財産が仮差押えされた場合の解除や対抗方法はある?

仮差押えは債務者への事前通達や確認はなく、ある日いきなり銀行預金が引き落とされたり、住宅に仮差押登記が付いたりしますので、驚かれる方も多いと思います。もし仮差押えの原因となった請求債権に身に覚えがなく、「仮差押えに納得いかない」という場合は、保全異議の申立てをするか、起訴命令の申立てをして本案訴訟で争そうことになります。単に急ぎで仮差押えを解除したい場合は、債権者に一括返済をするか、裁判所に解放金を供託すれば解除できます。

仮差押えをされた場合の対応方法は?
ねえねえ、先生ー!大変っ!
昨日、突然私の住宅が仮差押えされちゃったんだけど、その請求に全く覚えがないんだよね。連帯保証人だからってことらしいんだけど、署名した記憶なんてないし。どうすればいいのっ!?
うーん、仮差押えの原因となってる請求権について、「金額に納得いかない」という場合や、「そもそも請求される覚えない」という場合など、仮差押えの取消しや変更を求める場合は、裁判所に保全異議の申立てという手続きをするのが一般的だね。
保全異議の申立て・・とは・・?
その保全異議を申立てれば、決着がつくまでの間、いったん仮差押えを解除してくれたり、停止してくれたりするのかな? 仮差押えされたままだと困るんだけど。
いや、保全異議の申立てをしただけでは、仮差押えは解除されないよ。同時に保全執行停止を申立てる方法もあるけど、条件が厳しいしあまり期待はできない。基本的には保全異議の裁判の決着がつくまでは、仮差押えは解除されないと思った方がいいね。
そんなー!
実はもうすぐ住宅を売却する予定があって、仮差押登記※ が付いたままだと凄く困るんだよねー。なんとか仮差押えを早急に解除する方法はないのかなー?
うーん、相手の請求が正しいなら分割払いの交渉をして何とか相手に仮差押えを取下げて貰うのが早い。でもそれが無理でも、ある程度の現金を持ってるなら、裁判所に 仮差押解放金※ を供託する(担保として預ける)ことで仮差押えを解除して貰う方法もあるよ。
  • 不当な仮差押えに対抗する方法は、保全異議の申立てをするのが一般的
  • 保全異議では、被保全債権の存在や保全の必要性の有無などを理由に争う
  • とにかく早く解除したい場合は、仮差押解放金を裁判所の指示で供託する
  • 相手の請求が正しい場合も、解放金を払えればひとまず仮差押えは解除可能
  • 交渉の余地がある場合は、相手に仮差押えを取下げて貰うのが一番確実

住宅や預金が仮差押えされた場合の対処方法まとめ

仮差押えというのは、そもそも「民事保全手続き」の1つであり、「訴訟で争そっている間に相手に財産を処分されてしまわないよう」に一時的に動かせないようにしておく手続きです。

例えば、銀行預金の仮差押えであれば、預金残高から差押額が引き落とされますし、住宅の仮差押えであれば、不動産に「仮差押登記」が付きますし、給与の仮差押えであれば、手取額の1/4が支給されなくなります。

仮差押えは財産を逃がさないよう保全する手続き-図

以下は債権者目線の記事ですが、仮差押えについて詳しくまとめています。仮差押えがよくわからない方は参考にしてください。

そのため、仮差押えの段階ではまだ債権者に財産を取り上げられることはありません。

仮差押えをしただけでは債権者としてもその財産を取り立てることはできませんので、普通は、仮差押えをした後に本番の訴訟を提起してきます。例えば、貸金返還訴訟や、損害賠償請求訴訟、売買代金請求訴訟などです。

この本番の訴訟のことを本案訴訟といいます。

仮差押えの後は「本案訴訟」を提起してくる-図

本案訴訟で決着が付くまでは、相手も仮差押えした財産を強制執行することができないので、例えば、仮差押えされた預金は銀行に、仮差押えられた給与は職場に、そのまま留保されることになります。

