遠方の簡易裁判所で訴訟された場合の移送申立ての方法

カードローンやクレジットカードなどの借金、その他の支払いをめぐって貸金業者や信販会社から訴訟を提起されることがあります。この場合に、例えば、福岡や広島に住所地があるにも関わらず、業者側が本店や本社のある東京や大阪の簡易裁判所に訴訟を提起したことで、遠方の裁判所から出頭の呼出状が届くケースがあります。どうしても遠方の裁判所に出頭できない場合に、自分の住所地を管轄する裁判所への移送申立ては認められるのでしょうか?

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遠方の裁判所から呼出状が届いた場合の移送申立て
ねえねえ、先生ー!
福岡に住んでいるんだけど、クレジットカードの支払請求でカード会社の本社がある東京の簡易裁判所に訴訟を提起された場合って、移送申立てはできるのかなー?
裁判所が「被告(訴えられた側)の負担が業者側に比べて重すぎる」と判断すれば、福岡の裁判所への移送が認められる可能性はあるね。例えば、生活が困窮していて交通費の捻出が難しいとか、病気やケガで遠方の裁判所への出頭が難しいとかの理由があれば。
病気ではないけど、まだ生後まもなくの子供がいるから遠方は厳しいんだよね・・・。あと、カード会社との契約書のなかで「当社の本社、支店または営業所を管轄する裁判所を管轄裁判所とする」って規定もあるんだけど、それでも移送申立てはできるの?
契約書で合意管轄があっても、移送申立てが認められる可能性はあるよ。裁判所の裁量移送の方が権限が強いからね。ただ簡易裁判所の場合は、出頭しなくても書面を提出すれば 擬制陳述※ ができるし、電話会議※ って方法もあるから、それで却下される可能性はあるね。
そうなんだ・・・。
たしかに分割払いを認めて貰って和解したいだけだから、 電話会議※ でもいいんだけど。まあ一応、移送申立てしてみるね。移送申立書を提出するのは、答弁書より先だよね?
そうだね。答弁書よりも先に移送申立書を出すか、あるいは答弁書と同時に提出した方が良いね。同時であれば、移送申立ての可否の審理が先にされるから問題ない。もしわからないことがあれば、担当の裁判所書記官に電話して聞くのがいいと思うよ。
  • 貸金請求訴訟では、法律上は被告・原告のどちらの住所地で訴訟してもいい
  • 当事者2人の間で合意があれば、法定管轄以外の裁判所で訴訟をしてもいい
  • 訴訟管轄地がどちらか一方に不利な場合は、裁判所に17条移送申立ができる
  • 簡易裁判所では、擬制陳述や電話会議を理由に移送が却下される場合もある
  • 移送が認められるかは不明。裁判所の判断次第なのでしっかり理由を書こう

そもそも裁判所の管轄地はどうやって決まってるの?

まず最初に、本来、法律の趣旨からいうと「裁判は、被告(訴えられた側)の住所地でおこなうもの」と決められています。これは普通裁判籍といって、民事訴訟法で定められた裁判所の管轄地の原則です。民訴法4条1項

訴訟の管轄地は、被告の住所地が原則(普通裁判籍)

なぜかというと、裁判というのは基本的には原告(訴える側)の都合でおこなわれるものです。たとえ理不尽な請求に基づく訴訟であっても、一定の条件を満たして手続きを踏めば、訴訟をおこすことはできてしまいます。

そのために、被告(訴えられる側)は裁判所から呼び出されたり、場合によっては仕事を休んで都合をあわせなければならないわけですから、せめて被告側の住所地で裁判をおこなうようにすべきというのが法律で定めた「普通裁判籍」の原則なのです。





貸金請求訴訟の場合は、原告の住所地で訴えることもできる

一方、民事訴訟法では、裁判の管轄地について定めたもう1つの原則があります。それが「特別裁判籍」です。

特別裁判籍というのは、「金銭の訴えの場合はどこ」「不動産の訴えはどこ」「不法行為の訴えはどこ」といったように、訴訟の種類ごとに、それを管轄する裁判所の管轄地について定めた法律による裁判籍です。例えば、民事訴訟法5条では、「財産権上の訴えは、義務履行地を管轄する裁判所に提起することができる」という定めがあります。民訴法5条1項1号

財産権上の訴えは、義務履行地が管轄でもいい(特別裁判籍)

義務履行地(つまりお金を借りた人であれば、そのお金を返すべき場所)を管轄する裁判所に訴訟を提起することも認められているのです。

民法の原則は 持参債務※ ですから、法律上のスジでいえば、債務者は債権者のところまでお金を持参して返済しなければなりません。つまり、借りたお金を返済する場合の義務履行地は、原告側(訴える側)の住所地となります。

持参債務の原則

そのため、貸金請求訴訟の場合は、原告は「被告の住所地」「原告の住所地」のどちらを管轄する裁判所に訴訟を提起しても構わないことになっています。これがまず法律上の原則です。

金銭消費貸借契約上で、裁判所の管轄合意がある場合

消費者金融やカード会社と契約して、キャッシングでお金を借りたり、クレジットカードを使用する場合には、契約書のなかに「合意管轄」という条項が入っていることが一般的です。この場合はどうなのでしょうか?

