養育費の強制執行では、給与の1/2を将来分まで差押え可
強制執行の中でも「養育費の未払いによる給与差押え」はもっとも保護が手厚い差押方法の1つです。本来は4分の1までしか差押えできない給与を、半分も差押えることができる上、滞納のたびに強制執行を申立てる必要もありません。1度、強制執行が開始すると、将来に渡ってずっと給与から養育費を差押える(天引きする)ことができてしまいます。解除方法はほぼないに等しく、妻が取下げてくれない限り、滞納分を一括で支払っても差押えは解除されません。
養育費調停で決めた約束通りに、元夫が養育費を支払ってくれない場合、「給与差押え」による強制執行がいいって聞いたんだけど、なんでなのー? 銀行預金の差押えよりも良いのかな?
元妻に自ら強制執行を取下げて貰うか、夫が転職でもしない限り、差押えを解除する方法はないからね。滞納分を一括で支払ったり、養育費減額調停をしても、差押え自体は解除されないし。
- 養育費で給与を差押えるには、公正証書、調停調書、審判正本などが必要
- 夫の勤務先は、妻が特定する必要あり。裁判所や市役所は教えてくれない
- 養育費や婚姻費用による差押えに限り、給与手取額の2分の1まで差押可能
- 夫は滞納分(未払い分)を払っただけでは、給与差押えは解除できない
- ただし滞納分を支払った上で転職すれば、転職先の給与の差押えされない
1.税金や社会保険料を控除した手取額の半分まで差押え可
2.養育費の強制執行で、給与差押えをするための「条件」
3.差押え後の、勤務先からの養育費の受け取り方法
4.給与差押え後に夫が任意で養育費を支払ったらどうなる?
5.生活が苦しい場合は、まず養育費減額調停をすべき
6.転職したり退職すれば、給与差押えは解除されるの?
7.元夫の勤務先がわからない場合の養育費の差押え
8.実際に養育費による給与差押えを申立てるまでの流れ
9.給与差押えの申立書の記載方法、裁判所費用、弁護士費用など
養育費の未払いは絶対ダメ!給与差押えが強烈すぎる
離婚後の養育費の支払い率は全国的に低いです。平成23年度の調査では、なんと全体の19%程度の家庭しか実際に養育費を受給していないことがわかっています。(厚生労働省「全国母子世帯等調査」)
このように社会的に養育費の未払いが問題になっていることから、少しでも離婚した妻が養育費を取り立てやすくなるように、養育費の未払いを理由とした「給与差押え」では、他の債権にはない特別ルールが定められています。
前述の先生の会話にも登場しましたが、養育費の給与差押えでは、(1)手取額の1/2までの差押え、(2)まだ支払日が到来していない将来の養育費のための強制執行開始、の2つが認められているのです。まずはこの2つの具体的な意味を説明します。
一般的にいえば、給料というのは民事執行法152条の「差押禁止債権」にあたります。そのため、借金を理由とした差押えでは、給与は手取額の4分の1までしか差押えることができません。(額面ではなく手取額を基準にします)
給与のうち、税金の源泉徴収や社会保険料などを控除した手取額が40万円だとすれば、原則として、差押えできるのは10万円分だけです。一般的な「給与差押え」については、以下の記事でも詳しく解説しています。
- 参考記事
- 借金の強制執行で給与が差押えられる?
