個人再生で債権者一覧表の記載漏れが発覚した場合

個人再生では、申立ての段階で手続きの対象となる全ての債権者のリストを記載した債権者一覧表を裁判所に提出します。(参考:「債権者一覧表の記入方法」)。
この債権者一覧表は、一度、提出して個人再生の開始決定がされれば、後から訂正することはできません。もし債権者の記載漏れが後で発覚した場合、どうすればいいのでしょうか?

個人再生で債権者漏れがあるとどうなる?
ねえねえ、先生ー!
もし個人再生の申立て時に提出する債権者一覧表で、一部の借金(債権者)の記載を忘れていた場合ってどうなるのかなー? もしかして・・・その借金は減額されない可能性とかある?(ガクガク)
いや、わざと悪だくみで債権者一覧表から外したわけじゃなければ、ちゃんと減額されるから心配ないよ(笑) それに小規模個人再生で、書面決議の前ならまだ間に合う。債権届出期間を過ぎていても、追完ができる(95条)から、すぐ漏れてた債権者に連絡して。
なるほど、「追完」なんて仕組みがあるのかー。
じゃあもし書面決議が終わってしまっていたり、再生計画が認可決定されてしまった後の場合は、どうなるのー? 一応、まだ債権届出をしたら間に合うかな?
いや、書面決議後や、再生計画の認可決定後は追完できないね。この場合は、もう仕方ないので再生計画通りに減額分を弁済することになるね。ただ、もし債権者側に帰責事由(悪い原因)がある場合は、その債権者への返済は劣後化(他の債務より後回し)する。
ふむふむ。 債権者さん側のミスの場合は、再生計画の3年間では弁済せずに、他の借金を全部返した後で弁済するってことね?
なーんだ! 債権者漏れがあっても、ちゃんと減額もされるし、後回しにできる可能性もあるし、結構余裕そうじゃん!
いやいや(汗)、余裕ってことはないよ。再生計画の認可後に発覚した債権は、最低弁済額の計算に入れられないから、総弁済額がムダに増えてしまう。それにもし意図的にやったら当然、再生計画は不認可・取消しになる。記載漏れがないよう十分注意しないとね
  • 債権者一覧表に債権者漏れがあった場合、書面決議前なら追完できる
  • 書面決議や認可決定後の場合は、漏れた分も再生計画の定め通り弁済する
  • 債権者側に帰責事由がある場合は、漏れた分の債権は劣後化する
  • 不正な目的での記載漏れがあった場合、再生計画は不認可・取消しになる
個人再生でいくら借金が減るのか、他の債務整理の方が良いか診断する

認可決定前に債権者漏れに気づいた場合はどうする?

個人再生では、まず申立て時に、全ての再生債権者をリストで記載した「債権者一覧表」を裁判所に提出します。個人再生の開始決定がされると、裁判所はこの債権者一覧表に記載のある債権者に宛てて、「個人再生の開始決定通知」「債権者一覧表」を送ります。

個人再生手続きが一旦開始すると、最初に提出した債権者一覧表を後から修正することはできません。もちろん事前に十分注意することは当然ですが、万が一、後から債権者漏れが発覚してしまった場合、どうなるのでしょうか?

債権届出期間中なら「債権届出」して貰えばOK

個人再生の開始後は、まず債権届出期間という期間があります。この債権届出期間とは、債権者が裁判所から送られてきた債権者一覧表を見て、債権漏れがある場合、記載された金額に異議がある場合などに、裁判所に「債権届出」をするための期間です。

債権届出期間であれば、債権者に債権届出をして貰えば間に合う-説明図

この期間までに債権者漏れに気づいた場合であれば、まだ比較的ラッキーだと言えます。債権者に債権届出書を出して貰えば、問題なく再生計画に組み込むことが出来るからです。

注意点として、債権者一覧表に記載漏れがあった場合は、裁判所からも通知が送られていませんし、おそらく弁護士の受任通知も送っていないと思いますので、あらためて債権届出をするよう連絡をする必要があります。

書面決議の前までなら「追完」して貰えばOK

厳密にいえば、裁判所が書面決議に付する旨の決定をする前までです。つまり書面決議の開始前まで、ということですね。

個人再生では「追完」という仕組みがあり、上記の債権届出期間に間に合わなかった場合であっても、書面決議の開始前であれば、一定条件を満たすことで裁判所に債権届出を提出することができます。

書面決議より前で、帰責事由がない等の条件を満たせば、届出期間に間に合わなくても追完できる-説明図

債権届出の追完
債権届出期間に間に合わなかった場合でも、以下の条件を満たす場合は債権の届出が可能。(民事再生法95条

 (1)債権者の責めに帰することができない事由が原因で届出できなかった場合
 (2)その事由が消滅してからまだ1カ月以内であること
 (3)再生計画案を決議に付する旨の決定がされる前であること

