財団債権・先取特権・優先的破産債権の分配の優先順位は?
自己破産で管財事件になった場合、破産者の財産は、原則的には債権者の債権額に応じて分配されることになります。しかし一部には他の債権よりも優先的に返済を受けることができる権利があります。例えば、「財団債権」や「優先的破産債権」「先取特権」などの債権は、一般債権よりも優先的に弁済されます。他にも、自己破産手続きによらずに弁済を受けることのできる「別除権」というものもあります。今回はこれらの債権の違いや優先順位について解説します。
管財事件(※)で破産者の財産を分配する場合って、優先順位はあるのー? 例えば、税金の滞納分の配当は、消費者金融の借金の配当よりも優先される、とかあるのかな?
つまり自己破産手続きに関係なく、(手続きの途中でも)破産者の財産の中から優先的に返済を受けられるってことだよねー。凄い!
例えば、どんな債権が財団債権になるのー?
つまり裁判所費用とか以外でいえば、主に直近の給料や賃金の債権や、直近の税金の支払いが「財団債権」になるってことかー。じゃあ、財団債権の次に優先される債権はー?
整理すると、優先順位でいえば「 財団債権 > 優先的破産債権 > 一般の破産債権 」ってことだねー?
じゃあ優先的破産債権ってどんなのがあるの?
- 自己破産手続きでは、債権は「財団債権」と「破産債権」に分類できる
- 「破産債権」のなかには、「一般の破産債権」と「優先的破産債権」がある
- 先取特権は、「優先的破産債権」に分類される債権の1つなので、破産債権
- 優先順位は「財団債権 > 優先的破産債権(先取特権) > 一般破産債権」
- 別除権は、自己破産手続き外で行使できる。足りない分は破産債権になる
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財団債権、優先的破産債権、先取特権、別除権の違い
まずは自己破産での債権の取扱について、ややこしいので以下の図にまとめました。このように自己破産の債権は、大きな括りでは「財団債権」「破産債権」「別除権」の3つがあります。
「財団債権」は自己破産の手続き途中であっても、破産管財人に請求すれば、随時、破産財団から弁済を受けることができます。一方、「破産債権」は破産管財人による換価手続きがすべて終わった後に、配当手続きによってのみ弁済が受けられます。
当然、ほとんどの借金や債務は「一般の破産債権」に分類されます。そのため、大半の債権は自己破産の配当手続きによってしか、弁済を受けることはできません。
財団債権になるのは、裁判所への手続き費用の他には、租税公課や従業員への給与債権等、特に重要性の高い債権に限定されます。
まずは財団債権について、詳しく解説しましょう。財団債権は、自己破産手続きのなかで最も優先的に返済を受けることのできる債権です。
以下、財団債権に関する破産法の条文をまとめてみました。
この法律において「財団債権」とは、破産手続によらないで破産財団から随時弁済を受けることができる債権をいう。(破産法2条7項)
財団債権にあたる請求権
次に掲げる請求権は、財団債権とする。(破産法148条)
(1)破産債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権
(2)破産財団の管理、換価および配当に関する費用の請求権
(3)破産手続き開始前の原因に基づいて生じた租税等の請求権であって、破産手続き開始当時、まだ納期限の到来していないもの、又は納期限から1年を経過していないもの
(4)破産財団に関し破産管財人がした行為によって生じた請求権
-以下、省略
(使用人の給料等)
破産手続き開始前3カ月の破産者の使用人の給料の請求権は、破産財団とする(破産法149条)
財団債権の優先順位
財団債権は、破産債権に先立って、弁済する。(破産法151条)
財団債権の主なものとしては、具体的には以下のようなものになります。
主な財団債権
- 自己破産の手続き費用(裁判所への予納金、破産管財人の報酬)
- 自己破産前の3カ月間に発生していた従業員への給与債権
- 自己破産前の分の税金で、法定納期限はまだ到来していないもの
- 自己破産前の分の税金で、過去1年以内に納期限が到来したもの
破産管財人は、破産者の財産を調査・換金した上で、まずこれらの財団債権を全額支払います。その上で、もし破産財団に余りがあれば、それらの財産が破産債権者に配当されます。
