裁判所の郵便物を受取拒否したり不在で受け取らない場合

裁判所からの訴状や支払督促、差押命令といった書面は、すべて特別送達という郵送方法で債務者に送られます。つまり郵便局員が手渡しで郵便物を交付するわけですが、この特別送達の場合、明示的に 受取拒否※ をすることは許されていません。では、「居留守を使って受け取らない場合」「不在票を無視し続けて受け取らない場合」はどうでしょうか? この場合、債権者は最終的には付郵便送達や公示送達などの方法によって、強制的に送達を実現することができます。

裁判所の郵便物を受け取らないとどうなる?
ねえねえ、先生ー!
借りたお金をどうしても返せなくて、ずっと催告を無視していたら何だか訴えられたらしくて、裁判所から郵便物が届きそうなんだけど、これってやっぱり受け取らないとダメかなー?
もちろん受け取らないとダメだね(笑) まず裁判所からの特別送達は、いわゆる受取拒否はできないよ。郵便局の配達員が来たときに、「受取拒否します」といって拒否しても、その場に勝手に置いていかれちゃうんだ。これを 差置送達※ というんだけどね。
そうなんだ・・・
でもどっちみち平日は仕事してるから家には不在だと思うんだよね。居留守を使ったり、郵便ポストに入ってる不在票を無視して受け取らないようにしてた場合は、どうなるの?
不在票の期限までに受け取らなかった場合は、裁判所に返送されるね。その場合、債権者は裁判所に再送達をお願いして、今度は休日を指定して送ったり、職場に送ることができるんだ。だから勤務先が知られている場合は、勤務先に届くことになるだろうね。
ぎょええっ!
職場に訴状とかが届いちゃうの?! そ、それはちょっと困るなぁ。やっぱり裁判所の郵便物は受け取るしかないのか・・・とほほ・・・まあ、当たり前だよね。
そうだね、最終的には 付郵便送達※ の手続きといって「発送の時点で届いた扱いにする」ことができる制度もあるから、ずっと受け取らないようにしてても意味ないね。それより早く専門家に相談するとかして、次の対策を考えた方がいいと思うよ。
  • 裁判所の特別送達は、受取拒否ができない。配達員は差置送達ができる
  • 居留守や不在票を無視して受け取らなかった場合は、裁判所に返送される
  • 債権者は自宅宛に不在で送達できなかった場合、勤務先に再送達できる
  • 債務者がわざと不在で受け取らない状態が続いた場合、付郵便送達ができる
  • 居住所不明、行方不明で送達できない場合は、公示送達という方法がある

裁判所の特別送達は、受取拒否することができない

受取拒否というのは、郵便物に対して「その郵便を私は受け取らない」という態度を明確に示す手続きのことをいいます。日常用語としては、単に居留守を使って受け取らないことを「受取拒否」と言うこともありますが、この記事では別物と分類して解説します。

一般的な郵便物の受取拒否の方法は簡単で、以下のようになります。

一般の郵便物を受取拒否する方法-イラスト図

例えば、普通郵便であれば、紙に大きく「受取拒否」と書いて郵便物の上に貼りつけて、再度、郵便ポストに投函します。郵便局の窓口に持っていっても構いません。(ただし既に開封後だと、受取拒否はできません)

一般書留(※) のように、配達担当者が手渡しで受取人の署名や印鑑を貰う郵便物でれば、サインする前に担当者に「受取拒否をしたい」という旨を申し出れば、そのまま差出人に返還されます。

しかし、裁判所からの特別送達の場合は、この「受取拒否」の手続きが認められません。

受取拒否をしようとしても、差置送達にされてしまう

裁判所からの郵便物は、すべて「特別送達」という方法で送られます。特別送達による郵便には、封筒に以下のように「特別送達」という赤いハンコが押されています。

特別送達の図-例

特別送達というのは、送り主が裁判所など特別な場合にしか利用することのできない郵送方法です。郵便局が取り扱うという点、必ず手渡しで交付してサインや印鑑を貰うという点、では一般書留などと同じですが、一般人が私的な目的のために、特別送達を利用することはできません。

つまり「特別送達」という送り方をする時点で、基本的に、送り主は裁判所だということです。そのため、特別送達に関しては配達員に「受取拒否」を伝えることが法律上、認められていないのです。

では、具体的に「絶対に受け取りません」という態度を表明した場合、どうなるのでしょうか?