契約書の合意管轄

上記で説明した「普通裁判籍」「特別裁判籍」はいずれも、法律で定められた法定管轄ですが、これはあくまで原則に過ぎません。なので当事者間であらかじめ、書面による合意があれば、第一審に限り、合意によって管轄裁判所を決めてもいいことになっています。

【管轄の合意】

1.当事者は、第一審に限り、合意により管轄裁判所を定めることができる。
2.前項の合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければその効力を生じない。民訴法11条

なので、例えば、契約書のなかで「本契約に関して訴訟が生じた場合は、名古屋地方裁判所を第一審の 専属的合意管轄 裁判所とします。」というような定めがあれば、その合意は有効です。原則として、管轄裁判所は名古屋地裁となります。

契約上の合意管轄で決めた管轄も有効

地方銀行や信金、ろうきん等のカードローンなどを利用している場合は、契約書のなかに「本店所在地を管轄する裁判所のみを第一審の専属的合意管轄裁判所とします」といったように、専属的に管轄裁判所を定められているケースもあります。

(専属的ということの意味は、先ほどの法定管轄よりも優先される、ということです)

全国に店舗のある金融業者

ただし全国に支店や営業所があるような大手のクレジットカード会社や消費者金融などの場合は、規約や約款をひととおり確認してみましたが、ほとんど専属管轄裁判所を1つに指定するような記述はありません。

実際には、「会員と当社の間で、本規約について訴訟が生じた場合は、訴額のいかんにかかわらず、会員の住所地または当社の本社、各支店、営業所を管轄する簡易裁判所および地方裁判所を管轄裁判所とすることに同意します」といった内容で契約書が作成されていて、つまり訴える側がどの管轄地の裁判所に提起するかをある程度、自由に選べるような規定になっていることが多いです。

大手の消費者金融やカード会社の規約

このような合意が法律上、有効かどうかはいろいろな判例や学説があります。長くなるので開閉ボックスにしますが、興味がある方は以下をご覧ください。

全国の本支店を管轄地とする管轄合意条項(※クリックタップで開閉)

いずれにしても重要なポイントは、現在の法律では、「例え、契約書上で合意管轄をしていたとしても、それが当事者間で不衡平なものであれば、裁判所は職権で他の管轄裁判所に移送できる」ということです。

つまり契約書上の合意よりも、裁判所が「被告にとって負担が重すぎるから移送すべきだ」と判断すれば、裁判所の判断による裁量移送の方が優先されるということです。

合意管轄があっても移送申立てはできる

たまに誤解されていることですが、これは契約書の合意が「専属的管轄」か「付加的管轄」かとは全く関係がありません(民訴法20条のカッコ書き)。 たとえ専属的合意管轄がされていたとしても、移送申立てをしてそれが認められれば、移送申立ての方が優先されます。

裁判所の管轄ざっくりまとめ

移送申立てはどのような場合に認められるの?

では、どのような場合に裁判官は「移送申立て」を認めてくれるのでしょうか? 基本的には、当事者間(被告と原告)との間で衡平を図る必要があると判断されたときに、移送の申立てが認められます。

例えば「被告にだけ著しく交通費や移動の負担が大きい」といった場合が典型的ですね。なお移送申立ての根拠となる条文は以下です。

【民事訴訟法17条】

第一審裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、当事者および尋問を受けるべき証人の住所、(略)その他の事情を考慮して、(略)当事者間の衡平を図るため必要があると認めるときは、申立てによりまたは職権で、訴訟の全部または一部を他の管轄裁判所に移送することができる。民訴法17条

その他の事情というのは、例えば、「当事者の身体的な事情」「訴訟代理人の有無」「当事者双方の経済力」「営業所や支店の所在地」などが含まれると解釈されています。(参考文献:東京弁護士会LIBRA 2010年9月号特集)

全国に支店を持つような大きな会社である貸金業者と、個人である顧客とでは、もともと資力や負担の大きさが違うのは当たり前なので、例えば、福岡に住んでいる個人が(福岡にも営業支店のある)貸金業者の本社から、東京簡裁に訴訟を提起された場合には、福岡簡裁への移送申立てが認められる可能性はあります。

業者側(原告)と被告(個人)の立場も考慮される

移送申立てが認められやすくなるケース、ならないケース

よくある事例としては「生後まもない幼児(乳児)がいて預けることもできないので、遠方の裁判所だと出頭できない」「病気やケガで遠方には出廷できない」といった場合には、移送申立ては認められやすくなります。

また他にも「(貸金請求訴訟ではあまりないと思いますが)証人尋問をする予定であり、その証人が東京まで出頭するのは大変である」「そもそも、お金を借りる契約をしたのは福岡の営業所である」といった場合には、移送申立てが認められやすくなります。