もし財団債権を全額支払うだけの財産がなかった場合には、まず「裁判所への予納金」「破産管財人への報酬」が最も優先して支払われ、余った分は財団債権の額に応じて分配されます。(破産法152条)
「破産債権」とは、自己破産手続きにおける財団債権以外のすべての債権のことをいいます。
実際には、ほとんどの債権はこの破産債権になりますが、破産債権のなかでも弁済の優先順位が高い債権のことを「優先的破産債権」といいます。この優先的破産債権についても、まずは破産法の条文を確認してみましょう。
破産財団に属する財産につき、一般の先取特権、その他一般の優先権がある破産債権(以下、「優先的破産債権」という。)は、他の破産債権に優先する。(破産法98条)
一般の先取特権とは
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。(民法306条)
(1)共益の費用
(2)雇用関係
(3)葬式の費用
(4)日用品の供給
その他、一般の優先権がある債権
【国税優先の原則】
国税は、納税者の総財産について、すべての公課その他の債権に先だって徴収する(国税徴収法8条)
【地方税優先の原則】
地方団体の徴収金は、納税者または特別徴収義務者の総財産について、すべての公課(滞納処分の例により徴収することができる債権に限り、かつ国税を除く。)その他の債権に先だって徴収する。(地方税法14条)
こちらも、主な具体例としては以下のようなものがあります。
- 未払いの給与債権や賃金で、かつ財団債権に含まれないもの
- 未払いの税金・租税公課で、かつ財団債権に含まれないもの
- マンションの管理費・修繕積立金の滞納分
先ほど、「直近3カ月の給与債権」「直近1年間の租税債権」は財団債権になる、という話をしましたが、それ以外の給与債権、租税債権についても、結局は、一般の破産債権よりも優先的に返済を受けることができます。
なお、これらの「優先的破産債権」は、あくまで破産債権ですから配当手続き以外の方法で弁済を受けることはできません。
配当手続きの中で「一般の破産債権よりも優先される」というだけなので、もし破産者に配当するほどの財産がない場合や、管財事件で異時廃止になった場合には、優先的破産債権は1円も回収することはできません。
また、優先的破産債権の中での優先順位では、「税金関係の支払い」が最も優先されます。
最後に紹介する「別除権」は、自己破産手続きに関係なく行使できる担保権などのことです。
ここまでに解説した「財団債権」や「破産債権」は、いずれも破産管財人や裁判所を介してしか返済を受けることができませんが、「別除権」だけは、自己破産手続きの外で行使することができます。
この法律において「別除権」とは、破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき、特別の先取特権、質権または抵当権を有する者が、これらの権利の目的である財産について65条1項の規定により行使することができる権利をいう。(破産法2条9項)
別除権の優先順位
別除権は、破産手続きによらないで、行使することができる。(破産法65条1項)
別除権者の手続きへの参加
別除権者は、その別除権の行使によって弁済を受けることができない債権の額についてのみ、破産債権者としてその権利を行使することができる。(破産法108条)
別除権の最も代表的なものは、住宅ローンにおける住宅の「抵当権」です。
金融機関は、破産者の住宅ローンの支払いが困難になった場合、自己破産手続きに関係なく、担保の目的物である住宅を競売で売却処分して、自身の債権を回収することができます。
これについては、以下の記事で詳しく解説しています。
例えば、自己破産で管財事件になったものの、「資産価値なし」として家が破産財団から放棄された場合でも、金融機関は独自に住宅を競売にかけて売却することができます。
その上で、例えば2000万円の住宅ローン残額のうち、1500万円を競売で回収することができた場合、残りの債務500万円分についてだけ、自己破産手続きに「一般の破産債権」として参加して、配当を一部受け取ることができます。
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