今回の登場人物中岡 寛太さん(仮名)

1972年生まれの45歳。 不動産会社に勤務。父親の事業破産により、連帯保証人として1000万円の借金を背負い、その他、住宅ローンや消費者金融などの借金、合計3000万円を抱えて、2014年に自己破産。

自己破産を弁護士に相談するまで

連帯保証人として1000万円の借金を背負った他、住宅ローンの返済にも行き詰まり、家を手放すことを決めた寛太さん。同時に弁護士に保証債務の整理を相談したところ、自己破産を勧められたそうです。詳しく経緯を聞いてみました。

弁護士に借金のことを相談する

離婚調停をした結果、子供2人の養育費として月5万円を払うことになりました。
なるほど。
あとは財産分与やなんかで、保険や貯金などの唯一の財産も全部、妻に渡してしまいました。
といっても、大した額ではなかったですけど。

家はまだ住宅ローンが残ってたんで、そのまま、私が引き受けることになりました。

なるほど。
家は寛太さんが引き取ることになったんですね。

寛太さんの名義の住宅ローンの家を奥さんに財産分与してしまうと、後でややこしい話になりがちですからね…。

はあ、そうですね。
ただもう私も1人ですから、そんな広い部屋は必要なかったんです。

もう住宅も処分して、もっと通勤の楽な職場近くの安いマンションの部屋を借りようと思ったんですわ。

それで、この際やから、保証債務も何とかならんかと思って、知り合いの弁護士に債務整理を相談しました。

なるほど。
弁護士さんはなんとおっしゃってましたか?
色々事情を説明したんですが、やっぱり自己破産がいいやろ、と言うてましたね。

一応、信用保証協会の債務を何とかするには、3つほどの選択肢があると言うてました。

1.自己破産する方法
2.個人再生する方法
3.消滅時効を待つ方法

ですわ。

なるほど。
たしかに消滅時効を待つという方法もありますね。

信用保証協会の連帯債務は、お父様の事業資金が元ですから、商事債権になります。

すると、消滅時効は5年間ですね。

そうです。
一度も返済をしてなければ、代位弁済の日から5年間だそうですわ。

ただ、私の場合は、保証債務の返済をずっと続けてましたから、今から5年待たないと時効援用できないし、現実的やないやろうと言われました。

それに信用保証協会は、割合、時効管理もきっちりしてるし債務額が1000万円もあるから、ただ放置してれば時効が成立するなんてことは、まず期待できないやろうと。

寛太さんの場合は、全く支払能力がないわけではなく、それなりの収入もありますもんね。

裁判も何もせずにそのまま時効を迎えるということはあまり期待できないかもしれませんね。

時効を待つとなると、その間の遅延損害金も付いてしまいますし。

そうです。
あと個人再生っていう手もあると言うてました。

個人再生いうのは、裁判所に申立てをして、借金を現在の1/5くらいまで減らしてもろうて、それを3年~5年かけて返済する法的手続きやと教わりました。

その方法やと、私の場合、信用保証協会の借金と、その他の借金も全部あわせて300万円くらいまでは減額できるやろうと。

月々の返済額も今よりは減るはずやと言うてました。

個人再生とは

個人再生とは、裁判所に申立てをすることで借金を法律で決められた金額まで減額できる手続きのことをいいます。例えば、借金元本500万円未満の方であれば100万円、1500万円未満の方であれば現在の1/5まで、3000万円未満の方であれば300万円まで減額できます。
任意整理とは違って、債権者の同意がなくても裁判所の力で、強制的に借金を減免して貰える制度です。(ただし小規模個人再生の場合、過半数の債権者が反対すると再生計画は否決されます)⇒ 詳細はこちら

なるほど。

ただ、寛太さんの場合、保証債務だけが突出して多額なので、個人再生をしても、債権者に反対されて否決される可能性がありますよね。

それに元々、10年で返済することを前提に和解しているので、個人再生をして減額しても、それを3年~5年で返すとなると月々の返済額はあまり減らない可能性もありますね。

※ 小規模個人再生では、債権者の過半数が反対すると再生計画が否決されてしまいます。通常は、債権者の過半数がそろって反対することは考えにくいです。しかし今回のケースのように1社だけ、突出して借金の額が多い場合、その1社が反対するだけで過半数決議になってしまい、再生計画が否決されてしまう可能性があります。(⇒ 参考記事
あー、そうなんです。
それにその弁護士さんが言うには、住宅を残したいわけでないなら、敢えて個人再生を選択するメリットはほぼないそうですわ。

