今回の登場人物矢野 圭司さん(仮名)

1982年生まれの35歳。 生命保険の営業職に従事しながら、28歳のときに副業でFXを始める。約2年半で600万円の借金を抱え、2013年に個人再生。住宅ローンを残したまま借金を減らすことに成功。
現在は再生計画の返済も完了済み。

海外FX業者で合計600万円の借金を抱える

レバレッジ400倍という海外FX業者にも手を出し、投機(博打)で600万円の借金を抱えた矢野さん。奥さんにも借金のことがバレて、ついに債務整理を決意します。しかし矢野さんには「住宅を手放したくない」という願望がありました。

ついに借金をしてFXをするように

それで禁じ手なのですが、ついに借金をしてFX口座に入金するようになります。
どこでお金を借りたんですか?
最初は、クレジットカードのキャッシング枠や銀行カードローンを利用しました。

大手保険会社の勤務で、年収も高かったので、ある程度はお金を借りることができました。

なるほど。
借金をしてまでFXするのはマズイという気持ちはありましたか?
はい。ただカードローンの年利15%はたしかに高いですが…、
FXで勝てるようになれば、誤差レベルの手数料だと思いました。
なるほど。
トレードの成績はどうでしたか?
ダメです。
散々でした。

やはりたった数カ月で貯金200万円を無くした焦り、借金をしていることの焦りもあったと思います。
どんどんトレードの内容が荒れていきました。

トレードが荒れるとはどういうことですか?
あまり深く考えずに無謀な局面でエントリーしてポジションを持つことが増えたんです。
いわゆるポジポジ病です。
ポジポジ病とは

FXでは、有利なポジションでエントリーする(ドルを買う)ことが重要で、逆にいえば、有利でない相場の局面では、手を出さずに我慢することが重要だそうです。ところが、スキャルピングの手法では、極端な話、どのような局面からでもエントリーして利益を狙うことができてしまうため、常時、トレードに参加して戦略のないまま売買を繰り返してしまいやすく、これをFXの世界では、ポジポジ病というそうです。

損切りも上手くできませんでした
損切りが重要というのは、私でも聞いたことがありますが…、
やはり実践するのは難しいんですか?
そうですね。
私もむしろ最初の頃の方が、キチンと損切りしてました。

でも、一度ルールを破って、大きな利益が出てしまったりすると…。
つい癖になってしまい。

あぁ…なるほど…。
損切りのルールを破って、逆に利益が出てしまうこともあるわけですね。
はい。
損切りを躊躇してる間に、反転して利益が出る、ということはよくあります。

それでも誘惑に負けずにルールに徹さないと意味がないのですが…。
それができませんでした。

その時点では、借金はどのくらいまで膨らんでたんですか?
結局、1年半もしないうちに銀行カードローン、消費者金融、クレジットカードで300万円近い借金を抱えていました。
えっ!
たった1年半でですか…!
ヤバいですね。

ハイレバの海外FX業者に手を出す

借金が嵩むにつれて、「小さな利益をコツコツ 積み重ねる」ということが精神的にも難しくなって…。

ますますドカンと一発狙いをしたくなりました。

なるほど。
ずっとドル円でトレードしていたのを、より値動きの激しいポンド円に変更してみたり、バイナリーオプションにも手を出しました。
バイナリーオプションですか…。
聞いたことはあります。
バイナリーオプションとは

バイナリーオプションとは、例えば、15分後にドルの値段が現在よりも「高くなる(High)」か「低くなる(Low)」かを2択で予測し、それに投資する取引です。参加のハードルが低く、やり方を間違うとただの丁半博打になってしまうので、危険性が高いです。

さらに遂には海外FX業者を利用するようになってしまいます。
海外FX業者というのは…、何が違うんですか?
海外FX業者は、日本のようにレバレッジ規制がないんです。

だから、国内では最大25倍のレバレッジが限界ですが、海外FX業者では、最大400倍近いレバレッジをかけられます。

※ 日本国内のFX業者は、法律の規制によりレバレッジが最大25倍までしか認められていません。しかし海外FX業者には日本の法律が適用されないため、最大400倍近いレバレッジをかけれる業者も存在します。
これら海外FX業者は、日本では金融庁の登録のない「無登録業者」という扱いになりますが、利用すること自体は違法ではありません。(ただし金融庁は利用しないよう呼び掛けています)
よ…
400倍ですか?!

レバレッジというのは、先程おっしゃってたように、自己資金(証拠金)に対して、その何倍のお金をFX業者が運用させてくれるか?という倍率のことですよね?