さて、この仮差押えへの対抗方法や解除方法についてですが、当然、前提条件によっても選択肢が変わってきます。細かい手続きの説明に入る前に、まずは3つほど主な対処方法の概要を解説していきます。





仮差押えが違法なもので、裁判所に取消しを求めたい場合

そもそも、仮差押えの根拠となる請求権の存在に納得がいかないという場合があります。例えば「相手は200万円の損害賠償請求をしているが、こちらはそもそも不法行為ではないと考えているから1円も支払う必要がない」といった場合です。

あるいは「請求権については納得しているが、300万円分も仮差押えされるなんておかしい。請求額はせいぜい150万円でしょ!」といった仮差押えの金額について納得できない場合もあるかもしれません。

相手の請求権の存在や金額に納得できない場合-イラスト

これらの理由で「仮差押えが不当なものだから取り消して欲しい」と裁判所で争う場合には、基本的には、「保全異議」を申立てるか、相手が提起してくる本案訴訟で徹底的に争そうことになります。

保全異議の申立ては詳しくは後述しますが、仮差押えに対して不服申し立てをする最も一般的な方法です。もちろん正当な理由が必要ですが、どんな理由でも申立てが可能なので、対抗手段としてよく利用されます。(解説はこちら

本案訴訟は、前述のように仮差押え後に相手から提起してくる訴訟ですが、「債権が存在するかどうか?」「債権はいくらなのか?」を争うなら、こちらから異議申し立てをしなくても、この本案訴訟で徹底的に争そえば同じことです。

もし相手がなかなか本案訴訟をおこしてこない場合は、こちらから「早く訴訟するように」と申立てる起訴命令の申立てという方法があります。(解説はこちら

保全異議の申立てと起訴命令の申立て-図

いずれにせよ、裁判で「債権の存在や金額」を争そう場合には時間がかかります。最終的に勝って「相手の請求そのものが存在しなかった」ということになれば、仮差押された財産は戻ってきますが、今すぐに仮差押えが解除されるという話ではありません。

とにかく直ぐに仮差押えが解除されないと困る場合

一方、上記とは別の方向性で、「今この財産が仮差押えされたら困る!とにかく一刻も早く解除したい!」という場合があります。

これは主に不動産の仮差押えの場合です。例えば、もう不動産を売却する約束をしていて決済日も近いのに、直前になって 仮差押登記※ が付いてしまい、このままだと売買契約が流れてしまうといったケースですね。

不動産の仮差押登記を外さないとマズイ場合-イラスト図

請求されているお金に身に覚えがあり、明らかにこちらが悪いという場合には、債務全額を一括返済するか、あるいは、まとまったお金を分割払いするから仮差押えを解除するよう、債権者と直接交渉するのが一番早いです。

しかし相手の請求がそもそも不当なものであり、「今後、裁判で争そうつもりだからお金はまだ払えない」「でも仮差押登記は解除して欲しい」という場合は、裁判所に解放金を支払うという方法があります。

裁判所に仮差押解放金として指示された金額を現金で供託すれば、仮差押えされた不動産については、仮差押登記を抹消して貰うことができます。(解説はこちら

解放金を預ければ、仮差押えは解除できる-図

代わりに現金を差し出す必要はありますが、少なくとも不動産の仮差押えは外すことができますので、債権者との訴訟は心おきなく争そうことができます。もしその結果、相手の請求が不当なものだった(支払義務がなかった)ということになれば、供託した解放金は戻ってきます。

いずれにせよ、この方法は今すぐ仮差押えが解除されますが、それと同等の金額の現金を支出しなければなりません。なので、そもそも全くお金がない場合は、この方法は期待できません

また「不動産の仮差押え」「給与債権の仮差押え」など、代わりに現金を払ってでも解除したい財産の場合は意味がありますが、「銀行預金の仮差押え」のように、そもそも現金を保全処分されている場合はあまり意味のない話です。