この場合、郵便局員はその場に裁判所の郵便物を置いて行くことができます。つまり「受け取ってくれないなら、この場に置いていきますね」といって立ち去ることができるのです。このような方法を差置送達(さしおきそうたつ)といいます。

正当な理由なく受取拒否すると差置送達に-イラスト

このことは、以下の民事訴訟法という法律で定められています。

【民事訴訟法106条】

3.送達を受けるべき者または、第1項前段の規定により書類の交付を受けるべき者が、正当な理由なくこれを受けることを拒んだときは、送達をすべき場所に書類を差し置くことができる。(民事訴訟法106条

これは当事者本人だけでなく、奥さんなども同じです。家族や同居人も正当な理由なく裁判所の特別送達を受取拒否することはできません。

分別のついていない子供などは別ですが、そうでない限り、郵便局員は、使用人や同居人などの「受領について相当のわきまえのある者」に対してでも代わりに交付することができる、とされています。奥さんが「いま夫は居ないのでわかりません」といって受取拒否することもできません。

もちろん、このような差し置き送達は「法律上可能だ」という話で、実際にはなかなか郵便局員の方もその場に置いて立ち去るということは難しいケースもあります。その場合は、普通に不在票を入れて帰るのが一般的です。





居留守を使ったり不在票を無視して受け取らない場合

このように、明示的に「受取拒否」という権利を行使することは認められないわけですが、郵便局員が訪ねてきたときに居留守を使ってわざと受け取らない場合はどうなるのでしょうか?

さすがに留守で不在の場合は、郵便局員も勝手に裁判所の郵便物を置いて行くわけにはいきませんので、ポストに「不在票」を置いていきます。

ちなみに、この不在票は何も特別なものではありません。よく私たちが普段見る「再配達受付票」と同じですが、差出人が裁判所になっていて、種類番号のところが「特別送達」になっているのでわかります。

郵便物等ご不在連絡票-イラスト

裁判所からの郵送物は、平日に送達されますので、相手がサラリーマンの場合は本当に不在の可能性も十分あります。特別送達で不在票を入れて行くことは珍しいことではありません。

しかし、この不在票をわざと無視して放置していると、訴状や支払督促などの郵送物は1週間の留置期間ののち、裁判所に返送されてしまいます。

1週間の留置期間の後、裁判所に返送される-図

債権者は休日指定の送達や、勤務先への送達をしてくる

訴状や差押命令などの、裁判所からの送達が郵便局での1週間の保管期間をへて返送されてしまった場合、債権者は次に「再送達の上申」の手続きをおこないます。

といっても、もう一度、同じように送っても意味がありませんので、債権者は(1)休日を指定して送達する、(2)債務者の勤務先に宛てて送達する、などの手続きを裁判所にお願いすることができます。

再送達では、休日指定や職場への送達も可能-イラスト図

その際は、債権者は以下のような上申書を裁判所に提出します。

職業場所送達上申書

頭書の事件について、被告に対する下記の書面の送達は、留置期間経過で不送達となったので、被告の就業先である下記場所に再送達されるよう上申します。

  送達書類 ×××××
  送達先 勤務先(株式会社××) 住所×××××

【参考リンク】再送達上申書の書式例-山口簡易裁判所

職場を債権者に把握されている場合は、当然、勤務先に送ってくるでしょう。「ひえっ!職場に送られたら大変だ!」という方は、やはり最初の段階で必ず受け取っておくことが重要です。

なお債権者の立場としては少し面倒ですが、必ずこのステップが必要になります。再送達の上申をしても、また不在で送達できなかった場合は、さらに次の「付郵便送達」か「公示送達」の手続きに進むことができます。





相手が居留守で受け取らない場合は、付郵便送達ができる

債務者が明らかにその住所地に住んでいることがわかっているのに、居留守を使ったり、不在票を無視し続けることで裁判所の郵便物を受け取らない場合には、債権者は「付郵便送達」という方法を利用できます。