一方、養育費(または婚姻費用)を理由とした給与差押えの場合、手取額の最大1/2を差押えることができます。例えば、同じように税金や社会保険を控除した後の手取額が40万円だとすれば、そのうち20万円まで差押えることができるのです。
差押えが競合した場合
さらに他の貸金業者と差押えが競合した場合でも、競合するのは手取額の4分の1にあたる10万円の部分だけです。
つまり10万円の部分については、貸金業者と元妻とで分け合い(裁判所が按分配当する)、残りの10万円については元妻が独り占めすることができます。そのため、他の差押債権者がいる場合でも、少なくとも最低4分の1は確実に差押えることができます。
手取額が66万円を超える場合
なお、差押禁止の上限額は33万円までなので、もし夫の給与手取りが66万円を超える場合には、半分以上を差押えることもできます。例えば、夫の給与が月100万円であれば、最大で67万円(100万円-33万円)までは差押え可能です。
強制執行というのは、既に「支払日が到来したもの」についてしか開始できないのが原則です。例えば、まだ返済期限が到来していない借金について、強制執行の申立書を裁判所に持って行ったとしても、却下されるのが当たり前です。
しかし養育費などの扶養定期債権だけは、将来の分についても強制執行を「開始」することが認められています。
通常の債権であれば、未払い分(滞納分)の取立てが完了した時点で強制執行は終了します。しかし養育費に関しては、その時点での未払い分の全額を取り立て終わっても、強制執行はまだ終了しません。将来発生する養育費も含めて、子供が成人になるまでずっと差押えを継続することができます。
取立てできるのは支払日が過ぎた分だけ
もちろんこれは、将来の養育費まで前倒しで「今すぐ差押えできる」という意味ではありません。実際に取立てができるのは、あくまで「既に支払日が来ている分だけ」です。
具体的な日付けでいいましょう。
例えば、毎月の公正証書で養育費の支払日が「毎月25日」と決まっているとします。一方、給与の支払日が「毎月15日」だとしましょう。この場合、5月15日の給与から取立てることができるのは、4月25日以前に支払日が到来している「未払い分」の養育費だけです。
5月25日支払いの養育費を、前倒しで5月15日の給与から差押えて取立てることはできません。
しかし4月25日以前の養育費の滞納分を慌てて一括で支払ったとしても、将来分の給与差押えは解除されません。翌月の5月25日支払いの養育費に滞納があれば、翌々月の6月15日の給与から差押えることができます。ココが一番のポイントです。
つまり「将来の分まで」という意味は、強制執行を申立てた時点での滞納分の養育費を完済したとしても、それだけでは差押えは解除できず、将来、子供が成人するまでの養育費全額を一括で支払わない限り、給料差押えは解除できないということを意味します。
まず強制執行をするためには、債務名義 ※ という公的な文書が必要です。
例えば、養育費の場合であれば、調停で作成した「調停調書」や「審判書」が債務名義になります。もし離婚協議のなかで養育費を決めたのであれば「公正証書 ※」、離婚訴訟のなかで養育費を決めたのであれば「判決正本」が債務名義です。
夫婦2人だけで作った合意書などの私文書では強制執行はできません。上記のいずれも持っていない場合は、まずは「養育費請求調停」を家庭裁判所に申し立ててください。
養育費の滞納があることが条件
また、強制執行で給与を差押えるためには、「養育費の滞納(未払い)があること」が条件です。
前述のように養育費は将来分についても差押えを開始することができますが、まだ一度も滞納がない状態で、将来分だけのために給与の差押えを開始することはできません。つまり一度も支払いに遅れたことがないのに、給与を差押えられることはありません。
元夫が1度でも養育費を滞納したときに、はじめて「滞納分の養育費」+「将来分の養育費」の2つについて、まとめて強制執行を開始できるのです。
この場合に、滞納分の養育費だけを弁済したとしても、「将来分の差押えまでは解除することができない」というのは前述の通りです。そのため、子供の年齢によっては、給与差押えが10年以上に渡って続くこともありえます。
給与差押えを解除するためには、(1)元妻に強制執行を取下げて貰う、(2)子供が成人するまでにかかる将来の養育費も含めて一括で支払う、のいずれかしか基本的に方法はありません。
給与を差押えた後は、原則として、今後の将来の養育費は、毎月、元妻が勤務先に直接請求して支払いを受けることになります。支払い方法は、元妻と勤務先とで相談して決めます。一般的には、職場から元妻の口座に振り込んで貰うかたちが多いです。
元夫に差押命令書が届いてから1週間が経過すると、元妻は、勤務先からの取立てが可能になります。1週間たったら直接、勤務先に連絡して、受け取り方法を話し合ってください。
給料が手渡しでも問題ない
裁判所から差押命令が勤務先に届いた後は、勤務先は、夫に給与の全額を支払うことが禁止されます。差押えが解除されるまでは、夫は職場から給与の全額を受け取ることができません。
なので、給与が振込みなのか手渡しなのか、給与の振込先がどこの銀行預金なのか、といったことは、元妻としては知る必要もありません。たまに「夫の給料は手渡しだから、差押えできないかも・・・?」と心配される方がいますが、元妻は勤務先から直接、取立てればいいだけです。
なお差押えは最大で1/2まで可能ですが、もちろん、必ず半分が持って行かれるということではありません。
滞納分がたくさんあれば、最初の数カ月は給与半分が差押えられる可能性が高いでしょうが、数カ月して滞納分がなくなれば、あとは毎月の養育費分が差押えられるだけです。手取り30万円で養育費が月8万円であれば、差押えられるのは月8万円です。
夫の勤務先が差押えた給与を支払ってくれない場合はどうなるの?