そうです。
レバレッジ400倍ということは…、
例えば、自己資金が10万円しかなくても4000万円の資金を運用できる、ということですか?
その通りです。
ドル円でいえば、レバレッジ400倍なら自己資金10万円でも、40万通貨単位(40万ドル)のポジションを持つ(買う)ことができます。

そうすると、10pips(10銭)動くだけでも、4万円の利益や損失が出ます。

1円為替が動けば40万円の損益ですか…。

かなりのハイリスクハイリターンですね。
あっという間に自己資金が無くなってしまいそうですが。

はい、
その通りです。

国内FX業者のときのレバ25倍と同じ感覚でやると、あっという間に資金が溶けてなくなります。

私もすぐにロスカットされて資金が無くなってしまいました。

ありゃりゃ…。
※ ロスカットとは、証拠金が一定割合を下回った場合に、(それ以上の損失を出してマイナスに陥ることを防ぐために)FX業者側のシステムで自動的に決済されてしまう仕組みのことです。
しかし、海外FX業者は、クレジットカードで入金ができます。
これも怖いところです。
どういう意味ですか?
海外FX業者の場合は、クレジットカードのショッピング枠を利用して、買い物と同じ感覚でFX口座に入金できるんです。
え?! それはつまり、手元に現金がなくても、カード決済(翌月払い)でFXができちゃうってことですよね?
はい。
これは国内FX業者では絶対ありえないことです。

カード入金は、金融商品取引法で禁止されてますから。

なるほど。
でも海外FX業者だとできちゃうんですね…。
それは違法ではないんですか?
はい、
金融商品取引法はFX業者側を規制する法律なので…、

金融庁の登録を受けていない海外FX業者が、日本在住の日本人向けに勧誘や広告活動をするのは違法ですが…、

消費者が海外FX業者を利用すること自体は違法ではありません。

なるほど。
そういう闇があるんですね…。
それで、これまでの負けを取り返すために、ハイレバレッジな海外FX業者の口座にどんどんお金を入金してしまいました。

1度高いレバレッジの取引に手を出すと、低いレバレッジには戻れなくなってしまって…。

….最終的にはどのくらいの借金になったんですか?
合計で600万円ほどの借金になりました。

遂には、住宅ローンの支払いに必要なお金や、今月分の生活費に充てるはずの給料までFX口座に入金してしまい…、

ええええ!
住宅ローン滞納の督促が自宅に届いてしまいました。

嫁に借金のことがバレる

当時は月7万円の住宅ローンを私の口座から支払ってたんですが…、その支払ができなくなって自宅に催告書が届きました。
なるほど。
住宅ローンの滞納はまずいですね。
はい。
最初のうちは、偶然、自分で催告書を回収できたので嫁にもバレませんでした。

でもこれは時間の問題だと思いました。

自宅に何度も銀行から催告書や督促状が届けば、いずれバレますよね…。
住宅ローンの催告書も、最初のうちは、丁寧な感じで『×月×日までに至急入金を
お願いします』
といった感じの催告でした。
でも1~2カ月ほど滞納しているうちに、何度も携帯に電話がかかってきたり、催告書が届くようになりました。

来店依頼状というものも届きました。

来店依頼状…
ですか?
はい。
要は、銀行に来店して事情を説明しろ、という書面です。

またこのまま支払がなければ、残金の一括返済を迫ります、法的措置を取ります、という書類も届きました。

なるほど。
住宅ローンは大体、4~6カ月ほどの滞納で期限の利益を喪失する、といいますよね。
期限の利益喪失とは

期限の利益とは、毎月決められた金額以上を返済しなくていい権利のことをいう。
例えば、住宅ローン契約では「月7万円ずつ返済する」といったように分割返済の約束が定められるが、これは逆にいえば、月7万円以上は返済する義務を負わないという意味である。
期限の利益を喪失すると、この分割返済の権利を失うため、残りの債務全額を一括で返済しなければならない法的義務を負うことになる。

さらに住宅ローンの督促以外にも、消費者金融も滞納してしまい、催促ハガキが自宅に届きました。

これが嫁に見つかってしまい、『何のハガキなの?』と強く問い詰められました。

げげっ…そうですか。
それで正直に奥さんにFXのことをお話になったんですか?
そうですね…。
実は600万円の借金がある、ということも伝えました。

もちろん、めちゃくちゃ怒られましたし、すごく泣かれました。

そうですよね…。
とにかくもう絶対にFXはやらないと約束して欲しいと言われました。

借金のことは、彼女が実家の父母に何とかならないか相談してくれました。

私は頼れる親族がいなかったので…。

なるほど。
彼女の実家の義父さんから、弁護士を紹介するから相談しろと言われました。

600万円はとても貸せないから債務整理をしろ、と。弁護士費用などは義父さんが用立ててやると言ってくれました。

それは良かったですね。
優しいお義父さんですね。

債務整理という選択肢

債務整理という選択肢があることは以前から知っていましたか?
はい、
でも借金の原因がFXで、しかもバイナリーオプションやハイレバレッジの海外FX業者など、かなり投機行為に近い取引にも手を出していたので…。