身に覚えのある正当な請求で仮差押えされている場合

実際はこのケースが多いと思いますが、明らかに正当な理由で請求を受けていて、こちらに非があって仮差押えを受けている場合は、基本的には「返済する」以外に解除の方法はありません。

もちろん相手の請求する金額と同等の解放金を供託すれば、仮差押えは解除できますが、そんなお金があるなら最初から債権者に返済をすればいいだけなので、あまり想定できないケースです。

正当な請求を受けていて、仮差押えされても仕方ない立場の方が、「でも仮差押えされたままだと困る」という場合は、裁判所に泣きついても意味がありませんので、債権者に仮差押命令を取下げて貰うよう交渉するしかありません。

正当な仮差押えの場合、債権者と交渉しかない-イラスト図

不動産の仮差押えの場合であれば、全額が無理だとしても一定額の現金を支払うことを条件に、仮差押えの解除交渉をすることは十分可能です。相手としても、住宅をわざわざ競売にかけてまで回収するのは大変だからです。

特に、無剰余の債権者から仮差押えを受けている場合などは、ハンコ代を払って仮差押登記を解除して貰うのが一般的です。例えば、以下の記事などを参考にしてください。

一方、銀行預金の場合は仮差押えの交渉にあまり意味はありません。現金の仮差押えを受けているわけですから「代わりに現金を支払う」という交渉は成立しませんし、こちら側のメリットもありません。相手の請求が正当なものであれば、諦めるしかないでしょう。





保全異議の申立てで仮差押えを取消す方法

まずは仮差押えへの不服申立ての手段として最もよく利用される「保全異議の申立て」から解説します。保全異議の申立ては、仮差押命令を出した裁判所に対して債務者が申立てる手続きです。

保全異議を申立てると、その裁判所の別の裁判官が「仮差押えが正当なものだったのかどうか?」をもう一度、審理しなおした上で、(1)仮差押えを認可して続行する、(2)仮差押えの範囲や金額を変更する、(3)仮差押えを取消す、のいずれかを決定します。

保全異議の申立てについての決定-説明図

とりあえず保全異議を申立てれば仮差押えは停止する?

保全異議を申立てただけでは、その段階では仮差押えの執行が停止するわけではありません。

一応、仮差押の取消しとなる明らかな事情があるときで、仮差押えの執行を続けることで取り返しの付かない損害がでる可能性がある場合は、債務者がその旨を申立てれば、保全異議の裁判の結論が出るまでの間、仮差押の執行が停止される可能性があるとされています。

つまり「保全異議の申立て」と同時に、あわせて「保全執行停止の申立て」が必要です。

【保全執行の停止の裁判等】

保全異議の申立てがあった場合において、保全命令の取消しの原因となることが明らかな事情および保全執行により償うことができない損害を生ずるおそれがあることにつき疎明があったときに限り、裁判所は申立てにより、….保全執行の停止を命ずることができる。(民事保全法27条

しかし、これに当てはまるのはかなり限定的なケースです。

基本的には、保全異議の申立てをして裁判をおこなった後、裁判所が仮差押命令の「取消し」の決定をしたときに、はじめて仮差押えが解除されると考えておいた方がいいでしょう。

保全異議の申立てによる仮差押え解除の時期-図

どのような場合に保全異議の申立てができるの?

手続き上は、保全異議申し立ての理由に制限はありませんので、どんな理由で申立てても自由です。

ただし保全異議の申立てをしても、前述のように、原則、その段階では仮差押えの執行は停止しません。最終的に「仮差押命令の取消し」の決定を得なければ、保全異議を申立てる意味がありませんので、正当な理由がなければ時間の無駄になります。

また仮差押命令は、債権者だけの言い分を聞いて発令する制度とはいえ、一度は裁判官が審査して決めたことですから、そう簡単に覆ったり取り消されるものではありません。そのことは前提として認識しておいてください。

被保全債権の存在、保全の必要性を争う

少し難しい話になりますが、そもそも仮差押えの命令が正当なものとして認められるためには、「被保全債権の存在」と「保全の必要性」の2点が必要です。この点は、以下の記事で詳しく解説しています。