まず(1)ですが、債権者に帰責事由がないこと、つまり債権者の故意や過失により期間内に届出をしなかったわけではないこと、が条件です。

これは通常、大丈夫だと思います。債権者一覧表への債権者漏れが原因の場合、どちらかと言えば、悪いのは再生債務者側です。債権者一覧表に記載しなかった以上、裁判所からも通知が届きませんので、個人再生手続きの開始や、債権届出について、知ることができなかった可能性があるからです。

もちろん個人再生の開始決定時には、官報に公告が掲載されますので、官報をチェックしていれば個人再生手続きを知ることはできたかもしれません。しかし大手金融機関や銀行でもない限り、官報をチェックしている可能性は低いので、公告を見ていなかっただけでは「過失」とまでは言えない可能性が高いです。

なので、債権者漏れがあった場合には、その漏れた債権者に対して連絡を取り、個人再生手続きに入った旨、債権届出を追完して欲しい旨を伝えてください。

書面決議後、認可決定後に債権者漏れに気づいた場合

書面決議に間に合わなかった場合や、再生計画の認可決定後に債権者漏れに気づいた場合には、もう債権届出をすることはできません。 このように、最終的に裁判所に届出ることができなかった再生債権のことを、「無届債権」といいます。

無届債権も、再生計画で定めた方法で弁済する

個人再生手続きでは、最終的に届出がされなかった債権についても、他の借金と同様、再生計画に従って支払いをします。再生計画の権利変更も受けますので、ちゃんと減額もされます。

例えば、再生計画で、「元本及び開始決定日までの利息・損害金の80%相当額について免除を受ける。権利変更後の再生債権について、3カ月ごとに合計12回、各12分の1の金額を支払う」と定めていたとしましょう。

この場合、債権者漏れした無届債権の額を60万円だとすると、「48万円については免除。残額の12万円については、3年間、3カ月に1度のペースで1万円ずつ弁済」をすることになります。

認可決定後に債権者漏れが発覚した場合の、無届債権の弁済方法-説明図

この結果だけ聞くと、「なんだ、じゃあ届出を忘れていても特に問題なさそうじゃないか」と思うかもしれませんが、そうではありません。たしかに、漏れた債権についても減額はされますが、支払総額でいうとかなり損をする可能性があります。

債権者漏れがあると、支払額で損をする可能性がある?

個人再生の最低弁済額の要件では、債務額が大きいほど、それだけ免除率も大きくなります。つまり債権者漏れがあると、その分だけ免除を受け損ねる可能性があるので、結果として支払額が不必要に増えてしまう可能性があるのです。

例えば、記載漏れの無届債権60万円を除いて、借金の合計が300万円だとします。この場合、法律上の最低弁済額は100万円ですので、免除率は67%になります。一方、もしちゃんと債権届出をしていた場合、借金の合計額は360万円です。最低弁済額は同じく100万円ですので、このケースでは免除率が72%になります。

最低弁済額が変わらない場合、無届債権があると免除率が低くなる-説明図

どちらのケースにしても、再生債権の総額は360万円です。つまり、同じ360万円の借金について、免除率が5パーセントも違うことになりますので、支払額では18万円の差が付くことになります。意外とバカにならない金額差です。

記載漏れの債権が「劣後化」する場合とは?

債権者漏れした無届債権について、債権者に帰責事由がある場合には、その債権は劣後化されます。劣後化というのは、他の借金よりも後回しで支払われる、ということです。

具体的には、再生計画の弁済期間(3年間)は、無届債権分の支払いは行わず、他の再生債権のみ再生計画に従って弁済します。その後、弁済が完了したら、さらにそこから3年間、無届債権を再生計画に従って弁済します。

債権者に、責めに帰すべき事由がある場合は、債権は劣後化する-説明図

先ほどの例(再生届出債権300万円、無届債権60万円、免除率80%、弁済期間3年)の場合は、まず3年で届出債権300万円の20%(60万円)を支払います。それが完了してから、次に無届債権60万円の20%(12万円)をまた3年間で支払います。

「どのような場合に、帰責事由にあたるか?」という問題については、前述の「追完」の場合と同じです。

債権者一覧表の記載漏れが原因で、無届債権となってしまった場合は、「責めに帰すべき事由がある」とは言えないと思いますので、劣後化しない可能性が高いでしょう。一方で、既に1度、債権届出をするよう連絡したにも関わらず、届出がされなかったような場合、等は帰責事由があると言えます。

わざと債権者一覧表に記載しなかった場合どうなる?

故意により債権者一覧表に、特定の債権者を敢えて記載しなかった場合は、手続き上問題です。

例えば、「職場に借金のことがバレたくなかったから、勤務先からの借入を記載しなかった」というのは、債権者平等の原則に反しますし、「書面決議で反対してきそうな債権者を敢えて記載しなかった」というのは、法律違反になります。

このように、再生債権者の一般の利益に反する再生計画、不正な決議により成立した再生計画、などは裁判所の職権で不認可になりますし、既に認可確定した場合でも取消しになります。

債権者一覧表には、全ての再生債権を記載する必要があります。敢えて記載しなくてもいいケースというのは、存在しませんので注意が必要です。

 

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