移送申立てが認められやすくなるケース

一方、簡易裁判所の場合には、たとえ「沖縄在住の個人が東京簡易裁判所に訴訟を提起された」といったように衡平性を欠くと思われる場合であっても、擬制陳述ができるということで、移送申立てが却下される可能性はあります。

つまり簡易裁判所の場合は、全ての期日において出頭をしなくても、代わりに書面(答弁書や準備書面など)の提出をすることで陳述をした扱いにすることが認められているため、「わざわざ移送しなくて書面提出で裁判を進めればいいだろう」と裁判官が判断するケースがある、ということです。

擬制陳述や電話会議システムを利用する方法

簡易裁判所の擬制陳述については以下を参考にしてください。

参考記事
借金滞納で簡易裁判所から呼出状が!出頭しないとダメ?

 
また同じように、それほど争点がないケース(被告が相手の請求原因を認めている場合)であったり、そもそもの裁判の目的が和解であり、 電話会議 による弁論準備手続きだけで終わらせられそうなときは、移送申立てが却下される可能性は高くなります。

移送申立てはどのタイミングで申請すればいいの?

移送申立ては、できれば答弁書を提出するよりも前か、または答弁書の提出と同時に申請するのが望ましいです。というのも、答弁書を提出してしまった後だと「応訴をした」と判断されてしまうため、応訴管轄が生じるからです。

応訴管轄

民事訴訟について、訴えられた側(被告)が、その管轄地について異議を述べたり争うことなく、そのまま陳述(請求原因の認否など)をはじめた場合には、その裁判所に管轄権が生じる。これを応訴管轄という。民訴法12条

応訴管轄のイラスト

まだ第1回弁論期日前であれば、「答弁書を先に提出してしまった」というだけでは必ずしも応訴にならない(期日に被告が出頭または擬制陳述をしてはじめて応訴になる)可能性もあります。また応訴管轄が生じたとしても、裁量移送が絶対に認められないというわけでもありません。

しかし移送判断について不利になる可能性は十分ありますので、「答弁書より前」または「答弁書と同時」に提出するのが原則です。

答弁書と同時に提出すべきか、答弁書より前に提出すべきか

先に移送申立書だけを出すか、答弁書と移送申立書をあわせて出すかはケースにもよりますが、基本的にはどちらでも問題ありません。

移送申立てだけを提出すると、次に相手方(原告)に意見書の提出が求められますし、さらにもし移送申立てが却下された場合に即時抗告までする可能性を考えると、どちらにしても最初に指定された口頭弁論期日には間に合いません。

よって期日は一度リセットされるのが普通ですので、答弁書は出していなくても構いません。

移送申立で最初の期日は取消しになる可能性

ただし移送申立てが認められる可能性というのは、全体の割合としてみれば決して高くはありませんので、本気で移送を認めて貰おうと思ったら、移送申立書も(移送が必要な理由について)かなり気合を入れて書く必要があります。

その際に、もし答弁書も一緒に提出していれば、それも一緒に「移送の可否」の判断に用いて貰うことができるので、一緒に提出しても構いません。同時に提出していれば、先に移送申立てが審理されるようになっています。

もし心配であれば、担当の裁判所書記官に、提出の手順や時期などを相談してみてください。





具体的な「移送申立書」の記載方法と書式について

移送申立書は、各簡易裁判所などの公式サイトで書式が提供されていれば、そちらを使用するのが一番いいと思います。軽く探した感じでもいくつかの裁判所(例:松江裁判所大津裁判所山口簡易裁判所で移送申立書の書式(雛型)が提供されているようです。

もちろん、これらの書式を参考に自分で作成しても全く問題ありません。

基本的には、(1)左上に事件番号や原告、被告の表示、宛先の裁判所、(2)右側に書面作成日付け、被告の住所や電話番号を記載して、本文には、(3)申立の趣旨、(4)申立の理由、を記載して提出すれば、形式としては大丈夫です。

(契約上の合意管轄がある場合には、合意自体は原則として有効ですから、申立書には「民事訴訟法17条による移送決定を求める」という趣旨を記載します)

移送申立書の記載例

重要なのは中身です。そもそもの管轄違いでない限り、移送申立てが認められるかどうかは、完全に裁判所の判断次第です。また先ほども述べたように、傾向として移送申立てが認められる可能性というのは、それほど高くはありません。

申立ての理由として、「生活が苦しく遠方への交通費を負担するのも厳しい」「子育て中の乳児がいて、電車で遠方まで出頭するのは難しい」など、具体的な理由がある場合はなるべくしっかりそれを記載してください。病気の場合は、診断書などの疎明資料があれば、それもあわせて提出した方がいいです。

また、消費者金融等の貸金業者であれば、そもそも契約を締結した(お金を借りた)のが近辺の営業支店であれば、そこを管轄地とすべきという主張も可能です。

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