給与差押えの命令が届いたにもかかわらず、元夫の勤務先が差押えた分の給与を支払ってくれない場合は、元妻としては、「取立訴訟」を提起しなければなりません。つまり面倒ですが、「訴訟をして取立てる」ということです。
例えば、元夫の勤務先が実家の自営業で、「元夫(息子)はウチの工場では働いてないよ」と、陳述書で回答をしてきたとします。元妻としては、「いや、おかしい。まだ実家の会社で働いているはずだ」と考えたとしましょう。
この場合、元妻の方から取立訴訟をおこさなければなりません。取立訴訟のなかで「元夫がその勤務先で働いていること」を立証していく必要があります。
元妻が受け取りの連絡をしない場合
また逆に、元妻が一向に勤務先に取立ての連絡をしてこない場合もあります。毎月のことなので、妻が受け取りの連絡を忘れることも考えられます。
この場合でも勤務先としては、差押命令が発令されている以上、夫への支払いが禁止されていることに変わりありませんので、差押えた分は職場内にストックしておかなければなりません。
といっても、ずっとそのまま手元に置いておくわけにもいかないので、普通は法務局に「供託 ※」します。つまり法務局に預けてしまうわけですね。この場合は、元妻が法務局(供託所)まで受け取りにいくことになります。
他にも給与差押えの債権者がいる場合
なお、他にも金貸しなど複数の債権者が給与を差押えている場合は、勤務先は差押えられた給与を、法務局に供託しなければなりません。この場合は「必ず供託しなければならない」ので、義務供託 ※ と呼ばれます。
義務供託がされた場合、前述のように、一般債権者は給与の4分の1までしか差押えできませんので、残りの給与4分の1は元妻が独占できます。競合した4分の1は他の一般債権者と按分します。
この具体的な支払金額の計算や、支払いまでの手続きは、裁判所がおこないます。
なので元妻としては、裁判所から「配当期日呼出状」が届くのを待っていればOKです。配当期日が決まったら裁判所に出向いて、裁判所で「支払証明書」を受け取り、それを持って法務局にいけば、払渡しを受けることができます。
これは話がややこしくなるので、本当はやらない方がいいです。給与差押えを受けてしまったのであれば、もう自分から支払おうとせずに、給与から天引きされたまま放置しておいた方が得策です。
なぜかというと、一度、養育費で給与差押えを受けてしまった以上、そこから反省・改心して毎月の養育費を自発的に支払ったとしても、差押えが解除されるわけではないからです。(もちろん元妻に「これからはちゃんと払うから信じてくれ」とお願いして強制執行を取下げて貰えば、差押えは解除されますが・・・)
つまり、夫が任意で支払ったり支払わなかったりすると、一番困るのは勤務先です。
勤務先の立場としては、まだ差押命令はずっと出たままなので、夫に給与の全額を支払うわけにはいきません。夫が任意で養育費を支払ったとしても、元妻に「そんなの知らない」といって取立請求をされれば、勤務先としては、元妻に差押分を支払わなければなりません。
差押命令が出ている以上、元妻に取立請求をされれば、勤務先は支払いを拒むことができないのです。
もし、先に夫に「今月は元妻には自分から養育費を支払いました」と言われ、それを信じて夫に給与満額を支給した後、さらに元妻から「今月分の養育費を支払ってください」といわれた場合、勤務先は夫と妻に、二重で給与を支払う羽目になってしまいます。
このような理由から、給与差押え後に夫が任意で、毎月の養育費を支払ったり支払わなかったりすると、勤務先としては非常に確認の手続きが面倒臭くなるのです。
具体的な支払方法
このような場合に、具体的にどういう対応をするかは職場によっても違うと思います。
例えば、夫が月末に「妻に本当に養育費を振り込んだ」ことを証明する書面などを勤務先に提出し、勤務先がそれを確認してから、翌月、元夫に給与全額を支給するパターンもあるでしょう。