個人再生と自己破産を比べた場合、個人再生は「借金を減らす」手続きで、自己破産は「借金を無くす」手続きで、いわば自己破産は、個人再生の上位互換のような手続きやと。

なるほど。
個人再生には、
住宅ローンをそのまま残せるというメリットがあるけど、そのメリットを活用しないなら、自己破産の方がええそうです。

自己破産の方がネガティブな印象があるかもしれんけど、その後の生活への影響とかは、ほとんど一緒やから、と言うてました。

たしかに、住宅ローン特則を利用しないなら、経済合理性だけ考えれば、あえて個人再生を選ぶ意味はないのかもしれませんね。

官報に名前や住所が載るのも同じですし、CICなどの信用情報に5年間ブラック登録されるのも同じですし…。

そうなんですわ。
でも私にとっては、えらい意外でしたね。

私としては、住宅はもう最初から売って処分するつもりでしたし、それなら自己破産にしてくださいとお願いしました。

なるほど。
他に何か、破産するにあたって注意されたことはありますか?
あー、
当たり前ですが、養育費の支払義務は自己破産しても無くならんと言われました。

離婚慰謝料や財産分与の法的な支払義務はなくなる、と言うてましたけど…、

私の場合は、すでに財産分与は支払い終えてましたし、慰謝料とかはなかったんで、関係なかったですわ。

「同時廃止」と「管財事件」の違い

費用の面などで何か違いはありましたか?
あー、費用の面でも自己破産の方が安く済むやろうと言うてました。

私の場合は、免責不許可事由がないし、多分、同時廃止でいけるやろうから、裁判所に支払う費用は多分1万円くらいで済むと。

あとは弁護士費用に別途40万円くらいかかるけど、それは自己破産も個人再生も同じやと。

※ 免責不許可事由とは、破産手続きにおいて免責の許可が貰えない(借金が帳消しにならない)ような原因のことです。詳しくは、前話「借金依存のキラキラ女子編」を参考に。
なるほど。
読者のために少し説明させてください。

同時廃止というのは、破産者にほとんど財産がなく破産手続きの費用を支払うお金もない場合に、選択できる制度ですね。

債権者のための配当手続きなどを省略して、破産手続きの開始決定と同時にそのまま手続きを終結させてしまう方法です。

同時廃止だと、破産手続き自体は1日で終わりますし、破産管財人も選任されません。

ですので、破産費用を1万円程度ととても安く抑えることができるんですね。

一方、管財事件になってしまうと、破産管財人による財産調査や換価業務、配当などが行われて、破産手続きに2~3カ月以上かかることになるため、破産費用も高額になります。

最低でも20万円はかかることが多いですね。
⇒ 参考記事

それで、
寛太さんの場合は、おそらく同時廃止の制度を活用できるだろう、と言われたわけですね?
そうです。
基本的に、20万円以上の財産を持っていなければ、同時廃止を選択できるそうですわ。

私は家以外は何も財産を持ってなかったですし、車も持ってません。
保険とかも嫁に財産分与で上げてしもうたんで…。

※ 自己破産の直前に、他人に財産などを譲渡する行為は「偏頗弁済 ※」として問題になり、後で裁判所(管財人)に否認されてしまう可能性があります。例外的に財産分与は、通常の範囲であれば原則として否認の対象にはなりません。しかし自己破産前に、あまりに過大な財産分与をすると、やはり裁判所に否認される可能性があります。

自己破産する場合の住宅の扱い

家を持ったままでも同時廃止で問題はなかったんですか?
あー、はい。
これは裁判所にもよるそうなんですが、大体、住宅ローンが家の価値の1.5~2倍以上残ってたら、その家は「価値なし」と判断されるそうです。

私の場合、
まだ1500万円以上の住宅ローンが残ってて、家の価値は700万円ぐらいしかなかったんで。

多分、査定書をつければ価値なしで扱われるから同時廃止で行けるやろうと言われました。

なるほど。
もし同時廃止になった場合、住宅の方はどうなるんですか?
自己破産後に、住宅ローンの債権者(保証会社)に競売にかけられるか、
保証会社と相談して任意売却を進めることになるやろう、と言われました。

まあどっちにしろ、破産手続き外で売ってしもうていい、ということみたいですわ。

なるほど。
私の場合は、結局、破産手続き後に任意売却しました。

その費用は、売却代金から捻出されたんで、家を売るのに費用はかかりませんでしたわ。

財産分与や貯金の扱いについて

読者の方のために、もう少し掘り下げて質問させてください。

20万円以上の財産を持ってれば管財事件になる、そうでなければ同時廃止になる、とのお話ですが、貯金はどうでしたか?

あー、
貯金も20万円以上あれば管財事件になると言われました。

でも、破産手続きの開始時に20万円以上でなければ問題ないそうです。

ふむふむ。
私の場合は、相談したときには50万円くらいの銀行預金を持ってたんですが…、

普通に生活費や破産費用に使うのは問題ないそうなんで、私の場合は、弁護士さんに弁護士費用40万円を支払いました。

なるほど。
弁護士費用などを支払って、残りの財産が20万円未満しかなければ問題ない、ということですね。

いわゆる「有用の資」ですね。

有用の資とは

有用の資とは、例外的に自己破産前にお金を使っても問題とされない費目のことです。例えば、1)自己破産のための裁判所費用、弁護士費用、2)やむをえない生活費、3)税金の支払い、4)医療費、5)引越し費用、6)学費、などが該当します。(⇒ 参考記事

はい。
あとは未払いの住民税があったんで、それも支払ってしまって問題ないと言われました。

ホンマは、自己破産の直前に借金を返済したりしてはいかんそうなんですが、未払の税金は問題ないそうですわ
⇒ 参考記事

なるほどですね。

それで、貯金分は弁護士費用の支払いや生活費、未払の税金などにあてて20万円以下しか残らなかったので、同時廃止が認められた、ということですね。