個人事業主の個人再生における売掛金・買掛金の扱い
個人事業主の場合には以前の記事「小規模個人再生と給与所得者等再生の違い」で解説したように、小規模個人再生で再生手続きをおこなうことになります。
個人事業主であれば、この個人再生の開始手続きの際に、売掛金と買掛金が発生している可能性があると思います。この売掛金と買掛金の処理はどのようになるのでしょうか?
個人再生手続きの開始にあたって、売掛金がある場合にはこの売掛金はどうなっちゃうのーっ?! 当面の事業の資金繰りのために必要なケースもあると思うんだけどーっ!
だからあまり多額の売掛金(売上債権)がある場合には、それにあわせて個人再生の弁済額も膨らんでしまう可能性があるね。
清算価値保障とは、再生計画における弁済額は最低でも、自己破産した場合の債権者への配当額を上回るものでなくてはいけない、という最低弁済額に関する決まり事のこと。自己破産における配当は個人の資産・財産が原資となるため、個人再生における弁済額もこの財産額以上でなくてはならない。
個人事業主が小規模個人再生手続きをおこなう際に、売掛金がある場合にはこれを財産として「財産目録」に記載して裁判所に提出します。小規模個人再生の最低弁済額は、最低弁済基準額または清算価値保障(資産額から推定)のどちらか大きい方、と決まっています(参考:個人再生の最低弁済額と清算価値保障について)
再生開始手続き前の売掛金は財産(資産)として扱われるため、その分、清算価値が高くなり個人再生の支払い額が大きくなる可能性があります。また、個人再生開始手続き後の売掛金については、清算価値にはなりません。
買掛金の扱いについて
一部、債権者だけを優遇して、優先的に返済をおこなうことを偏頗弁済(へんぱべんさい)といい、これは民事再生手続きや破産手続きでは「債権者平等の原則」に反するとして禁止されています。
個人再生手続き開始後は、再生計画が認可されるまでの間は、特定の債権者だけを対象に優先的に返済をおこなうことは認められていません。また個人再生手続きの開始直前に、特定の債権者に対してのみ著しく偏って返済をおこなっていた場合には清算価値の計算に偏頗弁済の分を上乗せしなければならない場合があります。
例えば、本来200万円の清算価値(現預金や売掛金債権、保険の解約返戻金など)があったにも関わらず、支払い停止後に80万円を優先的に買掛金の弁済にあててしまった場合、実際の残資産額は120万円になりますが、清算価値に基づく最低弁済額は200万円として計算をおこなわなくてはならない、ということです。
再生手続き開始後の買掛金の支払いについて
原則として上記のように、再生手続き開始後も再生計画が認可されるまでは特定の債権者だけに優先的に弁済することはできません。ただし、その買掛金の支払いが「再生債務者のために支出すべきやむを得ない費用」だと認定されれば、共益費として優先的に支払いをおこなうことができます。
共益費については養育費の支払いのところでも説明しました(参考:個人再生で慰謝料や養育費を減額できる?)が、再生手手続きとは別に弁済の必要がある債権のことです。
個人再生は将来に渡って反復的・継続的に収入があって、再生計画に基づいて弁済していくことが必要な民事再生手続きですから、買掛金の支払いが滞ることで事業が運営できなくなってしまったり、将来の収入がストップするようなことになってしまっては本末転倒なわけです。なので裁判所では、申立てがあった場合のみ買掛金の支払いを共益費とすることを認めています(民事再生法119条)。