あるいは、勤務先は、毎月何も考えずに差押分の給与を法務局に供託し、夫が任意で養育費を支払った月は夫が法務局に行って給与を取戻す(支払いがなかった月は、元妻が法務局に行って払い渡しを受ける)というパターンもありえます。
しかしいずれにしても、差押えの開始後に「夫が任意で養育費を支払う」ということをすると、非常に手続きが煩雑になるのはわかると思います。それなら、「夫はもう自発的には養育費を払わない」と決めて、「妻が毎月、直接、勤務先に対して請求する」とルールを統一した方がまだ円滑になります。
養育費による給与差押えを受けて、生活が困窮している場合は、まずは養育費減額調停をすべきです。
特によくあるのが、夫が再婚していて扶養家族が増えているのに養育費の額をそのまま変更していないケースです。たとえ離婚のときに、公正証書等で養育費の金額を定めていたとしても、その後の事情で収入が減ったり扶養人数が増えた場合は、養育費は減額できます。
「再婚しても養育費の額は減額しない」というような取り決めは無効です。
なので、収入が減ったり家族が増えたことで、養育費を支払えなくなり、給料の差押えを受けてしまった場合は、一刻も早く養育費減額調停を申立てましょう。
調停や審判は、決定したときからしか効力が生じません。調停や審判の最中は、今まで通りの養育費を支払う義務があります。なので養育費を減額したいのであれば、なるべく早く調停や審判を申立てることが肝心です。
減額調停が成立しても差押えは解除されない
なお、養育費減額調停が成立したとしても、当然に差押えが解除されるわけではありません。
相手が強制執行を取下げてくれればいいですが、もし取下げてくれない場合は、養育費減額調停の調停調書(または審判書)を持って、請求異議の訴えを起こす必要があります。
しかし請求異議の訴えをしたとしても、一般的には、養育費が減額になった分だけ、差押えられる給与額も減額されるだけです。差押え自体はそのまま継続されます。
転職したり退職すれば、給与差押えは解除されるの?
元夫が退職すれば、給与差押えは失効します。新しい勤務先の給与を差押えるためには、もう一度、元妻が、裁判所に強制執行を申立てなければなりません。
養育費の給与差押えから逃れる最終手段として、転職や退職をする方も実際にいます。
もちろん養育費はどっちみち絶対に支払わなければならないものですから、逃げられるものではありません。
しかし「将来に渡って10年以上も給与差押えを受けるのは無理だ」「任意で支払っているのに、妻が半ば復讐目的で差押えを取下げてくれない」「職場に居づらくなって退職せざるをえなくなった」など様々な事情はあるでしょう。
まだ未払いの養育費が残っている場合、せっかく転勤したとしても、元妻が新しい勤務先を突きとめれば、また給与を差押えることができてしまいます。
勤務先を特定することは簡単ではありませんが、住所さえわかっていれば、探偵や興信所等に依頼して探すことも不可能ではないでしょう。
しかし、もし滞納分の養育費を全て支払った状態で転職したのであれば、新しい勤務先の給与を差押えることはできません。なぜなら先ほども述べたように、強制執行開始の条件は、「養育費に滞納(一部不履行)があること」だからです。
未払いの養育費がないのに、将来の養育費だけをいきなり差押えることはできません。
もちろんこの場合、転勤後に発生する養育費は、すべて期限までに自発的に支払うことが前提です。また一度でも滞納をしてしまえば、当たり前ですが、転勤先の給与を差押えられてしまっても文句は言えません。
先ほども述べたように、夫が退職・転職してしまった場合、新しい転職先は元妻が自分で突きとめるしかありません。市役所(市民税課など)に聞いても、プライバシーを理由に教えてくれませんし、裁判所が調べてくれるわけでもありません。
弁護士に依頼しても、勤務先がわからない状態では、手の打ちようがないことが多いです。