自己破産をしても免責が下りないと聞いていました。

なるほど。
第1話でも取り上げた免責不許可事由の問題ですね。

ギャンブルや投機行為で借金を作った場合は、破産法の「免責不許可事由」に該当するので自己破産しても免責が下りない可能性がある、と。

はい、
ただし免責不許可事由があるからといって、必ず免責が下りないわけではありません。
実際には、1度目の破産であれば、裁判官の裁量で免責を出して貰える「裁量免責」という仕組みもあります。

それもネットで調べて知っていました。

なるほど。
ただし、あまりに過度な投機行為だったり、短期間で多額の借金を作った場合には、免責が下りにくいケースがあるようで…。
借金のできた経緯や期間、金額によっては、弁護士事務所に相談しても、受任を断られるケースもあると聞きました。
そうですか。
それで債務整理をずっと躊躇していたということですか?
そうですね。
もし弁護士に相談して、「あなたの場合は破産もできません」と言われてしまったら、もう本当に逃げ道がなくなってしまうので…、
なるほど。
それまではあまり考えないようにしてました。
FXで勝って取り返せばいいと思ってましたし。
でも、妻に借金がバレて、妻や妻の両親からも強い説得を受けたことで、弁護士に相談する決心ができました。

ついに弁護士に相談を決意する

債務整理を相談するにあたっては、免責不許可事由の件以外にも、いくつか不安要素がありました。
といいますと?
まず1つは住宅です。
できれば、住宅は手放したくないと思ったんです。
なるほど。
矢野さんはまだローン返済中の住宅をお持ちなんですよね。
はい。
自己破産をしてしまうと、(ローン返済中の有無にかかわらず)住宅を手元に残すことはできないと聞きました。
そうですね。
住宅を売ってしまって、賃貸物件に引っ越すという手もありましたが…、

自己破産してしまうと信用情報ブラックになって、賃貸物件も借りにくくなるのではないか、という心配もありました。

なるほど。
もしそうなると、それこそ家族で路頭に迷うことになってしまうので…。
※ 補足…自己破産すると、信用情報機関に事故履歴が登録されます。一部の信販会社系の家賃保証会社(アプラスやジャックス等)はこれらの信用情報を参照するため、債務整理をすると賃貸物件の審査に通りにくくなる、という噂があります。
しかし全ての家賃保証会社が信用情報を閲覧するわけではありませんので、自己破産や個人再生をしていても、安定した収入があれば、賃貸物件を探すことは可能です。

法律の職業制限にかかる心配も

もう1つは、仕事のことです。
私のやっている保険セールスの仕事は、ネットで調べたところ、どうやら自己破産すると欠格事由になってしまうようでした。
欠格事由とは

破産者は、法律上、一部の特定の職業に従事することができないと定められています。これを欠格事由といいます。例えば、保険外交員、宅地建物取引士、弁護士、会計士、警備員などの仕事は、破産者が従事することができません。
参考記事

なるほど。
たしかに保険業法という法律では、

「保険外交員として金融庁の登録を受けている者が破産した場合、内閣はその登録を取り消すことができる」

と定められていますね。

はい。そうなんです。

それに、もし職場に自己破産のことがバレたら、クビになってしまうのではないかと心配でした。

読者の方のために補足しておくと、通常の会社にお勤めのサラリーマンの方であれば、自己破産を理由に解雇されることはありません。
不当解雇になりますからね。
ただし、矢野さんの場合は、法律上の欠格事由になるため、保険セールスの仕事に従事できなくなる可能性があります。

そうすると、就業規則等で解雇される可能性がある、ということですね?

はい。
そういった理由があって、自己破産には乗り気ではなかったんです。
なるほど。
これらの諸々の心配事をすべて弁護士さんに電話で相談しました。

すると一度、詳しい話を聞きたいから事務所に来てくれ、と言われてました。

ふむふむ。
そこで、借入先の一覧などをまとめた債権者一覧表を作成して、弁護士事務所を訪問しました。
それが3月頃の話です。