簡単にいうと、仮差押命令を出すためには、まず(1)仮差押えの根拠となる債権が存在すること、(2)仮差押で財産を処分できないようにしておく必要性があること、の2点の条件が必要だということです。

仮差押えをするには、「債権の存在」と「保全の必要性」の2つが必要-イラスト

逆にいえば、債務者としてはこの2点のどちらかが「満たされていない」という主張をして仮差押えの無効を訴えることが多いです。

被保全債権の不存在を主張

例えば、「相手が200万円の貸金返還請求権を理由に仮差押えをしているが、そもそも私はお金を借りていない」など、債権の存在そのものに不服がある場合や、「私が借りたのは100万円だけなので、200万円の仮差押えは超過仮差押えだ」といったように債権額に反論がある場合は、保全異議の理由になります。

相手の請求権の存在や金額に納得できない場合-イラスト

以下は実際に裁判所のホームページにある「保全異議の申立書」の理由の記載例です。参考にしてください。

保全異議の申立ての理由の記載例(※クリックタップで開閉)

この例では、連帯保証人であることを理由に仮差押えをされたケースで、「私は連帯保証人として署名したことはない。連帯保証契約書の署名欄は他人が書いたものだ」ということで、そもそもの債権の不存在を主張しています。

保全の必要性の不存在を主張

また「自宅用の不動産を持っているのに、いきなり給与の仮差押えをするのは不当だ。まずは不動産を仮差押えすべきだ」といった場合など、「保全の必要性」に疑問があるから保全異議を申立てる、というケースもあります。

本来、仮差押えはまだ法的に確定していない債権を根拠に、相手の財産を保全執行する手続きですから、なるべく日々の生活への影響の少ない財産を対象とするよう配慮すべき、という考え方があるからです。

仮差押えでは負担の少ない財産を対象にする-図

例えば、以下のページでは、ある信販会社がいきなり給与の仮差押えをしてきたケースで、保全異議の申立てにより、給与仮差押えの取消しが認められた例が紹介されています。(西宮簡易裁判所 平成11年11月30日決定)

この事例では、「任意整理の申出中であった」「仮差押の執行により、進行中の返済計画に支障をきたす」「不動産だけでも十分、仮差押えの担保価値がある」などを理由に保全異議を申し立てています。

債務整理中であったなど、複数の事情があるものの、主には「不動産の仮差押えで十分でしょ。給与を仮差押えする必要性はあるの?」という「保全の必要性」について保全異議を申し立てて、それが認められた例と言えると思います。

その他の保全異議の理由

他の理由としては、例えば「仮差押解放金が高すぎる」といった理由や、「相手の担保金が低すぎる」といった理由でも異議の申立てが可能です。仮差押解放金については後述(※こちら)します。

裁判所に保全異議を申し立てた後の審理の流れ

保全異議の裁判では、一度は必ず「当事者2人が立ち会うことができる審尋の期日」を設けなければならない、と法律で定められています。

そのため、保全異議の申立てをすると、裁判所から双方審尋の期日が設定されます。

【保全異議の審理】

裁判所は、口頭弁論または当事者双方が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、保全異議の申立てについての決定をすることができない。(民事保全法29条

あらかじめ主張したい内容がある場合は、主張書面を裁判所に提出します。証拠がある場合は、証拠資料を提出してください。

審尋の期日は1回、または複数回に渡っておこなわれ、裁判官がもう十分だと判断すれば、審理が終結します。先ほども述べましたが、裁判官は「仮差押えを続行するか?」「仮差押えの範囲を変更するか?」「仮差押えを取消すか?」のどれかを決定を言い渡します。