元夫の住所(居住地)がわかる場合には、そこから尾行するなりすれば、勤務先を特定することはできます。そのため、住所がわかっていれば、探偵事務所等に勤務先の調査を依頼する方法もあります。
元夫の住所の調べ方については、以下の記事を参考にしてください。
ただし派遣社員などのかたちで勤務している場合は、給与を支払う会社(差押えの対象となる会社)は派遣元であり、勤務先の現場ではありません。この場合は、本人の居場所を掴んで尾行したところで、差押えの対象となる派遣元の会社は見つからないかもしれません。
実際に養育費による給与差押えを申立てるまでの流れ
さて、では実際に養育費が期日までに支払われずに滞納された場合の、給与差押え(強制執行)までの手順・流れについて説明していきましょう。
まずよくある勘違いとして、強制執行する前に「内容証明郵便を送らなければならない」「履行勧告や履行命令をしなければならない」と思っている方が結構いますが、そんなことはありません。いきなり強制執行を申し立てて構いません。
送りたければ、内容証明郵便を送ったり、家庭裁判所に履行勧告を申立てても構いませんが、これらは特に何の強制力もありません。生活費が苦しく急迫しているのであれば、いきなり強制執行を申立てた方がいいでしょう。
先ほども述べたように、まず絶対に必要なのは「債務名義 ※」です。以下の4パターンのうち、どれか1つが必要です。
調停調書の場合はそのまま裁判所に持っていけば問題ありませんが、審判書の場合は「確定証明書」もセットで必要になります。また判決や公正証書の場合は、「執行文付与」が必要になりますので注意してください。
養育費の強制執行に必要な債務名義
債務名義 | 取得方法 | 執行文付与 |
---|---|---|
調停調書 | 養育費の請求調停をして、調停が成立した場合に家庭裁判所が作成したもの。 | 不要 |
審判書 | 養育費の審判で、家庭裁判所が養育費の金額を決定した場合の審判書正本。添付書面として「確定証明書」が必要。 | 不要 |
公正証書 | 当事者同士での離婚協議などで、養育費の金額を定めて公正証書を作成した場合。公証役場に行って執行文付与をして貰う必要あり。 | 必要 |
判決正本 | 離婚訴訟の中で、附帯処分※として養育費の金額を決定した場合。判決には裁判所書記官による執行文付与が必要。 | 必要 |
調停調書 | |
---|---|
養育費の請求調停をして、調停が成立した場合に家庭裁判所が作成したもの。 | |
執行文付与 | 不要 |
審判書 | |
養育費の審判で、家庭裁判所が養育費の金額を決定した場合の審判書正本。添付書面として「確定証明書」が必要。 | |
執行文付与 | 不要 |
公正証書 | |
当事者同士での離婚協議などで、養育費の金額を定めて公正証書を作成した場合。公証役場に行って執行文付与をして貰う必要あり。 | |
執行文付与 | 必要 |
判決正本 | |
離婚訴訟の中で、附帯処分※として養育費の金額を決定した場合。判決には裁判所書記官による執行文付与が必要。 | |
執行文付与 | 必要 |
執行文付与というのは、「この債務名義は、現時点で本当に有効なものですよ」「誰が、誰に対して強制執行できるものですよ」ということを、公証役場の人や、裁判所書記官の人に確認して貰う手続きのことです。家庭裁判所の「調停」「審判」で養育費を決めた場合は、執行文は不要です。
詳しくは、以下の記事をご覧ください。
- 参考記事
- 強制執行に必要な「執行文付与」の手続きについて
あとは「送達証明書」というものが必要です。例えば、審判で養育費を決めたのであれば、その審判書が相手にも届いていることを証明する書類のことです。
これも審判・調停をした家庭裁判所の裁判所書記官にいえば、発行して貰えます。公正証書の場合は、公証役場の人に執行文付与をして貰うときに、あわせて送達の手続きをして、送達証明書を発行して貰ってください。
