産終結を目指す手続きです。
そのため、管財人は3カ月後の債権者集会までに、原則として全ての財産の換価(売却)や、債権回収を終わらせていなければなりません。
逆にいうと、現金化するのに時間がかかりそうな財産がある場合や、取り立てに苦労しそうな債権がある場合には、少額管財を利用できない可能性があります。
裁判所によっては、「財団形成見込額が、×××万円を超える場合は不可」と金額で基準を定めています。例えば、「破産財団 ※ の額が60万円を超える場合は、原則、少額管財を利用できない」(名古屋地裁)といった具合です。
破産者に財産がない場合
さらに、原則として換価財産がない場合(これを異時廃止 ※ といいます)を、少額管財の対象にしている裁判所もあります。つまり破産者に財産はないものの、他の事情があって同時廃止にはできない場合、例えば、免責不許可事由がある場合や、自由財産の拡張を申請したい場合に限り、少額管財を適用する、ということです。
自由財産の拡張 ※ を認めるためには、裁判所は法律上、管財人の意見を聴かなければならないことになっています。そのため、自由財産の拡張を認めて欲しい場合には、破産者は原則として、管財事件を申立てなければなりません。
自由財産の拡張については、以下の記事を読んでください。
(注:ただし20万円以下の預貯金や車など、決められた項目の財産については、自由財産の拡張の裁判が自動的に「されたもの」として扱い、申請を要しない裁判所もあります)
また免責不許可事由 ※ がある場合も、破産者にとっては管財事件の方が有利です。
というのも、免責不許可事由がある場合でも、実務上は、管財人に免責相当の意見書(「しっかり反省しているようなので、免責が妥当です」というような意見書)を書いて貰うことで、裁量免責 ※ による免責許可が得やすくなる、という事情があるからです。
このように、実際には「財産はないけれど、破産者側が管財事件を希望する」という場面も存在します。もし管財事件が最低50万円と高額になってしまうと、事実上、自由財産の拡張や、裁量免責を得ることが困難になってしまいます。
そのため、主にこのような場合を想定して「換価業務がない場合」に少額管財を認めている裁判所もあります。例えば、大分地裁の「e管財」は、こうした目的で始まった制度です。
不動産がある場合
不動産は、一般的に売却(現金化)に時間がかかる資産です。
そのため、不動産がある場合には、少額管財を利用できない可能性があります。
ただし、すぐに買い手が見つかるような売りやすい不動産なら、問題なく少額管財を利用できることが多いです。任意売却なら3カ月以内に不動産の売却を済ませることも可能だからです。また逆に、明らかに財産価値がなく、財団から放棄されるような場合も、少額管財の利用は可能です。
しかし共有名義の問題を抱えていたり、ゴミ撤去が必要だったりなど、売却に時間がかかる場合は、少額管財が認められなかったり、追加で予納金を求められる可能性があります。
否認対象行為がある場合
否認対象行為 ※ がある場合も、厄介です。
否認対象行為とは、自己破産の直前に財産を他人に譲渡したり、特定の債権者だけに優先的に返済をしてしまい、破産手続きの開始後に、管財人に「他の債権者に不公平なので、返してください」と言われてしまう行為のことです。
詳しくは、以下の記事を読んでください。
この場合、相手がすんなり返還に応じてくれるのであれば、問題ありません。
しかし実際には、相手側も「破産の直前なんて知らなかった」「もう転売してしまったから返せない」等、管財人と揉める場合も少なくありません。
そうなると、管財人は訴訟をおこして取り返さざるを得なくなります(これを「詐害行為取消訴訟」といいます)。訴訟となると、到底3カ月では終わらないため、少額管財が利用できなくなります。または追加で予納金が発生する可能性があります。
- 債権者が多すぎる場合は、少額管財は利用できない可能性がある
- ただし主に、法人の少額管財の話なので、個人はあまり関係ない
- 目安として「債権者数50社未満」を少額管財の条件とする裁判所が多い
個人の破産者であれば、債権者数が50社を超えることは滅多にありませんので、あまり気にする必要はありません。ですが、法人破産の場合は債権者数が1つの目安になります。
現在では、東京地裁をはじめとする多くの裁判所で、「法人が少額管財を利用すること」も可能になってきています。しかし法人の規模が大きい場合や、債権者数が多すぎる場合は、少額管財の利用ができないことがあります。
横浜地裁や大阪地裁では、少額管財が原則となっていますが、債権者数が多すぎる場合には「大規模管財」「個別管財」といった別の管財手続きが用意されています。名古屋地裁でも「少額予納管財」という制度がありますが、債権者数が50社を超える場合は適用外、という扱いになっています。
以上が、少額管財を利用する条件でした。
次回の記事では、「少額管財のスケジュール 」について説明します。
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