また仮差押えの続行にあたって、債権者に担保額を増額するように要求することもあります。(民事保全法32条

保全異議の裁判の決定に納得できない場合

保全異議の申立てについて、裁判所が下した決定に納得できない場合は、2週間以内に「保全抗告」をすることができます。

これは通常訴訟でいう「控訴」みたいなものですね。保全抗告をすると、再度、上級裁判所が保全異議の審理をやり直すことになります。原審が地方裁判所であれば、保全抗告の管轄は高等裁判所になります。

【保全抗告】

1.保全異議または保全取消しの申立てについての裁判に対しては、その送達を受けた日から2週間の不変期間内に、保全抗告をすることができる。(民事保全法41条

ただし保全抗告でも同じ決定がでた場合は、それ以上争そうことはできません。保全異議で争うことができるのは1つ上の裁判所までに限られます。

例えば原審が地方裁判所であれば、高等裁判所への保全抗告はできますが、さらに高等裁判所の決定を不服として最高裁まで持ちこむことはできません。





起訴命令の申立てをして仮差押えを取消す方法

請求権の存在や金額を裁判で争うのであれば、わざわざ保全異議の申立てをしなくても、相手が提起してくる本案訴訟で争っても同じことです。

繰り返しになりますが、相手の債権者としても訴訟をして債権を確定させるまでは、仮差押えした財産を回収できないわけですから、請求債権の存在や金額を巡って争うのであれば、本案訴訟の提起を待っていてもいいわけです。

もし相手がなかなか本案訴訟を提起してくる気配がないようであれば、こちらから「早く訴訟をおこすように」裁判所に働きかけることもできます。これを起訴命令の申立てといいます。

【民事保全法37条】

(1)保全命令を発した裁判所は、債務者の申立てにより、債権者に対し、相当と認める一定の期間内に、本案の訴えを提起するとともにその提起を証する書面を提出…すべきことを命じなければならない。

(2)前項の期間は、2週間以上でなければならない。
(3)債権者が(1)の規定により定められた期間内に、同項の書面を提出しなかったときは、裁判所は、債務者の申立てにより、保全命令を取り消さなければならない。(民事保全法37条

債権者が本案訴訟をしてくれないと、債務者はいつまでもずーっと不当に財産を仮差押えされる状態が続いてしまいます。そのため、仮差押えをされた債務者は、相手に一定期間内に本案訴訟を提起しないなら、仮差押えを解除するように裁判所に申し立てることができるのです。

通常、この猶予期間は1カ月に設定されます。

つまり起訴命令の申立てをしてから1カ月以内に債権者側が本案訴訟を提起してこなかった場合は、債務者は裁判所に「保全命令の取消し」を申立てれば、仮差押えされた財産を取り戻せることになります。(不動産の場合は仮差押登記が外れます)

一定期間内に本案訴訟を提起するよう命令-イラスト図

普通は仮差押えに対抗する場合は、最初の「保全異議の申立て」を行うのがセオリーですが、もし相手が本案訴訟を提起しなさそうであれば、この起訴命令の申立てをした方が、より早く簡単に仮差押えを解除できるかもしれません。

本案訴訟で債務者が勝訴した場合

また相手が本案訴訟を提起してきた場合でも、「債権は存在しない」ということを徹底的に主張して争って勝訴した場合は、もちろん仮差押えされた財産は戻ってきます。

例えば、仮差押え後に「200万円の慰謝料を支払え」という損害賠償請求訴訟をされたものの、もし裁判所が「不法行為は存在しない」という認定をして債権者の請求を棄却してその判決が確定した場合、相手の仮差押えはそもそも違法だったことになります。

その場合は、裁判所の判決正本と確定証明書を添付して、「事情の変更による保全取消し」(民事保全法38条)を裁判所に申し立ててください。それで仮差押えは取消しになります。

事情の変更による保全取消しを申立てる-イラスト図

また本案訴訟で勝った場合は、仮差押えの解除だけでなく、「違法に仮差押えされたことにより損害を受けた」として債権者を相手に損害賠償請求することもできます。

違法な仮差押えについては、債権者側に「過失の推定」といって、相手方(債権者)が自分に過失がなかったことを証明できない限り、過失があったものと見なされることになっています。請求できる金額はケースバイケースですが、損害賠償請求ができる可能性は十分あります。