上記の必要書類が揃ったら、裁判所のページ等から強制執行の申立書を入手してください。
裁判所によっても違いますが、大体は「給料の差押命令申立書」というものがありますので、それを使います。養育費の差押えだけは、「将来分の給与まで差押えできる」という特別ルールがありますので、裁判所によっては「養育費用」で別の申立書が用意されている場合もあります。
なお、給料の差押命令申立書とは、以下の書類一式のことをいいます。
給料の差押命令の申立書
書類 | 記載事項 |
---|---|
債権差押命令 申立書 |
「債務者が支払いをしないので、債権の差押命令を求める」といった定型文を記載する書面です。添付書面の内容(債務名義、送達証明書、資格証明書など)も記載します。 |
当事者目録 | 債権者(妻)、債務者(夫)、第三債務者(夫の勤務先)のそれぞれの氏名と住所、郵便番号を記載する文書です。勤務先については、代表取締役の氏名も記載します。 |
請求債権目録 | 請求する養育費のことを記載します。(1)平成×年×月×日~×月×日までの未払い分、(2)平成×月×日 ~ ×月×日(子供が満20歳になるまで)の将来分、+ (3)強制執行にかかった費用、の3つです。 |
差押債権目録 | 夫の給与債権のことを記載します。「勤務先から支給される給料のうち、所得税、住民税、保険料を控除した残額の2分の1」「請求債権目録の金額に達するまで」 |
第三債務者への 陳述催告 |
差押え後に、差押える債権が存在するかどうか、弁済する意思があるかどうか、ない場合はその理由などを、勤務先から裁判所に回答して貰うための書面です。 |
債権差押命令申立書 |
---|
「債務者が支払いをしないので、債権の差押命令を求める」といった定型文を記載する書面です。添付書面の内容(債務名義、送達証明書、資格証明書など)も記載します。 |
当事者目録 |
債権者(妻)、債務者(夫)、第三債務者(夫の勤務先)のそれぞれの氏名と住所、郵便番号を記載する文書です。勤務先については、代表取締役の氏名も記載します。 |
請求債権目録 |
請求する養育費のことを記載します。(1)平成×年×月×日~×月×日までの未払い分、(2)平成×月×日 ~ ×月×日(子供が満20歳になるまで)の将来分、+ (3)強制執行にかかった費用、の3つです。 |
差押債権目録 |
夫の給与債権のことを記載します。「勤務先から支給される給料のうち、所得税、住民税、保険料を控除した残額の2分の1」「請求債権目録の金額に達するまで」 |
第三債務者への陳述催告 |
差押え後に、差押える債権が存在するかどうか、弁済する意思があるかどうか、ない場合はその理由などを、勤務先から裁判所に回答して貰うための書面です。 |
なお、もし元妻か元夫のどちらかの住所が変わっている場合は、戸籍謄本や住民票の添付が必要になります。(つまり、調停調書や判決に記載されている住所地と、現在の住所地が違う場合です)
あとは勤務先の会社の「登記事項証明書」を資格証明書として添付する必要があります。これで全部です。
債務名義(執行文付与)、送達証明書、申立書一式(債権差押命令申立書、当事者目録、請求債権目録、差押債権目録、陳述催告書)、戸籍謄本または住民票(住所変更があった場合)、登記事項証明書
ちなみに給料差押えの申立てに必要な裁判所費用は4000円です。多くの方が想像しているより安いのではないでしょうか。
給与差押えの弁護士費用
弁護士に強制執行を依頼した場合、もう少し高額になります。厳密な相場はわかりませんが、おそらく10万円前後はかかるでしょう。ただし、既に債務名義もあって、裁判所に強制執行を申立てるだけであれば、ほとんどの場合、弁護士に依頼しなくても自分1人で出来ると思います。
管轄の裁判所
申立先の裁判所は、相手の住所地を管轄する地方裁判所です。自分の住所地の裁判所や、養育費の審判をした家庭裁判所ではありませんので、間違えないようにしましょう。
閉じる