再送達でも届かない場合は、付郵便送達が可能

付郵便送達とは、正式名は「書留郵便に付する送達」といいます。

この付郵便送達を裁判所に上申して、これが認められれば、訴状や支払督促、差押命令などの裁判所の書面を「書留郵便」として普通郵便で送ることができます。

「普通郵便で送ったって、受取らないものは受け取らないだろ…」と思われるかもしれませんが、この付郵便送達の場合は、発送された時点で既に相手に送達されたとみなすことができます。

発送された時点で「送達した」とみなす制度-イラスト

つまり相手が実際に受け取ったかどうかに関係なく、「送達されたもの」として次のステップに進むことができるのです。

通常訴訟であれば口頭弁論に進みますし、仮執行宣言付き支払督促であれば2週間で強制執行が可能になります。債権差押命令であれば、1週間で債権者は取立てが可能になります。もう無視を続けても意味がないわけですね。

なお、以下が根拠となる法律の条文です。

【民事訴訟法107条】

1.前条の規定により送達をすることができない場合には、裁判所書記官は、(略)、書類を書留郵便に付して発送することができる。
3.前2項の規定により書類を書留郵便等に付して発送した場合には、その発送の時に、送達があったものとみなす。(民事訴訟法107条

付郵便送達には調査報告書が必要

これは債権者の立場での話になりますが、付郵便送達をするためには、「相手の債務者が本当にその住所地に住んでいること」を調査して、それを報告書として裁判所に提出しなければなりません。

この報告書は、裁判所のページに決まった書式があるのでそれを記入するだけですが、そのための調査として、面倒ですが一度、相手の住所地に実際に赴かなければなりません。

その上で、「表札の有無」「電気・ガスメーターの作動状況」「郵便受けの状況」「大家さんからの聞き取り」などの内容を調査して、以下のように報告書に記入します。(この際、表札や電気メーターの様子などは写真に撮って報告書に添付してください)

付郵便送達や公示送達のための報告書例-図

【参考リンク】住居所調査報告書(付郵便送達・公示送達用)の書式例-山口簡易裁判所

調査の結果、相手が本当にその住所地に住んでいないことがわかった場合には、付郵便送達による方法は使えません。本当に住んでいないのに、勝手に送りつけて「届いたことにする」ワケにはいかないからです。

住所地に住んでいない場合は、まずは債務者の住民票や戸籍の附票などから、住所が移転していないかを調べる必要があります。例えば、住民票であれば、転出していても前の住所地には「除票」が5年間保存されますので、市町村の役所で除票をとれば転出先がわかります。

債権回収などの正当な理由であれば、裁判所の訴状などを提示すれば、第三者でも住民票を請求できます。(住民基本台帳法12条の3

この結果、もし転居先がわかった場合は、新しい住所に再送達を上申することになります。一方、もし最終的に「住んでいる場所がわからない」「居住所不明」となった場合は、以下の公示送達という方法を利用します。

居住所が不明で送達できない場合は、公示送達をする

公示送達とは、送り先が不明で訴状や差押命令などを送達できない場合に、代わりに裁判所に一定期間、掲示しておくことで「送達されたもの」とみなす制度です。

特別送達の公示の掲示板-イラスト

公示送達を裁判所に申し立てると、そこから1週間くらいで裁判所は「公示送達」を裁判所入口などの掲示板に掲示します。

掲示される公示送達の内容は、以下のようなものです。

公示送達

原告 ××××
被告 ××××

上記当事者間の ○○ 請求事件につき、受送達者に送達すべき下記の書類は、当書記官室に保管してありますので、出頭のうえこれを受領してください。

×××地方裁判所
裁判所書記官 ××××

 
つまり、「送達すべき書類は、書記官室で保管していますので早く受け取りに来てくださいね」という通知を掲示するのが公示送達です。訴状の内容などがそのまま掲示してあるわけではありません。

なお、公示の日から2週間が経過した場合は、その書面は「相手に送達されたもの」として扱われますので、差押えや競売などの次の手続きに進むことも可能になります。

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