仮差押解放金を供託して仮差押えを解除して貰う方法

仮差押えは、債務者への事前の審尋なども一切なく、一方的に債権者の証拠の疎明だけでおこなわれます。そのため債務者の立場としても、何からの法的な救済手段が用意されるべきです。

そこで、債務者は裁判所が指定する金額を「解放金」として法務局に供託すれば、仮差押の執行を取消すことができます。これを「仮差押解放金」といいます。

【仮差押解放金】

仮差押命令においては、仮差押えの執行の停止を得るため、または既にした仮差押えの執行の取消しを得るために債務者が供託すべき金銭の額を定めなければならない。(民事保全法22条

もし仮に、債権者の仮差押えが不当なもの、違法なものだったとしても、それを裁判で証明しようと思うとやはり時間がかかります。

保全異議の申立てをするにしても、本案訴訟で争うにしても、直ぐに決定や判決が出るようなものではありません。裁判の決着がつくまでの間は、仮差押えは停止されませんので、「今すぐ仮差押えを解除して貰わないと困る」といった場合に対応できません。

そのため、仮差押えの手続きには「仮差押解放金」という制度が用意されており、管轄の法務局に相手の請求額に相当する金額を供託すれば、仮差押えされた財産を解放して貰えることになっています。

代わりに裁判所に現金を担保として預けることで、仮差押えされた財産を返して貰う、というイメージですね。

代わりに現金を供託して仮差押えを解除する-図

ちなみにこの仮差押解放金については、裁判所から届く仮差押決定書に説明が記載されていますので、わざわざ金額を裁判所に問い合わせる必要はありません。たとえば、不動産の仮差押決定書であれば、主文に以下のように記載されているはずです。

仮差押決定書に記載されている解放金の説明(※クリックタップで開閉)

例えば、300万円の請求額を理由に不動産を仮差押えされてしまった場合は、300万円を法務局に供託すれば、すぐに不動産の仮差押登記を外して貰うことができます。

手続きの手順としては、まず(1)仮差押解放金を法務局に供託します。次に(2)裁判所に供託書正本を提示し、また供託書のコピーを提出します。最後に(3)仮差押執行取消しの申立てをおこなえば、仮差押えの執行が取り消されます。

仮差押解放金を供託してからの流れ-図

仮差押解放金を供託所から取戻す方法

仮差押えを解除するために、身代わりとして供託した仮差押解放金は、本案訴訟の決着がつくまでの間は、法務局で保管されます。判決が確定するまでは、債権者に奪われることはありません。

もし仮差押え後に行われた本案訴訟で、債権者が勝訴した場合には、債権者はこちらの仮差押解放金の「取り戻し権」を差押えて自分への転付命令を得ます。これにより、債権者が供託所に対して仮差押解放金の払い渡し請求ができるようになります。

債権者が勝訴した場合、解放金はどうなる?-イラスト図

難しい話なので詳しく解説はしませんが、要は「本訴訟で債権者が勝った場合は、解放金は戻ってこない」という話です。まあ当たり前ですよね。

一方、仮差押えの後に行われた本案訴訟で、債務者が勝訴して相手の請求が棄却された場合には、もちろん仮差押解放金を取戻すことができます。

手順は少し面倒くさいですが、まず裁判所に勝訴判決書を提出して(1)保全命令の取消しを申立てます。これにより、まず仮差押えが解除されます。

次に、保全命令取消決定の正本を添付して、裁判所に(2)解放金取戻許可の申立書を提出します。これで解放金の取戻しが許可されれば、(3)裁判所から「供託原因消滅証明書」が交付されます。この供託原因消滅証明書を(4)供託所に持っていけば、仮差押解放金を取戻すことができます。

債務者が勝った場合の解放金の取戻し-図

また相手が途中で仮差押えを取り下げた場合も、同様の手順で仮差押解放金の取戻しが可能です。

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